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生生流転
#14 雨乾堂・朝。 「な、なんで泣くんだ?」 オロオロしてしまう男。 は涙が止まらない。 敵として出会うかもと多少は意識していたが、旅禍だとばれていても彼はを助けてくれたようだ。 安心してまった。 嬉しかった。 また会えた事に。 だから泣き止もうと思っても涙が止まらない。 一時期、仕方ない事、死神たちの決まりとは言えは彼と会った記憶を封じられていた。 思い出したことによっての中ではそれが余計に大きなものになっていたようだ。 「……どうすればいいんだ?」 男はに思わず尋ねてしまう。 は男が困っていることがわかるのかの頬を軽く舐め慰める動作をした。 「……っく…うっ……」 は布団から飛び出してに抱きついた。 しかも今度は声をあげて泣いてしまう。 「お、おいおい…」 別に自分は何もしていないぞと男は顔を引きつらせる。 の声が聞こえたのか別の人物が中に飛び込んできた。 「「隊長!!」」 「な、なんだ?」 「女の子泣かしたんですか!?」 「ち、違うぞ、清音。俺は何もしてないぞ」 「そうだぞ、隊長がそのような事なさるわけないだろう!」 「煩い!仙太郎。私だって隊長がそのような事をなさるお方だとは思ってないぞ!」 仙太郎と呼ばれた男に清音と呼ばれた女は目の前で火花を散らしている。 「頼む。君も泣きやんでくれ」 にそう声をかけるがは泣き止まない。 ここで気の短い男ならば、逆ギレしてしまうだろう。 「あー二人とも悪いがしばらく席を外してくれ」 「「隊長ォ!!」」 「悪い、頼む」 尊敬するこの男に頭を下げられちゃ引かないわけにはいかない。 二人は顔を見合わせて渋々しながらも部屋から出ようとする。 「それと、この事は他の隊士たちには内緒だぞ。隊長たちにもだ」 「「は、はい!!」」 仙太郎と清音が去って再び部屋は静かになった。 の泣き声はまだするが。 「何も怖がる事はない。君に危害を加えるような真似はしない、だから安心してくれ」 「…………」 は鼻を啜りながらから離れて男と向かい合う。 着ていた着物の袖で涙を拭う。 「飲むか?沢山泣いたから咽喉が渇いただろう」 男はに湯気が立った湯飲みを手渡す。 ぼーっと湯飲みを見つめてしまう。 時折鼻を啜って。 「梅昆布茶、美味いぞ」 そう言って男も自分で淹れたのだろう梅昆布茶を啜っている。 「あ、最中食べるか?京楽がくれたんだ。これも美味いぞ〜何せ瀞霊廷人気の和菓子屋のものだからな」 なんで、怒らないのかな? なんで、ほっとかないのかな? そんなことばかり頭に浮かぶ。 のことを旅禍だと知っていて。 夜一が言っていた。 旅禍は尸魂界ではあらゆる災害の元凶になると。 「お前も食べるか?…犬って和菓子は平気なのか?」 ほらとの前に最中をちらつかせる男。 はぱくりと食べてしまう。 「ははは、食った。美味いか?ははは」 「あ、あの……」 「ん?なんだ?あ、あぁ。俺は浮竹十四郎だ」 「浮竹さん……」 「これでも護廷十三隊、十三番隊の隊長なんだぞ」 「……隊長……」 最初に想像はしていた。 虚に襲われたを助けた彼は白い羽織を着ていた。 瀞霊門で会った三番隊の隊長が似たようなものを着ていたし。 もしかしたら隊長かな?とは思っていたが… 砲弾打ち上げの前に夜一が全員に言った言葉がある。 『いいか。瀞霊廷に入ったら決してはぐれるな』 『隊長格と出会ったら迷わず逃げろ』 『儂等の目的はルキアの奪還。それのみじゃ』 『絶対に無駄な危険を冒してはならん!』 ……………。 (よ、夜一さん!私、隊長にばっちり会ってます!どう、どうしましょう!) 自分を助けてくれた死神が彼だと知って嬉しかったものの 同時に、ルキアを奪還するには彼は立ちはだかる壁でもある。 「どうかしたか?」 「!!」 はぶんぶんと首を横に振る。 そしてぐいっと梅昆布茶を咽喉に流す。 「あちっ」 「おいおい、気をつけろ?慌てなくもいいぞ〜おかわりしてもいいからな」 どうにかしてここから逃げなくてはならないだろう。 そして別れてしまった一護たちと合流しなくては。 『もし…その人が君の前に立ちはだかったらどうするんだい?』 石田に問われてわからないと答えた。 今もわからない。 気さくで優しい人みたいだから。 でもあの市丸みたいに戦闘になればなんかは敵わないくらい強いのだろう。 『まだわからないんだろ?だったら今は考えるのよそう』 今は、ね。 (石田〜どうしよう〜こんなに早くに会うとは思わなかったよ…) 「よく食うなぁ。甘いもの平気なんだな、犬って」 浮竹は笑いながら何個目だろうか、に最中を与え続けていた。 「ちょ、!食べすぎ!」 「………」 浮竹の手が止まる。 少し何か考える仕草をするが、再び最中をに与えてしまう。 「う、浮竹隊長さん…あの」 「あ、あぁ。面白くてつい。すまない」 「面白くてですか……」 浮竹は頭を一掻きしてからに訊ねた。 「君の名前。それとここに何しに来た?」 「………えっと…」 「君が旅禍だと言うのは霊圧でわかるから、隠してもしょうがないぞ」 それに今、瀞霊廷はその旅禍探しで騒がしいのだ。 だが浮竹の目には彼女が悪さをするような人物には見えなかった。 「名前は、…です。その……友だちを助けに来ました」 隠してもしょうがない。 隊長相手では何をしても無駄な気がするから。 「友だち?」 何故旅禍が尸魂界にまで友だちを助けに来るというのだろうか? 「その……なんて言えばいいのかな……?」 は不安になりながらも朽木ルキアのことなどを話し 友だちと共に助けに来たと。 どこまで話せば良いのかとか悩みながら。 浮竹はルキアの名を聞いて驚いたように見える。 「…朽木…ルキアだと……?…」 「は、はい。友だちとしては付き合いが短いけど、彼女にも私助けてもらったし」 「彼女は俺の隊の子だ」 「えぇ!?」 「…朽木は霊力の無断貸与及び喪失。滞外超過……第一級重禍罪により極刑だそうだ…」 「………」 浮竹自身も悔しかった。 正直に言うとその程度のことで何故極刑にされるのかと。 それでも話は進んで処刑が刻一刻と迫っている。 「あの…朽木さんはどこにいるんですか?」 「それを聞いてどうするんだ?」 「どうって…助けたい…です」 「君一人で?」 「私だけじゃないです。黒崎も織姫も茶渡もいるし、石田と岩鷲君もいて……夜…一…」 浮竹がをまっすぐに見つめる。 はその視線を受け止められずに伏せてしまう。 「………」 「………」 二人とも黙ってしまう。 が首を傾げ小さく鳴いた。 (このまま、何もできないままなのかな、私…) 織姫が一護を守ると言うならば、自分はたつきに代わって織姫を守る。 そう決めた。 けれど、彼女とはぐれてしまった。 ルキアを助けようにも、目の前には護廷十三隊、十三番隊の隊長がいる。 そんな人を出し抜けるとは思えない。 情けない。 悔しい。 何もできなくて。 最悪、自分以外の仲間たちがなんとか彼女を助ける事ができればいいが。 湯飲みを持つ手が震える。 また泣きそうだ。 だが、浮竹の大きな手がの頭にポンと触れ撫でた。 「…?」 「そんな顔するな。とりあえず、当分はここに身を隠していてくれ」 「え、でも」 浮竹は腕を組む。 「……俺でできることをするから」 中央四六室への進言。 これが通ればいいのだが…やらないよりマシだろう。 「だから、しばらくここで大人しくしていてくれ」 「……浮竹……隊長……」 「さっきも言った。君に危害を加えるような真似はしない」 今度はまっすぐ浮竹を見ることができた。 きっとこの人は、嘘は言っていない。 旅禍なんかを手元に置こうと言うのだから。 自分の立場が危うくなったらとか考えないのだろうか? でもはこの人が自分は思った通りの人なんだなと思うと素直に頷けた。 「……はい……」 「うん、ありがとう」 「………」 はきょとんとしてしまう。 礼を言われることでもないと思ったし。 どちらかと言えば、こちらが礼を言う立場だと思うのだが。 「ん?どうした?」 「あ、えっと…なんでもありません」 「そうか?……ん、腹減らないか?俺はまだ食べていないんだ、一緒に食べよう」 まだ朝食だと言える時間なのだとは驚く。 部屋を見回し、時計を探す。 (……まだ7時だ…) 空鶴邸から砲弾を発射したのは、夜明けと同時だったし。 ここで目覚めるまでもそんなに長いことは眠っていなかったようだ。 浮竹は立ち上がって、外に顔を出す。 「おーい、仙太郎!清音」 「「お呼びでありますか、隊長」」 いつでも浮竹の前に出る準備はしていたらしい二人。 呼ばれてすぐに姿を見せた。 「ん。腹が減ったんだ、悪いが食事の用意頼むな」 「はい」 「あ、二人…三人分か?お前も食べるだろう?」 浮竹は振り返ってに言った。 は肯定の意味を込めてかワンと鳴いた。 話の流れがここからゆっくりになりますよ。
05/11/17
12/03/20再UP
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