花摘暦




ドリーム小説
【綿雪】





気がつけば、そこには雪が降り積もっていた。
学校の制服姿の私にはとても寒く、何故自分がこんな場所にいるのか不思議でしょうがなかった。

 18歳。

高校最後の夏が終わり、大学受験に向けてまっしぐら。
高校での最後のお祭り文化祭が間近に迫っていてちょっと浮かれていた日。

気がつけば目の前は雪景色…



「…さ…さ、寒い…コートがないとやばいって…」

はどこか身体を休める場所はないかと歩き出す。
ここがどこかもわからないのに歩くのは危険かと思ったが、状況が状況なだけに、ここで立ち止まったら凍死してしまう。

「はぁー・・・何処だってのいったい?」

冷たくなっていくてを息を吹きかけながら暖める
どこかの山の中らしいが…建物らしきものも見当たらない。

「もう〜やばいかも」

立ち止まりその場に座り込む。
手も悴んできてるし、歯もがたがた震えてきている。
それ以前に制服姿と言う薄着だ。室内でならば耐えられる格好でも、雪降る中そんな薄着でうろうろするのは誰が見てもを馬鹿だと思うだろう。

ふと耳を澄ますと、足音が聞こえる。
雪の上を歩く音だから良く聞こえる。
しかも集団だ。
天の助けとばかりに、足音のするほうへ走り出す。

しかしの目に映ったものは信じられない光景だった。

鎧を着けた者が斬りあいをしている。

『曹』と言う旗と『董』と言う旗が見える。

「あ、新手のバトロワ…かな?なんか…映画の撮影とか…」

口に出してもそうじゃないのはわかりきっている。
映画の撮影なんかじゃないし、ましてここがのいた場所とはかけ離れた場所だと気づく。

戦場…

いや、気づきたくなかった。
現実を認めてしまうようで嫌だった。
これが夢ならば早く覚めて欲しいと…

同時に、本能的にここにいてはいけないと感じた。

「は、離れなきゃ…こんな場所から」

いくら人がいると言っても御免である。

離れたと言っても、の体力はかなり落ちており、今だ人々の喊声が耳に入る。
そんなに進んでいないのが現状だ。

しかもは運悪く誰かに後を付けられていたようだった。

「へへっ、こんな血生臭いところで何やってんのかなぁ?」

「え?」

振り向くと数人の男たちが剣を片手にの方へ近づいてきている。
見るからに柄が悪く、正義の味方ではない。
悪役の方だ。

「可哀そうに、震えてるなぁ…俺たちが暖めてやってもいいんだぜ」

「え、遠慮します」

「珍しい格好だな、金目のものとか持ってるかもな」

男がの腕を掴む。

「放せってば!」

「気の強い女を泣かすのも面白いよな」

下卑な笑いを浮かべる男たち。
の腿をさわり、服に手をかけようとする。

「嫌!」

が必死に抵抗し声を上げたその時。

「ぐはっ!」

男の仲間の一人が倒れこんだ。

「うぎゃあ!」

次々と倒れていく男たち。
白い雪は見る見るうちに赤く染まっていく。

「なんだ、てめぇ!」

「ふん、貴様らのような雑魚に名乗る気はせん」

そう言った男は左目を瞑っているが、血が滴り流れている。

「くそ、やっちまえ!相手は怪我人だ!」

だが、斬りかかった方がことごとく斬り捨てられる。
残ったのはを掴んでいる男のみ。

「ち、近寄るな!お前が近寄ったらこの女の首をはねるぞ!」

「っ!」

の首筋に剣を突きつける男。
しかし、片目の男は止まらず近づき

「ふん、勝手にしろ」

「や、やだ…っ!」

片目の男はそのままの目の前で男を斬った。

ピシャ!

の顔、服に男の血が飛びつく。
残された片目の男と

「いやーーー!!」

目の間の惨状には悲鳴を上げた。
そしてそのまま気を失ってしまった。



***



片目の男の名は夏侯惇と言う。
夏侯惇は倒れたを抱き上げ、自分の天幕へと連れ帰った。
医者に見せ、の目が覚めるのを待つ。

かなり長い間雪の中にいた所為か熱を出してしまった。
薄着だったから仕方ないのだが。

それから数日後、は目を覚ました。

「おぉ、気がつかれましたかな?ご気分はどうですかな?」

白衣の男がに声をかける。

「………」

「熱が出て大変でしたな。まぁあの雪の中あんな薄着でいたのですから」

「………」

「夏侯惇殿が貴女を連れてまいった時は驚きましたよ」

「………」

「お名前は言えますかな?」

「………!!」

は男の問いかけに我に帰る。
中々状況が掴めなくてぼおっとしていたようだ。
すると、夏侯惇が天幕に入ってきた。

「…目が覚めたのか」

「つい、さきほどですよ」

夏侯惇は左目を布で覆っていた。
あの時のことがの記憶に溢れ流れてくる。

映画でもなく自分の目の前で人が死んだ事。

「名は?お前の名はなんて申すのだ?何処から来た」

「…ぅ…??…っ…???」

は口を開くが声が出ない。

「まさか、声が出ないのか?」

夏侯惇の問いには何も頷けなかった。

目の前にいる男に恐怖を感じ、声を失ってしまった事にショックを受けたのだった。



雪が降る。
の心にも冷たい雪が降る。





【薫風】





と夏侯惇が出会ったのは、董卓を討ち取るための虎牢関の戦いでだった。
その時の総大将・袁紹に命じられて、曹操軍は水関近くで董卓の配下と戦闘していたのだった。
を襲ったのはどうやら、その董卓軍の雑兵らしい。

その戦いも終わり、曹操はエン州へやって来た。
エン州の牧としてやってきたのだ。

当然夏侯惇も着いて行く。

声を失ったはそのまま夏侯惇の世話になっていた。
と言っても、自身が夏侯惇を怖がってしまい自分からは近づかないでいるのだが。

さん 今日はいい天気ですね」

頷く

口の聞けないの相手をしているのは夏候惇の屋敷の使用人白玲だ。
白玲は40代を越えたいいお母さんといった感じだ。

「今日のお夕食は何にしましょうか」

首を傾げる

いつもがこんな感じである。



***



夏侯惇の屋敷は意外に賑わっている。
それはの為に皆が訪れてくれるのだ。
中でも夏侯惇の従兄弟である夏侯淵はを娘のように可愛がってくれる。

、元気か?ほれ土産だ」

手を叩き喜びを見せる

「嬉しいか?俺も嬉しいぞ・・・だけどなぁ」

「???」

は惇兄が嫌いか?」

「!?」

「惇兄の下で生活を始めてもう随分経つだろう?けれどは惇兄から逃げてるみたいだしよ」

夏侯淵は元気なさそうに言う。
も隣で俯いてしまう。

「惇兄は怖く見えるけどよ、本当はすごく優しい人なんだよ」

「………」

「惇兄のこともっとよく見てくれよ。俺は惇兄もも好きだから二人が仲良くしてくれると嬉しいしな」

が頷くものだから、夏侯淵は嬉しくなってわしわしとの頭を撫でる。
力強い大きな手が父親のような感じがして好きだったから、も笑顔になる。

(うん、本当に怖いだけの人なら、あの時助けてくれなかったよね)

正確に言うなら3度も助けてもらっている。

暴漢に襲われた時
倒れた自分を介抱してくれた時
そして、行く当てのない自分を置いてくれている事。

(ちゃんとお礼も言ってないし…)

声が出なくともお礼の仕方は色々あるだろう。
は夏侯淵にもこれ以上心配をかけたくなかったから
何とかしようと決心したのだった。



***



夏侯惇自身は、夏侯淵にの前で笑顔でいろとか、優しくしてやれとか言われて困っていた。

「惇兄の顔は怖いからな、笑ってあげれば、きっとも喜ぶぞ」

とまで言われる。
顔が怖いのは仕方ない事ではないだろうか?
それにそんな事を夏侯淵に言われたくない。
お前も十分に怖い顔だ…などと内心毒づいてしまう。

正直を引き取った事に戸惑っているのは確かだった。
が自分のことを怖がっているのは確かだし、自分自身どう接してよいかわからないのだ。

が声を失ったのは、明らかに自分の所為であるとわかっている。
医者にも精神的なものであろうと言われた。
名前が『』である以外は自身から語られないのでわからない。

「…仕方ないな。丁夫人か卞夫人にでも頼むか…」

夏侯惇はある事を決めて屋敷を出たのだった。



は屋敷を出た夏侯惇の後を着けていた。
尾行とまでは行かないが。
夏侯惇が入っていったのは大きな城だ。
きっとここで働いているのだろう。
でも、一般人のには城に入る事はできない。
何も収穫できなったのでは肩を落とす。

(夏侯惇さんがどんなことしてるか見たかったのにな…)

「あいやぁ!殿ではありませんか?ここで何をしているのですか?」

「……?」

は振り返ると小柄な男が立っている。

「!!」

小柄な男を見ては喜んだ、男は曹操の軍師の一人で荀ケである。
は男の手を取ってぶんぶん振る。

「うんうん、元気そうですな」

このとぼけた顔をした軍師をは気に入っていた。
荀ケが各地を旅した時の話とかがとても面白かったのだ。

「して、城へと何か用ですか?」

頷く
は手振りやらで荀ケに一生懸命説明する。
何とか荀ケにも通じたみたいで、城の中へ招き入れてもらえた。

「夏侯惇殿の仕事ですか、あまり面白いものとは思えませんけどね」

武将は戦場でこそが仕事であるから。

「夏侯惇殿をよく知りたいって思うのは良いことだと思いますよ、うんうん」

すっと頬が赤く染まり照れる
荀ケは自分の執務室へとを入れる。

「ほら、ここからなら良く見えるでしょう?」

荀ケが手招きしてを呼ぶ。
ちょこんと覗くと、ちょうど真下で兵士たちの訓練が行われていた。
夏侯惇は指揮を取っているようだ。

「……!」

は夏侯惇にばれないようにそっと見ていることにした。
でもはじめて見る物がとても楽しく感じてしまう。
荀ケはその近くで自分の仕事を開始するのだった。



「………」

「どうした惇兄?」

「ん?いや…何か視線を感じるのだが…」

夏侯惇は辺りを見回すが、それらしいものは感じない。
夏侯淵が辺りを見回すと、真上の部屋から顔を出すを見つけた。

「あ!」

「ん、なんだ?」

「なんでもねぇ…(なんでがいるんだ?)」

自分が声を上げたのではすっと顔をかくしてしまう。
その部屋が軍師・荀ケの執務室だってのはわかったから後で行ってみる事にした。

(ばれたかと思った…良かった〜でも夏侯淵さんにはばれたよね)

殿、お昼食べますか?」

もうそんな時間らしく荀ケが声をかけてくれた。
しかし、屋敷で白玲が待っていることを思い出し、は首を振る。

「屋敷で食べるのですか?」

頷く

「では、そこまで送りますね。また明日もきますか?」

首を傾げる

「私が居るときならいいですよ」

口角が緩まる
その日からは午前中だけ、荀ケがいる時だけ城に入っていった。
後に荀ケから話を聞いた夏侯淵も何かと協力してくれるようになった。



***



夏侯惇の仕事や日常を見ていて、少しずつ夏侯惇に対して思いが変わっていった。
そして、夏侯惇が出かける時と帰ってきた時に、は玄関まで迎えに出るようになった。
会話と言うか、大きな接触はないが。
それだけでも進歩であると思う。

それともう一つ。
何かお礼をする事ができないだろうか考えていた。
お金はないので物を買う事はできない。
できれば自分で出来る事がしたい。

(なにかないかなぁ…しおりなんかいいと思ったけど…使わないしこの時代)

庭先でぼおっと考え込んでしまった。
ふと鼻を掠めるいい匂いがする。
屋敷を出て誘われるようにそれを探す。

なんで誰もこの匂いに気づかないのだろう?
街中にこんなに大勢の人がいるのに誰も匂いに気づいていない。
でもはなぜか気になって辿って行く。


(あ…すごい!)

町の外れに一面の白い花。
匂いはこの花かららしい。
近づいて良く見ると、その花はもよく知っている花、マーガレットだった。
しかし、この時代にあるはず、咲くはずもない花があるのだろうか?
季節的には咲いているのだが、時代的に考えると???
そんな事は今のにはどうでもよく、マーガレットの花を嬉しそうに眺めていた。
そして思いつく、この花を夏侯惇に見せてあげようと。
ここへ連れてくれば良いのだが、この辺りの地理にいまだ詳しくないはそれが出来るか不安になった。
そしてしかたなく。

(一輪だけ貰うね)

マーガレットを摘んだ。
ちょうど今頃屋敷へ戻れば夏侯惇は帰宅している頃だと思う。
はもう一度マーガレットの花畑を見て、そして屋敷へと戻った。



***



「あらあら、さん何処へ行ってましたの?」

は何度も頭を下げる。
思ったより屋敷へ着くのが遅くなってしまい、白玲が門の前で待っていた。

「さぁ、お夕食できてますよ。元譲様もお待ちですよ」

頷く
どうやって渡そうかは悩んでしまう。
恥ずかしいと言う思いもあるのだが、餐室へ着くと、夏侯惇がすでに座っている。
内心怒られるかなと思いつつ席に座る。

、遅かったな」

珍しく夏侯惇の方から話しかけてくれている。
はなんだがそれだけでも嬉しくて何度も頷く。

「何か良い事でもあったか」

今日はいったいどうしたのだろう?
夏侯惇の表情はいつもと変わらないのに、話しかけてくれる。
は思い切ってマーガレットを夏侯惇に差し出す。

「………」

「なんだ?花がどうしたのか?」

夏侯惇には意味が伝わらないようで、は少し困ってしまう。
しかし、白玲にはわかったようで助け舟を出してくれる。

「綺麗な花ですね、さんは元譲様に差し上げたいのですよね?」

強く何度も頷く

「俺にか?」

夏侯惇は照れながら何度も頷くから花を受け取る。

「珍しい花だな。嬉しいぞ、

夏侯惇の言葉には笑顔になる。
見ると夏侯惇も優しく笑っている。

(渡せて良かった!うん、夏侯惇さんは本当に優しい人なんだ)

は嬉しくなったのだった。
後日、はもう一度あの花畑を探しに行ったが、何故か見つからず。
一日限りの夢だったのか、不思議な出来事だった。
だが実際にマーガレットの花は夏侯惇の手元にある。

(ま、いっか)

!何をしておる、行くぞ!」

夏侯惇がを呼ぶ。
風がに運んでくれたもの。

次の季節への道標。
夏侯惇との間に新しい風を吹き込んでくれた。


マーガレットの花言葉『恋を占う・予言・真実の愛』








本館の撤去作品の復活品。
これ、無双夢書き始めた頃の話ですよ。なので1話がすごく短くて…なので今回まとめちゃいました。
11/12/24再UP