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おもうこと
やっぱり好きだなぁと思って 【14】 “あなたが好きです。殿……” 確かにそう聴こえた。 の耳元で囁くようにだが、その言葉が聴こえた。 叔母の事がまだ忘れられないのではなかったの? そう疑問に思うよりも嬉しさの方が上だった。 見事殿(しんがり)の役割を果たし無事に帰還した趙雲。 あの後、の膝枕で寝てしまった。 は休ませてあげたかったのでそのままにしておこうと思ったのだが、動けなくて困った。 (このまま、ここで寝たら風邪ひくよ…どうしよう) 一人では抱えられない。 せめて隣にある仮眠室から毛布でもと思っても動けない。 「おい、趙雲」 「……ば、馬超〜」 ノックもなしに突然開いた扉。 顔を出したのは馬超だ。 馬超が目にしたのは床に座り込んだにそのの膝に頭を乗せて寝ている趙雲の姿だった。 「悪い、邪魔したな」 そう言って出て行こうとする馬超には声を出して引き止める。 「ま、待って、お願い、なんとかして〜」 「は?」 足を止め、間抜けな声を出してしまった馬超。 「趙雲ね、疲れて寝ちゃったんだけど、このままじゃ風邪ひいちゃうからさ」 「別に平気だろ?」 「馬超サーン」 困り果てている様子のに馬超はクッと咽喉の奥で笑う。 その顔を見ては少し安心した。 先日、馬超に何かあったらしい。 とても苛つき、にさえ怒鳴りつけたくらいだ。 その理由はもと言うか、ほとんど知らない。 知っているのは馬岱のみだ。 趙雲が心配で、あまり触れなかったが、馬超のことも心配だった。 けれど、あまり立ち入ったことをするのを彼は嫌がりそうだったから。 でも、少しは吹っ切れたと言うか、隠しているのかは知らないが、馬超の顔はいつもと同じだった。 「しょうがねーな、待っていろ」 馬超はニヤニヤ笑いながら隣の仮眠室へと入る。 数秒もしないうちに戻ってきて、パサリと趙雲の身体に毛布をかける。 「これならいいだろ」 「ちょ、ちょっと!運んでくれるんじゃないの?私にこのままでいろっての?」 「野郎を担ぐ趣味ないし。いいじゃん、起きるまでそばにいてやれよ」 「あ、あた、私が困るっての!」 頬を赤くしながら言うに馬超は軽く手を振って去ってしまう。 「あんま騒ぐと起きるぞ〜」 「ば!……」 騒いで起こすのは趙雲に悪いと思ったから、は慌てて口を噤む。 「馬超の馬鹿〜」 好きな人に膝枕なんて、憧れと言うか、嫌なものではない。 告白された後だし? 嬉しいけど。 「姿勢がこのままってのは痛いのですけどね…」 趙雲が目を覚ましたのは陽がどっぷりと沈みきった頃だった。 気持ちよく目が覚めたと言えばそうなのだが、同時にものすごく恥ずかしかった。 に膝枕させていたのに気づいたから。 『すみません!本当に申し訳ありませんでした!』 足がしびれて動けなくなったに何度も何度も頭を下げる趙雲。 は笑って『別に良いよ。趙雲疲れてたし』と答えた。 とりあえず、少し休んで足が慣れたら帰ると言った。 けど、すでに陽は落ちているから夜道は危険だと言って、趙雲がを愛馬で屋敷まで送ってくれた。 特に何を話すわけでもないが、一緒にいられるだけ嬉しいと思った。 *** 「なんかさぁ」 「え?」 「見ていて気色が悪いから止めてくれないかな?その笑顔」 夕餉を食べ終えた後でのいつもの時間。 姜維とゆっくり、のんびりと話をするのも久しぶりだなって思う。 その姜維に、笑顔が気色悪いと言われた。 「なによー」 「嬉しいのはわかるけどさぁ…突然、笑ったりするからさ」 嬉しすぎて、笑いが止まらないようだ、は。 「他の人がいる前では気をつけなよ?変な人に見られるよ」 「へ、変な人…」 「にしても、良かったね、」 「うん。突然だし、本当かな?って気もするけど、嬉しいのは本当だし」 照れながら笑む。 姜維ものことはずっと応援していたし、あきらめるなとたきつけたわけだし心配していた。 それが上手くいったようで嬉しい。 (まぁ、なんとなく趙雲殿もを気にしていた感じあったしね) 知らぬは当人たちのみ。 「………」 「どうしたの?」 急に黙り込んだ。 「明日…」 「え?」 黙り込んだかと思えば、その表情も真面目な顔をしている。 なんだ? 「明日から……」 「うん」 「趙雲とどんな顔して会えばいいかわからない〜」 「はぁ?」 「だって、だって、なんか恥ずかしくない?それにさ、もしかしたら私の聞き間違えとかだったらとか」 「……何を今更」 今頃になって聞き間違えって… 「ね?ね?姜維、私どうしよう〜」 「…どうもしなくていいよ。僕、もう寝る」 「えー」 姜維は立ち上がる。 「いつも通りでいいんじゃないの?変に意識する必要ないよ。 それに趙雲殿はしばらく執務が忙しいから君にかまっている暇はないでしょ」 「あ…そうだね」 戦から戻ってきたのは今日で。 色々残務処理があるだろうし、通常の執務もあるだろう。 趙雲はと違って暇ではない。 「今夜からはいい夢見られるでしょ?ゆっくり休みなよね」 「うん、ありがと」 姜維はそう言って部屋を出て行く。 も自室へと戻ることにする。 確かに姜維の言うとおりだ。 趙雲がいなかった間、嫌な夢ばかり見ていた。 でも、彼は帰ってきた。 今夜からは何も心配せずに眠れるだろう。 それから数日、嫌な夢は見なかった。 起きた時に覚えていなかったり、なんだそれは?って言う夢ばかりで以前と同じような物だった。 「本当ですか?」 「本当だよ〜大きなかぼちゃの上に乗って、漂流しているの」 は今、城に来ていた。 あまり自分からは行かない場所なのだが、例によって、姜維の忘れ物を届けに来たのだ。 そこで趙雲と会い、彼から茶に誘われた。 見晴らしの良い一室で椅子に腰掛け間に卓を挟んで茶を飲む。 話の内容は最近見たの変な夢だ。 「まったく意味不明だよ、夢なんてそんなものだけどね」 声を出して笑う。 自然とそれを見つめる趙雲の目が優しくなる。 最初は出会いが出会いなだけにきごちなくて。 少し仲良くなったかと思えば、大切な人の死を知り、遠ざけた。 それでも、のお陰で前向きになれてまた距離が縮んだ。 彼女といることが段々楽しくなってきた時に、想いを告げられた。 でも、いまだ彼の人のことが忘れられず、断った。 それでも、が他の男性と仲良くしている姿を見ると、なんか胸の中がもやもやして… 自分にとって都合いいだけだと悩むも、それでもいいと友は言った。 負け戦でやっと帰還した時に、にまた会えたのが嬉しくて。 が自分を心配して泣いてくれたのが、本当に、本当に単純に嬉しいと愛しいと思った。 あの人のことは想い出になったのだろうか? それは良くわからない。 大事に思うのは変わらないし。 でも、今は目の前にこの少女が自分に向かって微笑んでくれるのが嬉しい。 「どうしたの?趙雲」 「え?何がです?」 「さっきから私ばっかり話してるからさ〜」 「殿の話を聴くのは楽しいですよ。それに」 「?」 「やっぱり好きだなぁと思って」 「は?」 あなたのことが好きなのです。 見る見るうちに顔を赤くする。 恥ずかしいのか俯いてしまう。 すると、小声での口からも。 「私も趙雲が好きだよ」 って聴こえた。 「それは嬉しいですね」 と趙雲は笑んで、手を伸ばしの頭を優しく撫でた。 「今度、遠乗りにでも行きましょうね、殿」 「うん」 小さなことだけと、幸せってこう言う事を言うのかな? とは思った。 「あ、かぼちゃ!」 「え?」 が窓の外のあるものを見つけて言う。 趙雲はつられて外を見ると、そこには諸葛亮が姜維をつれて歩いていた。 *** 恋人同士って言うのはこんな感じなのかな? 一般的なお付き合いってこんな感じなのかな? って感じの趙雲と。 いつもべたべたしているわけではないが、趙雲がに触れる事はあるし それが嬉しいって気持ちもにはある。 趙雲が休みの日には遠乗りに行ったり、のんびり彼の屋敷で過ごしたり、街に出てみたり。 傍から見れば本当に幸せだね、あの二人はって思えるし、自分たちもそう思える。 そして、ずっと、ずーーーっとこの幸せが続くものだと思った。 朝、目が覚めたは顔を洗う。 さっぱりした気持ちで、今日も一日頑張ろうって気になる。 顔を拭いてふと鏡の中の自分と目が合う。 最近は楽しい事続きで、自然と顔が笑顔になる。 ふと、気づいた。 「……やっぱり、似てるなぁ」 自分と叔母の顔。 昔から親戚や両親からは『美咲にそっくりよ〜』って言われた。 叔母の幼い頃の写真を見ると、知らない人は『これ?』って聞くぐらいだ。 元々は叔母に憧れていたから、似ていると言われると嬉しかった。 けれど、最近、ちょっとそれが気になりもしてきた。 初めて趙雲と出会った時、のことを叔母と間違えた趙雲。 それが最近、気になる… 「元気ないね?どうしたの、」 朝餉の時間。 あまり食の進んでいないに姜維は声をかける。 「え?なんでもないよ」 「そう?調子悪いならゆっくり休んでなよ?」 「うん、ありがとう。ちょっと考え事してただけだよ」 そう言って、は箸を動かす。 昼間、姜維は城だから、屋敷はと数人の使用人たちのみだ。 なのでは使用人たちの仕事の邪魔をしないようにしている。 我が侭も言わないように。 休日となれば、趙雲や馬超らと一緒にいることが多い。 城にはあまり行かない。 一般人がうろうろしているのはよくないだろうから。 そうすると、は気長に散策したりしている。 今日もそうしようと思ったのだが、朝から気になっているあの事の所為で外に出る気分が薄れていた。 だらだら過ごすのは好きではないが、寝台に寝転ぶ。 しばらくすると、うとうとしてきた。 「………」 外から入ってくる風が心地よくそのまま寝てしまう。 … … … 夢を見た。 それはいつか見たのと同じ夢。 『 』 誰かと一緒に遠乗りにいく夢。 顔は良く見えないし、相手が何を言っているのかもわからない。 けれど、その人と一緒にいるととても安心できる。 『----殿』 あ、趙雲だ。 こんなに優しく笑ってくれるのだと、自分も笑いかけたくなる。 でも 『美咲殿』 前と同じ。 に向かって笑いかけられたものではない。 そして辺りが暗くなって、何も見えなくなった。 以前はそこで目が覚めた。 一人になった時点で。 でも 今は目の前に趙雲がいて。 趙雲はに向かって叔母の名前を呼ぶ。 とても愛しそうに。 の手をとり、語りかけるも、として見てくれない。 『美咲殿、これからもずっと一緒ですよ』 『違う!私は叔母さんじゃない!』 『何を言っているのですか?あなたは美咲殿ではありませんか』 『だよ、私の名前は!叔母さんじゃないよ!趙雲!』 『あはは、可笑しなことを言いますね。その顔は美咲殿ですよ?私が間違えるわけないじゃないですか』 『違うよ、似てるかもしれないけど、私は…』 『美咲殿』 違うよ、違う。 私は叔母さんじゃない! 私はだ! 違う、違う、違う、ちがう、ちがう、チガウ……… 「ひっ!」 は目を覚ます。 小刻みに震えている身体。 怖くて、怖くて、涙が出てくる。 夢なのに。 ただの夢じゃないか。 また余計な事を考えたから、不安が夢に出ただけだ。 はずなのに… 今のには、疑問と不安でいっぱいになる。 「趙雲は……本当に私が好きなの?」 顔が以前愛した人にそっくりな自分。 ワタシハミガワリデスカ? 一番考えたくなかったこと。 オバサントワタシ、カサネテイマセンカ? 鏡台を見たら、叔母にそっくりな自分がいて、不安げな顔をした自分が映っているが、 それが一瞬だけ叔母の顔に見えた。 「っ!」 思わず、そばにあった物を鏡台に向かって投げた。 鏡は物凄い音をして割れた。 親戚つーか、イトコ同士だと結構似ているよね。
04/05/25UP
11/12/24再UP
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