生生流転




ドリーム小説
#15 雨乾堂・昼。





日も真上に昇りきった頃。
瀞霊廷各地では霊圧のぶつかり合いが起きている。
ただここ、雨乾堂ではそんな煩さを感じないほど静かだった。

「………」

部屋の中には浮竹との二人と一匹がいた。
何をするわけでもなく座っているのだが、は落ち着かなくてしょうがない。
浮竹は隊の仕事があるのだろう。
文机に向かって筆を走らせている。

「………」

は暢気に寝転がっている。
だけが落ち着かない。
雨乾堂の池に落ちた時、着替えは清音がしてくれたそうだ。
の服は今乾かしているとのこと。
代わりに白の夜着を着ていたが、もう日が昇ったのでにもと死神たちが着る死覇装が与えられた。

「………」

朝食も済ませて数時間。
何もやることがない。
このままジッとしていると言うのが性に合わない。
なのでこっそりとココを抜け出そうと思った。
浮竹も仕事中のようだし、邪魔をしては悪いと思って。

足音を立てずにこっそりと…

「どこへ行くんだ?」

「うわぁ!」

は驚いてその場に座り込んでしまう。
浮竹は頭を掻きながら苦笑している。

「大人しくしていてくれと言ったじゃないか」

「あ、その…仕事のお邪魔かなと思ったので」

「別に邪魔だなんて思ってないぞ?」

「……そう、ですか……」

は手元をもじもじさせながら上目で浮竹を見る。

「あの……」

「ん?」

「暇なんです。私」

「……暇?」

「そうです。何もやることないから……昔からジッとしているの苦手で」

「そうなのかぁ…うーん」

「だから、少しだけ…すみません!」

は簾を上げて外に飛び出した。
要は逃げ出したってことだ。
浮竹には悪いとは思う。
約束までしたのだ。
でもルキアのことも気になるし、今どうしているのかわからない仲間たちの事も気になる。
ここは仲間たちとの合流を優先すべきだろう。

と、思ったのだが、外に出た瞬間に何かにぶつかった。

「!?」

「残念」

「は?え?浮竹……隊長…さん?え?」

がぶつかったのは浮竹。
ココを出る直前まで文机に向かって座っていたのに。
いつの間にか立ち上がっての前にいる。
の肩をがっしり掴んで笑っている。

「速いだろ〜?どうしてって顔しているな」

君の気持ちもわからないでもないが、今はダメだ」

「え、えー!?」

身体を反転させられそのまま中へ戻された。
寝ているの側に仕方なく座り込んだ、浮竹は再び文机に向かう。
何が起こったのだろうか、考える。

が今までに見た死神は一護と三番隊の市丸。
それに浮竹と彼の側近と言える仙太郎に清音だ。
戦闘などを見たのは一護と少しだけだが市丸。
過去に見た浮竹は後姿だったし、一瞬でよく覚えていない。
一護がジ丹坊と戦っている時も目に見えぬ速さで何が起こったのかわからなかったことがあった。
一応、これでも剣道でならした反射神経に動体視力。
カンだとかの類もそこそこに人並み以上だと思っている
それがここでは大して役に立っていない。

(死神の隊長クラスともなれば余裕で捕まえることもできるってわけか…)

じゃあ追いかけてこないようにすればいいのだ。
何かで引き止めればよいだけのこと。
自分でソレを可能にさせるのは…

〜」

寝ているの背中をさする。
小さく鳴いたかと思うとすぐさまは起きあがるの前にちょこりと座る。
はニヤっと笑みを浮かべる。

「………ん?」

浮竹の手元が陰になった。
なんだと思って振り返ると大きな獣がいる。

「な、なんだ!?うわ」

獣は浮竹にじゃれてきた。
浮竹の背に押しかかってくる。

「ま、待て!」

この隙にとはこっそり雨乾堂を出た。
が呼べばすぐに戻ってくる。
だから大丈夫と。
そう、浮竹にじゃれている大きな獣はだ。
の霊力によって大きさを自在に変えられる。
尸魂界に着てからは目立たないようにと大型犬サイズである。

それも目立つととか言うのはナシだ。

今はあまり大きくすると雨乾堂の中を壊してしまうのでそれより少し大きくした程度だ。
でも大きい。

「えーと……とりあえず、黒崎たちを探さないとね」

他の隊員たちにみつからないようになんとか出ないと。
などと思っていると。

「お前、何してんだ?」

「隊長は?」

「あ……」

そう。
敵(?)は浮竹のみではない。
この二人もいた。
仙太郎に清音だ。

「あ、あーちょっとそこまで」

「そこまでって、隊長は外に出るなって言ったじゃねーか」

「あー!もしかして隊長また熱出しちゃったとか!」

「おぉそいつはヤベェ。隊長ーーー」

「私が先だ!隊長ーー」

「……ヤバいなぁ……」

二人は雨乾堂に一直線だ。
今のを見たら大騒ぎになる。
仕方なくのサイズを戻しこちらへ来るように念じる。

「………あ、あ〜あははは…」

の前に来たのはだけでなく。
と言うより大型犬で重いはずなのにを脇に抱えている浮竹も一緒だった。
少し髪や着物が乱れている。
乱闘でもしていた感じもしないでもない。

君…」

「ご、ごめんなさい……」

を脇に抱えるなんてすごいなぁと単純に思うのだが。

「君も懲りないな…」

「だって……」

「他の隊士たちに見つかったらマズイだろう。ウチの隊士たちならまぁ問題はないが、他の隊長などに」

「わかっています。でも、落ち着かないんです」

「俺に任せてくれと言った」

「それでも」

「信用できないか?」

「……信用していないわけではないです」

「だったら」

「浮竹隊長こそ……私みたいなのを置いてご自分の立場などが悪くなるならば黙って見逃してくださいよ…」

「別に俺の立場を気にする必要はない」

浮竹の腕から逃れたは主人の顔を見上げている。
仙太郎と清音は浮竹の背後でなんだろうかと黙ってみている。

「心配なんです、友だちが」

「……それでも、ここで大人しくしていてほしい」

「助けたいんです、朽木さんを!」

「それは俺も同じだ!」

浮竹の声にビクリと肩を震わせた

「俺だってこのままにするつもりはないさ……だが、少し待ってくれ、頼む」

「た、隊長ぉ!」

浮竹がに頭を下げたので仙太郎たちは驚き声をあげた。
も驚き大きく目を見開いてしまう。

「あ、その……」

もどうして良いかわからない。
気持ち的にすっきりしないまま俯いてしまう。

浮竹は頭を上げての背を押す。

「中に戻ってくれ。誰かに見られたら困るしな」

「………」

は何も答えないが雨乾堂の中へ浮竹と戻った。

「………」

「隊長は、なんであの子をかくまうのだろうな…」

着いていくわけでもなく仙太郎は呟いた。

「朽木さんを助けたいからでしょ」

「旅禍が数人でできることじゃねーだろ」

「そんなの私だってわかるわよ!隊長には隊長のお考えがあるのよ!」

「そ、それはそうだろうけど」

「……あら、アンタは中に入らないの?」

二人の側でがお座りをしている。
清音はの頭を撫でる。

「なんでぇ、犬ッころ。腹でも空いたか?」

「あ、じゃあコレ食べる?」

清音はポケットの中からクッキーを取り出した。

「お前、なんでそんなもの持っているんだよ…」

「勤務中に酒を飲むよりいいじゃない」

「それはお前もだろうが」

「ほーら、食べる?…どう美味しい?」

が食べたので清音はもう一枚与える。

「最初は大きくて怖いと思ったけど、案外可愛いじゃない」

よしよしと頭を撫でる。

「あ、危ねーぞ、清音」

「平気だって」

「でも、咬むぞ、コイツ」

「それはアンタだけでしょー」

そう、仙太郎だけ何故だか二度も咬まれた。
でも清音に言わせれば仙太郎が悪いらしい。
何がいったいあったのやら?

「なんだ、コイツ食い物の匂いしたからここにいるのか?」

「えーそんなに匂いする?」

「嗅覚が発達してるからじゃないのか」

「そうかなぁ……なんかそれだけじゃないみたい……」

「あ?」

なんとなくだが。
清音にはが主人を思って距離を置いているのではないかと思った。
でも犬だし。
どこまでそんな事がわかるのかは知らない。

「あ……」

は食べ終わると清音たちに背を向けて歩き出す。
そして雨乾堂の入口に座り込み伏せてしまった。

「……番犬ってことにしておく?」

「そうだな、あれじゃ誰も近寄らねぇな」



***



再び先程と同じ状態になった。
文机に向かう浮竹。
正座し大人しくしている
ただ、はずっと浮竹に背を見せている。

落ち着きなさいと言われて浮竹はお茶を淹れてくれた。
お菓子も出してくれた。
でもそれに手をつけずにはずっと目を閉じたまま座っている。

大人しくしているならば良いと思ったのか浮竹も黙っている。
ただ、時折咳き込んでいるのが気になるが。

は浮竹に頭を下げさせてしまい、更に自身は何も言えずに黙ったままなのを悩んでいた。
仲間たちのもことも心配なのだが。

(皆どうしてるかなぁ…私みたいにどこかの隊にいるかな?…)

いや、そんな間抜けは自分だけな気がする。
霊圧のぶつかり具合をここでも多少感じる。
恐らく一護ではないかと思う。
石田と織姫は上手く立ち回れそうな気がするが、一護はどこまで突っ走りそうな気もする。
一護から離れ飛ばされてしまう直前まで、彼には岩鷲も捕まっていた。
きっと二人で喧嘩しながら暴れているのではないか?

(茶渡はどうしたかな?私と同じで一人で飛ばされちゃったし…夜一さんは大丈夫だよね)

夜一が1番ここに詳しいし。
猫一匹を死神たちはあまり気にもとめないだろう。
総合的に考えると捕まった自分が・・・

(やっぱり、1番私が……ダメダメだ…)

安全と言えば安全なのだが。
一先ず仲間たちの事は置いといて(いいのか?)
浮竹との事を考えないと。
中へ戻されてから浮竹に言われてしまった。
霊力を封じることだってできるのだと。

「でも、そのような事したくない……君の霊力を抑えるとも一時的にとはいえ消えてしまうだろ?」

できるだけ穏便に。
力ずくなんてしたくないのだと言う。
は自分の部下を救おうとしてくれている子だから…

(ちゃんと謝るべきだよね……)

は閉じていた目を明け、浮竹に向かって姿勢を正す。

「あ、あの!浮竹隊長!」

「ん?」

浮竹が筆を置いて振り向く。

「あの…さ………」

は謝ろうと思っても浮竹の顔を見るとそれができない。
できれば背中を向けたままにして欲しかったと思う。
それは浮竹の顔が怒っているからではなく笑っているから。

(謝りにくい〜)

不機嫌のほうが謝りづらいのだが、こうもニコニコ笑っていられると余計に怖い。
ものすごーく腹の底で怒っているのではないかとか。
まだ出会って時間は短い。
彼の考えていることなど全くつかめないのだ。

「……あの、さっきは……」

「さっき?」

言われて浮竹は頭を掻く。
は口元が引きつる。
でも言わないと自分の気も治まらないし。

「先程はすみませんでした!をけしかけて逃げようとしたり、う、浮竹隊長の厚意を無駄にしようとしたり…」

「あぁそのことか」

「あと、そ、それから…」

「もういい。別に怒ってもいないし、わかってくれたならばいいさ。ただ」

怒っていないと言われてホッとする。
本当にこの人は笑顔を向けてくれたのだと。

「は、はい!」

「浮竹隊長って呼ぶの止めてくれないか?」

「……は?……」

君はウチの隊士ってわけでもないし」

「あ、あ……そう、ですよね……私死神じゃないし……」

は軽く笑う。
だが、なんだか目頭が熱くなった。
胸の辺りがチクリと痛んだ。








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05/11/25
12/03/20再UP