ほんの少しの距離なのに。




ドリーム小説
別によ、心配しているわけじゃねー。
何かあってからじゃ遅いじゃん。
好き嫌いなんか言っている場合じゃなねーかもしれねーし。





【律の風】





甘寧がそこで見た凌統の顔はとても晴れ晴れしていた。
いや、普段もそうなのかもしれないが、決して自分には見せない顔だ。
理由が理由なので別にそれが羨ましいとか、常に見ていたいとか思ったわけではない。
それにしてもと思った。
アイツでもあんな顔するんだな…て。
だから、自分より付き合いの長い姫にチラッと零せば姫は驚きつつも楽しそうな顔をしていた。

後日、凌統本人と顔を合わせた時に凌統は急いでいる様子だったから軽い気持ちで突っ込んでみた。
そしたら、無理やり連れてかれて、何を見たとか、甘寧に見られて悔しいだとかそんな事を漏らした。
なんとなく言い返してやりたい気分だったが、馬鹿馬鹿しい気持ちの方が多く。
それに甘寧から何を言っても凌統には無駄だろうと思ったから止めた。



普段の甘寧は鍛錬所にて誰かと手合わせしたり、下の者たちを鍛えたりしている。
たまに呂蒙や陸遜などに、ない頭使って考えた策を提案する事もある。
政治的なこと、内にはあまり興味がない。
自分の活躍できる場は主に戦場だから。
最低限の事をやっていればいいかと、孫呉ではのんびり過ごせていると思う。
たまーに、呂蒙に捕まって難しい話を聞かされるが。
悪い人ではなく、どちらかと言うと自分のことを買ってくれて気にかけてくれているから付き合いはする。

今日は鍛錬をするわけでもなく、難しい話をするわけでもなく、城外の見回りをしていた。
と言うのは表向き。
単なるサボリだ。
見回りを口実にふらふら外を歩いていた。
前に見たものが少し気になったから…

ただ、一度見たきりだから、今日行っても見ることが出来るのかわからないが。
それは凌統と一緒にいた女の事だ。
見たこともない建物が薄っすらと見えた。
その室内で凌統が女と楽しげにしていたのだ。
でも後日行ってもそこには何もなかった。
不思議なこともあるものだと思いながらも、凌統が物の怪の類に化かされているのではないかとか
一応考えた。
狐や狸ならばまだしも、女の正体が幽霊だとしたら、彼は最後に精気を抜かれてしまうぞとか。

考えすぎかと思うが、凌統が入れ込んでいるのが珍しいと思ったし。

他の人が言っても、きっと軽く流すだろうけど、自分が言えばきっと反論してくる。
物の怪を倒してしまったならば、その怒りは自分に来るだろう。
他の人が恨まれるよりは自分の方が良いだろう。
凌統に恨まれるなんぞ今に始まった事ではないし。

「……なんだ、やっぱりねーや」

その場所に来てみたものの、やはり何もない野原だ。
物の怪説が当たっているか?
警戒して出てこないかもしれない…

「ま、別に良いけどよ…あ!」

腰につけていた鈴が一個落ちた。

「なんだよ、ついてねー感じがして嫌だぜ」

溜め息をつきながら落ちた鈴を拾おうとした時、下げた頭が何かにぶつかった。

「痛ぇ!なんだよ!」

硬いもの。
さっきまでは何もなかったのに、いつも何か壁がある。

「あ?なんだ、こりゃ」

壁に手を着き身体を起こす。
ついでに鈴もちゃんと拾っておく。

「……家?」

目の前には見知らぬ建物。
いや、一度だけ見た建物が建っている。
すると、窓が開き中から女の声がした。

「凌統君?来ているなんて思わなかったよ」

「あ?凌統?」

見たこともない装飾品の部屋。
大きな物体の前に座っている女、いや少女が一人こちらを驚きながらも見ている。

「あ……凌統君じゃない…デスネ……」

「お前、誰だ。と言うかよ、なんだいったい」

「あ、その…私もどう説明してよいか…」



***



今日、は学校が休みだった。
創立記念日とかで休みだ。
凌統にはそれを言う事もなかったが、あの部屋にいればもしかすると会えるかもしれない。
そう思っていた。
いつも約束していたわけじゃないし、凌統だって仕事がある。

いつも通りにしていたら、窓の向こうの景色が変わった。
あ、凌統がいるんだ。
それくらいにしか思わなかった。
だから、いつも通りの挨拶をした。

「凌統君?来ているなんて思わなかったよ」

「あ?凌統?」

でも返事をしたのは凌統ではない低い声の男だ。
凌統以外の人物と接触できるとは思わなかった。
凌統と一緒にいるのかな?と思うが、彼の姿はない。
でも向こうは凌統の事を知っているようだ。

そして、に質問をぶつけてくるがもどう答えてよいかわからなかった。
久々の反応。
いや、これが普通かもしれない。
何せ、凌統の第一声はのことではなくピアノに対してだったし。
しかも平然と…

「あーそのよー……」

相手がどうしようかと考えているのをはじっと見た。
凌統とは逆なラフな格好。
それよりも目を引くのが両腕の入れ墨に彼が動くたびに聞こえる鈴の音。

「……あ!甘寧さんだ!」

「あ?な、何で俺の名前知ってんだよ」

鈴でピンと来た。
凌統が言っていた鈴の持ち主。
の突然の声に相手・甘寧は驚くが眉を顰めた。
そんな顔をされると睨まれているようで怖い。

「あ、す、すみません。あの、凌統君から少しだけ聞いたことあったから」

「凌統からって…どーせ俺の悪口だろ」

「そんなことないとは思うけど…そうなのかな…」

「どっちでもいいや。な、あんた凌統の女?」

「は?お、女って…ち、違います!そんな仲じゃないです!」

急に切り返されては焦る。
かぶりを振って否定する。

「そうなのか?俺、一度だけあんたと凌統が一緒にいるとこ見たけど、雰囲気良さそうだったけど」

「あ、あの、その……本当に違います…なんて言うか」

曖昧な関係。
先日突然強く抱きしめられたが、それっきり何があったわけでもない。
凌統は普段と変わりない態度だったし。
なんとなく振り回されているような感じになる。
の表情が少し曇ったようなので聞いた甘寧の方が焦り慌てる。

「わ、悪い!なんか俺なんかが踏み込んじゃいけねーことだったな。悪かった」

「い、いえ。いいです、別に」

素直に頭を下げる甘寧。
パッと顔をあげてニッと笑う姿に凌統が言うような嫌な感じはしない。
それはそうだ。
凌統にとっては親の仇でもには無害なのだから。

「もう一個質問いいか?」

「は、はい。どうぞ」

「あんた、狸とじゃねーよな?」

「は?」

「あ、そのよ…ほら、なんつーか、最初よ、凌統の奴が物の怪に化かされてるのかなと思ったんだ」

「あはは、私が凌統君を食べちゃう!みたいな?」

「そう。違うならいいけどよ」

「私は普通の人間ですよ?でも、本当の物の怪さんはそう聞かれても素直に答えはなしないと思いますけど」

「…あ」

なんだろう、この甘寧と言う男は。
甘寧もよりは年上なのだろうが、どこか憎めない感じがする。
入れ墨が怖いとか、睨む顔が怖いとか思ったのに、今はそうではない。
だからか、は甘寧にどういう状況なのか説明した。
自身も原因はわからないのだから、甘寧に通じるか不安だったが、甘寧はあっさりしたものだった。

「そんなこともあるんだな」

「え、その程度で済むものなんですか?」

「だってよ、何もなかった場所に急にこれとあんたが現れたの事実だし」

からは嫌な気なども発してない。

「凌統君もそうだったけど、ここの人たちは結構暢気なんですね」

「細かいことは気にしない性質なんだ、俺は」

「あはは」

「おっと、遅くなったが、俺は甘興覇だ。よろしくな!」

「はい、私はです。よろしくお願いします」

「おぅよ。あ、別に俺に敬語なんざ使わなくていいぜ?堅苦しいの嫌いだし」

「じゃあ、遠慮なく」

友だちがまた一人増えた。
そんな感じがした。

ただ、甘寧は去り際に凌統にはこの事を言うなと残した。
何故と聞いたが、甘寧は苦笑しながら

「あいつ、俺にここ知られたの嫌みてーだし」

凌統が甘寧をどう思っているのかはも知っていたので頷いた。
ほんの短い時間だが、甘寧に好感が持てた。
だから、凌統も彼と仲良くなってくれれば良いのに…そうは願わずにいられなかった。



***



「なんか、ご機嫌じゃん、サンは」

「え?そう見える?」

週末。凌統がここに来た。
残念ながらあれから甘寧はここには来ない。
凌統に遠慮でもしているのだろう。

「良い事でもあった?」

「うーん、一応あったかな」

「へーそれは良かったな、で、どんな良い事があったんだ?」

甘寧と知り合いましたって言ったら、どんな顔をするだろうか?
いや、そんな事は考えなくてもわかりそうなことだ。
それに甘寧とも約束したのだから当分は黙っておこう。

「新しい友だちができたの」

「そうか。良かったな」

「うん。できれば凌統君に会わせて仲良くしてもらいたいかな」

甘寧と。

「会えるものなら会ってみたいね、その友だちに」

「そうだね、本当に…」

「なに、その顔。もしかして友だちって男か?」

「え!?私なんか変な顔でもしてたの?」

慌てるに凌統はくすりと笑む。

「変な顔と言うか意味ありげな顔?そんな感じだな」

「別に意味なんてないよー」

「そうか?俺にはそう見えた。で、男?」

「…気になる?」

凌統の顔を覗きこむ

「別に」

凌統は鼻で笑う。

「じゃあ言わない」

はあっさりと引き下がる。
の態度に面食らう凌統。

「最近のは態度が可愛くないねぇ」

「なんでよ、凌統君は別に気にならないって言ったからじゃない」

「だから、それは」

「それは何?」

「…あーだから……気になるって言ったら格好悪いじゃん…」

凌統の頬に朱が走る。
から目を逸らし、髪を掻く凌統。

「…はははっ。うん、私は可愛くないね、やっぱり」

「な、なんだよ、急に」

「だって、凌統君の方が可愛いから」

「な!何、男に可愛いって言ってんのさ!そんなこと言われても嬉しくもないっての!」

に可愛いと言われてより赤くなる凌統の顔。
それに笑い続ける

、笑いすぎ!」

少し乱暴にの頭をくしゃっと撫でる凌統。

「だ、だって」

「ほら見ろ、やっぱり格好悪いじゃないか……」

「そんな事ないよ、私は嫌いじゃないよ」

「俺は嫌なの」

「きっと私の友だちとも凌統君仲良くやれそうだよ」

「あーもういいっての」

「あはは、残念」

もしかしたら何かが変わるかもしれない。
そんな気がした。










05/10/14UP
12/01/09再UP