おもうこと




ドリーム小説
約束したではありませんか、絶対に帰ると





【13】





戦いってのはいつの時代も起こるもので、嫌な物だと思う。
とは言え、以前のには『戦争』ってものは過去に起こったもの。
昔の悲惨な出来事とでしかなかった。

のいた場所では、物騒な世の中になったとは言え、大規模な戦争など起きやしない。
あったとしても、自分が住んでいた場所から遠く離れた場所での出来事。
映像で見たとは言え

『…あぁ、やだねぇ』

くらいにしか思わなかった。
正直、自分にはあまり関係ないと思う程度だ。

だが、今は違った。

がいる“ここ”では繰り返し戦が起こっている。
成都に踏み込まれる事は今の所ないのだが、自分の友人たちが戦へと行ってしまう。

が戦を身近に感じたのは今回で二度目だ。

戦場と言うのはまだ見たことはないが、傷ついた兵士らを見ると本当に戦争しているのだなと思う。

「だからかな…姜維が今回行かなくて正直ほっとしてる」

「………」

「できれば、馬超にも行って欲しくなかったし…趙雲にも」

「戦なんて起きないのが一番いいのはわかるけどね」

劉備自ら出陣しての戦。
どこで、どのくらいのものなのかはにはわからない。
でも、いつもと違うなって雰囲気は読めた。

「趙雲殿なら大丈夫だよ。もちろん、馬超殿もね」

彼らが出陣してから、は毎日不安だった。
前回の戦の時も不安はあったが、あの時とは違う不安がある。

「戦に違いなんてないのに、なんか怖くてさ」

「趙雲殿が心配でしょうがないんだね、は」

「そ…そうかな?よくわからないけど」

いつもの夕餉の後の時間。
二人で他愛のない話をしているのだが、最近では趙雲たちを心配する話になってしまう。

「待っている人間が不安に思うのはしょうがないけど、戦っている人間も不安なんだ。
不安と言うより、恐怖の方が大きいかもしれない。だからさ、君が趙雲殿たちのことを思うならさ」

姜維は軽くの背を叩いて笑った。

「無事に戻ってくるよう、祈ってあげなよ」

「私が?」

「そう、が。趙雲殿たちの無事を願うのさ」

「不安な気持ちで待つよりいっか…そうだね」

「大丈夫だよ、みんな無事に帰ってくるからさ」

姜維だって不安なんだろうに、いつも自分を励ましてくれる。
自分はただ待つだけだが、姜維には劉備たちがいない間やる事が沢山ある。
もし万が一、成都に敵が攻めてくるなら、残された者でなんとかしなくちゃいけない。

「ありがとう、姜維」

「なんてことないよ」

そう言った後で、二人は自室へ戻り寝ることにした。
だが、は知っていた。
姜維はすぐには寝ないで、遅くまで仕事をしていることを。

(大変なんだなぁ、留守を任されるってのも…)

できるだけ、姜維にも心配かけないようにしようと思うのだった。



***



はみなの無事を祈る事が多くなったのだが、同時に夢見が悪い日も続いた。
不安がすべて消されたわけじゃないから、その不安が夢にでてしまっているのかもしれない。

その夢はにとって最悪でしかない。
夢の中で趙雲が叔母と楽しそうに話をしているのだ。
自分もそこへ行こうとするが、何故か足は動かず段々離れていく二人。

『待ってよ!趙雲!』

手を伸ばそうにも、彼の目には自分が映っていないようでただ叔母と笑っているだけだ。

『美咲殿』

『趙雲さん、行きましょう』

『はい』

『やだ!行かないでよ、二人とも!ねぇ!』

声を出しているのに、声は届かない。
仲睦まじく遠ざかっていく二人。

「…っ…また、夢…」

パッと目が覚める。
怖い夢と言えば怖いのかもしれない。
目が覚めたときには軽く震えている自分が居たから。
それも、まだ日が昇る前なので辺りは静かなので余計に怖い。

「やだよぉ…叔母さん」

この夢が何を意味するのかは不明だ。
には夢占いとかそういったものは興味がないしわからない。
二人が仲良くしていたという事は、二人が過ごした時間のことを何らかの理由でが夢で見てしまったのか?

いや、違った。


だって、夢の中の叔母は、趙雲が知るはずもない、10年後の姿。
亡くなってしまう前の、叔母の姿だったから…


「…しないよね、叔母さん…そんなこと」


が思ったこと。
それが現実にならないように願うだけだ。



!馬超殿たち帰ってきたよ!」

「本当!?」

姜維が知らせにきてくれた。
前の時は関平が来てくれた。

あれ?

あの時もそうだった。

『はぁ、帰ってきましたよ、馬超殿たちが』

関平がに知らせに来てくれた時、“趙雲殿が”と言わずに“馬超殿が”って言った。
趙雲は大怪我をしていて、関平はなんとなく言いづらかったから馬超がと言った。
今回も姜維は“馬超殿が”と言った。
の中に不安が広がる。

「姜維、馬超がって?趙雲は?」

姜維は顔が青ざめていくを見て一瞬答えに詰まる。

「趙雲殿は、まだ…」

それしか言えなかった。

「まだって?」

「あの、えっと…」

姜維には孔明から伝令が届いていた。
だから、戻ってくる日時もわかっていたのだろう。
なぜ、趙雲がまだなのかも知っているはずだ。

「姜維!……いい、馬超に聞くから」

「あ!!」

城にでも行けば戻った馬超に聴けるだろう。
は走って城を目指す。
姜維も慌てて追いかける。

怖い。

あの夢を見た後だから。

あの夢の意味は?

もしかしたら、叔母さんが趙雲を連れて行ってしまうのでは?

そう思った。

城で馬超を見つけた。
彼の顔色はいつもと違っていた。
彼の副官である馬岱に歩きながら何か指示をしていた。

その歩調はとても早く、何かに苛ついているかのようだった。

「馬超!」

か…なんだ?」

「あの、趙雲は?」

馬超はを見ても足を止めない。
だから、余計に何か申深刻な事が起きたのでは?とは思ってしまう。

「…まだ戻らん」

「だから、なんで!?」

「………」

馬超は答えず、歩き続ける。
も離されない様必死でついていく。

「馬超ってば!」

は何度聴いても答えない馬超の腕を掴む。

「うっせーな!戻らねーんだから、しょうがねーだろ!!」

「………」

初めて馬超に怒鳴られた。
掴んだ腕をは放す。

「…あ、悪ぃ…」

馬超はから目を逸らしながらも謝る。

「その、なんだ…他の奴に聴いてくれよ。今の俺には余裕ねぇから…じゃあな」

馬超はぎこちない手での頭を軽く撫でて行ってしまう。

「馬超…」

いったい、何があったのだろうか?

殿、すみません」

「あ、馬岱君」

馬岱が自分のことのようにに頭を下げる。

「馬岱君が謝らなくても」

「そうなのですが…従兄上、先の戦でちょっと嫌な事が起きたので…その苛ついてしまって」

「そっかぁ…それと趙雲の事と関係ある?馬岱君は知ってる?趙雲が戻らない理由」

「はい、知っています。兄上の苛つく原因とは関係はありませんよ。趙雲殿は殿を任されたのです」

「しんがり?」

話はこうだった。
大規模な戦。
勝ち目は五分五分と言ったところだった。
それでも、孔明の知略や同盟国の孫呉の援軍などで、戦況は蜀に傾くかと思われた。
だが、偶然の不運が重なり、蜀は負けてしまい、撤退せざる得なくなった。

殿とは退却する軍の最後尾にあって、敵の追撃を防ぐ部隊なのだ。
劉備を無事に逃す為に、その役目を趙雲の部隊に命じたそうなのだ。

「だから、趙雲戻らないの?」

「そう言う事になります」

の顔は一層青ざめてしまう。
劉備らは無事に戻ってきたが、殿である趙雲らはわからない。
敵の勢いが強ければ強いほど崩れてしまう確率が高い。
更に言うなら、劉備の安全が確保されるまで逃げてはならないものだ。

「だ、大丈夫ですか!?殿」

「…わかんない…」

無事に戻ってきて欲しいと祈っていても、不安と恐怖が身体を巡る。
嫌な夢を見た後なだけに、小刻みに震えてしまう手。

!」

姜維が走ってきた。
無我夢中で城まで走ってと途中ではぐれてしまったのだ。
それに、今城内はとても慌しいから。

「姜維…趙雲、無事なの?」

「それは、僕にもわからないよ。けど、きっと大丈夫だよ」

泣きそうな顔をしているに姜維は優しく手を握る。

「趙雲殿は以前にも殿を任され、見事に部隊の者とともに帰還しています。大丈夫です、きっと。ね?殿」

馬岱もを安心させようとそう言ってくれる。
笑わなきゃ、心配してくれる二人の為にも笑って見せよう。

そう思うも、出た笑みはぎこちなかった。



『絶対帰ってくるって約束したのに』

また、あの夢だ。

叔母と楽しそうに遠くへ行ってしまう趙雲。
どんなに声をあげても、聞いてもらえなくて。

『叔母さん!連れて行かないでよ!』

二人にはの姿が見えないようで…

『お願いだから、待ってよ!…あ!』

二人を追いかけようとして走るは、何かに足を引っ掛け転んだ。

『…あ……う、そ…』

引っ掛けてしまった物を見ては言葉に詰まる。
人が倒れていた。

自分のよく知った人で。

初めて会った時に来ていた、青い鎧姿の趙雲。

彼が血まみれで倒れていた…

『嫌だ!』

そこで目が覚めた。
嫌な最悪な夢。
目が覚めたと同時に怖くて泣いてしまう。

「嘘だよね。夢だもん…ただの夢だもん。叔母さん…そんなことしないよね」

それから二日過ぎた。
は何をするわけでもなくボーっとしていた。
そこへ、ようやく嬉しい知らせが届いた。



***



「…ふぅ、疲れたな…」

殿の役目を見事に果たし、無事に帰還した趙雲。
劉備にも報告を済ませ、執務室で残務処理を行っていた。
と言っても、疲れた身体では効率よくできないだろうから、簡単なものだが。
副官である将も疲れているだろうから下がらせる。

「あとは…明日以降だな」

自分も屋敷へ戻ろうかと思い、執務室を出ようとする。

「ん?」

扉に手をかける前に、勝手に空いた。

「趙雲!」

殿…」

全力で走ってきたのだろう、趙雲の前では肩で息をしている。

「よ、良かった…無事で」

「あ、はい。ただいま戻りました。どうぞ、入ってください」

立ち話もなんですからと、趙雲はを執務室に招き入れる。
なにか茶でも用意しようかと考えるが、からの反応がない。

殿?」

振り返ると、は泣いていた。

「ど、どうしました?」

「…っ…ぐっ…」

趙雲は慌ててに駆け寄る。
趙雲がに触れようとしたとき、は声を出して更に泣き出した。

「あ、あの殿?」

「ちょ、趙雲が無事に帰ってきたから…馬岱君からしんがりってのを聞かされて
もう、趙雲が戻ってこなかったらどうしようって…こわ、怖くて…」

殿…約束したじゃないですか」

「わか、わかってるけど…」

「随分心配をかけてしまったようですね」

は横に首を振るも、趙雲はが自分を心配してくれていた事にちゃんと気づいた。

「嫌な夢ばかり見て…」

「………」

「お、叔母さんはそんな事しないってわかっているけど…けど、趙雲を連れて行っちゃったらって…」

何度も見た夢で
何度も叫んだ。

『連れて行かないで』

殿…」

自分の目の前で泣く少女。
自分のことを心配してくれて想っていてくれて。

それが単純に嬉しいと思った。
彼女と出会えた事が嬉しいと思った。

「約束したではありませんか、絶対に帰ると」

「うん、うん」

自分のために泣いてくれるを見て、改めて無事に帰ってきたと思う。
そんなを見ていると、愛しさが沸いてくる。

「あなたに会えて良かった…」

「趙雲」

趙雲は軽くを抱きしめた。
突然の事では驚き、涙が止まる。

「ちょ、趙雲?」

驚いたとは言え、触れている彼の身体には安堵する。

(帰ってきてくれて良かった…)

今だけ、少しだけいいのでこのままで…
は目を瞑り趙雲の胸に身体を預ける。
趙雲はそれに気づき、優しく笑った。
そして



「あなたが好きです。殿……」



の耳元で小声だけどそう伝えた。
確かに聞こえた言葉には目を開く。

「あ、え、趙雲、あの」

だが、趙雲は笑ったかと思うと、ずるずる身体が傾いていく。

「趙雲!」

慌てては趙雲の身体を支えるが、重たく支えきれずにそのまま座り込んでしまう。

「………」

「趙雲?」

趙雲はの膝の上に頭を乗せたまま寝てしまった。
よほど疲れているのだろう。
そう言えば、自分がここに来た時、どこかへ行く途中だった。

趙雲の方は、気が抜けたと言うか。
張り詰めていた緊張が全て解けてしまい、溜まった疲れのせいで睡魔に負けてしまったのだろう。

「確かに聞こえたよ、趙雲」

「………」

趙雲の髪を優しく撫でる
自分を好きだと言ってくれた。
なぜ?とか、どうして?とか、今はそんなのどうでもいい。

今はただ、ゆっくり休ませてあげよう。

そう思うだった。








馬超の苛つく原因…お見せできませんでしたなぁ、結局w
04/04/10UP
11/12/24再UP