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おもうこと
微妙な仲良しさんだなぁ… 【3】 が姜維の屋敷で暮らし始めて早一ヶ月がすぎた。 美咲の時もそうだったらしいが、【帰り方】がわからない。 自身は何が何でも早く帰りたいとは思わず、のんびりしたものだった。 たぶん前例があったから。 叔母の美咲が10年前にこの世界にいた。 けど、ここではそれは一年前の話。 時間の流れがずいぶんと違う事がわかったので焦る必要はない。 それに焦った所でどうしようもないないから。 「多分ね、叔母さんの事がなかったら、私は一人であわわしてたよ」 「あわわって。なんか面白いなぁ」 「いや、そうなるって」 姜維とのんびり茶を飲みながらそんな話をしていた。 この一ヶ月間、始めうちはここでの生活に慣れるためにと多少は頑張ったのだが。 「君主様の性格かなぁ…この国の人のんびりしすぎ」 「そうかな」 「だってさ、前例があるとはいえ、どこの骨ともわからん奴をあっさり受け入れてさ」 姜維と馬超に連れられ、城に行った時、君主である劉備に会うことが出来た。 歴史上でも名の知れた人物なのでとても緊張したが、実際会って見て気が抜けた。 『それは大変だったな、殿。我が国には好きなだけいるがいい』 とのお言葉だった。 優しいっちゃ優しいお言葉。 「ものすごい笑顔で言われたからさ、なんか張り詰めてるのも馬鹿らしいって思ったよ」 「それは…褒め言葉なの?」 「わかんない。考えるのもどうでも良いやって感じ。気長にまったりと行くよ」 「まったりね」 「あ、姜維には迷惑かけちゃうけどね」 ニッと口の端をあげて笑む。 その笑顔は何か企んでそうでちょっと怖いなと姜維は思う。 「迷惑だなんて思わないよ。僕は僕で毎日飽きなくていいし」 「それはどうも」 「あ、皆の顔と名前は覚えた?」 「覚えたよ、関羽に張飛に黄忠のおじいちゃんにホウ統さんに魏延ちゃん。孔明さんに月英さん…馬超の従弟の馬岱君に、関羽の息子の関平君、うん、そこそこ覚えてる。大丈夫」 「魏延殿をちゃん付けで呼ぶのやめない?」 「なんで?可愛いじゃん」 「か、かわいいね…本人が怒らなければ良いけど」 「怒る?どうして?私魏延ちゃんと何度か遊んでるし」 「え、えー!!」 「中々いい奴で好きだね」 姜維にはと遊ぶ姿の魏延など思い浮かばない。 悪い人ではないと思っていてもだ。 「ど、どんな事をして、あ、遊ぶかな?」 「秘密でーす」 「え、教えてよ」 「嫌だよーん。魏延ちゃんとの秘密です」 は面白そうに笑いそれ以上は教えてくれなかった。 姜維はブツブツ文句を言うが、ふと気づく。 今、が名前を挙げた人物の中にある人の名前がなかったことに。 「ね、もしかして…趙雲殿とは」 「………」 「逃げているね、趙雲殿から」 視線を泳がすに姜維はため息を吐く。 はどう言う訳か、趙雲には近づこうとしない。 趙雲もそれを知ってか、の前には極力姿を現さない。 「もう!なにがあったのさ」 「な、なんもないっすよ」 「嘘だね。趙雲殿を嫌うなんてどうかしているよ。あんなに素晴らしい人なのに」 「き、嫌ってないよ。ちょっと会いづらいだけだもん」 「本当に嫌ってない?」 「うん、嫌ってない」 「趙雲殿はさ、きっと君から美咲殿のこととか聴きたいと思っているだろうしさ」 あぁ、その質問だけは答えたくない。 はその話になるとどうして良いかわからない。 以前馬超に『美咲は今、どうしている?元気か?』と聴かれた時とりあえず頷いた。 嘘をつきたいわけではないが、なんとなく言いづらい。 馬超たちがの態度にどう思っているかはわからないが、出来れば避けたい話題だ。 もし、がこのまま帰るなら、知らなくてもいいことだと思うし。 「どうしたの?」 「え?なんでないよ」 「そう?あ、これから趙雲殿のところに遊びに行こうか」 「ちょ、ちょっと待って」 「なんで?会いづらいって言うから手助けしてあげようと思ったのだけど」 「あ、あ〜今すぐは止めよう。なんか緊張しちゃう」 「緊張する事ないと思うけど?」 趙雲に会うのに緊張するのではない。 会った時にボロが出てしまわないかと言う緊張だ。 「お願い!今日は止めよう。ほら、向こうだって忙しいかもしれないし」 「休日なのに?」 「予定があるでしょうに」 「ま、別に良いけどさ」 姜維はそれ以上追求することなく飲んでしまった茶を継ぎ足している。 は胸を撫で下ろす。 しかし、安心したのは束の間だった。 「姜維様。馬超殿がお出でになりました」 「あ、そうですか。ではお通ししてください」 馬超が着たのか。 騒がしくなるなぁとはのんきに茶を啜る。 「よっ!邪魔するぜ」 「いらっしゃいませ。馬超殿」 「ほら、来いって」 「ん?」 馬超は無理やり誰かを引っ張ってきたようだ。 「わ、私はいいですよ!馬超殿」 「あれ、趙雲殿?」 「ぶっ!」 「汚ねぇな、…吹くなよ」 馬超が趙雲を連れてきたのだ。 は名前を聞いて茶を吹いてしまった。 「どうしました?お二人で」 「や、やぁ姜維。じゃあ私はこれで…」 「待てって。な?こいつさっきからこの調子なんだぜ」 「は?どうかしたのですか、趙雲殿」 馬超は趙雲をガッと腕で首を掴まれ逃げられないようにしている。 趙雲は乾いた笑いを浮かべている。 「がどうしているか、見に行こうって言っても『私はいいです』なんて言ってよ」 の肩がびくりと動いた。 「アンタがそんなじゃだって会いづらいだろうが」 「はぁ…」 趙雲は困ったように頭を掻く。 趙雲は趙雲なりに気を使っているのだ。 馬超と姜維。 二人も知らない、最初の出会いのことを。 「僕らも趙雲殿の所へ遊びにでも行こうかと話していたのですよ」 「へぇ、ちょうど良かったじゃん」 「ね?」 「え、え、あ、うん。そ、そうだね」 趙雲の顔を見ては自分の顔に熱が帯びたのを感じた。 口元が引きつってしまう。 叔母の事があるから…いや、実はそんな事よりも、あの事を気にしてしまい。 趙雲と顔を会わせるのが恥ずかしかったのだ。 「あ、あはあはは…」 顔を真っ赤にして笑うに、馬超が吹き出す。 「くっ、な、なんだその顔は!」 「、どうしたのさ」 「あは、あはは。わかんにゃい」 「だーはははははっ、面白いぞ、〜」 馬超はいつの間にか趙雲を放し、腹を抱えて笑っている。 (馬超…笑いすぎだっての…もう〜) 自分でもよくわからない。 今の自分はどんな面をしているのやら。 確実なのは一つ。 変な顔なのだ、きっと。 泣きたい気分だ。 「殿」 趙雲がの前に膝を曲げ目線を合わせた。 「その…私が至らなかった所為で不快な気分にさせて申し訳ありませんでした。 私の事を怒っても良いのですよ。気が済むまで殴っても…」 本当に心から詫びているようで趙雲の表情は悲しそうだった。 「ち、違います!」 「殿?」 「さ、最初は確かに驚きましたけど…その…なんかハズ…恥ずかしくって…」 最後の方は小声では俯いてしまう。 「怒るとか、殴るとか別にしませんから」 「ありがとうございます」 「わ、私のほうこそ、ごめんなさい」 何でこの人はこんなに優しくしてくれるのだろうか。 自分が避けていたのに。 趙雲の気持ちもわからなくはないのだ。 それだけ叔母に会いたかったのだろうから。 まだ少し恥ずかしいけど、今度は普通に笑えた。 趙雲も笑ってくれたので嬉しかった。 遅いけど、やっと趙雲とちゃんと出会えた気がする。 「なぁ、何したんだ、アンタ」 「え?…さぁなんでしょうね」 馬超に問われても趙雲は答えず、苦笑する。 そんな事は言えるわけないと。 「?」 「あはは、なんでもないよ」 首を傾げる馬超と姜維に趙雲とはお互い笑いながら言った。 「「秘密です」」 と。 その日は、4人で夕餉を食べた。 沢山話もした。 にとって、一つ心が軽くなったそんな気がした。 ただ、やっぱり。 叔母の事は言えなかった。 「美咲殿は元気に過ごしていますか?」 などと趙雲に聞かれたときに、胸が痛かった。 ただただ、頷くことしか出来なかった。 『叔母さんは元気だよ』 そう言えたら良かったのに… 03/11/05UP
11/12/24再UP
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