おもうこと




ドリーム小説
ち、違います!私は優しくなんか…ないですよ…





【11】





「俺の事より、メシだよ、メシ!あまり騒ぐとおごらねーぞ!」

「えー。その話をしながらお昼食べたいのに。馬超のケチ」

二人で楽しんでいるような様子が趙雲の目に映る。
自分の他にもそれを見て笑んでいた者は大勢いたのだが、素直になれない自分がそこにいた。

馬超とは自分には気づくこともなくどこかへ行ってしまった。
趙雲も仕事復帰したばかりなので、止まっている暇はないと歩き出す。

自分の執務室で昼も食わず仕事を進める趙雲に副官である将が声をかける。

「そんな急ぎの仕事でもありません、無理なさらず」

「平気だ。今まで休んだ分しっかりしないとな」

「そんな」

休んだ分と趙雲は言うが、怪我をする以前だって、趙雲は忙しかった。
長い休みなどほとんど取らずにいたのだから、今回休んだ分など気にせずにいてくれたらいいのにと思う。

そこへ姜維がやってきた。

「失礼します、趙雲殿」

「どうした、姜維」

「丞相からの書簡です。一通りお読みください」

「あぁ」

姜維から書簡を受け取る趙雲。

「趙雲殿、昼餉は取りましたか?まだなら僕と一緒に食べませんか?僕はこれからなのですが」

「そうだな…いや、遠慮しておくよ。まだやりかけの仕事があるから。すまないな、姜維」

「いえ。では僕はこれで」

「あぁ」

姜維は二人に頭を下げて出て行く。

「将軍、先に食事をなさった方が」

「気にするな、私は平気だよ」

何を言ってもこれかと、副官は軽く息を吐く。
趙雲が食事をしないと自分も取れないと思いながら。
仕方なく、副官も真面目な将軍に付き合うことにするのだった。



「働きすぎだよなぁ、趙雲殿は…」

休んだ分を取り戻すとか姜維たちには言ったが、アレはどう見たって無理しているなぁと姜維は思う。
折角の復帰が身体を壊して逆戻りになってしまわないかと心配する。

「多分、アレが原因だろうな」

が趙雲に告白したことだろう。
は振られた〜とか言ったが、趙雲の性格上、のことを気にしているのだろう。
自分の愛した女性の血縁者で顔もそっくりな少女から告げられた想い。

「大変だなぁ…」

のことも気になるが、趙雲は姜維にとって憧れの人。
戦場でもどこでも、あんな人になれればいいなぁといつも思う。
恋愛に関してはなんとも言えないが。

「よっ、今からメシか?」

馬超が姜維に声をかける。

「馬超殿。馬超殿は済んだのですか?僕はこれからですよ」

「なんだよ、言えよな。さっきと食ってきた」

と?」

「あぁ、お前の忘れ物を置きに来たって時にさ、帰るつーから一緒にメシ食ってきた」

「そうですか」

「どうした?」

「い、いえ!なんでもないです」

姜維は慌てて首を振る。
馬超はどこまで知っているのだろうかと思ったのだ。
告白した事など、は姜維にしか話してない。
趙雲が言うだろうか?

(言わないよなぁ…あの人の性格じゃ。溜め込むのだろうな)

「なんだよ」

「いえ。僕もこれから食べてきますね。あまり遅くなると丞相に叱られてしまいますから」

「おぅ。じゃあな」

馬超と別れる。
馬超は姜維に軽く手を振って行ってしまう。

(でも、馬超殿は勘がいいから、気づいてそうだよな…)

微妙な空気に。



「では、後は関将軍の所へ持って行きますね」

「あぁ、頼む」

ようやく一息を入れる事にした。
自分に着き合わせてしまった副官に礼を言う。
彼は休憩する前に関羽のもとへ言ってくれるという。

一人残され、自分も何か食べなくては思うが、一人になったことでまた色々考えてしまう。
別に自分が考える必要もないのに。
心のどこかに罪悪感みたいのが生まれる。

思い出されるあの日のこと。

『ごめんね、趙雲』

『………』

『趙雲が叔母さんのこと大事に想ってるの知ってる。だから趙雲は私の事振っていいんだよ』

『あの殿!』

『最初からわかってることだもん…ごめん』

殿、私は』

『趙雲が思ったとおり、馬超を好きになってたら良かっただろうね、お互いにさ…』

に好きと言ってもらえてどこか嬉しかった。
同時に美咲の事が頭をよぎった。
彼女を愛したことは嘘ではないし、多分今もだと思っている。
だから、には美咲の事を忘れられないと言った。

言ったけど…

そう言葉に出したのはの言葉がチクリと刺さったから。

『馬超を好きになってたら』

という言葉。

確かに少し前にそう言った。
が馬超の事を楽しそうに話すから、は馬超が好きなのかな?と思った。
ならば応援してあげたいって思ったから。

でも、なぜだろう。

あの時、そう思えなかった。

「………はぁ。私は何をしているのだ」

上手く考えがまとまらず、少し苛々する。

それに、のことを振ってしまったのに、何を考えるのだ。

「今までと同じにというのは…、虫が良すぎるのだろうか」

さっき、馬超と楽しそうにしていた
自分はもうその隣にはいれないのだろうか。

休憩時間と言うのに、今の趙雲にはそれが億劫で。
余計な事を考えるくらいなら、執務なり鍛錬なりしていた方が気は晴れる。

「おい、いるか?」

ノックもなしに勝手に入ってきたのは馬超。
ちょっと今、彼と会うのは重い。

「馬超殿、何か用ですか?」

「まぁな。今度の練兵のことなんだが…なんだ?俺の顔に何かついているか?」

珍しく真面目な話をしに来た馬超に対して、凝視してしまったらしい。
趙雲はなんでもないと軽く首を振る。

「そうか?……となんかあったのか?」

「え!?」

「あったみてぇだな。わかりやすいよ、アンタらはさ…」

複数形ってことはのことも含めてだろうか。
馬超は苦笑している。

「別に何もないですよ」

「嘘つけ。先日まで散々が来ないって心配していたくせによ」

「あ、あの。それは」

「ほれ、吐いちまえ。楽になろうぜ」

「……馬超殿」

自分はどうなんだ?
馬超は自分のことは滅多に話さないくせに。
少しずるいと思う。

「本当になんでもないですってば」

「アンタね、言ったろ?わかりやすいって。一人でうじうじ悩んでいたんだろ?さっき姜維も気にしていたみてぇだし」

「姜維が?何か言っていたのですか?」

「いや、なんにも。そう感じたんだよ」

昔の、出会った当初の馬超では考えられないくらい、人の気持ちに敏感になっているなと思う。
あの頃は性格が擦れまくっていたのに。
思わず笑ってしまう。
今では立場が逆だなぁと。

「なんだよ、急に」

「いえ、馬超殿は変わりましたね」

「は?」

「ここへ来たばかりのあなたを思い出したのですよ」

「…それを言うなよ」

馬超はバツが悪そうにしている。
前髪を掻きあげる。
これは彼の照れた時の癖だ。

「まったく、さっきもあの頃の事を思い出しちまったのによ」

「そうなのですか?」

「あぁ。とメシ食っている時に急にな」

思い出したのは愛しいあの女性の事。
いつか必ず取り戻すと誓った女性。

でも、いまだそれは叶わず。

「ま、なんかの予兆かもな…って俺のことはいいんだよ。今はアンタの方だよ」

馬超は趙雲の肩を軽く小突く。

「私は別に」

「何度も言わせるなよ?」

「あは、あはは…でも馬超殿」

「話ぐらい聞いてやる。何をどうするかはアンタの勝手だ。姜維はの味方をしているからな。俺がアンタの味方になってやるよ。頼もしいだろ?」

思えば、いつも馬超が自分を引っ張ってくれた。
彼の方が年下なのに。
美咲との事もそうだった。
彼女と別れてしまった時も、馬超が自分を叱咤してくれた。

「前に殿が言っていました。馬超殿はお兄ちゃんみたいで頼ってしまうと」

「そうか?」

「その気持ち、私もわかりますよ」

「気色悪い事言うな!っ早く、話しやがれ!」

ニコッと笑んだ趙雲を見て馬超は顔を真っ赤にして照れている。
大げさに声を出しているのは照れ隠しのせいだ。

「メシ、まだ食ってないなら付き合ってやる」

「え、でももう済ませたのでは?」

「俺は茶でも飲んでいるから、アンタは食っていろ」



***



馬超の前で昼餉を取るも、話をしようとしない趙雲。
まぁ、食べているからってのもあるだろうが。
馬超も聞いてやると言った割には、催促しないで暢気に茶を啜っている。

「…ごちそうさまでした」

ご丁寧に箸をおいて手を合わせる趙雲。
あぁ、終わったのか。

茶を啜り始めた趙雲に馬超が話を切り出した。

「で?と何があったわけ?」

「ぐっ、馬超殿…いきなりすぎませんか?」

「あ?だって他に思い当たる節ないしよ。パーっと言っちまえよ」

「………」

話を聞いてやると言われたものの、なんとなく事が事なだけに言いづらい。
馬超はそんな趙雲の考えを先読みしたのかあっさり言った。

「なんだ、に告られたか?」

「な、な、ば、ど、わ!」

顔を真っ赤にして急に立ち上がる趙雲。
バタンと椅子が倒れ、周囲の視線がこちらに集中する。

「はい、はい、そうなわけね。いいから落ち着け」

「………はい」

申し訳なさそうに椅子を戻す趙雲。

「いいねぇ、モテモテだな、アンタ」

「か、からかわないでくださいよ、馬超殿!」

別に照れる年齢でもないだろうにと、馬超は思う。
今、目の前にいるこの男に、やったかやらんのか?とストレートに言ったら面白い反応をするだろうな
とか、なんかからかってやりたい気分になる。

「それで?何を悩むんだ?」

「……そ、それは……なんと言うか……」

「大方、美咲が忘れられないとでも言ったんだろ?」

「はい…」

「じゃあ、いいじゃん。はい、お終い。何かそれ以上のことあるわけ?」

「……ですよね。そうなのですけど……」

が気になってしょうがないって?アンタも優しい人だね」

「ち、違います!私は優しくなんか…ないですよ…」

趙雲は再び立ち上がる、が、すぐさま座直す。
いい大人なのに、泣きそうな顔をしている。
ここに誰もいなかったらこの男は泣いていただろうか?

「へぇ」

趙雲は俯き、拳をギュッと握る。

「ずるい人間です、私は…殿の気持ちは嬉しく思いました。
でも、美咲殿のこといまだ忘れられない自分もいます…それでも以前と同じように接したいって思って」

趙雲はチラリと馬超を見て、すぐさまそらす。

「この先、殿が、ほ、他の人と付き合いでもしたら…嫌だなとも思って…」

「例えば、俺とか、か?」

「あ、あの…」

趙雲はなんとも言えなかったが顔を上げた。
馬超は卓に片肘をつけて顔を手で支えている。
その顔は怒っているわけでもなく、いつもと変わらない。

「面白いな、アンタはさ。少し前はの好きな奴が俺だと思っていたろ?でも、俺にとられたくないって?」

クッと笑う馬超。
趙雲は恥ずかしさなどから逃げ出したくなる。

「いーんじゃねぇの。それが今のアンタの正直な気持ちだろ?」

「え……でも」

「だってよ、美咲はもういないしさ。今はそうでもこの先なんてわからねぇしな」

「この先って…」

「ま、変に焦らず自分の思う通りにやってみれば?その間にに別の男ができたらしょうがないけどな」

「馬超殿…いいのでしょうか?なんか、ずるくないですか?」

「そうか?実際、アンタはを振ってから今の気持ちに気づいたんだからさ」

「はぁ」

「誰も怒りはしないって」

「………」



ずるくないでしょうか?
彼女を傷つけておいて、調子良過ぎではないかと思う。

でも、嘘はつけないから…



「ありがとうございます、馬超殿」

「いや。俺は何もしてないし、面白いものいっぱい見れたしな」

「酷いですね、それは」

二人はくつくつと笑った。
だが、馬超の中では…

(趙雲に味方してやるって言ったけど…結局の為にしたようなものだな)

と目の前にいる友人には言えないなぁと微苦笑するのだった。







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