おもうこと




ドリーム小説
あれ、なんか変だ…私





【7】





趙雲の怪我は思っていたより早くに回復を見せているとの事だった。
多分、に一喝されたおかげではないかと馬超らは思った。
今の趙雲は以前と同じように笑えている。
それはとても良い事だ。

「馬超殿、殿を呼んでもらえませんか?やはり早いうちに謝りたくて」

「あ?あぁそうだな」

馬超はその旨を素直にへと伝え…なかった。
に趙雲の名前を出すと、はとたんに不機嫌になるからだ。
ようするに伝えるのが怖かった。

「あー?なに?なんか言った?」

「お、お前ね。とりあえず、俺と一緒に趙雲の所へ行くぞ」

「…用があるなら向こうが来ればいい」

「あのな、それが出来ないから言っているんだ」

趙雲が負傷した原因を聞いたは、その理由に頭にきて趙雲を引っ叩いた。
それ以来、は趙雲邸には一度も行っていない。

『趙雲がに謝りたい』

と。その事を言えば、が素直になるだろうに。
馬超はその言葉すら出てこなかった。
を宥めるのは姜維が得意なのだが、あいにく姜維は留守だった。
やっとの事説得と言うより、無理やり引っ張って趙雲邸までをつれて来た馬超。

「俺は帰るからな。俺も暇じゃねぇんだ」

「………」

「いいから、話をして来い。いいな。後で趙雲に聞けばわかるんだからな、逃げたら承知しねぇぞ」

「………」

は面白くないような表情をしているが、馬超も短気なようでこめかみがピクピクしていたのでは仕方なく従う。

使用人に言って、部屋まで案内してもらう。
軽く扉をノックする。
中から聞こえた趙雲の返事。

「………」

殿」

顔を覗かせたに趙雲は笑みを浮かべる。

殿、どうぞ入ってください」

「………」

趙雲は寝台で上体を起こしている。

殿…あの…?」

「何か用?」

趙雲の笑みが少し引きつる。
馬超はになんて伝えたのだろうか?
の今の言葉には刺々しさを感じるのだが。

「あのですね…」

出来れば威圧してくるのは止めて欲しいのだが。

(馬超殿、余計な事を言ったのではないのでしょうね…)

でも謝らなければ。
自分の身勝手な考えでを怒らせたのは事実なのだから。
趙雲は寝台から降りての前に立つ。

少しふらつくのは気のせいか。

殿、申し訳ありませんでした」

「え」

趙雲はに向かって頭を下げる。
それにはも驚いた。

「私が不用意な発言をしたために、貴女や美咲殿にまで失礼な事を言った。それをちゃんと謝りたかった」

「趙雲」

「美咲殿が自ら望んだ事ではないのに、私はそれを自ら望もうとした。それを思った自分が恥ずかしいです」

「…あ、その」

「もう二度とあのような事は考えません」

「もういいよ。趙雲、頭上げてよ〜」

殿」

「わかってくれたならいいよ。だから、もう頭上げてよ〜趙雲寝てないとダメなんでしょう」

はさっきまでの態度とは一転してオロオロしている。
姜維から趙雲の怪我の具合を聞いていたから余計に心配してしまうのだ。

「もう寝てていいから」

「あ、すみません」

趙雲がやっと頭を上げたのでは息を吐く。
だが、趙雲は少しバランスを崩した。

「あ!」

趙雲が倒れそうになるのをは咄嗟に手を出す。
の小さな身体でやっと支えられている感じだ。

「すみません、なんか情けないですね」

「いいよ。それより大丈夫?傷口開いたとかないよね?ね?ね?」

「大丈夫ですよ。少しふらついただけです」

「大丈夫じゃないじゃん!もう!無理しないでよ!」

「あはは、また怒られてしまいましたね」

「笑い事じゃなーい!うわっ」

一人では支えきれずにそのまま後ろに倒れこんでしまう。

「痛い…」

「すみません、殿」

「いい。私は平気だから」

趙雲はゆっくりと身体を起こす。
一瞬だが、趙雲の顔が間近に見えたのでは照れてしまう。
端正な顔立ちと言う言葉がパッと浮かぶほど綺麗な顔をしている趙雲。

「本当に申し訳ありませんでした」

「あ、ううん。いいよ、傷口が開いたりとかしてないよね?」

「平気ですよ。少し体力が落ちてしまったようで恥ずかしいですね」

趙雲は寝台に腰を下ろす。
も軽く服を払いながら立ち上がる。

「あ、そうだ、殿。これを」

趙雲は枕元に置いてあった白い包みをに渡す。

「なに?…あ…」

が包みを開けると中身は趙雲に返した叔母の簪だった。

「貴女にお渡ししようと思いまして」

「え、でも…これはさ」

「私が持つより貴女が持っていたほうが良いでしょう」

「でも」

「私はもう大丈夫ですよ」

「趙雲…」

今のにはこれを素直に受け取る気がなかった。
叔母と趙雲とのことを知る以前ならきっと、普通にこれを使っていたかもしれない。
でも、今は使えない。
二人の大切な想いが詰まっているだろうし。

「ごめん。私、これは受け取れないよ」

殿」

は簪を趙雲へと返す。

「趙雲が持ってて、ね?私には無理だから…」

「…そうですか」

趙雲の顔が少し沈んでいるかのように見える。

「ごめん……じゃ、じゃあ私はこれで帰るね。ゆっくり休んでね」

殿」

「じゃあ、お大事にね」

逃げるかのようには趙雲の部屋を出ようとする。

「あの殿!」

「ん?なに?」

は振り返る。

「しばらくは外に出られそうにありませんから、たまに話し相手になってくれませんか?」

「…うん、いいよ。私でよければね」

「ありがとうございます、殿」

「じゃあ、また来るね」

「はい、お気をつけて」

趙雲に手を振られて見送られた。
自分にもようやく自然に笑ってもらえたと思うとはなんだか嬉しかった。

でも同時に少し切なさが残った。
叔母の簪を趙雲へ返した時。
本当は素直に貰うべきだったのだろうかと悩む。

その時に見せた趙雲の表情にバツを悪く感じてしまう。

これはいったいなんだろうか?



***



「へぇ、じゃあ趙雲殿と仲直りできたんだ。良かったじゃないか」

「仲直りって…そうかな?」

「そうだよ。きっとね、趙雲殿を平手打ちできるなんてぐらいだね」

「あのねぇ」

屋敷に戻ると姜維が戻っていた。
なので、先ほどのことを話した。

「これで僕も一安心だなぁ。二人が仲良くしてくれると嬉しいしね」

笑みを浮かべる姜維。
姜維にとって趙雲は尊敬できる人で憧れの人だという。
その趙雲とがようやく仲直りできた事に本当に喜んでいるようだ。

間に挟まれて大変だったのだろう。

「でもさ、叔母さんの簪受け取るべきだったのかな…それがちょっとね」

はアレがどういう物か考えて言ったわけだし、気にすることもないとも思うけどね」

「まぁね」

「趙雲殿がそれでもって言うなら、その時に考えなよ。でも無理強いはする人じゃないからね、趙雲殿は」

「そうだね」

姜維に言われても深く考えるのは止めた。



その晩夢を見た。

馬に跨りどこかへ向かっている夢。
自分ひとりじゃ乗れないからと、誰かと一緒に、その誰かに乗せてもらい遠くへ行く夢。

『       』

『       』

その誰かはわからない。
顔が良く見えない。
相手が何を言っているのか聞こえない。
自分の声もでない。
でも別に不快感や焦る気持ちはない。
ただ、この人と一緒でどこか安心してられる。

『----殿』

ようやく見えた。
それは趙雲だった。
あぁ、こんなに優しく笑ってくれるのだと、自分も笑いかけたくなる。

でも

『美咲殿』

あ…

それはに向かって笑いかけられたものではなかった。
そう思ったらスッと辺りが暗くなって、何も見えなくなった。
一人ぼっちになってしまった。

「……!?」

そこでは目を覚ました。

「なんつー夢だっての……」

ゆっくりと上体を起こし辺りを見回す。
まだ外は薄暗い。

「嫌な目覚めだなぁ。意味わかんないし…はぁ」

はため息を吐く。
このまま起きるのが癪だったし、まだ夜明け前なようなのでもう一度布団に包まった。

「どうせなら、もっといい夢で目覚めたいね…」

そう呟いて再び目を閉じた。

………
………
………

「もう!いつまで寝ている気なんだい!?」

突然バッと掛け布団を剥ぎ取られてしまった。

「なに?なに?」

はまぶたを擦りながら起き上がる。
鎖骨の辺りを掻いたりと、まだ意識がはっきりしていないようだ。

…」

はぁ、と姜維がため息をつく。
手には剥ぎ取った掛け布団が。

「ん?姜維〜?おはよう」

「あのね、もう昼前だよ?寝過ぎだよ、寝過ぎ!」

「そうなん?…あ、そっかぁ二度寝しちゃったからね…」

「ほら、顔を洗ってきなよ。しょうがないなぁ」

「うん」

ぼーっとしながら洗顔しに向かう
その後姿を見てもう一度姜維はため息を吐く。

「色気ないね…は…」

これを馬超あたりに言えばきっと笑い話になって、をからかうだろうと想像がついた。
なので、後が煩いので止めておこう。
これは誰にも言わないで内緒にしておこうと姜維はどうでもいい隠し事が出来たのだった。

朝餉と言うより昼餉を食べる
向かいで姜維も食べている。
ようやくいつも通りに戻ったようだ。

「まったく、朝僕が声をかけたのも覚えてないんでしょ?」

「…覚えてないね」

「もう、起きなよって声をかけたら、は『うーん、起きる』って言ったんだよ」

「へぇ」

「あのね。まったく…あ、でも珍しいね。いつもはちゃんと起きるのに」

「ん?ん〜なんか変な夢見て目覚め悪くてさぁ、それで悔しいからもう一回寝てみた」

「悔しいからって」

「朝は気持ちよく起きたいじゃん」

「でも結局起こされているから、気持ちよい目覚めではないよね」

「あはは、そだね…まったくだ」

「で、午後はどうするの?暇なら趙雲殿の所へ行ってみれば」

あ、ちょっと夢の影響で行きたくないとか思った
でもそんなことは言えないから適当に頷く。

「良かった。ついでに渡して貰いたい物があるしさ」

「その為に行けってわけじゃないでしょうね」

「大丈夫だよ、重いものじゃないからね」

と、シレッと言う姜維。
こういう場合は大抵軽い物などでてこない。

姜維から渡されたのは林檎だった。
籠に入った数個の林檎。
趙雲へのお見舞いってことだろう。

「これくらいならなんとかなるか…」

はそれを持って趙雲邸へと向かった。
話し相手になってくれと言った趙雲。
からすると別に自分でなくても?と言う気持ちがある。
趙雲は誰からも慕われ好かれているようだから、見舞い客が多くくるだろうに。
に気を使って言ったのだろうか?

「…優しいからね。多分そうだ…そうだ、うん。今日は林檎を届けるだけだものね」

さっきから自分の中で、何かがぐるぐるしていて気持ちがすっとしない。

趙雲の屋敷へ向かうのに理由をいちいち並べている自分。

なんでそんなことを思うのだろうか?

趙雲邸へつくと、先日会った使用人さんがまたも案内をしてくれた。
趙雲が寝ていたら悪いと使用人に尋ねてみるが、趙雲は昼餉を食べ終えた所で起きているそうだ。

嬉しいような残念のような不思議な気持ち。

「こんにちは、趙雲」

「あぁ、いらっしゃい殿」

趙雲は寝台で上体を起こして読書をしていたようだ。
は近くの卓に籠を置く。

「あのね、姜維が趙雲にって…林檎だよ」

「嬉しいですね。すみません、姜維にも礼を言わねば」

「食べる?剥いてあげよっか?」

「では、お願いしましょうか」

餐刀で丁寧に林檎を食べやすい大きさに切って皮を剥く

「はい、どうぞ」

剥いた林檎を皿に載せて趙雲に差し出す。

「お上手ですね、殿は」

「普通だよ、このくらい出来ないとさ」

「あ、美味しいですよ。殿も食べてくださいよ」

「うん」

噛むとシャリっといい音がする。
甘味が口に広がる。
趙雲に林檎の皮を剥いたのを褒められただけなのに、一緒に食べているだけなのに
何故だが、落ち着かない。

「どうかしましたか?」

「え?あ、ううん。なんでもないよ」

こんなに気になるのはきっと今朝見た夢のせいだ。
そうに違いない。

「私が自分でやると、ぼこぼこして変になるのですよ」

「え〜嘘だぁ。趙雲は器用だから何でもできそうって思うけど」

「こればかりは、どうも。同じ刃でも包丁と剣では勝手が違いますね」

照れくさそうに笑う趙雲。
一瞬、息が詰まる

(あ…これだ。この笑顔だぁ…)

夢で見た趙雲の笑顔。
キュッと胸が締め付けられた。



(あれ、なんか変だ…私)



の中でちょっとした想いが出始めていた。








03/12/09UP
11/12/24再UP