我很寂寞




ドリーム小説
― そろそろ現実に目を向けなさい。あなたは





【3】





あなたは…の続きはなんだろうか?
の下に届いた一枚の紙切れ。
そこにはそれだけしか書かれてなかった。

「現実?ん〜?」

はやっぱり意味がわからないと言った感じで、その紙切れを懐にしまいこんだ。

今日も一日、頑張ろう!

そんな事を思いながら雑務に励む。

「あ、殿。申し訳ありませんが、急いでホウ統殿から書簡を受け取ってきてもらえませんか?」

「ホウ統さんですね」

「伝えればすぐにわかりますから」

「はい」

孔明に頼まれホウ統の所まで行く。
ホウ統はいつも執務室にいてくれるので比較的に事が済みやすい。
そんな時間もかからず、ホウ統から頼まれた書簡を受け取ることができた。
今度は急いで孔明の元に戻る。

途中、姜維や趙雲に声をかけられ立ち止まって話をしたり、

「今日の昼餉。一緒に食おうぜ」

などと馬超に誘われたりした。

「私、お昼いつになるかわかんないよ?」

「大丈夫だろ?適当に切り上げれば平気だって」

「駄目だよ。孔明さんから許可が下りないと休憩にはならないんだから」

「そうか?でも待ってるぜ。いつもの所な」

「行けたら、行くけど期待しないでね」

「俺も執務があるからな適当な時間までいるさ。を待つのも楽しいしな」

「ば、馬鹿じゃないの」

はカーッと頬が赤く染まる。
馬超はそれを見てニッと笑む。

、もう少し素直になろうぜ?俺と一緒は楽しいだろ?」

「な、なによ、いきなり!」

「俺さ、のそう言う…」

「ば、馬超の馬鹿ーーーー!!」

思いっきりからかわれてると思ったのだろう。
は書簡を抱え、半ば叫びながら去っていった。
そんな後姿を見ながら馬超は楽しそうに笑った。

「おし、あと少しだな」

くつくつと笑いながら、馬超は厩舎へと向った。
愛しいあの子と過ごす時間を待つ間、もう一つの愛しい存在のいる場所へ。



***



「もう、馬超の馬鹿」

顔をさっきよりも赤くしながら走る
あまりストレートに言われることに慣れていない。
まぁ、遠まわしに言われたら気づきそうもないのだが。

ある女性とすれ違った時、その女性がを呼び止めた。

「お待ちなさい」

「は?」

は走るの止め、振り返る。
を呼び止めた女性は、女性ながらも威厳を感じしっかりとした身なりをしている。
彼女の背後には数人の若い女官が着いている。

「廊下を走るものをではありませんよ。はしたない」

「あ、すみません」

「貴女は誰つきの女官なのかしら?見ない顔だけど」

「あ、私は」

「それと、もう少し身分と言うものを弁えなさい。
この蜀の将軍様に向って頭は下げない、敬語は使わない。無礼にもほどがあります」

どうやらこの女性は、この国の女官長なのだろう。
の事を下っ端の女官と思ったようだ。
だが、は女官ではなく、孔明の手伝いをしているだけのこと。
役職は関係ない。

思えば、のことはあまり知られていない。
孔明が承知しているだけにその周囲の者は別に何も言わないのだ。
よく働いてくれるから誰も文句は言わない。
上の者であればあるほど、の存在を知っているので十分なのだ。

「私は」

「気軽に話しかけるのはお止めなさい」

「はい…申し訳ございませんでした…」

「では、執務に励みなさい」

「はい」

頼子は女官長に頭を下げる。
彼女らはすたすた歩いていく。
その時、女官長についていた数人の女官達が笑っていたのをは見た。

「…気軽に話しかけるか…」

今まで特に考えたこともなかった。
馬超が将軍の一人だってことに。
趙雲も姜維も、他の将軍たちも気軽に自分に話しかけてくれていたから。

女官長はの事情と言うものを知らなかったから、今後彼らに失礼がないようにと注意してくれたのだろう。
ただの女官が気軽に彼らに話しかけるのはいけないことのようだ。

「…あ…もしかして」

は懐にしまった紙切れを取り出す。


― そろそろ現実に目を向けなさい。あなたは


これはもしかして、この事を言っているのだろうか?

「気軽に話しかけちゃ駄目ってこと?」

の中に小さな悲しみが生まれたのだった。



***



嫌な出来事は続くもので、頼子の下へ行こうとした時にも数人の女官に叱られた。
頼子はこの国の大事な人物で気軽に近づいてはいけないと。

もとの世界では親友でも、ここでは頼子は【玉璽の姫】として守られている存在。

頼子に会うことも儘ならず、は引き返した。

殿、頼子の所へ行っていたのですか?」

趙雲が笑顔で話しかけてきた。
でもは先のことがあったので、趙雲に深く頭を下げて行ってしまった。

殿?」

その後も姜維に話しかけられても、関羽や張飛に声をかけられてもは深く頭を下げるだけ。
誰もがその様子に首を傾げるが深く追求はしなかった。
なぜなら、

『馬超殿がきっと何かしたんだ』

ぐらいにしか思わなかったのだ。
哀れ錦馬超。

その馬超だが、朝言った通りに約束の場所でを待っていた。
城下にある一軒の店。
劉備に仕える将軍馬超でも気にすることなく気軽に入れる店。
そこで卓についてを待っていた。
いつものことで、先に適当に注文しておくのだが、今日に限ってが来る気配がない。
馬超自身、午後の執務があるので仕方なく頼んだものを持ってこさせ先に食べるのだった。

「…軍師殿にでも捕まったかな?…しょうがねぇか」

馬超は昼餉を済ませ、城に戻った。
途中でを見かけたので声をかける。

!」

はその声に一瞬肩を揺らした。

「仕事忙しかったのか?待ってたのにお前来ないしよ」

「………」

は下を向いたままで何も言わない。

「どうした?」

「わ、私…」

「ん?」

「私、まだ仕事がありますので失礼します」

は深々と頭を上げる。

「おい、なんだよ

「先ほど馬岱様が馬超様をお捜ししてました。早くに行かれた方がよろしいかと」

はそう言って逃げるように去っていった。

「ば、馬超様?…なんだよ…新しい嫌がらせか?」

馬超は髪を掻く。
の様子が朝会った時とは随分違うことに戸惑う。
急に敬語になって、様付けで呼ばれて。

何よりも顔を合わせようとしなかった。

「なんだよ、…」



***



午後になって、孔明の手伝いを黙々とこなす
元々執務中におしゃべりなどしない孔明なのでそのことに関しては何も思わないのだが。
微妙にの周りに流れる空気が違うことに気づく。

「どうしましたか?殿」

「…え、あ…なんでもありません」

「そうですか?」

「はい…」

「そろそろですね。殿、今日はここまでにしましょう」

「はい」

「私はこれから軍議がありますので。今日は遅くなりそうですその様に月英に伝えてください」

「はい」

は適当に仕上げて孔明の執務室を後にした。

今日は思いっきり気分が沈んだ。
今まで気にすることもなかった事が沢山出てきて嫌になった。
前向きに考えることがの良い所なのだが、今日は悪すぎた。
明日からどうしよう?

体に軽い衝撃が起こった。
城を出る途中に女官の一人とぶつかった。

「あら、ごめんなさい」

「いえ、私の方こそ…」

軽く頭を下げて過ぎて行くのだが、女官たちの話し声が耳に残った。

「あの子でしょ?馬将軍がちょっかい出してる子」

「そうよ。身分違いもいい所なのにね」

「馬将軍も遊びじゃないの?だってあんなの子のどこがいいのよ」

「馴れ馴れしいのよ、ちょっと将軍様たちに可愛がられているからって」

「頼子様の友人だって言うけど」

「まぁ、玉璽の姫様にも馴れ馴れしいの?嫌ね」

くすくすと自分が笑われているのがわかった。
だからは走ってその場から逃げる。

何故、こんなことを言われないといけないのだろうか?

なんで自分ばかり。

なんで頼子と違うの?


「なんでよ…」


最初この地へ来た時に現れた、頼子への嫉妬。
当初は彼女を連れ戻しに来た世界。
すぐに帰るつもりだった。

頼子を連れ戻しても意味がないと思ったから。

頼子の隣には素敵な男性。
お姫様としての生活。

頼子ならばここでも暮らしていける。
ここに残った方が幸せなのだ。

そう思ったから頼子を連れ戻すのを止めて自分だけで帰ろうとした。

でも、馬超に引き止められて帰れなくなった。

最初はそんな馬超に対してツンツンしていたが、今ではそんなこともない。
なんだかんだ言って馬超がいつも自分の味方になってくれていた。
口は悪いが不器用ながらも優しくしてくれて。
馬超の真っ直ぐな気持ちを、今は恥ずかしくてどうして良いかわからずかわしてみたり。

毎日が楽しかった。

それだけでは駄目なのだろうか?

「やっぱり、ここは…私のいる場所じゃないのかな…」

胸が痛くなる。
鼻の奥がツーンとする。
こみ上げてくる涙に口を震わせ我慢するも、沢山零れてしまう。

「私…どうすればいいの?」

の気持ちのようにさっきまで晴れていた空は暗くなり厚い雲に覆われた。
ぽつぽつと降り始める雨。
は黙って雨に濡れていた。

涙を誰にも見られたくなくて。








女官長様はただの注意。女官たちはただの意地悪。
03/08/30UP
11/12/24再UP