ほんの少しの距離なのに。




ドリーム小説
と出会ってからまた季節が変わった。
あいつは学校ってのがあるからまた週末にしか会えなくなった。
それでもいいかと思い始める。
まったく会えないわけではないから。
相変わらず俺の周りでは煩いのがいるけど、以前ほど気にならなくなったのは
きっと、のおかげだ。





【秋懐】





「最近の公積は何か良い事があったのかしら?ご機嫌ね」

「……姫様」

尚香の前を横切ろうとした時。
軽く会釈をして通り過ぎようとしただけなのに、尚香にそんな風に呼び止められた。
尚香の顔がいつぞやの孫策のように見える。

「別に良い事なんてありませんよ。俺は普段通りですよ」

「そうかしら?そうは見えないから聞いているのだけど?」

凌統の前に回りこみ笑みを浮かべる尚香。
あぁ、やはり。
あなたは孫策様に似ています。
そんな事を凌統は思った。

「そうですか。でも俺はそうは思わないのですがね」

冷静に対処せよ。
孫策の時のようなことにはなりたくない。
別に孫策に教えたことに後悔はなかったのだが、今回は相手が悪い。
尚香と言うより、女性が相手だと噂などあっという間に広がる。
尚香を信用していないわけではないが、彼女の顔は完全に面白そうと言うように見える。

「だって、最近は興覇とあまり喧嘩しないでしょ?」

「……それが基準ですか……」

「え、大人しいなぁって。でもつまらないって風には見えないし」

「逆にお聞きますが、姫様の方が良い事でもあったのでは?」

「え?私?別にないわよ」

「そうは見えないから聞いているんですよ」

「ちょっと人の真似しないでよー」

軽く頬を膨らませる尚香に凌統はくっと笑う。

「すみません。だから、そうは見えないんですよ」

「もう〜」

「では失礼します。俺はこれでも忙しいんですよ」

凌統は会釈して逃げるように尚香の前を通り過ぎる。
尚香が後ろで文句を言っているようだが、ここで捕まったら追求が深くなりそうだったので聞き流した。

(まったく。そんなに俺が変わったように見えるのかねぇ)

自分じゃ変わったなどと思わない。
目に見えない部分。
甘寧に対する事などは多少、穏やかと言うか気にしないようにした。
でも憎しみは消えうせない。
だから、なるべく顔をあわせないようにしている。
軍議などはしょうがないが、普通に生活している分には趣味の違いなどからそんなに顔をあわせることはないし。

とか思ったのに。

「おっ」

(なんでこんな所で会うんだよ……)

呂蒙に用があったから彼の執務室に行った。
そこで甘寧と会った。
部屋には二人のほかに陸遜もいたので、平静を装って用件を済ませることにする。

「ここ数ヶ月で増えた民の戸籍情報です。目、通しておいてくださいね。じゃ」

「凌統。そんなに急がなくてもいいじゃないか。ゆっくりしていけ」

「はぁ」

呂蒙にさっさと資料渡して帰ろうと思ったのに。
別に呂蒙が嫌いなわけじゃない、甘寧がいるから。
余計な喧嘩をするのも面倒だからこっちから離れようと思っただけなのに。

「なに、なんか用事あんのか?」

「別に…あんたに報告しなきゃいけないわけ?」

「あんだよ。普通に聞いただけじゃねーか、女みてぇな態度とりやがってよ」

「なんだと?」

甘寧は凌統の父の仇だとわかっていて普通に彼に接してくる。
それが凌統には嫌なのだ。

「あ、あれか。女?女待たせているんだろ?」

「……何言ってんだよ」

「そうじゃねーの?俺見たぞ」

「は?」

「ほら、城から少し離れた所の大きな「甘寧!ちょっと来い!」

甘寧が言い出した事に凌統はぎょっとした。
だから彼の言葉が言い終わらないうちに無理やり引っ張り外に連れ出す。
呂蒙や陸遜に挨拶もせずに。

「……どうしたのだ、いったい」

「さぁ?ですが凌統殿にもお付き合いする女性がいたってことでしょうね」

「隠すような事なのか?」

「あははっ。照れているのでは。でも凌統殿は甘寧殿に見られたのが一番堪えるのでしょうね」

爽やかに笑う陸遜に呂蒙は苦笑しか出ない。



「あんた!何をどこで見たって言うんだよ」

「あ?何怒ってんだよ」

「いいから、答えろ」

凌統は甘寧を自分の執務室に連れて問いただした。
本当は彼をここに連れてくるなんて嫌だったのだが、話を他の人に聞かれたくなかったから。

「なんだよ…どこでって。大きな桜か?木が一本だけあるじゃん。野原になってるとこ。あそこ」

「………」

「そこでお前が女と一緒にいたのを見た」

「…はぁ……あんた、それ姫様に言っただろ……」

それで先ほどの尚香の態度の意味がわかった。
しかしと思う。

「言ったかもな」

「かもじゃねくて、言ったんだろ……くそっ。よりによってあんたかよ」

「なんだよ、見られちゃまずい女か?」

「あぁ、そうだ。特にあんたには見られたくなかった」

キッと甘寧を睨みつける。
物怖じはしない甘寧だが気分は悪く思う。

「お前よ……いいや別に。俺には関係ねーし」

甘寧は何か言いかけるが面倒臭くなったようで止めてしまう。
そしてそのまま部屋から出て行く。

「………」

だが去り際に一言。

「ま、黙っといてやるよ。貸しだな」

と言った。



***



「……凌統君どうしたの?顔怖い…」

「別に…」

甘寧に見られたというとのこの場所に来た。
彼女はいつも通りピアノを弾いている。
その隣にいた凌統は鍵盤には触れずにいるが顔が怖い。

「別にって顔じゃないよね…」

理由はなんとなくにもわかる。
凌統が不機嫌な理由は『甘寧』だろう。
彼とまた喧嘩したくらいにしかには思わなかった。

確かにそれは一つの原因でもあるが、凌統は別の事を考えていた。
甘寧がと一緒にいる凌統を見たと言った。
初めてじゃないか?
第三者がの姿を見たのは。
凌統の方から孫策に彼女のことを話した以外は、この事は誰にも言わなかった。
偶然かどうかはわからないが、今まで彼女と一緒にいる時も一人で桜の木の下にいた時も。
誰にも見つかった事がなかった。
と出会った時の事。
彼女の母親が現れた瞬間に二つの世界は途切れた。

でも甘寧は見たと言う。

それはもう。
誰にでもあそこが見えると言う事だろうか?

「あのさ、

「ん?なーに」

「もし。もしさ。ココの場所が他の奴にも見えていたらどうする?」

は尚香を連れてこようかと言った時。
嫌だと言った。
まだ少しだけは凌統とだけこの時間を過ごしたいと。
それは凌統も同じだ。
誰かに邪魔などされたくない。
まして甘寧なんかにと思う。

「うーん、どうしようか」

「なんだよ、考えてないだろ?」

「だって、そうなったとしても、私にはどうにも出来ないよ」

「………」

「誰かに見られたら駄目かな、やっぱり。普通は可笑しいとか怖い、変だ!って思うのかもしれないけど」

この状況が。

「でもね。私、凌統君とのこの時間なくなっちゃうの嫌だし」

「そっか……」

「凌統君も。だよね?」

はニコッと笑い顔を向ける。
ピアノを弾く手を止めて。

「俺?……さぁ、どうかな」

「本当に?…痛っ」

が不安そうに顔を覗かせる。
凌統は軽く笑っての額を軽く叩いた。

「……俺もだよ」

「凌統君・・・」

「俺もそう思う」

「…だったら素直に言ってくれればいいのに…もう」

凌統の態度には呆れてしまう。

「悪かったって」

「もう知りませーん」

は再びピアノと向き合う。
膨れるに凌統は彼女を引き寄せる。

「りょ、凌統君!?」

キュッと彼の腕の中に閉じ込められる。

「悪かった。だから許してくれって」

「わ、わかったから放してよ!」

「嫌だ」

の反応が可愛いと思ってしまう。
男に免疫がないのか?とそれとも自分にしかそんな反応をしないのかとか。
甘寧といた事と、甘寧に見られたことでむしゃくしゃした。
でもといると自然と尖った気持ちが和らぐ。

は俺が嫌い?」

「き、嫌いじゃないよ」

「じゃあ良いじゃん。少しこのままでいさせてくれよ、な?」

「……う、うん」

凌統にいったい何があったのだろうか?
急に凌統に抱きしめられてこっちはただ驚くばかりだ。
人肌恋しいってことなのか?

凌統は他の人たちにここが見えていたら?と言った。
それと関係あるのだろうか?」
だが、そんな事はの口から聞けず、互いに黙ったまま時間だけが流れる。

夏が去った事で吹く風も冷たくなってきている。
凌統が入ってきた窓だけは開いたままなのでそんな冷たい風が部屋を通り抜ける。
だが、凌統のおかげかは何も寒さを感じなかった。

「凌統君、温かい」

「ん、俺も」










05/10/02UP
12/01/09再UP