おもうこと




ドリーム小説

『いつか会えると、信じていたのに…』





【2】





「とりあえず、仮住まいな」

そう言って馬超がに案内したのは姜維の住む屋敷。

「…え……でも、いいのかな…」

勝手に言っているのは馬超だし。
は姜維の方を見るも、姜維はニコニコ笑んで気にする様子もない。

「構いませんよ。僕以外に数人の者しかし居ませんから、賑やかになって良いです」

「だそうだ」

「はぁ…」

「遠慮はなしです、殿」

姜維はすぐさま使用人に申しつけ、が使用できるよう部屋の準備をさせ、自分らは別の部屋に案内された。

いい香りのする茶に可愛らしい形の菓子。
食べるのが勿体無いとかは思ってしまう。

「早速だけど、。詳しい話聞かせてくれないか」

馬超が茶を少しだけ啜りそう言った。
も食べるのをやめて二人の方に姿勢を正す。

「うん。どこから話せばいいかな?」

「そうだな…ここに来る直前どこにいた?」

「…え…えっとね、両親と、は…は、墓参りしてたの」

「へぇ」

なんとなく、『誰の』とは言えず適当に頷く

「で、誰かに呼ばれたような気がして振り向いたら、こーすごい突風に煽られて目を開けたらここにいたと」

身振りでその様子を表現する

「そこで趙雲殿に会って、その後僕たちに出会ったと」

「うん」

「やっぱ美咲の時と同じみたいだな、似たような感じだったし」

「…そうなんだ…あのさ、叔母さんここにいつ来たの?」

「あぁ…一年前にいきなり現れたかと思ったら、すぐに消えたな」

「え…一年前?」

「そうですよ。一年前に趙雲殿が美咲殿を保護して、しばらく趙雲殿の元にいたのですが、ある日忽然といなくなってしまいまして」

ちょっと待て。
は思い出す。
1年前の叔母は確か体調を崩して入院していて、毎日のようにや両親らが見舞いに行ったのだ。
外出なんてできるはずもなく、まして短期間とはいえ叔母が失踪したなど聞いたこともない。

「ねぇ、趙雲って人…叔母さんとどんな関係だったの?」

「おい、そんな野暮なこと聞くなよ〜」

馬超は苦笑いしてしまう。

「さっきの態度見たろ?アイツ、美咲に惚れていたんだ…そうだな、多分美咲もだと思うけどな」

「そっか…どうしようかな…」

叔母と恋仲だった趙雲。
叔母と再会できるのを待っていたのであろうと先ほどの態度で想像がつく。

「けど、一年前っていうのは…なんか変な感じ」

叔母は変わった話をよくしてくれたが、趙雲のことやこの成都のことは何一つ言ってない…気がする。

「変な感じってなぜだ?」

馬超が問う。

「え、だって、叔母さん一年前は病気で入院してたんだよ。ほとんど外出なんてできなかったんだから」

「病気、だったのですか?美咲殿は」

「う、うん」

「俺らの前じゃ元気に見えたけどな」

「同じ年頃の女性に比べれば大人しい感じはしましたけど」

その後、馬超たちからは叔母に対して『意外だ』と言う言葉が何度も出てきた。
ただ、この人たちにも叔母は好かれていたのだと話を聞いていて良くわかった。

「で、美咲は今どうしてるんだ?病気も治ったのか?」

(来た…聞かれたくない質問が…)

なんて答えるべきだろうが。
叔母はすでに2ヶ月前に他界してしまっている。

「もう少し大人だったら俺好みだけどな」

「馬超殿!失礼ですよ」

「大人っぽい?…叔母さんって馬超たちから見て子供っぽいの?」

は質問に答えるよりも逆に聞き返す。
は一人の女性として叔母に憧れていた。
清楚な大人な女性だった美咲。
だから馬超の言葉に疑問が出る。

「あ?子供っぽいって言うか、俺らより年下だったし」

「えーーー!!」

「な、なんだよ急に!」

(この人たち、若そうに見えておっさんなの?だって、だって叔母さんって〜)

美咲は28歳と言う若さでこの世を去ったのだ。
馬超たちの言うとおりなら、美咲は、一年前は27のはずだが?

「きょ、姜維よりも年下なの?」

「え、そうですよ」

(姜維って若そうに見えて三十路?)

は二人を凝視してしまう。
見られている二人はなんとなくあまりいい気分はしない。

殿、なんですか?」

「俺ら変なこと言ったかよ」

「はぁ、二人とも若作りなんだねぇ…叔母さんより年上だとは思わなかった」

「わ、若作りって」

「そんなことしてねぇよ、馬鹿」

「えぇ?だって、叔母さんより年上なんでしょ?だとしたら30くらいかな?って」

30歳って言葉に馬超が唖然とした。
姜維も顔が引きつっている。
少なくとも二人とも年相応に見られるのだが…

「お、俺はまだ21だ」

「僕だって!まだ19ですよ!」

「へ?」

「俺のどこが30に見えるんだよ!関羽殿や張飛殿を見てそう言うのならともかく…」

馬超は一気に茶を飲み干す。
かなりショックだったようだ。

「僕…そんなのおじさんに見えるのでしょうか…おじさん扱いって結構堪えますね…」

姜維はぶつぶつ呟いている。

「だ、だって馬超たちが、叔母さんは自分たちより年下って言ったじゃん…叔母さん27歳だよ」

「「はぁ!?」」

一瞬時が止まるというのはこんな時のようだ。
なんか知らないが間が空いた。

「美咲が27〜?どう見てもお前と変わらない感じだぞ」

「ぼ、僕も以前聞いた時には美咲殿は17歳になったばかりだと」

「嘘」

どうやら、ここと自分のいた世界では時間の流れが違うようなことにようやく気づいた。
叔母がこの世界にいたのは10年前だ。
でも、ここではそれは1年前の出来事だ。

「時間の流れが違っている…じゃあ…あ!」

は叔母が言っていたことを思い出す。



『ちょうど、今のぐらいの頃にその人に出会ったのよ。ほんの少しの時間だけどね』



話がの中で繋がってきた。
あの空想話はここでの話だ。
その時に出会ったのが趙雲で叔母にしてみれば10年も時間は過ぎていたが、趙雲には1年程度なのだ。

?」

「あ、ううん。私の中では話は繋がったよ、確実にね」

「そうか」

「でもさ、私これからどうすればいいのかな?なんとなく、趙雲には会いづらいのだけどさ」

ぽりぽりと頬を掻く


『美咲殿、また会えると信じていました』


あの時の趙雲の顔が思い出される。
やっと会えた愛しい人(実際は違うが)
今までの想いが抑えきれなくなったのだろうなと思う。
じゃなきゃ

「キスなんかするもんか…」

カーット顔が赤くなるのがわかった。
よくよく考えれば、あれはにとってかなりヤバイ。

(うわぁ思い出すだけで恥ずかしいよぉ)

パタパタと手で仰ぐ

「どうしました?殿」

「な、なんでもないよ、あはは」

「しばらくは、さっき言ったとおりここにいればいいさ。そのうち何とかなるだろ」

「なんとかって…」

「実際、俺らにはどうすることもできねぇしよ。美咲の時みたくそのうち帰れるさ」

馬超の言うとおり、自分にはどうすることもできないのだ。
だったら、普通に過ごすしかない。



***



が現れた翌日…

「はぁ・・・」

趙雲は一人、河原にいた。
何をするわけでもなく、その場に腰を下ろしていた。

「…美咲殿…」

自分が愛した女性。
今でもその想いは変わらない、けれど自分の前に現れたのはその女性と同じ顔をした女性だった。


『離してってば!』


日と間違いとは言え、同じ顔で拒絶されると胸が痛んだ。

…か。美咲殿と同じ顔をした…」

何の意味があって彼女が自分の前に現れたのかわからない。

「彼女はいったい…」

美咲と関係があるのか考えてしまう。
しかし、今の趙雲にはそれ以上に美咲を想うだけでのことはそれ以上考え込まなかった。

『約束してください…もう一度、もう一度必ず帰ってきてくれると』

『趙雲さん…』

『再び、貴女に会えると私は信じています』

『私は』

『必ず会えます!その時は貴女を私の…』

それ以上は伝えることができなかった。
なぜなら彼女は消えてしまったから。

別れ際にしか言えなかった言葉。
もっと早くに伝えておけば良かった。
そうすれば彼女を手放すこともなかったし、今、こんな想いをせずにすんだかもしれない。

「いや、今となっては…でも」

できることなら、もう一度会いたい。

「叶わぬのか…その願いは…」

ごろりとその場に寝転ぶ。
暇さえあると二人で過ごした河原。

思い出がありすぎるのだが、辛くは思えない。
そんな場所。
目を閉じるとそんな思い出が蘇る。

だが、そんな思い出を邪魔されてしまった。

「姜維〜荷物持ってよ〜」

「嫌だよ。そんなに買い込んだのは誰だっけ?しかも僕のお金で」

「だって、こっちの物価なんてしらないもん!重いよ〜腕がもげちゃうよぉ」

「自業自得。自分に荷物くらい、自分で持つ」

姜維と先ほどの少女が歩いているではないか。
しかも、は沢山の荷物を抱えて喚いている。

「もう!馬超はいなくなっちゃうし」

「馬超殿は君の買い物が長いからって先に帰ってしまっただろう?」

「ぶー」

のふくれっつらに笑う姜維だが、ふと辺りを見た時にこっちを見ていた趙雲に気づいた。

「趙雲殿!」

姜維は趙雲に駆け寄る。

「げっ」

は一瞬眉を顰める。
会いたいような、一番会いたくない人に早くに会ってしまったから。
とりあえず、重い荷物をその場に置いて、姜維が戻るのを待つことにした。

「楽しそうだな、姜維」

「そうですか?」

「別に私のところへ来なくても良かっただろうに」

「少し趙雲殿にお伝えしたいこともありましたし」

「私に?」

「はい。あの美咲殿に似ている彼女。殿ですが、しばらく僕の屋敷に留まることになりました。それで…その」

「ん?」

「彼女は美咲殿の姪だそうです」

「姪?…そうか。わざわざ教えてくれてありがとう」

血縁者ならば似ているだろうな。
趙雲はフッと笑う。

殿が待っているぞ、姜維」

「え、あ、はい」

姜維が見れば、は疲れたのかその場に腰を下ろしている。
趙雲は立ち上がって服を軽く払った。

「荷物もちぐらい手伝うぞ」

「え!そんな趙雲殿がすることじゃないですよ」

「でも、見ていて危なっかしいからな。屋敷に着くまで時間がかかるぞ」

二人はの下へ歩き出す。

、趙雲殿が荷物持ってくれるってさ」

「え゛!?」

言われて目を丸くして驚く

「その、先日は申し訳ありませんでした、殿」

「あ、え、えっと…い、いえ…」

にっこり笑う趙雲には上手く顔を合わすことができない。
趙雲は少し不思議に思うが、大量の荷物の方を見て苦笑する。

「ずいぶん買い込んだな」

「生活に必要なものを買いにと思ったら、が余計な物まで買い込んだからですよ」

「よ、余計な物じゃないってば」

「じゃあ行こうか」

趙雲は重そうな荷物を抱えて歩き出した。
姜維もも歩き出す。

姜維は趙雲の隣に並んで歩くが、は姜維の少し後ろを離れて歩く。

「ずいぶん仲良くなったように見えるが」

「え?仲良しですかね?ただお互い堅苦しい態度は止めようってことになって、あはは」

「妹ができたみたいだな」

「妹ですか?そうですかぁ?なんか悪友って感じの方が強いですよ。まだ一日しか一緒にいないのに」

「そんなものさ…時間なんて関係ないだろ」

「趙雲殿…」

話し込んでいるうちに姜維の屋敷に着いた。

「ありがとうございました、趙雲殿」

「いや、いいさ」

「あ、ありがとうございました」

は頭を下げてすぐに屋敷に入ってしまった。
逃げたと言っても可笑しくない。

「ちょっと!!」

「…嫌われているようだな…」

「嫌うなど、最初が最初だったので色々混乱している部分もあるのではないですか?」

「そうかな?…あ!」

「どうしました?」

「い、いや、なんでもない。姜維、私はこれで失礼するよ」

「えー、お茶でも用意しますよ?」

「いい。ちょっと思い出したことがあってな。また次の機会にな」

趙雲は慌てて帰っていった。
その後姿を姜維は首を傾げて見送ったのだった。


(…嫌われるわけだ…私は…)

最初にと出会ったとき、趙雲は彼女と美咲を思いっきり間違えた。
間違えたままで彼女を抱きしめ、口付けまでしてしまったのだ。

「嫌われて当然だな」

自分のしてしまったことに恥ずかしくなり、趙雲は手で顔を覆ってしまう。

さて、これからどうしようか、と趙雲の互いに。








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