おもうこと




ドリーム小説
早く、帰りたいかも…





【8】





は趙雲邸へ毎日とは言わないがよく顔を出す。
今では普通に起き上がれるようになり、軽い運動もするようになった趙雲。
でも今だ、城へ行く事は叶わぬようだ。
今回の怪我で丞相の孔明にしっかりと静養して欲しいと言われたそうで。
さらに劉備にも完全回復するまで来てはならぬと命じられたようだ。
命じられると言うより、お願いに近いらしいが。

二人が趙雲をとても信頼し頼っているからなのだろう。
休める時にしっかり休んで身体を治して欲しいのだ。

「だからって身体を動かして平気なの?」

「体力が落ちていくばかりでは困りますし。私も寝ているのに飽きているのですよ」

「傷口開いても知らないよ?」

「大丈夫ですよ。傷は塞がりました」

が趙雲邸に顔を出すと庭先で趙雲が柔軟運動をしていた。
は邪魔なら帰ろうかと言うが、趙雲がそんなことはないと言うのでお喋りしながら見ていた。

「早く仕事復帰したいですよ」

「無茶しない程度にね」

「そうですね。殿、昼餉はまだでしょう?食べて行きませんか?」

「ん?…そうだね。ごちそうになろうかな」

頻繁に顔をあわせるようになってから、よく笑いかけてくれる趙雲。
これが素の彼なのだろう。
自分も趙雲みたいに笑えたらいいなと思うほどだ。

でも、最近の自分はそんな趙雲に変だ。
うすうすそれが何なのかは気づいているが言葉にしたくない。

「どうしました?殿」

「え?」

「ボーっとしていますよ」

「あ…ちょっと考え事」

「悩みでもあるのですか?」

「あ〜まぁ一応」

そう言って軽く笑う。

「私で良ければ話ぐらい聞きますよ」

「え、いいよ、別に」

「遠慮なさらずに」

外から入ってくる話題の少なさに飽きているのだろう。
今の彼の情報源はや馬超の話ぐらいだ。
使用人は彼に噂話などはしないだろうから。

ニコニコ笑ってまっている趙雲には乾いた笑みしか出ない。
まさか、あなたのことですよ…とは言えないだろう。
でも何か言わなくてはいけない状況のようなので、とりあえずもう一つの悩みを話すことにした。

「えっとね…私っていつ帰れるのかなぁって思って」

「あ…」

「最初はね趙雲に叔母さんの言葉を伝えるためにここに来たのかな、って思ってた。でも、それが済んでも帰れる気配ないしさ…」

嘘ではない。
このことは時々考えることだ。
馬超らはそのうちとか気にしてもしょうがないとか深く考えていないようだ。
叔母の時は突然だったので、自分らではどうしようもないとのこと。

「それは」

「私って結構馴染んでるでしょ?」

「そう見えますよ」

「馴染みすぎちゃって、皆と別れるとき辛いよなぁとか思ってみたりさ」

叔母さんの時はどうだった?
と思わず聞きそうになるがはその言葉を飲み込む。

殿が帰ってしまわれたら、私も寂しいですよ」

「…ありがと」

「あ!一度戻ってもまた会えるかもしれませんよ?」

「えー」

「こちらとあちらは不思議な力で繋がっているようですし」

確かに。
最初は叔母がここに来た。
その1年後に自分が来た。
そうかもしれないが、自分のいた世界では10年も過ぎている。
また自分がここへ来たとしても、それは

「なんか嫌かも」

「え?」

「だって、その時は私の方が趙雲より年上になってそうで嫌だよ〜」

「…は、あはははは。それは、どうでしょうかね」

「もう!私には重要なことだよ!趙雲は変わらないのに、私がしわしわのおばあちゃんになったりしてたら嫌だからね」

は笑っている趙雲にそう噛み付く。
また会えれば良いと言うわけでもなさそうだ。
とりあえず、今の所帰れる予感もないのだから。

殿は面白いですね…あははは」

「まだ笑うかな」

目に涙まで浮かべている趙雲。
がおばあさんになった姿でも想像しているのだろうか?

顔は面白くなさそうにしているも、趙雲が笑ってくれているのでは内心ほっとする。
と同時に、趙雲から見て自分はどう映っているのかな?と気になりもする。
それは気づいている事に関係しているのだが。

叔母にそっくりな自分。

その叔母と恋仲にあった趙雲。

叔母のとの永遠の別れ。

今、目の間にいるのは叔母ではなく自分なのだが。



***



趙雲邸で昼餉をいただく
卓に向かい合って座り食べると趙雲。
他愛のない会話なのだがそれがなんとなく楽しい。
食事は一人ではするものではないなと気づく。

「でね、馬超ってばさ、私が乗ってるって言うのに、物凄く飛ばすんだよ。
落ちる〜って言ってるのに、平気だとか落ちたら拾ってやるとかしか言わないし」

「大変でしたね。でも馬超殿は馬の扱いはどの方より上手ですよ」

「落ちたら、それはそれで大変なのだけど?」

「そうですね」

どうやら、先日馬超と遠乗りに行った際の話しのようだ。
あーだったこーだったと手振り身振りで説明している

「馬超はさ、いっつも文句ばかりなんだよね。
お前の買い物は長いとか、がさつだとか好き勝手言っちゃってさ。
自分はどうなんだっての。会うたびに違う女性連れてて、あんたは一人に選べんのか!って」

「会うたびにですか?、それはすごいですね」

「なんかくる者拒まずって見えるけど?」

遠乗りでの話から馬超自身についての話に代わっている。

「執務抜け出しては馬岱君を困らせてるんだよ〜城中『兄上〜』って馬岱君が必死こいて探してる姿が可哀相だし」

それは趙雲もよく見る光景だ。

「でも、やる時はしっかりしていますよ?馬超殿は」

「まぁ、頼りにはなるのはわかる。私も結局馬超を頼っちゃうし」

「でしょう?」

「でもさぁ〜」

「あははっ、殿は本当に馬超殿がお好きなのですね」

「は?」

趙雲が口にしたことで口をポカーンと開けて固まってしまう
何を突然言うか、この男は。

「文句言いつつも、馬超殿を認めているし」

「あ、あのね、趙雲」

殿は馬超殿といると楽しそうですよ?実際楽しいのでしょうが」

「…………」

いや、馬超といると楽しいのは確かだけど。
この男の言う好きのニュアンスがわからない。

異性として好きなのか、友情としての好きなのか?

変に馬超に想いを寄せているなどとは想われたくないのだが?

「お、お兄ちゃんがいたらこんなんかなぁと思うのだけどさ」

は慌ててそう付け足してみる。
実際、馬超に対しては【兄】と言うイメージを持っているので。

「だからさ、えっと〜」

「見ていて応援したくなりますね」

ニコっと笑みを浮かべて言われた瞬間、頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。
完璧に馬超が好きだと思われている。

(嫌いじゃないよ、馬超は。でもでもでも〜それはお兄ちゃんみたいって感じで…)

今ここで、違うと否定してもなんとなく、『照れることありませんよ』みたいなことを言われるような気がする。

「馬超殿は言うほど軽い人ではないですよ?」

「あ、あのねぇ」

聞いちゃいねぇ。

「はぁ…趙雲の馬鹿」

「はい?」



***



「好きだけど好きじゃないのに〜」

は帰宅するなり、姜維の前でヘタリと座り込む。

「ど、どうしたの?

「馬鹿か、あの人は〜」

「なに?ねぇ、なんなの?いったい」

「怪我してから頭可笑しくなったんじゃないの?」

「え、ちょ、?」

の言いたいことがよくわからないが、その相手は趙雲だと言うことはなんとなくわかる。

あの趙雲の言葉で気づかないようにしていた事が鮮明に浮き出る。
涙が出てきた。

「違うのに、違うのに〜」

「?」

自分が趙雲を好きになっていたってこと。
でも、趙雲はまだ叔母のことが忘れられないようだから、自分の気持ちなんて塞いでおこうと思った。
そしたら、裏目に出た。

「ねぇ、どうしたの?

「姜維〜」

「うわっ」

姜維は座り込んで項垂れているの前に膝を折ると、は抱きついてきた。
勢いよすぎで転びそうになる。

「なに?」

「私って馬超スキーに見える?ねぇ?馬超大好きっ子?」

「はぁ?」

「応援されても困るのに〜」

「…なんとなくわかった気がするけど…」

は昼間の出来事をすべて姜維に話した。
を椅子に座らせ、お茶を差し出す。
自分は壁に背をつけて立つ。

「馬超は嫌いじゃないよ?お兄ちゃんみたいで好きだけどさ!
浮いた話は数知れず、くる者拒まず、去る者追わず!みたいなのは好きじゃないもん。
なんかさ、女なら誰でもいいって感じがするもーん。そんな奴と付き合ったらボロ雑巾にされる〜」

「あ、あのねぇ

それは何かの間違いで思い過ごしだよ。
と言いたいのに、今のの荒れようには言葉が出ない。

「触れただけで妊娠するかもしれないじゃん」

「なわけないでしょうに」

ぺちっとの額を軽く叩く姜維。

「うん、そした私もう5回くらいは出産してる」

「そこじゃない!」

だんだんツッコミが上手くなってきたようである姜維。
いや、そんなこと今はどうでもいのだが。

「馬超殿はそんな薄情な方ではないよ?まったくどこでそんな噂を聞いたのだか」

「だって、いつも違う女性連れてるじゃん」

「それは、私用かどうかはわからないだろう?たまたま出会ったとか知り合いとか、妹とか」

「雲緑ちゃんは10人もいるのか」

「だから、例えだよ!もう…馬超殿が聞いたら激怒するよ」

「別に馬超はどうでもいいの!私が言いたいのはそう勘違いした趙雲が嫌なの!」

「へぇ」

例えるなら65ヘェ。

「な、なによ」

「なんでそんなに嫌がるの?別に違うなら気にすることないじゃん。軽く聞き流せばいいのに」

「そ、それはね。誤解されたら馬超だって嫌でしょ?私は別にそう思ってないし…」

「だから、趙雲殿に違いますって言えば言いだけじゃん」

「だって、だって応援しますとか言うしさ」

「応援されたくないんだ」

「されたくない」

「なんで?」

姜維には何故なのかはわかっているが、あえて口にしない。
馬超の所為にして自分を隠している
本心ぐらいちゃんと言わないと、認めないと伝わらないよ。
そう思う。

「なんでって…その、あのね…」

「人間素直が一番だよ、

「きょ、姜維!?」

「さぁて、僕はもう寝ようっと。明日も早いからね。おやすみ、

後は自分で考えろとを一人残して私室へ行く姜維だった。
も仕方なく私室へ戻る。
寝台に寝転び考える。

「趙雲が好きなのは叔母さんで…多分今もそうで…私は趙雲が…」


趙雲の笑顔が好き。
最近になってだか、差し伸べてくれる手が好き。


一緒にいられるのが嬉しい。


それは馬超や姜維と一緒にいる時とは違う。

「でも…言えないなぁ」

想いを告げても断られるのが目に見えている。
例え受け入れられても、素直になれない。

それは多分。
自分が叔母にそっくりだから。


貴方が見ているのは私ではない、違う人…


「…当分、会いに行くの止めよう…」

趙雲のことは好きだけど、今は言えない。
いや、ずっと言えない。
彼の中には別の人への想いが占めているのだから。

「早く、帰りたいかも…」

初めて願った、帰りたいと。
逃げるようだが、報われない気持ちなら早くに忘れてしまいたい。
向こうには大好きな家族や友達がいる。

きっと、そこで新しい好きな人でもできるだろうから


できるのだろうか?








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