ほんの少しの距離なのに。




ドリーム小説
【雨あがる】





曹魏と合肥で戦うことになった。
それも一応同盟を結んでいる蜀、劉備からの要請で。
凌統は最初から乗り気ではなかった。
蜀の都合のための戦と言えるのではないかと思っていたから。
でも呂蒙に諭され、とりあえず素直に従うが。

戦に来る前から甘寧も一緒だとは聞いてはいたが、彼が今回の戦の勝利を握っているとも言えるらしい。
それがなんとなく面白くない。
戦が始まる前からわざと突っかかってしまったし。

実際、戦が始まると合肥を守る張遼の度重なる奇襲に肝を冷やすがなんとか持ちこたえていた。

そして魏の本陣がある方向から喊声が聞こえた。
遠くからでもわかるほどに。

「へぇ上手くいったってとこか…」

孫権の護衛を終えて、自分も敵本陣に向けて進軍していた凌統。
さて、どうしようかと足を止める。
あの喊声は甘寧の部隊が敵本陣近くへの奇襲に成功したと言うことだろう。
奇襲されたということで魏の兵士たちは次々と撤退したり本陣へと向かったりしている。

詰めに入るとして向かってもいいのだが…
手柄を立てるという気分も特にないのでこのままでもいいかなと。
この戦での自分の役割は孫権の護衛なのだし。

「でも、行かないとマズイかもねぇ」

今更苦戦と言うこともないだろうが一先ず向かおう。
そう思った。
きっと勝ち誇った甘寧がいるだろうなとか思って少し不愉快になるが。

だが。

「ちぇっ、感じ悪ぃよなぁ…」

進軍してみれば、罠ではないが、敵兵士に囲まれてしまった凌統。
負け戦になりつつある曹魏としては、少しは名の知れた武将でも倒して一矢報いたいという所か。
敵兵士隊長3人、敵兵士10人。
一斉にかかってこられたらいくら凌統でも無傷ではすまない。

「こんな所でやられるわけにはいかないんだけどねぇ…」

別れたままのあの子に何一つ伝えていない。
あって言わなくてはならないこと、聞きたいことは山のようにある。

「ま、もっとも…俺が死んでもにはアイツがいればいいのかもね」

自嘲してしまう。

「おらぁ!」

その声に振り向く敵兵士。
甘寧が飛び込んできて、敵兵士たちを数名斬り倒す。

「っ!」

敵兵士が怯んだのを見て凌統はすかさず得物と蹴りでなぎ倒す。
甘寧と背中合わせになった状態のまま凌統は話しかける。

「へっ、なんだよ?これで恩にでも感じろっての?」

「くだらねぇ。お前の親父のことを詫びる気はねぇぜ」

「何だと!?」

凌統は甘寧の方へと身体を向ける。
甘寧も同じように振り返り、凌統の胸に拳を当てる。

「敵は斬る!仲間は守る!」

強めに言い放った後、すぐさま穏やかに諭すように言う。

「単純なんだよ。喧嘩ってのは」

「………」

凌統は言葉が見つからず甘寧の視線から目をそらす。

「ちゃんと身につけているんだろうな?」

「………」

もう一度凌統の胸に拳を押し当てる甘寧。

が言ってた。もう一度お前に会って話がしたいって。お前もそうだろ?」

「俺は」

「お前も何ウジウジしてんだか知らねーけど、はいつもお前の心配ばかりしてた」

「………」

「だから、その守り石のついた首飾りをお前にてって思ったんじゃねーのか?」

くるっと背を向け歩き出す甘寧。

「おら、とっとと行くぞ。この戦終わらせねーと、お前はに会えねぇしな」

振り返ることもなく甘寧は走っていく。

「……色々考えてんだな、アイツ…」

甘寧が戦で父を斬ったのは、敵同士だったから。
今、自分を助けてくれたのは仲間だから。



***



戦を終えて帰ってきた。
そのまま休みもしないで向かうあの場所へ。

がいるかどうかもわからないけど。
いないならば来るまで待てばいい。
そう思った。

「……あ…」

何もない場所。
でも世界が交われば姿を現す。
以前からそこにあったように。

聞こえてきた。
あの音が。
懐かしいと感じてしまうのは、それくらい久しぶりに聞く音だからだろうか?

「相変わらず…」

同じ曲なんだな。
一度目を閉じ一呼吸してから目を開けるとのいる世界が現れた。
以前と変わらずピアノを弾いている
少し髪が伸びたように見える。
窓は開いていて中から白く薄い布が揺れ動いている。

「………」

なんて声をかけようか?
声をかけても彼女は逃げないだろうか?
子どもより子どもっぽい態度を取った自分に呆れていないだろうか?

「……っ」

緊張していた。
拳をキュッと握って。
戦でもこんな緊張したことはないのに。
へたれな自分に笑ってしまう。

なぜ、そこまで緊張するのかな?
久しぶりに会うから。
最後に会った時の自分の態度が酷すぎるものだったから。
より自分の方が年上なのに。

「あ〜もう〜」

音が外れた。
それにが溜め息をつく。
動かしていた手を止めて伸びをしている。

それがきっかけになった気がした。
凌統は窓枠に手をかけてヒョイと世界を超えた。

「下手くそ」

「なによ!……あ、凌統君……」

「会わない間に下手になったのか?しょーがないねぇ」

「ち、違うよ!毎日練習してたもん。それに今のはたまたまです!」

くすくすと笑む凌統の姿には恥ずかしくもなるが、前と同じように姿を現した彼に嬉しくなる。

「なんだっけ、なんとかのカノンっての」

「パッヘルベルのカノン!凌統君覚える気あるの?」

「カノンって覚えているからいいじゃん」

「…別にいいけどさぁ」

軽く頬を膨らます
凌統はそれでもまだ笑っている。

「もう!凌統君笑いすぎ!」

「あぁ悪かったよ…なぁ、

「なに?」

「隣座ってもいいか?」

きょとんと目を見開く
だがすぐさま目を細めて笑う。

「いいよ、別に。変な凌統君。いつもは好き勝手にしているのに」

「なんだよ、それ」

凌統は拒否されなかったことに内心安堵しつつもそれを悟られないようにの隣に座る。
少し大きくて幅のある椅子。
それでも二人で座るには少し窮屈なように思える。

腕と腕が触れて。
自分の心音が聞こえてしまわないかと思いながら。

…その…悪かったな」

「何が?」

「色々」

「色々かぁ」

何をどう謝るつもりだったのか、自分は。
ただ、そうとしか言葉は出なくて。
会ったら、こう言おうとかあんな言葉を言おうとか思っていたのに。
格好悪い。
何も言葉が出てこない。

とりあえず、凌統は懐からあの首飾りを取り出し、の手に握らせた。

「あ、これ…興覇君から受け取ってくれたんだ!?」

「……あぁ」

「それで?それでどうしたの?二人は」

「え、どうしたって…別に……」

「別にって何もないの?仲直りしたとか」

「なんで俺がアイツと仲直りしなきゃいけないんだよ。俺はアイツとのことよりと…あ」

「私と?」

顔を覗きこんでくるに、凌統は顔をそらす。

「私となーに?凌統君」

「……アイツよりあんたと仲直りしたかった……」

仲直りなんて言葉使ったの初めてじゃないだろうか?
子どもじゃあるまいし。
でも、自分は子ども以下な行動を取ったわけだか。

「本当?」

「…あぁ」

顔に熱が走る。
熱くてしょうがない。
耳まで赤くなっているような気がする。

「そう思ってくれるんだ」

「へ?」

「良かった」

?」

凌統は視線をへと戻す。

「私も凌統君と仲直りしたかったから。
だって、私ってばさ…凌統君の気持ち考えないでいたから…興覇君とのこととか」

親の仇だと言って関わるのも嫌がっていた凌統だったのに。
その相手と自分は普通に仲良くしていて。
甘寧が嫌な人ではないのはもわかった。
だから凌統にもそうわかって欲しいって勝手に思って。

「別にいいよ…俺も大人気なかったし」

「………」

「こうやってに会えて、許されただけでもいい」

「凌統君…許すとか許さないとか私が言える立場じゃないよ?」

「いいんだよ。俺がそう思ったから」

お互いがお互いを傷つけたと思った。
タダ単純にお互いがお互いを思っていただけだった。

「今度はちゃんと俺の手からに渡す。受け取って欲しい、これをさ」

の手の中にある首飾り。
凌統はの手を取り自分の手で包み込む。

「旅の行商人から買った。その人の故郷の守り石がついたもので、持ち主を守ってくれる。
だから、あんたを守ってくれるようにと思って、俺はこれをにやる」

これを買った時に願った。
身につけなくてもいい。
ただ、持っていてくれさえいれば。
自分がそばにいなくても、代わりにこれがの身を守ってくれればと。

「ありがとう、凌統君…」

痞えていたものがとれた気がした。
今度はちゃんと自分の手で渡せて受け取ってもらえた。
それだけで嬉しいから…










06/02/27UP
12/01/09再UP