|
我很寂寞
「孔明様、殿がまだ帰られないのですが…日も落ちてきましたわ」 中々帰らないに月英が心配そうに夫に話す。 「昼は屋敷で食べると言って出かけたのですが」 「今日は書庫の整理をするって言ってましたね…その後にでも遊んでいるのでしょうかね」 孔明は立ち上がる。 「では、私が城まで行ってきましょう」 「孔明様、私も」 「貴女は待っていてください。入れ替わりで戻ってくるかもしれませんから」 「はい…」 そんな事は使用人にでもやらせればいいのだが。 諸葛家は使用人を置いていなかった。 本当に夫婦だけの生活をしていた。 月英は仕事と家事をちゃんとするし、今ではが手伝ってもくれる。 劉備に仕える前まで普通に畑仕事をしながら生活していた二人には、全然苦にならないのだ。 孔明が門を出たところで、馬超が馬から降りた所に出くわした。 「おや、馬超殿。いかがなされました?」 「あ、あぁ…ちょっと、にさ」 「殿ですか?」 「昼間、ちょっとな。悪い、すぐに用は済むから」 孔明はてっきり、馬超がを連れまわしているのでは?と思っていた。 けど、違うようである。 「殿はまだ戻ってきてないのですよ」 「なんだと?」 「心配なので、私がこれから城まで行ってこようかと思いましてね」 「お、俺が行く」 「馬超殿?」 「俺が様子見てくる。アンタはここにいろよ」 そう言いながら、颯爽と馬に跨り駆け出す馬超。 「では、頼みましたよ。馬超殿」 聞こえるはずも無い後姿に孔明は呟いたのだった。 (本当に、殿が気になるようですね、馬超殿は…) などと楽しげだったのは孔明自身しか知らない。 【2】 「あ〜真っ暗だぁ〜」 は書庫の整理を終わらせてしまい暇で仕方なかった。 お腹は空くけど、ここには食べ物が無い。 「本なんか食べてもねェ」 すると、遠くから廊下を誰かが走ってくる音がする。 「あ、誰か来た。ラッキー!あ…でも孔明さんじゃないみたい…」 あんな騒がしい足跡をさせる男ではない。 「、いるのか!」 「ん、馬超?」 中にがいるとわかり、馬超は戸を開けようとする。 「な、鍵がかかってるじゃねぇか」 「そうらしいよ」 戸の奥からの声がする。 馬超は閂を抜いて戸を開ける。 中からが出てくる。 「馬超、ありがとうね。今日は帰れないかと思ってたよ」 落ち着いた様子で淡々と話すに馬超は肩を落とす。 「お前ね…人が心配したってのに」 「そう?ごめんね。でも、来てくれたから嬉しいよ」 「なんで、鍵がかかったんだ?」 馬超はそっとを抱きしめる。 今度はも嫌がる様子は無くじっとしている。 「知らない。お昼過ぎに部屋を出ようとしたら鍵かかってた」 「なんで、そんなに落ち着いてる?俺、すげー心配したんだけど」 「あはは、だって出れないものは仕方ないじゃん。別に牢に閉じ込められたわけじゃないしさ。今日は無理でも明日になれば誰かが見つけてくれるって思ったし」 「あのなぁ」 「それに、ほら、見てよ」 は馬超から離れ、ふたたび部屋に入ってしまう。 馬超は空を切る手を寂しく思うがの後を追う。 「ほら、書簡整理を全部終わらせたんだ。すごいでしょ?」 「呆れた…」 「だって、出れないからってジタバタしてもしょうがないから、少しでも終わらせちゃおうってね。何事も前向きにね。ポジティブシンキングだよ、馬超君」 「じゃ、帰るぞ。屋敷まで送ってく」 「ありがとう」 「いーえ別に」 どれだけ自分が心配したと思ってるのだ。 と皮肉の一つでも言いたいと思ったが、が笑って気にした様子も無いのでとりあえずはこのままでいいかと馬超は思った。 「ね、結局さ、馬超はお姉ちゃん達と仲良くやってたの?」 「してねぇよ!アホ」 「失礼ね」 「お前って本命がいるのにホイホイ他の女と遊ぶかよ、馬鹿」 「わ、私がほ、本命ですか…それはどうも…」 俯く。 馬超の目には耳まで真っ赤にしているが映る。 の髪をクシャッと撫でる馬超。 「あんま、心配させるな。ま、昼間は俺も悪かったけどよ」 「うん」 「うん?」 「あ、違うって。心配掛けて悪かったって私も思ったからさ」 「へぇ〜じゃ、今度の休日はどこか行こうぜ?な?」 「うん。約束ね」 屋敷へ戻って訳を話すと、月英に叱られてしまった。 「そんな時は戸を蹴破ってでも帰ってきなさい」 と。 確かにあの戸ならできたかも知れないなぁと思い。 次にそんなことがあったら蹴破ってみようとは思ったのだった。 ちょっと変わった休日だった。 明日からはまた孔明の手伝いで忙しくなりそうだ。 ただ翌日の、書庫にて。 「嘘でしょう…」 すべて整理し終えた物が荒らされていた。 折角整理した書簡が全て棚から落ちていた。 まるで誰かが荒らしたような感じで…その有様に愕然とした。 「なんで…せっかく…」 コツコツ片付けて、夕べやっと終了した書庫の整理。 のことをあざ笑うかのように滅茶苦茶だった。 しばらく、立ち尽くしてしまうがは元々が前向きに考える性格だったので 拳を振るって笑顔に戻す。 「よし、片付けよう。片付ければ済むことじゃん」 テキパキと作業を始める。 孔明に嘘をついたとか言われてしまうかもしれない。 夕べ、書庫の整理の終わりを告げたのだから。 でも、片付いている所は馬超が見てくれているわけだし別にいいと思った。 きっと地震か何かで物が崩れたとでも考えようと。 そこへ馬超が顔を覗かせる。 「おい、。おわっ、なんだよこれ」 「馬超。おはよう〜」 「あぁ…この有様はなんだよ」 「さぁ?崩れてた。仕方ないから片付けてるの」 「俺も手伝う」 「いいよ。馬超は馬超の執務があるでしょう」 「あんなんは岱に任せておけばいいんだよ。いいから」 馬超は床に散らばっている書簡を拾い上げる。 とりあえず、床のものだけはなんとかしなくては。 「せっかく片付いてたのにやり直しかよ。ついてないな、」 「そう?急ぎの用でもないし地道にやるよ」 「軍師殿はなんか言ってたか?」 「ううん」 「お前が嘘をついたってことにならねぇか?」 「あはは、大丈夫だよ。それに片付いた所は昨日馬超が見てくれてるし、嘘じゃないでしょ?」 何気ないの一言に馬超は照れてしまう。 のこう言うところが好きなんだと改めて思うのだ。 「俺もたまに手伝ってやるよ」 「いいって。馬超の方が忙しいでしょ」 「だから、それは岱に任せればいいんだ」 「馬岱さん、可哀そう〜」 朝の短い時間で二人でそこそこ片付けたのでとりあえず辺りはさっぱりした。 後は地道に揃えていくだけだ。 その後はは孔明の手伝いがあったし、馬超も自分の執務があるので書庫を後にした。 *** 「最近、ちゃん馬超さんと仲イイね」 「え?そう?普通じゃん」 は昼餉を頼子と共に食べていた。 「そうだよ。最初の頃は馬超さんに『近づくな!』みたいなピリピリしたオーラ放ってたよ」 笑いながら言う頼子。 「そんな、事は…あったかも」 「ね?」 「まぁ悪い奴じゃないから・・・ねぇ?」 「あ、そう言えばね子龍が、いつも馬超さんにからかわれてるの」 「何度か見てる」 それが日常茶飯事のような。 「今度は自分が優位に立てるとか言ってた。うふふ、ちゃん、からかわれちゃうかもよ?」 「やだなぁ…なんで私まで。って言うか今の事馬超に言いつけてもいいけどね」 「あ!駄目だよ。そんなことしたら余計に子龍がからかわれる〜」 「あははは、冗談。…多分ね」 「多分は余計だよ」 頼子自身は忙しい毎日ではない。 別に政務に関係しているのではないので。 でもは孔明の手伝いをしているのでそこそこ忙しい。 空いている時間にこうして頼子と話をするのは楽しかった。 少し前はちょっと嫉妬みたいな物が頼子に対してあったのだが。 「ね、ちゃん」 「ん?」 「正直な話。ちゃんは馬超さん好き?」 お茶を飲んでいる時にそんな事を言われて、茶が器官のほうに入ってしまい咽てしまう。 「ごほっ、な、なによ突然。く、苦しい」 「ごめん、ちゃん!あー大丈夫」 「はぁ…なんとか…」 「だって気になるんだもん〜馬超さんってちゃんのタイプとは少し違うでしょ?」 「そう?よくわかんない」 「そうだよ、どっちかと言えば…姜ちゃんみたいな人だよね」 「姜維さん?そうかなぁ」 「んーだから、『兄貴』って言うより『お兄ちゃん』みたいな」 「それどう違うのよ。結局『兄』じゃん」 「上手く言えないけど、そんな感じ〜で、どうなのかな?」 「私は別に…」 お茶を飲み干し席を立つ。 「わかんないから、パス。私行くね、もう午後の執務だもん」 「あーちゃんずるい」 「じゃあね〜」 パタパタと軽い足音をさせて頼子の部屋を出て行く。 遊び相手がいなくなって少しつまらない頼子だった。 *** 午後は孔明の手伝いをしていた。 は執務終了時刻より数時間前に早く上がれる。 それは孔明邸に戻って月英と夕餉の支度をするからだ。 「では、殿。今日はここまでで良いですよ」 「はい。お疲れ様でした」 「私は今日も定時に戻りますから、月英にそう伝えてくださいね」 「はい。では帰りをお待ちしてますね」 「気をつけてお帰りなさい、殿」 孔明や他の文官に見送られ孔明の執務室を出て行く。 その帰りに趙雲に出会った。 彼は兵士たちに訓練をした後らしい。 「殿、今帰りですか?」 「あ、趙雲さん。そうですよ夕餉の支度を手伝うので」 「はは、殿はよく働きますね」 「そうですか?普通ですよ」 「その…殿」 「はい?」 急に小声になる趙雲。 の耳に近づけてボソッと言った。 「馬超殿とはどうなのですか?頼子がいつもお二人の事をね…えーと」 趙雲もですか。 の脳裏には (馬超にちくり決定。思いっきりからかってもらおう) などと浮かんだ。 「趙雲さんまで〜」 「え、あははは気になるものですよ?毎日聴かされるとね」 「頼子ってば毎日言ってるのですか?しょうがないなぁ」 「終いには、『ちゃんの好きなタイプは姜ちゃんだけど、絶対馬超さんに惚れてるよ』だそうで」 「頼子め〜…趙雲さん真に受けないで下さいね」 「そうなのですか?」 「あのですね〜」 「よっ、二人で何してんだ」 「馬超殿」 は馬超を見て、なんとなく気まずく感じる。 元々好きだなんだと言うことに苦手なのだ。 馬超はストレートに言ってくるのではよくかわしていた。 「なんでもないよ。私、そろそろ行きますね。月英さん待ってますし。じゃあ」 「おい、」 はまたも駆けていった。 その後姿を馬超が名残惜しそうに見ていた。 「趙雲」 「はい?」 「と何話してた?」 「さぁ?」 趙雲は終始ニコニコ笑むだけで答えようとはしない。 馬超はそれが癪に障った。 「なんか、その笑いむかつくな」 「そうですか?別に大した話はしてませんよ」 「本当か?」 「本当ですよ」 馬超は腰に手をやり深く息を吐く。 「頼むから、に変なこと吹き込むなよ?俺、ただでさえ嫌われてる確率高いのによ」 「え゛」 その言葉に趙雲は止まってしまう。 (嫌われてる確率が高い?…どの辺が?) が本当に馬超を嫌っているのなら、約会の誘いになど乗らないだろうに。 (この人も案外自分の事に関しては鈍いだな…) 「なんだよ」 「いえ、なんでもないですよ」 ならば馬超には頼子が言っていた【の好みの異性】って話はしないようにと趙雲は思うのだった。 その晩は孔明が帰宅したのを待って月英と三人で夕餉を楽しんだ。 二人とも本当にを可愛がってくれるので毎日帰る家があるという事に感謝するのだった。 そして、翌朝。 の下に一通の紙切れが。 ― そろそろ現実に目を向けなさい。あなたは などと書かれていた。 どういう意味であろうか? 03/08/13〜08/26UP
11/12/24再UP
|