おもうこと




ドリーム小説
『再び、貴女に会えると私は信じています』

『私は』

『必ず会えます!その時は貴女を私の…』



【1】



その日はとても蒸し暑かった。
夏らしい夏とでも言うのだろうか?
肌を焼く日差しがとても痛く感じる。

は家族と共に墓参りに来ていた。
墓地にはの家族の姿以外見えずひっそりとしている。

「あの子が亡くなって2ヶ月か…」

母は墓の前で手を合わせながら呟いた。
隣にいた父も黙って頷いた。

「まだ若いのにな」

「でも、あの子幸せそうだったわ」

二人は思い出に浸っているかに見える。
でももそうだった。
この墓に眠っている人物はの大好きな人だから。
両親に比べればその人との思い出は少ない。
それでも共に過ごした時間はとても大切に思える。

の憧れだった、叔母の美咲。

母の妹で母とは10も歳が離れていた。
周りとは少し雰囲気が違った叔母。
いつもどこを見つめているのかは気になっていた。
叔母もを可愛がってくれて、興味深い話をよくしてくれた。

空想の世界とでも言うのだろうか?

信じる信じないは別としては叔母の話を聞くのが好きだった。

『本当にそんな格好いい人いるかな?』

『うふふ、いると言えばいるし、いないかもしれないよ』

『なんか興味あるね、その人』

『とても優しい人よ。そうね、もその人に会えば好きになるかも』

『え?もってことは叔母さん、その人が好きだったの?』

『うふふ、内緒』

『ずるい〜』

、いつかその人に伝えて欲しいな…私は幸せでしたって』

『叔母さん?』

『ちょうど、今のぐらいの頃にその人に出会ったのよ。ほんの少しの時間だけどね』

話の内容から、叔母は昔の恋人と永遠の別れをせねばならなかったらしい。
でも、結果的には本当に永遠に別れてしまったのだが。

「あ、そうだ。、美咲が大事にしていたって物貰ったんだって?」

母がに聞く。

「うん。なんかね、おばあちゃんが私にくれるってさ。叔母さんもそうしてほしいって遺言残してたみたいだし」

はちょうどそれをもっていたので、母に見せる。
四十九日の法要の後形見分けでもらったものだ。

「簪か?」

父は手にとって見る。

「すごく綺麗だな、作りも丁寧で。…どこで手に入れたのだろうな」

「私も初めて見るわ。あの子趣味いいからね」

、大事にするんだぞ」

「わかってるよ」

がいらないなら、私が貰ってあげてもいいけど?」

「やだよ。私がちゃんと大事にします」

ベーっと軽く舌を出す
母はくすりと笑う。

「さて、帰りますか。お父さんたち待ってるわ」

「今夜はお義母さんの上手い飯が食べられるんだな」

「何よ、それ」

「ほら、行くぞ!

両親は軽口を言い合いながら歩き出す。
は簪を一度軽く摩る。

「叔母さん、大事にするからね」

その簪は雪の結晶みたいな飾りがついていて涼しげな感じする。
ちょうど今の季節浴衣でも着てそれをつけたらいい感じだ。
でも、そんなに簡単につける気はないのだが。

軽々しくつけられる気がしないから。
は少し差がついてしまった両親の下へ急いで走り出す。
その時







と背後から声が聞こえた。

「え?」

が振り向いた時、突然の風が吹き荒れは顔を覆った。

「……」

「な、何よ、急に…」

は手を離し、目を開けた。

「あ、あれ?」

急に回りの景色が変わっていた。

「…ここ、どこ?…」

さっきまでは叔母の墓の前にいたのに、今、目の前にはのどかな緑が広がっている。

「なんだっての、いったい???」

まったくもってわからない。
夢でも見ているのだろうか?

「…どうかしましたか?」

誰かが近づいてきた。
はその人にここがどこなのか聞いてみようと振り向いた。

「あの、突然変なこと聞きますけど」

「!?」

声をかけてきたのは長身の青年で、青い鎧を身につけている。
その格好を見ただけでの方が相手を怪しく感じてしまう。
だが、相手のほうがを見て驚いている。

違う。

の顔を見て驚いているのだ。

「み、さき殿?」

「あのぉ、ここどこですか?私なんか知らないけど身に覚えのない所に来ちゃったみたいで」

「美咲殿!」

青年はの言葉など耳に入っていないようだ。
突然を抱きしめた。

「え!ちょ、ちょっと!なにすんのよ!」

「美咲殿、また会えると信じていました」

「はぁ?何言って…美咲?」

青年が誰かと自分を間違えているのはすぐにわかった。
けど、その名前が

「美咲殿、もう離しません。絶対に」

(美咲ってさ…もしかして叔母さんのこと?)

どこにでもあるような名前ではあるとは思う。
だが、そんな偶然があるだろうか?

「美咲殿」

青年はの髪を優しく撫でた後、優しく口付けた。

「離してってば!」

突然のことに驚き、美咲は力いっぱい青年を突き飛ばす。
だが、の力は弱く青年を少し離した程度だった。

「美咲殿、いったい…」

「なによ、突然…」

人を間違えたままキスされて困るのはこっちの方だ。
の目からポロポロと涙が溢れてくる。
青年はその涙に驚きに触れようとするが、はそれを避けて逃げ出した。

「あ!美咲殿!」

呼び止めるが、は止まらず。
それもそうだ、青年は人間違いをしているのだから。



***



「なによ、いきなり…」

は目を擦って乱暴に涙を拭う。
状況がイマイチはっきりしなくて混乱するだけだ。
はそこにしゃがみこんだ。
すると、人の話し声が聞こえる。

「もう、冗談言って僕をからかうのですか?馬超殿」

「冗談じゃねぇよ、本当だって…ん?」

「どうしました?馬超殿」

「あそこ」

「あ!どうしました?大丈夫ですか!?」

現れたのは二人の青年だ。
馬超と呼ばれた方がしゃがみこんでいるを見つけた。
もう一人の青年が急いでに駆け寄った。

「具合でも悪いのですか?」

優しく声をかけてくれた青年には笑って答える。

「別になんでもないです。大丈夫ですから」

「…あ…」

「美咲?」

二人の青年も再ほどの青年と同じ反応をする。
は顔を顰める、またかと。

「美咲殿ではありませんか!戻ってきたのですか?」

「お前、突然いなくなるからよ」

「違います!私は美咲さんではないです!って言います!」

今度ははっきりと違うと言えた。
先ほどの青年とは態度が微妙に違ったから。
言われた方の二人は顔を見合わせる。

「違う?」

「さっきの人もそうですけど、私は美咲という人ではありません。ここがどこなのかもわからないのに」

「え…わからないのですか?」

「そうです。ここどこですか?」

「成都だけど」

「生徒?」

「んーなんか違う、その発音。ここは蜀って国の首都成都だ」

「は?」

は全く意味がわからない。
蜀と言う国の存在すら知らない。
世界地図にそんな国はあったのかと首を傾げてしまう。

「あ、こいつ美咲じゃないみたいだな…意味が通じてないな」

馬超の方はあっさり納得したようだ。

「そうなのですか?えっと…」

です」

殿はもしかして別世界の倭国から来たと言うのですか?」

「別世界の倭国?…そうなの?」

「多分そうだろうな。美咲が以前ここに来たのと同じだと思うぜ」

「だとすれば趙雲殿が…」

「あぁ、ちょっと面倒になりそうだな、あ、俺の名は馬超、字は孟起だ」

「僕は姜維、字は伯約です」

二人の青年は気軽に自己紹介をしてくれた。
なんとまぁ、物分りの良い人たちだとは安堵する。

「あの、さっき会った人も私のこと『美咲殿』って言ってましたけど、そんなに似てますか?」

「あぁ、似ているな。びっくりしたぜ」

「でも良く見れば雰囲気は違いますね。美咲殿はもう少し大人しい感じがしましたし」

「その人の苗字はなんて言うのですか?」

「苗字?」

「あ、えっと姓です」

「確か平松だったか?」

「そうです、平松です」

「…じゃあ…」

は確信した。
この人たちが以前会ったと言う美咲は自分の叔母の美咲だと言うことに。
じゃあ、さっきの青年は…

「美咲殿!」

「あ?趙雲?」

馬超らが振り向くと先ほどの青年が走ってくる。
どうやら、名は趙雲と言うらしい。
は思わず馬超と姜維の背に隠れる。

「美咲殿、何故逃げるのですか?」

「おい、趙雲」

「馬超殿、姜維…そこをどいてくれませんか?」

「ま、待ってください趙雲殿、この人は」

姜維が慌てて前に出て説明しようとするがそれを押しのける趙雲。

「美咲殿」

美咲は馬超の背にしがみ付く。

「おい、、お前な」

「美咲殿、何故?」

趙雲は拒絶され続けていることで悲しみを浮かべる。

「趙雲殿、その方は美咲殿ではありませんよ」

「なに?」

「そうだぜ、こいつはって言う別人だ。ちゃんと見ろ」

?」

はチラッと馬超の背後から顔を覗かせる。

「人違い…なのですか」

はこくりと頷く。
一瞬にして趙雲が項垂れるのがわかった。

「趙雲殿〜」

「あ、いや大丈夫だ…すまない」

趙雲はくるりと背を向け歩き出した。
三人はなんとなくその背中を見送ってしまう。

「…美咲ってさ…多分私の叔母さんだよ」

「え?」

「平松美咲って名前で私に似てるのでしょ?多分、叔母さんだ」

の叔母?」

と美咲が血縁者だとわかると馬超と姜維は更に納得した。

「さて、はこれからどうする?行くあてがないのだろ?」

「あぁ、そうですよ。殿は別世界から来たのですから」

「お前にはまだ聞きたい事が山のようにあるし、話し聞かせてくれるか?」

「うん、私も聞きたいことが沢山あるから」

は馬超たちの後をついて行く。
さて、どうしようか?
叔母が以前話していた想い出の人は多分さっきの趙雲と言う青年だ。

叔母に会いたがっているようだが・・・
美咲は2ヶ月前に亡くなっているのだ。

この事実はまだ言えそうにもない。







03/09/06UP
11/12/24再UP