ほんの少しの距離なのに。




ドリーム小説
【野分晴】





「うん、大事にするね」

は手にもらった首飾りを大事そうに握り締める。

「ようやく渡せて良かった、俺もさ…」

本人の気持ちと一緒でふらふらしていた首飾り。
そう言えばあの行商人が言っていた。
不思議と買い手がつかないもので、凌統に買われるのを待っていたかのようだったと。
その持ち主の気持ちを表してか、首飾りは彷徨っていた。

甘寧に手に渡って、陸遜の手に渡って、また甘寧の手に戻りそしてに手に。
でも最終的にから甘寧に渡されてそれが自分の手に戻ってきた。
ほとんどが甘寧の下にいたと言うからなんとも言えない気持ちになる。

それでに聞いてみたかった。

「あのさ、。なんでアイツに俺に渡すよう頼んだ?」

「あ…守り石がついているって聞いてね。私より凌統君を守って欲しいって思ったから」

「俺を?俺ってそんなに頼りないわけ?」

コツンと軽くの額を叩く凌統。
怒ってはいないようだが、微苦笑している。
叩かれた箇所を軽く摩りながらは続ける。

「頼りないとは思わないよ?ただ…状況が状況だったから…凌統君不安定っぽいなって」

「………」

「ご、ごめん!勝手にそう思っただけだから、いらないとかそんなんじゃないからね!」

「くっ。別にそうは思わないさ」

甘寧から渡された時は一瞬そうは思ったが、今のを見ればわかる。

「これからは、私、大事にするから。だから」

「もういいって。わかったから」

周りが見ても自分は同じように不安定だと思われただろうか?
甘寧とやりあうことがなくなって大人しくて気味が悪いと陸遜には言われたが。

が持っていてくれればいいよ。実際守り石としての効果はあったみたいだし」

「本当?」

「本当。戦が少し前にあってね…ま、その話はどうでもいいんだけどさ」

「あ、あのね!お、怒らないでね、凌統君」

突然なんだ?
怒るなと言われてもそれは話にもよるが。

「私はね、興覇君にも言われたけど、やっぱり二人の仲が良くなって欲しいなって思うの」

甘寧は自分と凌統の問題だと言っていた。
首を挟んではいけないのだろう。
でも、ここに凌統がまた来てくれたことで気になってしまう。

「仲良くってのはどーゆー風になのかわからないけど、前ほど俺も思ってはいないさ」

「え」

「この前の戦で言われちまった“敵は斬る、仲間は守る”って」

言われて調子が狂った。
彼は彼なりに考えていること。
孫呉の武将として活躍もしている。

「俺が器の小さいみたいで不愉快だけど…過去の因縁っての?
それを飲んで今を進むって甘寧の奴は言いたいみたいでさ…まぁそれもいいかなと俺も思った」

最初の頃に比べて憎しみは薄れている。
甘寧は甘寧なりに色々考えたのだろうか?

「興覇君って、本当に良い人だよ?最初にここに来たのも凌統君のためだったんだよ?」

「…俺…の…?」

「そう。私と一緒にいるのを見て、私が物の怪とか化け物の類とか思ったみたい」

見たこともない建物が突然姿を現し、中で凌統がこれまた変わった格好の少女を一緒にいるのを見て。
物語に出てくるような幽霊話とでも思ったと言っていた。

「凌統君が悪い物の怪に精気を吸われたら大変だーって」

はその時の様子を思い出して笑う。

「その後もね、凌統君が賊討伐でいないってことを教えてくれた、戦況報告っての?してくれた」

「………」

「陸遜さんから渡された首飾りも私に届けようと思って雪の中待っていてくれたし」

「………」

「なんだかんだ言って、凌統君のためって感じに見えたよ?」

そんな事何も知らなくて。
自分から自分の安らげる場所を奪ったと思って…
態度がでかくても、言葉でちゃんと何かを伝えようとしてくれた。

「アイツ…ほんと…俺の器小さいじゃん」

「義理堅い人なのかな?興覇君は」

「だから…もアイツが気に入っているのか?」

「うん」

「そうか…」

そう言う人間だから、凌統の周りにいる人たちも彼の良さを知ったのだろう。

「だから、凌統君も仲良くしてほしいな。すぐにとは言わないけど」

凌統は深く息を吐いた。
そして立ち上がる。

「凌統君?」

は凌統を見上げる。

「帰る」

「え?あ、あー怒ったの!?」

くるりと背中を見せる凌統にも慌てて立ち上がり駆け寄る。

「怒ってないって」

「本当?」

凌統は反転しそのままを抱きしめる。

「りょ、凌統君?」

「ありがとうな、

「そ、そんな事ないよ…私何もしてないから」

「でも、俺はに感謝してんの」

「あ、あはは。それはどうも」

はそっと凌統の背中に手を回す。
彼女はもう一つ言いたかったことがあった。
ずっと、ずっとそれを気にしていた。

「あのね、凌統君。もう一つ聞いて欲しいことあるんだ、私…」

「ん?」

「凌統君と喧嘩しちゃった日…走っていく凌統君を私、追う事できなかったの」

「……うん」

「興覇君に早く追いかけろって言われて…外に飛び出そうとしたけど…できなかった」

「…それで?」

「怖かった。そっちの世界に行くのが。凌統君平気でこっちに来るでしょ?私も行っても大丈夫だろうとは思ったけど」

怖かった。
自分がそっちに足を踏み入れたら、自分のいた世界が消えてしまったらと思って。
戻れなくなったらとか色々考えて。

すぐそばにあるかのような世界だけど
本当は遠い場所にあるのだろう。
何の理由で二つの世界が繋がったのはわからない。
行き来できること、そんな世界があることを自分は知っている。

でも、怖かった。

ほんの、少しの距離なのに。

そこを飛び越えることができなかった。
追いかけ追いつくことができなかった。

「不思議なもんだな…こうして俺はに触れられるのに、二人が離れたら世界は閉じるんだぜ?」

凌統は少し力を込める。
本当だったら出会う事のない二人。

「別に、あの日…が追ってこないことを腹立てるなんてことないよ。寧ろ自分で手一杯だったし」

気づきもしなかった。

「俺はさ、単純にが俺にくれたオルゴールが飛んできたから繋がっているって思っただけだし」

だから、自分自身もそっちに行けると思った。

「理由なんていいさ。俺はこうしてと一緒にいる。こうしてに触れられる」

それだけでいい。

「俺の気持ちがに伝われば、それだけでいい」

「凌統君…」

ずっと、謝りたかった。
でも、凌統は気にしないって。

「凌統君ってすごいね」

「そうかい?」

「だって興覇君でさえも、この部屋には入らなかったよ?」

「それは良かった。俺の方が一歩進んでいるってことだな」

「もう」

「な、不公平だと思わないか?」

「な、なにを?」

「呼び方。俺との付き合いが濃いのに“凌統君”でアイツは字で呼んでるじゃん」

「う、うん」

別に向こうからこう呼べと言われた記憶はない。

「だから、公績って呼んでよ。俺のことも」

「公績君って?」

「公績だけでもいいけど?」

「うーん、どうしようかな」

「なんでさ」

凌統は軽く笑う。

「一応、凌統君、あ…公績君の方が年上だし」

「一応は余計だっての」

も笑う。

「なぁ、…またここに来てもいいか?」

「変なの。そんなの良いに決まっているでしょ。わざわざ確認するなんて」

だって、凌統がここに来てくれるのは嬉しいし、まだまだ話したいことが沢山ある。
会わない間にあった出来事とか。

「だってさ、不安なんだよ。一度俺が壊しちゃったから…本当に俺はここに来てもいいのかって」

「いいの。来てほしい、私は。そしてピアノを一緒に弾いて、話も沢山したいし」

「ありがと」

「どういたしまして…なんか今日は沢山お礼を言われた気がする」

「かもな、俺も滅多に言わないし…でも、言いたい気分なんだよ」

色んな言葉を君に。
色んな思いを君に。

「もう一つ言っておこうか」

「何を?」

「俺がを好きだと言う事を」

今解放したら、の顔はものすごく赤いだろうなって想像がつく。
見てみたい気もするけど、まだ手放したくない。
が誰を好きとかそんなの今はどうでもいい。
自分の気持ちを、今なら全部言えそうだと思ったから。

「この場所を知られたのが甘寧じゃなくても、きっと俺は腹を立てただろうな」

と過ごす時間を邪魔されたと思って。

がここにいるから…だからさ」

「………」

凌統はを解放する。

「んじゃな。また来る」

だが、が凌統の服を掴む。

?」

「ずるい、公績君。自分ばっかり…」

「は?」

はパッと手を離す。
凌統の予想通りに顔を真っ赤にしている。

「なんでもない!また来るの待ってるから」

「あぁ」

凌統はニッと笑んで窓から颯爽と飛び降り駆けて行く。

「またね、公績君。今度来た時覚悟しろよ」

一方的に伝えられた想い。
しかもの返事なんて気にもしていないようで。
ずるい。

だから。
ちゃんと言う、君に。

「私も公績君が好きだよ」

だから、次に君が来るのを楽しみにしてるよ。
これからも、ここで会いましょう。








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