ほんの少しの距離なのに。




ドリーム小説
「なー凌統。最近なんかいいことあったのか?」

「孫策様…いきなりなんすか。別に何もないですよ」

廊下を歩いていたら孫策がニヤニヤしながら近づいてきた。
と思ったら突然凌統の肩を強く叩く。
その容赦のない痛みに凌統は顔を歪めるが相手が孫策だと思うと仕方ないと思う。

「そうか〜?最近の凌統は周りに黙ってどこかに出かけちゃうって聞いたぜ」

好きな女でもできたか〜?孫策は笑う。
何か彼から聞きだして話のネタにでもしようと思っているのだろう。
凌統は簡単に教えるものかと白を切る。

「なんのことだか俺にはわかりませんねぇ。そう言う孫策様こそいつもフラフラ遊びに行かれているようですが?」

「お、俺はほら〜あれだよ、見回り!そう!見回りだ!皆がどーしてっか直接見て回った方がいいじゃねーか」

「孫策様が勝手に行かれてしまうと周りは困るんですがねぇ」

孫権とか周瑜とか周泰とか……
大喬だって心配してしまうし。

「お、俺の話はいーんだよ!凌統、お前のを教えろって」

「俺には教えれるようなものないですよ」

凌統は孫策を巻こうと歩き出す。

「あ!ずりぃぞ!凌統!」

孫策は逃がすかと凌統を追いかけるのだった。





【春疾風】





(多分、あの場所のことが聞きたいんでしょうけど…んな簡単には教える気ないんで)

あの桜の木での不思議な出来事。
初めて見た綺麗な音を出す楽器にそれを楽しそうに弾く少女。
との時間は自分が思っている以上に大事でそう簡単に人に教える気はない。
いくら自分が仕える人でもそれはそれ、これはこれ。

(そーいや、今日はこねーとか言ってたな、…)

週末にしか会えないのに、その会える時間に彼女はこないと言った。

「そ、ちょっと用事があってね。ここに来るのは来週になっちゃう」

は相変わらずピアノを弾き、凌統は桜の木に身体を預けている。

「へー」

「凌統君、いつも暇みたいだよね?ここで寝てるし」

くすくすとは笑う。

「バーカ。俺はあんたが寝ている時間とか遊んでいる時間にしっかり働いているんだよ」

「忙しいんだ、武将さんって」

「戦場以外でも色々あんの」

「あはは、でも政治と凌統君って似合わないね。いっつも昼寝してるじゃん」

「やけに突っかかるじゃないか。見た目で人を判断しないでほしいね?俺は優秀なんだぜ?」

フンと凌統は目を細めを挑発する。
はそれが余計に面白くて笑っている。

「だって、凌統君の態度が冷めててつまんない」

「あ?なんで?」

「2週間も私と会えなくて寂しい〜とか思ってくれないわけ?」

「ハッ。お子様。ガキじゃないんだ、そんなこと言うかよ」

それにそんな姿を誰かに見せるなんて自分の柄じゃない。
寒気がする。

「んじゃあサンは2週間も俺に会えなくて寂しいんデスカ?」

「別に。に、2週間なんてすぐだもん」

「ははっ寂しいんだ。参ったね、俺はサンに好かれちゃって」

笑われてからかわれてちょっと恥ずかしい
凌統には口では敵わないってのはよーくわかった。
自分が勝てるのは…ピアノ?
でも、ピアノで勝負なんてする気持ちはないし。

負けっぱなしでもしょうがないのかな。

「凌統君みたいな人、私の周りにいないからさ〜話してて面白いし」

「俺みたいな奴ね。の周りはガキばっかか?」

「違いまーす。凌統君みたいな俺様な人がいないだけです〜私の友だちは素直な子ばっかりです」

はちょっとは言い負かせたかな?と笑う。

「俺はこれでも控えめなんだよ。目上の人にだってちゃんと礼儀をわきまえて接しッてるっての」

「自分で控えめって言うかな〜私に対してもー少し優しくしてくれてもいいよね?」

「馬鹿じゃないの?なんで相手に。気ぃ使わなくてもいいのによ、めんどくさい」

凌統はわざとらしく大きな溜め息をつく。
普通ならば怒ってしまうようなところだが、は凌統の中では自分はちゃんと“気を許せた友だち”に位置している。
そう思えた。
なんとなく嬉しかった。
だからつい口元を緩ませてしまうのだが、凌統はがそう考えているなどわからないので呆れた顔をする。

「なに、笑ってんのさ…」

「ふふっ。なんでだろうね〜あ、そうだ!凌統君。カノン好き?」

「カノン?…あーいつもが弾いてる奴な…別に嫌いじゃないよ」

「そっか、良かった」

「なに?」

「内緒〜」

その後もに訊ねてもは内緒だと言って笑ってばかりだった。

「……凌統〜やっぱ何か隠してんな〜白状しろって」

「そ、孫策様。何もないですよ」

先週のことを思い出して孫策のことなどすっかり忘れていた。
凌統の肩をしっかり組みしてやったりとした表情をして顔を覗かせている孫策。

「いや、今の思い出し笑いは絶対何かあるな。な?どんな女?お前が惚れるなんてすっげー美人か?」

孫策が言う思い出し笑いなんてしたつもりはないのだが、自分の顔は緩みきっていたのだろうか?
妙に恥ずかしく否定したくなる。

「惚れてなんかいないですって…美人じゃねーし、あいつ」

「お!アイツときたか!やっぱいるんじゃねーか」

バシバシと肩を叩かれる。

「お、俺。なんで…つーか違いますよ、本当に」

いつもならばさらりとかわすことのできる凌統なのに引っかかってしまったことに酷く落ち込む。

「でも会ってる女はいるんだろ?」

「………」

肯定するのがなんとなく嫌だ。
と会っているのは事実なのだが、孫策は口軽そうだ。
なんとなーく数時間後には話が広まってそうで嫌なのだが。
しかも噂なんて酷いもので好き勝手に造られて広まるだろうし。

「あ!お前俺を信用してねーな?大丈夫だって内緒にしてやるからよ。ここで言わないと余計なこと言っちまうぜ?」

「……はぁ。孫策様…余計なこと言いふらしたら俺が大喬様にアレコレ言いふらしますからね」

「な、なんだよ、それ」

「ありもしないことをね。孫策様は別宅に何人もの女囲ってるとか」

「し、してねーぞ!んなこと言うな!」

「だから、孫策様が喋ったら俺はそー広めますからね」

「おう。ぜってー言わねー。だから教えてくれよな」

なんでそこまで聞きたいのか凌統には不思議に思う。
聞いた所で何も面白くもないと思うのだが。
だが、話し終えた孫策にそう言ってみるが孫策は違うと言う。

「そんなことねーよ。俺はお前の口からそう言う話が聞けて嬉しいんだよ」

「は?嬉しい?」

「いっつも澄ました顔に態度でいるだろ?最近の凌統は楽しそうな顔ってのが前面に出てていいと思ってよ」

「んなこと意識してるつもりは」

「だから無意識なんだろ?いーじゃん。捻くれた凌統も面白くて好きだけどよ、俺は今のお前も十分にイイと思うぜ」

バンと強く背中を叩かれた。

「だから、手加減してくださいよ…加減ってのを少しは」

「………」

「孫策様、どうかしたんですか?」

「あ、いや。なんでもねーよ。な、俺も会ってみてーな、ちゃんに」

「孫策様が?…正直会えるかわかりませんよ?」

「もしかしたら会えるかもしれねーじゃん」

その前向きな考え。
嫌いじゃない。
も孫策には会いたいとは言っていたけど……

「もちろん、お前らのお楽しみを邪魔するつもりはねーって」

「なんすか、それ……」

呆れつつも、もしかしたら孫策はに会えるかもと思った。



1週間後。
に会えるだろう日。
孫策を誘って行こうか、少し迷っている凌統だったが、何やら孫策の体調が優れないとかで今回は止めにした。
孫堅の後を継いでからずっと働きづめでもあったのだ、疲れが溜まったのだろうと思う。

「ま、がいつくるかってちゃんとわかってからの方がいいよな…」

とりあえず、あの場所へと凌統は向かった。



「……大丈夫かな?…どっか行っちゃうかな?それとも庭に落ちちゃうかな?」

はすでにピアノの部屋にいた。
そして何やら小さな木箱を持って凌統のいる世界へと繋がる窓に向かって恐る恐る手を伸ばしている。

「今まで近づいたことなかったしなぁ」

普段は別だが凌統がいるときは決して窓には近づかずピアノばっかり弾いていた。
窓から手が出るか出ないかのところで躊躇してしまう。

「バチって変に弾かれたりするかな?それとも吸い込まれるとか〜でもでも、せっかく用意したし〜」

は右手に木箱を持ち直し、窓へと向かって腕を伸ばす。

「……何やってんの?

「うわぁ!凌統君!」

凌統は恐る恐る腕を伸ばしているを見つけた。

「今日はピアノ弾いてないの?」

「あ、うん、まだね」

ピアノは弾かずとも世界は繋がるようだ。
それとも何度も繋がっている為繋がり易くなってきているのだろうか?

「で、なにしてるわけ?」

「あ〜えーとね……凌統君受け取って!」

「は?」

は突然手に持っていた木箱を凌統に向かって投げた。

「お、おい!」

どうなるか不安だったが、木箱はしっかり凌統の手の中へと治まった。

「……良かった。ちゃんと届いた〜」

「はぁ?なんだよ、いったい……」

凌統は木箱を不思議そうに見る。

「あのね、蓋開けてみて」

「?」

言われたとおりにやってみると、またも初めて聞くような澄んだ綺麗な音色が箱の中からした。

「オルゴールだよ。でさ、曲わかるでしょ?カノンだよ」

「…あ、あぁ…本当だ」

「先週ね、オルゴール館って言うところに行ってきたの。で、体験手作りオルゴール!ってのやってきたんだよ」

つまりこれはが自分で作ったと?
先週来れないと言った理由はそこに行っていたからで、カノンが好きかと聞いた理由はそのためか。

「凌統君にお土産ってことで」

「俺に?」

「そ、あげる。あ!大丈夫!ちゃんとスタッフさんに見てもらったから出来はいいよ」

誰もそんな風には思っていないがと凌統は苦笑する。

「悪ぃな…ありがと」

「どーいたしまして。えへへ、渡せて良かった」

何度も無理かと思った。
ダメなら自分の手元に置いておけばいいとは考えて。
でも渡せた(正確には投げつけた)

「なぁ」

「ん?」

「行き来が可能ってことか?」

「……わかんないけど、オルゴールはちゃんと行ったね…」

凌統はとは逆に恐れることもなく近づいてくる。
ちょうど彼の背丈では窓枠は胸の辺りだ。

「りょ、凌統君」

窓枠へと触れる凌統。

「…なんともないか。へーこの位置からそっち見るの初めてだな…」

肘をつき部屋を一通り見渡す凌統。

の顔もよく見えるな」

「う、うん」

少し距離がいつもあった。
だけど、触れられるくらいの位置にいる。

「そー言えばよ。孫策様の話、前にしたろ?」

「うん」

は椅子に腰掛ける。

「孫策様があんたに会ってみたいんだと」

「はぁ?なんで?凌統君喋ったの?私は誰にも話してないのに」

話してないと言うより話せない…話したくないような。

「うっかりばれたんだよ。俺だって別に…ま、孫策様は信用できるお方だからな」

今の自分が彼の言うように変わったとは思えないが、嫌な気分はしないし。

「ふーん。凌統君がうっかりした所のほうが見てみたい気がするかも…そっか、孫策様に聞けばいいんだ」

「やめろっての」

も大丈夫だ。
きっと孫策に会ったら意気投合するような気がする。





だけど、それは叶わず。
孫策は逝ってしまった。










05/05/08UP
12/01/09再UP