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おもうこと
私ね……あきらめない事にしたから!だから、絶対帰ってきてよね 【12】 さて、どうしようかと二人は悩んでいた。 偶然にも同じ事で。 二人と言うのはに趙雲だ。 ただ同じ事で悩むと言ってもそれを互いに口にしたわけでもない。 口にする以前に二人は顔をあわせていない。 「?変な顔してどうしたの?」 「へ、変な顔って失礼だなぁ」 「だって事実だし」 のそばで小難しい書物を読んでいた姜維はくすりと笑いながら言った。 それを見ては口を尖らす。 「ほらぁ、また変な顔」 「もう!煩い姜維」 怒り出すに姜維は笑い続ける。 姜維にはが何で悩んでいるのかを知っていたので。 (考えないでさっさと行けばいいのに) 「姜維!言いたいことがあるなら、言う!」 「それは自分だろ?相手は僕じゃなくて趙雲殿に」 「ぐっ」 趙雲の名前を出されては言葉に詰まる。 「あ、地雷踏んじゃった?ごめん、ごめん」 言葉とは逆に姜維の顔は笑ったままだ。 「姜維、酷いよ〜」 「そう?君の場合ここでうだうだ悩んでも結果でないからさ。悩むくらいなら動いた方が早いよ?」 「だから、それができなくて悩んでるのに」 「はいはい、そうですね。ま、気長にやれば?」 姜維はパタリと読んでいた書物を閉じて立ち上がった。 「じゃ、僕はもう寝るからね。明日も早いんだ」 「うん、おやすみ姜維」 「おやすみ」 姜維はそのまま振り返らずに自室へと戻って行った。 も寝ようと思い立ち上がる。 就寝前はいつもこんな感じだ。 夕餉を食べて、風呂に入って、なんかそのまま二人で話して。 姜維が先ほどみたいに書物を読んでいる場合でもだ。 「あぁ〜どうしようかなぁ…あとどれくらいなら平気かなぁ〜」 力なく息を吐いても自室へと戻るのだった。 ずぅぅん と音が彼の肩に圧し掛かって見えるのは気のせいだろうか? 今日も元気にお仕事しましょう! と意気込んでいる面々が見ると、その空気は鬱陶しく感じる。 「趙雲殿?」 いつもなら鍛錬所で汗を掻いているだろう趙雲に姜維が声をかけた。 のだが。 「………」 無反応。 手にしている模擬棒を持って突っ立ったままだ。 「え、えーと…」 彼は何を悩んでいるのやら? 「どうした?姜維」 「あ、馬超殿!」 天の助けか、馬超が姜維に声をかける。 彼も鍛錬を開始するのだろう。 手には同じように模擬棒を持っている。 「趙雲殿に声をかけても無反応で」 「あ?」 馬超は趙雲の顔を覗きこむと、彼はブツブツ呟いている。 「……なんつーか、視野が狭い奴だなぁ」 「え?」 「あ〜なんと言うか、こいつなりにのことで色々考えているんだよ」 「え、えーーー!それは」 良いことではないか。 姜維は驚きで声を上げてしまう。 その声で趙雲がやっと気づいたようだ。 「な、なんだ?」 「おせーよ。馬鹿」 「…あ、馬超殿、姜維も…どうかしましたか?」 「あのね」 マイペースなのはかまわないが、ここで身体も動かさず突っ立っていれば誰だって気になるだろうに。 「やるのか?やらないのか?」 馬超は模擬棒を指す。 「あ、あぁ。申し訳ありません」 「やらねーならどいていろ、邪魔」 「あは、やります。お相手お願いします。馬超殿」 「あぁ。姜維はどうする?」 「あ、僕はいいです。見ていますから」 姜維は二人のそばから離れる。 打ち合う音が辺りに響き始める。 姜維はさっきの趙雲の態度に笑んでしまう。 馬超の言う事が本当なら、も悩まずに趙雲のもとへ行けば良いのにと。 と趙雲が悩んでいる事、それは 「なんて声をかければ良いのかなぁ」 「どう声をかければ良いのか…」 「げ、元気ですか?ってのは変だよね」 「お久しぶりです…ってなんか変だな」 「って言うか、会いに行くべきかな?」 「私が会いに行っても良いのだろうか?」 「何しに来たんだ〜って思われたら嫌だし」 「今更何の用ですかって思われるだろうな」 「諦めるのを止めたとは言え、どうすればいいんだか」 「都合よすぎるとは思われるだろうな…」 「「きっかけがつかめない」」 可笑しいものだが、本当に二人が偶然に同じ事で悩んでいた。 お互いに会って話がしたいとは思っているのだが それが中々できずに悩んでいたというわけだ。 姜維はに考えるより行動すれば? って簡単に言うが、これでも恋する乙女(?)なのでへらへらと前に出られる勇気がない。 告白して、玉砕しているわけだし。 誰だって好きな人に冷たくされれば嫌だろうし。 趙雲はそういう人ではなく、どちらかと言えば相手を気遣う人だから 逆に会わないほうが良いのかな?って気持ちもある。 「多分、今はまだ…の方がいいのかなぁ」 優しい人だから、趙雲は。 会いに行ったら、きっと無理にでもあの人は笑うのだろうな。 そんな姿が目に浮かぶだった。 趙雲は馬超に話したことで多少は気が楽になった。 が好きかどうかと言われると、好きかな?って微妙な位置だ。 美咲の事がまだあるわけだし、簡単に気持ちは切り替わらない。 だが、今の趙雲はが別の男性と付き合いでもしたら嫌だと言う気持ちはあるし できれば、以前みたいに話したいとは思っている。 馬超は別にいいじゃんと、言った。 それが正直な気持ちなのだから。 確かに正直な気持ちなのだが、ずるいな自分はと言うこともあって中々行動に移れない。 お互いに、さぁどうしよう〜と唸り続けている。 何かきっかけがあればいいと思う。 ちょっとしたきっかけ。 でも中々互いにきっかけがつかめなくて。 そんなこんなで数日が過ぎた。 きっかけは突然やってきた。 きっかけと言えるかわからないのだが、再び趙雲たちに出陣の命が下ったのだ。 前回の戦よりも規模が大きい激しいものになりそうとのこと。 劉備自ら出陣するとまで言われていて、緊張がみなの間に広がっていく。 「僕は今回留守番だよ」 「そうなの?…良かったって言ったら不謹慎だよね…」 は申し訳無さそうな顔をする。 姜維はそんな事ないと首を振る。 「城の守りも重要な仕事だと思っているし。丞相のそばで学べないのは痛いけどね」 かなりの戦のようで、孔明も出陣する。 当然、趙雲も馬超もだ。 城に残るのはほんの一部のようだ。 場所的に成都が攻められることはまずないだろうが、多少不安にもなる。 「姜維……」 「ん?」 「趙雲、今どこにいるの?」 「趙雲殿?多分、屋敷の方だと思うよ。出立の準備をしていると思うし」 「そっか……」 「?」 「趙雲に会いに行ってもいいかな?」 姜維は微苦笑する。 「別にかまわないだろ?と言うより、早く行ってきなよ」 「うん」 は駆け出した。 姜維はやれやれと腕を組んでを見送った。 *** 「突然の事とはいえ、皆には迷惑をかけるな」 「いえ、お気をつけてくださいませ」 「あぁ。留守は任せる」 趙雲はすでの出立準備を終えて屋敷を出ようとしていた。 愛馬に跨り、あとは集合場所である城門へと向かうのだが。 「はぁ」 「どうかなさいましたか?」 ため息をついてしまい、使用人が不思議に思い声をかける。 趙雲は慌てて笑む。 「い、いや。なんでもない。では行ってくる」 「いってらっしゃいませ」 使用人たちに見送られて趙雲はゆっくりとだが馬を走らせる。 考えているのはのこと。 このまま出発して良いのか悩んでいるのだ。 以前と時と同じように集合場所へと現れるかもしれないが。 でも、その時は大勢の人間が回りにいるからに近づけないかもしれない。 今回姜維は留守を任されているし。 「よしっ」 趙雲は方向を変えて、姜維の屋敷へ向かう事にした。 きっとはいるだろうから。 「はぁ、はぁ…もう行っちゃったかな。はぁ…」 は屋敷から走ってきたものの、途中で息を切らして足を止めてしまう。 「あ…なんて場所で止まるんだか」 足を止めた場所を見回して苦笑してしまう。 ここは趙雲を困らせた、趙雲が叔母との想い出の場所だと言ったあの川原だ。 あの時の自分は情緒不安定と言うか、叔母に嫉妬に趙雲に八つ当たりをした。 泣いてしまい、逃げ出したに趙雲は追いかけてきて謝ってきた。 何も悪いことはしてないのに。 勝手に自分が嫉妬した結果なのに。 あの勢いで趙雲に告白して、結果振られたのだ。 思い出すと、胸が少し痛む。 あきらめないと決めたけど、あの日以来趙雲とは会ってない。 会って話したい事はいっぱいあるのに。 太陽の光がキラキラと水面で反射している。 いつになったら帰れるのだろう。 早く帰りたい。 そう願っていた日もあった。 でも、今はできるだけここに長くいたい。 そう思う。 もといた世界に比べれば、不自由な事は多い。 でもそれなりに愛着もでてくるし、慣れればどうってことない。 自分には頼もしい友だちがついているし。 何よりも、好きな人を見ていたいだろう? 「と!のんびりしてられないじゃん。早く行かないと」 は再び走り出そうとするが、一頭の馬が向こうから駆けてきた。 「ちょ、ちょーうん…」 「あ、れ、ど、の」 趙雲もに気づき馬を止める。 互いに会いに行こうと思っていた人物が急に現れるものだから驚きで言葉に詰まる。 趙雲は馬から降りる。 「「………」」 会ってどうするのだっけ? 「「…あの!…」」 「な、なんですか?殿」 「え、ううん。趙雲こそ何?」 「「………」」 話。 何からするのだっけ? 目の前にいる人に何をしたら、話せば良いかわからずは混乱する。 気恥ずかしさからは目をあわせられなくて下を向いてしまう。 (やはり、虫が良すぎるか…) 趙雲は視線をそらされたと思い、仕方なくは感じている。 だが、もう出立時間まであと少しだ。 悠長なことはしていられない。 将軍様が遅刻じゃ話にならんだろう。 他にもやるべき事があるのだから。 「あなたに」 「………」 「あなたに会いに行く途中でした」 「え!?」 驚きで顔を上げる。 趙雲は笑っている。 久しぶりに見た趙雲の笑顔には嬉しくなる。 まさか、自分に向けられるとは思わなかったから。 「私も、趙雲に会いに行く途中だったよ」 嬉しさのあまり笑むに趙雲も安堵する。 互いが互いの笑みを見られて心から嬉しいと感じたのだ。 話したい事がいっぱいあったのに。 今は満足してしまう。 「気をつけてね、趙雲」 「はい、もちろんです。もうあんな馬鹿な真似もしませんよ」 「本当だよ〜あんな事したらまた引っ叩いてやるからね」 「あは、あれは痛かったです」 今度は声を出して笑ってしまう。 少しの間会わなかったのに、その間感じていた悩みなど全て吹っ飛んでしまったようだ。 「本当に、あんな馬鹿な真似はしませんよ」 そろそろ時間が迫ってきた。 趙雲は再び騎乗の人になる。 「あ、もう行かねばなりませんね。殿、それでは」 「あ、あのさ!趙雲」 趙雲を呼び止める。 「私ね……あきらめない事にしたから!だから、絶対帰ってきてよね」 「………」 別に言わなくてもいい事なのに、特に相手には。 でも、咄嗟に出てしまった言葉。 何にあきらめないないのかは趙雲でも流石に気づいた。 言った後でカーッと顔を赤くしているに趙雲は噴出してしまう。 「な、なによ!文句ある?」 「あははは、文句などありませんよ。絶対に帰ってきますから、それでは」 趙雲はそう言って馬を走らせた。 行ってしまった趙雲の背を見えなくなるまで見送り続ける。 「……文句ないって」 良かった、普通に話せて。 良かった、もう心配はないね。 叔母さんのいる場所へ逝かないよね? 「絶対、絶対だよ。趙雲…」 は姜維が待っているだろう屋敷へと戻る事にする。 ふと数歩歩いて気づいた。 「…趙雲、私に何の用事だったんだろう?」 04/03/27UP
11/12/24再UP
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