生生流転




ドリーム小説
#4



「お疲れさーん」

校長室で煩く言われたのかどうかは知らないが、一護たちが戻ってきたのを見てが手を振って出迎えた。

「あ、お前なんで呼ばれてねーんだよ」

「本当、不思議だね〜」

たつきと織姫も現場に一緒にいたってだけで一護たちと同じように教師から呼び出しをくらったのに。
だけは上手くかわせたようである。
へらっと笑い返したに一護が後頭部を叩く。

「ちょっと、アンタ最近人の頭亜叩き過ぎ!」

「ちょうどいい具合にあるからな、の後頭部が。それに今、すげームカツイタから」

「まー理不尽な方ね、黒崎クンは」

「やめろ、気持ち悪い」

は反転してルキアに向き合う。

「朽木さーん、こいつだけは駄目だよ〜引っかかっちゃ駄目だからね」

「あら、大丈夫ですわ。私と黒崎君はただのお友だちですから」

にっこり答えるルキアにはニヤリと一護に笑い返す。

「振られちゃったねぇ、黒崎」

「バーカ何言ってんだよ」

は軽く一護を無視してルキアに話しかける。
一護も別に気にする様子もなく浅野たちと撮影時の話をし始めた。
ただ、なんとなく茶渡と織姫だけは大人しくしている。

「ね、もうすぐ夏休みじゃん?朽木さん暇な日教えてね」

「暇な日・・・ですか?」

「そ、遊び行こうよ。海とかプールとか、お祭りも行きたいよね」

彼女とは学校で。
しかも話す機会もあまり多くない。
でも最近になってようやくそれがぐんと増えた。
なんとなく面白い。
だからもっと仲良くなりたい。

「考えておきますわ」

「忙しいの?」

「そう言う訳じゃ・・・・さんの方こそ忙しいのでは?」

「あ、私は平気。インハイ出ないし。珍しく今年の夏休みは暇なんだよね」

たつきの表情は一瞬曇ったがは気づかなかった。

「まぁそうでしたの」

「だから、遊ぼうってこと。あ、今度うち来ない?佐助覚えてるでしょ?」

「えぇ可愛い子でした」

「佐助とも遊んでやってよ」

「・・・・・はい、楽しみにしておきますわ」

ルキアが笑うからも笑った。



***



最近・・・って言う事を考える事が多くなった
ちょっとした出来事が重なったからなのか、薄れていた記憶が蘇ったり
そこにいなかったモノが見えるようになっていた。

まだ完璧とは言えないが。

「・・・・・頭痛いなぁ」

学校から帰宅後、縁側で佐助と遊びながら急に頭痛を訴える

「あら、風邪?夏風邪ひくと馬鹿にされちゃうわよ〜」

娘の心配をする気はないのかと母親に言うが笑い飛ばされるだけだ。

「まぁいいわ。佐助ちゃんの散歩私が行ってあげる」

「え、いいよ。薬飲めば治るだろうし」

「だから、薬飲んで寝てなさい。佐助ちゃん、お母さんと散歩行きましょうね」

散歩に行けるならば誰でも良いと言うような感じで尻尾を振るう佐助。
でも頭痛が止まる気配がなかったからは言うとおりに薬を飲んで寝ることにした。

だが、痛みは減るどころか増す一方だ。

「なんで?・・・・悪い病気じゃないよね・・・・・」

ベッドで寝返りを何度も打ちながらぼやく。
薬がまったく効かない。
それどころか、重々しく感じる。

「はぁ、病院行こうかな・・・・・1番近いのって・・・・黒崎んちだ」

医者とは言えなんとなく診せに行くのを躊躇してしまう。
信頼されてない医院ではないのだが、恥ずかしさが勝るのだろう。
でもそうは言っていられないので財布を持って家を出る。

だがすぐに足が止まった。
外に出てからのほうが重々しく感じた。
自分の身体がじゃない、外の空気が重い。
風邪をひいたから頭が痛むのではない。

外に出てみてわかった。

空が裂けている。

何かが落ちてきそうな感じがする。

「何かってなんだっての・・・・馬鹿か私は」

こんな空気の中歩くのは嫌だ。
だったら家に戻って寝てしまおう。
そう思った。

思ったと同時に背後に何か落ちた。

「?」

地面が震えた気がする。
恐る恐る振り返ると大きな腕が伸びてきた。

「うわっ!」

反射的に後ろに飛び避ける。

「・・・・・・あ、あぶ、危なかった・・・・」

影がの前にできる。
なんだと思って見上げると巨人のようなものが立っている。
目が合った気がした。
と同時に本能でわかる。
ここにいては危ない。
危険すぎると。

逃げろ。
あいつの手が届かない所まで逃げろ。

は走り出す。
だがあいつ・化け物は追いかけてくる。

「な、なんでよ」

人気のない場所へと思いながら走るも、最悪なことに前方から母が歩いてくる。
佐助を抱いて。



「お、お母さん・・・・」

「あら、ずいぶん元気ね、頭痛は平気なの?」

「そ、そんなの良いから、早く!」

「なによ、変な子ねぇ。ね、佐助ちゃんの様子も可笑しいのよ。急に震えだしちゃって」

「佐助?・・・・・あっ!」

母親に出会ったことで足を止めてしまった
その隙をついてを殴り飛ばす巨人。

!?どうしたの!」

急に吹っ飛び倒れこんだ娘に悲鳴を上げる母。
母の腕の中から佐助が飛び出し一方に向かって吠え出す。

「佐助ちゃん?」

「お、お母さん。なんでもないから早く帰った方がいいよ」

「でも、あなた頭から血が出てるじゃない」

地面に叩きつけられた瞬間に切ってしまったのだろう。
それでもとは血を拭って立ち上がる。

「良いから、早く!」

「さっきから何を言っているの?・・・・あ、あら?」

突然膝をついてしまう母。

「どう・・・・したのかしら・・・?急に力が・・・入らなくなって」

「お母さん!」

そしてその場に倒れこんだ。
は駆け寄り身体を摩る。
息はある。

でも、この状態を作り出したのはあいつだと睨みつける。

佐助も蹲っている。

「お前、何してんだよ!」

拳を握る。
たつきみたいに空手はできないし、喧嘩もできない。
でもには剣道がある。
剣道を喧嘩に使うのは良くないとわかる。
でも、これは喧嘩じゃない。

「用があるのは私ならば、私にかかってこいっての!」

声をあげながら、何か竹刀に代わる物がないか探す。
バットがあればいいけど、そんな手ごろな物は簡単に見つからない。

(どうしよう。探しに行くにしても離れたらお母さんと佐助が・・・・)

巨人の手が再びに向かって振り下ろされる。

「や、ヤバッ!」

見かけと違って慎重な奴だ。
の隙をついてくる。
また当たると思った瞬間、は無理だとわかっていても両腕でガードする。
痛みに堪えるように歯を食いしばり、目を瞑る。

「・・・・?」

だが、痛みはなかった。
当たると思った瞬間、痛みではなく吹き荒れた風。

「・・・・・・な、に?」

の目の前には大きな犬が立っている。

・・・・?」

白い大きな犬。
でも身体が透けているから生きているものではないとわかる。
それに目の前にいるのはあの時とは微妙に大きさなどが違う。
それでも直感でだとわかる。

ずっと前に死んでしまった大好きだった子。

・・・・」

透けてはいるがその身体に触れようと手を伸ばす
きっとあの頃のようなふわりとした感覚はないだろうなと思いながらも。

「わ!」

に触れたと思った瞬間に右手に刀が握られていた。
の姿は消えて刀が現れる。

だ”

今、必要なのはあいつを倒す力。
今、必要なのはその為の道具。
今、それが手元にある。

「やれる!!」

は刀を構える。
これは試合じゃない。
真剣勝負以上とは違う命を懸けたものだ。
ここでが負けたら母と佐助がやられてしまう。

「たぁぁっ!」

最近ずっと集中力がなかった。
試合でも負けっぱなしだった。
それでもまぁいいかと簡単に考えることを止めてしまった。

でも、今は違う。
全神経を集中させて、敵の動きを見張り俊敏に動く。

考えると言うよりほぼ直感を頼りにした動きだが。
後のことは考えない。
今はただ、目の前の敵を倒すのみだ。



***



思い出した。
あの時のことを。

普通ならば大型犬の散歩なんて子ども一人にできるわけがない。
まして秋田犬なんて引く力が強くて子どもじゃすぐに逆に引っ張られてしまう。
でもの散歩はが行った。
朝は父親が行っていたが、夕方は家の周辺とが行った。
一人で散歩に行けたのはが利口だったからだろう。
と自分を繋ぐリードを引き走ることもなくの隣で歩調をあわせて歩いてくれる。

だから、一人でも行けた。

あの日もそうだった。
学校から帰ってきての散歩に行った。
親は何も心配することなく。

だけといつもと違って、いつものコースから外れてしまった。
日も暮れたから早く帰らなきゃって思っていたら、今日みたいに何かに襲われた。
の前に立ってそれに向かって威嚇する。
その時のの目には見えていたのだ。
今日みたいな化け物の姿を。

それに立ち向かう
怖くて震えるだけの自分。
何もできなくて、目の前で傷つく
そして倒れしまう。

ー』

大きな爪がの前に振り下ろされた。
もう駄目だと思って。
でもに一緒だよって呟いた
一人じゃないから大丈夫だって思えて。

そんな時に刀を持った大人に助けられた。
黒い着物で更に白い着物を上に羽織っている人。
後姿だけだったけど、長い髪が印象に残った。

を簡単に傷つけた化け物はその大人にあっさりと倒された。
恐怖は去ったがその代わりに悲しみが降ってきた。
すでに動かなくなってしまった
さっきまで一緒に散歩していたのに。
は大粒の涙を零し泣く。

『大丈夫か?すまない、間に合わなくて』

泣きじゃくるには大人の言葉など入らない。
相手は困ったように頭を掻く。

『っく・・・・・・・ごめんね、ごめんね』

自分がいつも通りの散歩をしていたらこんなことにはならなかったのに。
泣き謝り続けるの頭を大人は優しく撫でる。

『自分の身を挺して主人を護る。良い犬だな』

『・・・・・でも、私』

『そんな犬の主人でキミは幸せ者だ。だからその子の分も君は生きなさい』

初めて大人の顔を見た。
優しく笑ってくれる人。

『だからこそ、忘れないで覚えておくべきなのだろうな。でもこれは決まりなんだ、すまん』

目の前が暗くなった。
目が覚めたときは家のベッドの上で寝かされていて。
が事故で死んだと親に言われて・・・・

記憶はそんな風になっていたが。

あの時の事が思い出されたのだ。
当然と言うか、一緒に少し前の出来事も思い出していた。

黒崎一護と朽木ルキア。

二人によってまた化け物から救われたことを。


「良かった・・・・・思い出せて・・・・」


の意識はそこで途切れた。








05/11/03
12/03/20再UP