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おもうこと
生きているのに、命を無駄にするな! 【6】 城内がとても慌しかった。 先日劉備の元に届いた知らせは、新たな戦を知らせるモノであった。 その為に、皆を集めての軍議が連日行われていた。 趙雲も将軍の一人として当然、軍議に参加しているのだが、どこか精彩を欠いていた。 「大丈夫かよ、アイツ…」 その理由を知っている馬超は心配するも、本人は力なく笑うだけだった。 長引く軍議に途中小休止が入る。 馬超は姜維の隣に腰掛け、話しかける。 「の様子はどうだ?この前は多少落ち込んでいるなとは思ったが」 「の方は大丈夫ですよ。普通です、普通」 「普通って言われてもなぁ」 「心配ならまた会いに行ってやってくださいよ。も喜びますし」 自身、ここへ来た理由は趙雲へ叔母の言葉を伝えるためだと思ったらしいが、 それをなした今でも帰ることが出来ず、姜維の屋敷で生活していた。 「そうだな。行ってみるか」 「は良いとしても、心配なのは趙雲殿ですよ」 軍議の内容は頭に入っているだろうが、いつもの彼らしくないと周りが口にする。 今回の戦は規模からして、趙雲の武が必要なのだ。 果たして、彼はちゃんとできるのだろうが? 「まぁ、気持ちはわからなくはないが、その為に外せとは言えないわな」 「あまり広めたい話でもないですしね」 「時間が解決するって奴か?」 「多分」 出来れば戦など起こらなければ良いのだが… その思いは残念ながら届かなかった。 曹操軍がすでに国境を越えてきているとの事。 至急兵を進めねばならなくなった。 先陣は趙雲と馬超の部隊。 「姜維も行くの?」 「一応ね。だからしばらく一人にさせちゃうけど」 姜維も軍師として部隊に加わる事になった。 姜維は自分の部屋で、装備を整えながらにそう話す。 「ごめんね、こんな時に…」 「なんで姜維が謝るのよ。私は平気だよ…心配なのは趙雲でしょ?」 は自分の伝えた言葉の所為で、趙雲がいつもの彼らしくないと聞いて心配していた。 「趙雲殿には馬超殿もついているし、戦になればいつも通りだと思うけど」 「だといいね」 「うん」 すぐに出立するそうで、とても慌しい。 は趙雲や馬超にも会っておきたかったので、姜維と共に城門へと足を運ぶ。 「馬超!」 馬超はすでに愛馬に跨っていた。 下から聞こえたの声に気づき、馬超は一度馬から降りる。 「なんだじゃないか」 「なんだは酷いなぁ。見送りに来たのに」 「そうか、すまないな。せっかく今度の休みにお前を連れて遠乗りにでもって考えたのにな」 馬超はいつもの口調で話す。 が趙雲に伝えた日に、夜になってからだが馬超が訪ねてきた。 一通り泣いてすっきりした後だったので、は馬超と普通に話が出来た。 『私は大丈夫だよ。心配かけてごめんね』 って。 それ以来、馬超はに対して、いつもと変わらぬ態度で接してくれた。 「遠乗りは帰ってきてからで良いよ。それより気をつけてよね」 「おぅ」 馬超とは互いに拳を出して軽く合わせる。 「姜維もだよ。怪我しないでね」 「うん、気をつけるよ」 「帰ってきたら、買い物付き合ってよね」 「えぇ〜それは勘弁して欲しいな」 姜維は笑う。 つられて馬超も笑った。 「それは同感だ。の買い物は長いからな、待つのが面倒だ」 「酷い二人とも!長くないもん」 「長いよなぁ?」 「長いですね」 「もう!」 うん、二人は大丈夫だ。 はそう思った。 馬超たちも逆には大丈夫だと確信する。 後は、アイツだけだ。 自然とも三人とも一人の男へ視線を移した。 その先で趙雲が部下に指示を出している。 「……大丈夫だよね?趙雲」 「だと思うが…」 「見た感じはいつもと変わらずのようですけど…」 三人の視線に気づいたのか、趙雲がこっちを見た。 けど、近寄る事はなく、すぐに視線をそらす。 「なんだ、あの態度は」 馬超は片眉を上げる。 「私がいるからかな…」 じゃなければ馬超たちには普通に話すだろうし。 「…」 姜維が心配そうに顔を覗かせる。 は軽く手を振って笑う。 「平気。私は大丈夫だから、ね?」 「お前、強いな」 馬超がの頭を撫でる。 「そうかな?普通だよ」 「その普通っていうのが結構大変だと思うぜ?俺は」 「ありがと」 「あ、そろそろ出立みたいですね」 劉備らが兵士たちの前に現れる。 は二人に手を振ってその場を離れる。 略式だが、出陣式みたいのがあるらしい。 劉備の言葉に兵士たちは喊声を上げ出立していくのだった。 馬超は趙雲と先頭で並んでいた。 「アンタね、さっきの態度はなんだよ」 「何がです?」 趙雲は馬超の方を向く事無く答える。 それが馬超の癇に障る。 「を無視するのは止めろ。アイツが悪いわけじゃないだろ」 「少し距離を置きたいと思っただけです」 「同じだろ」 「そうでしょうか」 「だって苦しい思いしたんだぞ」 馬超は馬上から自分の槍の柄で趙雲の頭を軽く小突いた。 「そればかりか、アンタの事心配しているんだぞ、アイツは…果報者め」 「………」 趙雲はキュッと手綱を握る手を強める。 「今はそんな事考える時ではないでしょう…」 「はぁ、早く戦終わらせての前にアンタを引っ張っていくからな」 趙雲の態度が面白くない馬超はそう言って、少し趙雲との距離をとった。 『叔母さんは!趙雲に私は幸せでしたと伝えて欲しいって…私に言ったんだから!』 は伝えた言葉は、今の趙雲にはどうも反応できないでいた。 それでも、あの簪だけはしっかりと今も持っている。 懐に・・・ 「今は、まだ…何も言えないですよ」 が悪いわけじゃない。 それはわかるが、わかるが…気持ちが追いつかない。 この戦、何事も起きなければ良いのだが。 *** 「はぁ・・・今日で一ヶ月だよ〜どうなってるのかなぁ」 姜維たちが出立してから一ヶ月が経とうとしていた。 戦地からの伝令では、何度か小規模な戦闘があったらしい。 それでも、主だった武将たちには怪我もないようでは安堵していた。 「友だちが戦争に行くって嫌な気持ちだよなぁ…TVや映画とはやっぱり違うし」 庭へと伝わる石段へ腰掛、は脚をぶらぶらさせていた。 暇でしょうがない。 たまに、関平たちから話しを聞く程度で、城へもあまり行くことはない。 「早く帰ってこないかなぁ」 帰ってきたら、馬超と遠乗り行こう。姜維と買い物に行こう。 趙雲と。 趙雲と、少しでも良いからまた話ができたらいいなぁ… 「殿!いますか!?」 「ん?あー関平君、どうしたの?」 急いで馬で走ってきたらしい関平。 は首を傾げる。 「帰ってきましたよ、馬超殿たちが」 「本当!?」 「えぇ。もっと早くお伝えできれば良かったのですが。すみません、直前で」 「そんな事ないって。教えてくれてありがとう。そんなに急ぐ事もないのに」 「いえ、そんな」 「それで、みんな元気だよね?」 「あ…えっと…」 の問いに関平は口篭る。 「なに?なんかあったの?」 「その…趙雲殿が負傷されていまして」 「え!?趙雲が?酷いの?」 「…とりあえず、行きましょう。説明しますから」 「うん」 関平と共に皆がいるであろう場所へ向かった。 城では残務処理の為か一部の人間は大忙しのようであった。 そこで姜維を見つけた。 「姜維!」 「?あれ、!」 「お帰り!」 姜維に抱きつく。 人前だったので、姜維は少し照れてしまう。 「た、ただいま。あ、関平殿が連れてきたのですか」 「えぇ」 「趙雲が怪我をしたって聞いたけど」 「え?あ…うん」 やはり本当か。 「そんなに酷いの?」 「うん…趙雲殿らしくない負傷だよ」 「それで趙雲殿は?」 「すでに屋敷の方へ。ゆっくり休むよう殿に言われまして」 「そうですか、心配ですね」 「えぇ」 姜維と関平は気持ちが少し沈んでしまう。 趙雲は負け戦もしたことはあるが、決して相手に隙を見せる事などない。 兵士たちを無事に帰還させるという事をやってのけるほどの人物なのだから。 「あ、私はこれで失礼します。父上に用がありますので。また後ほど」 関平は姜維に軽く頭を下げる。 後ほどと言うのは、夜行う宴の事だろう。 「」 「え?」 「後で趙雲殿のお見舞いに行こうか?」 「………」 「どうしたの?」 「私が行っても平気かな」 「当たり前だろ」 「………」 「後で行こうね。馬超殿は今行っているしさ」 「……うん」 趙雲らしからぬ負傷と聞いて、戦の前のあの出来事が趙雲を負傷させる原因ではないだろうか? はそう考えてしまう。 戦が起こると知っていたら、あの時伝えるべきではなかった。 けど、そんなのは今更考えてもしょうがないわけだし。 一般人のに戦が起こる気配なんてわかるはずもない。 「大丈夫だよ、」 姜維はポンポンと軽くの背を叩いた。 にっこり笑う姜維にも笑う。 だが、結局その日は趙雲の見舞いに行く事は出来なかった。 戦から戻ったばかりだから少し落ち着いてからの方がいいと、馬超から言われたからだった。 それから数日後。 趙雲はほとんど毎日寝台の上で過ごしているらしい。 起き上がるのが苦痛なほどの負傷らしい。 話を聞いて、は行くのを躊躇うが、馬超と姜維が自分たちも一緒だからと言い こうして、趙雲の私邸へと来てしまった。 「趙雲、起きているか?」 馬超が部屋の扉を開けると、趙雲は身体を起こしていた。 「馬超殿…姜維も」 …は… は部屋に入ろうとしないで廊下にいる。 無理やり引っ張ってもいいのだが、怪我人のそばで騒ぐのは良くないからと 二人は我慢する。 「どうだ、調子は?まぁ、アレだけの酷い傷だからな、調子が良いって事もないよな」 「…えぇ、まぁ…」 は壁に背を着けたまま、話を聞いている。 アレだけの酷い傷。 自分の所為ではないと、言われたもののなんとなく気落ちしてしまう。 原因の一つではないかと思うわけで。 「なぁ、そろそろ話して欲しいのだけどな」 「何をです?」 「アンタ、わざと負傷しただろ?」 「………」 「馬超殿!?」 姜維には初耳だったらしい。 「座りませんか?お二人とも」 趙雲が座るよう薦める。 「負傷するつもりはありませんでしたよ」 「そうですよね」 姜維は胸を撫で下ろす。 けど、馬超は納得してないようだ。 「あの時」 馬超は趙雲が負傷したときのことを思い出す。 何度目かの曹操軍との衝突。 馬超の部隊が先陣を任されていた。 だが、突然の伏兵部隊により、一時撤退を余儀なくされた。 その時、味方が撤退できるようにと趙雲の部隊が援護していたのだが、趙雲はいつもより突出していた。 そうなると、敵兵士に囲まれるのは必然。 味方は無事に撤退できたものの、趙雲は負傷してしまったのだ。 その後、趙雲は自分の護衛兵や馬超によって助けられたのだが。 「敵が斬りかかってきた時、アンタ一瞬防ぐのを辞めただろ?」 「………」 「他の奴らは気づかなかったかもしれないが、俺はこの目で見たぞ」 「馬超殿」 姜維は馬超が趙雲を睨みつけているのでおろおろしてしまう。 ただでさえ、この話を外で聞いているだろうのことも気になるのに。 「…なぁ、はっきり言えよ」 「…そうですね…」 趙雲は少し俯きそう答えた。 その言葉に馬超は拳をぎゅっと握る。 「死んでもいいと思ったのですよ、実際」 「趙雲殿!?」 「美咲殿が死んだと聞かされて、なんかどうでも良くなって…もう2度と会えないのなら 彼女のいる場所に私から会いに行こうかと…そう…思ったのですよ」 「てめぇ!」 馬超が趙雲に掴みかかろうとした時、かなりの強い力で扉が開いた。 がすごい形相で立っている。 「…」 どうも扉を蹴って開けたらしい。 扉はユラユラ揺れている。 「?」 はつかつかと趙雲のそばまで寄ってきた。 パン! 一瞬の出来事だった、が力強く趙雲の頬を引っ叩いたのだ。 「……殿…」 「馬鹿な事言わないでよ!死んで叔母さんに会いに行こうと思った?ふざけんな! 叔母さんは、死にたくて死んだんじゃないんだからね!もっと生きたかったに決まっているんだから!」 「あ…」 「本当だったら、自分でアンタの所に会いに行きたかったんだから!」 は目に涙を溜めているも、その瞳はとても力強いものだった。 「もっと、やりたい事だってあっただろうに…」 一瞬顔を曇らせるも、すぐにキッと趙雲を睨みつけた。 「生きているのに、命を無駄にするな!」 そう言っては部屋を出て行った。 「あ!!」 姜維が慌てての後を追っていった。 残された趙雲と馬超は。 「………」 趙雲は叩かれた頬を軽く撫でる。 馬超は口の端をあげて笑っていた。 「すげーなアイツ。でもの言う事は正解だな。アイツが言わなきゃ俺がアンタを殴っていたさ」 「馬超殿…」 「目、覚めたか?」 「覚めました」 当然だ。 彼女は自ら望んだわけではない。 きっと、彼女の元に逝ったとしても、同じように怒られる気がする。 馬鹿なことをした。 ここまでしないと、誰かに言われないと気づかなかったとは。 「いつまでも、引きずっているわけにも行きませんね。美咲殿に失礼だ」 「だな」 久しぶりに趙雲の心にスッと風が通り抜けた気がした。 とてもすっきりした。 「まず、何からする?」 「そうですね。身体を治して、殿に謝りますよ」 「身体を治さなくても謝れるだろ?」 「ですね」 趙雲は笑った。 久しぶりに笑えた。 次に会った時にはに謝ろう。 そして、礼を言うのだ。 叱咤してくれたことに。 自分はもう大丈夫だと、天国にいる彼女にもそう伝えようと。 03/11/14UP
11/12/24再UP
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