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空がきれいで心も晴れる。
年に一度しか会えない織姫と牽牛に比べれば 一緒にいられるだけ、私は幸せなのかな? 【5】 ある日… 「あれ、なんですか、それは?」 「あら、さんおはようございます」 「おはようございます、白玲」 が朝起きると、庭で使用人の白玲が何かしているのが目に付いた。 「今日は乞巧奠(きっこうでん)なのですよ」 「乞巧奠ですか・・・今日って7月7日ですよね」 「えぇ。星祭りとも言うのですよ」 白玲から乞巧奠の説明をしてもらった。 乞巧奠は宮廷行事の一つで天帝の娘織姫と牽牛の恋物語にちなんだ星祭。 星をながめ、祭壇に針などをささげて工芸の上達を願うとのこと。 「あ、それって私のところで言う七夕さまですね」 「まぁ、さんの住んでいた所でも同じような行事があるのですね」 「なんで、七夕って言うのかは知らないですけど、笹に紙細工や短冊に願い事を書いてつけるんですよ」 「願い事ですか、楽しそうですね」 「地方によってはその笹の葉飾りも大きなもので綺麗なのもあるのですよ。あ、それで白玲は何をしてるのですか?」 七本の針に五色の糸を通し、むしろをしいて、机を出し酒、肴、果物、菓子が並べてあった。 「織物が上手になるように祈るのですよ。織姫と牽牛にちなんで農耕の発達をも祝うのですよ」 「そう言う意味があるのですか、織姫と彦星に願いを叶えてもらうことしか考えてなかったです」 「うふふ、今夜はご馳走を作りますからね」 白玲は立ち上がって、屋敷の中へと戻っていった。 ―そうか、今日は七夕か… ―織姫と牽牛の恋の物語か… 夜になるのが待ち遠しい、趙雲と一緒にその星祭り一緒にできたらいいなぁとは思った。 「今夜?あぁ早めに帰るつもりだ。は星祭り初めてだろう?特に何をするわけではないが星をながめるものいいものだぞ」 「なんか楽しみですね」 「あぁ、私もだ。じゃあ行ってくる」 「行ってらっしゃい、趙雲様」 趙雲を見送って、自分も時雨亭へと向う。 店でも今夜の星祭りの話で盛り上がった。 の知っている七夕のことに皆が興味を持ったらしい。 それで願いが叶ったならすごいなと。 夕方になって屋敷へ戻るといい匂いが厨房からしてくる。 白玲たちが腕を振るっているのだろう。 は着替えて、一休み。 「来年も、ここにいれたら笹の葉でも用意してみようかな…」 願い事を書いた短冊をつるして。 今願い事があるとすれば、趙雲の側にいたいと願うだろう。 彼はいつまでもここにいればいいと言ったが、実際いつまでいることができるか分からない。 そんな日が来るかと思うと不安になる。 「」 「あれ、姜ちゃん!どうしたの?」 庭から姜維がやってきた。 「ね、今夜は趙雲殿と一緒に過ごせそうかな?」 「え、うん。早めに帰るとは言ってたよ。なんで?」 姜維はどこか嬉しそうである。 何かを待っているようだ。 「え、ほら。星祭りは縁結びの日でもあるんだよ。ね?頑張ってみればも」 「もってことは。姜ちゃんもしかして…」 「あはは、うん。誘ってみたのさ、一緒に星でも見ませんか?って」 「じゃあ上手く行ったんだ。凄いね、姜ちゃん」 「まだわからないよ。も上手く行くといいね。それだけだよ、じゃあ僕行くね」 「うん。頑張ってね、姜ちゃん」 姜維はに嬉しそうに手を振って走っていく。 以前話してくれた、姜維の好きな人。 多分、上手く行くのではないだろうか。 *** 夜、雨も降らず星が綺麗に輝いていた。 年に一度しか会うことができない織姫と牽牛は出会えたのだろうか? は縁側で一人、星をながめていた。 そう、一人で… 夕餉の時間になっても趙雲は帰ってこなかった。 趙雲は蜀の中でも重要な人物だ、色々忙しいのだろう。 この星祭り、乞巧奠は宮廷行事だと白玲は言った。 もしかしたら、城で催し物でもあり帰れないのだろう。 仕方ない事だ。 それでも夕餉は白玲たちがいたから楽しめた。 でも、夜になってそれぞれが星祭りを楽しむ時間になっては独りになってしまった。 「…寂しくないもん…別に…」 ここに来る前は一人で夜を過ごした。 だから平気だ。 そう思いながら星をながめる。 でも、本当は… 「寂しいよ…織姫と牽牛は何で平気なのかな…一年に一度しか会えないのに。変なの…私なんて、今、会えないだけでもこんなに寂しいのに」 妹扱いでもいい。 せめて側にいさせて欲しい。 今夜はそれすらも叶わないのだろうか? 今まで感じたことのない、寂しさが心を占める。 「こんなに好きだったんだ、泣いちゃうくらい」 本気で人を好きになったと自覚する。 趙雲にほんの少し会えないだけで、こんなに泣けてくるのは今日、星祭りの所為だろう。 織姫と牽牛の恋物語。 姜維から聞いた縁結びの話。 焦るつもりがなくとも、心のどこかで焦ってしまったらしい。 だから、寂しさに占拠されてしまうのだ。 大丈夫だろうけど、誰にも泣き顔を見られたくなく膝を抱えて顔を埋める。 「?」 「え、あ、はい!」 ごしごしと涙を拭って顔を上げる。 そこには趙雲が立っていた。 いつ帰ってきたのだろうか? 「あ、お帰りなさい。趙雲様」 「あぁ、ただいま。遅くなってしまった、すまないな。」 「…いえ、別に」 素直に怒れればいいのに、そんなことなどできずは首を振る。 けど、趙雲は薄暗い縁側でもの異変に気づいたようだ。 の隣に腰を下ろす。 「泣いていたのか?」 「な、泣いてません」 「嘘をつくな。ちゃんと証拠も残っている」 趙雲は少し残っていただろうの涙を指で拭った。 「…あ、えっと…」 「殿に捕まってしまって、帰るのが遅くなった。が折角待っていてくれたのにな」 「へ、平気です。白玲たちと楽しくご飯食べましたから」 「でも、今は一人で寂しそうだったぞ」 「…それはですね…」 「誰かが家で待っているというのは良いものだな。がここへ来てから帰るのが楽しみになった」 趙雲はの頭を優しく撫でる。 やはり、妹扱いなのだろう。 でも、側にいれるだけで今は嫌な気はしない。 「ほ、星!綺麗ですね」 はなんだか恥ずかしくなって、話題を変えてみる。 「あぁ、いつもより綺麗に見えるな。は織姫と牽牛の話は知っているか?」 「はい、白玲に聞きました。それに私のいた世界でも同じような話がありましたし」 「そうか」 「一年に一度しか会えないなんて寂しいですね。私じゃ耐え切れないです」 「それでさっき泣いていたのか?」 「ぐっ…趙雲様〜」 「あはは、そうか。には会いたい人がいるようだな」 趙雲は笑っているが、隣のはじっと星を見つめていた。 ―私が会いたかったのは趙雲様なんですよ? と心の中で呟いた。 ………はずだった。 「?」 呟きが声に出ていたらしい。 はカーッと自分の顔が赤くなるのを感じた。 「わ、私、もう寝ます!おやすみなさい!」 は立ち上がって逃げだそうとした。 だが、趙雲がの腕を掴んだ。 「」 「あ、えっと、その…」 恥ずかしさでいっぱいになる。 趙雲に触れられている腕が熱く感じる。 恐る恐る振り返ってみると、趙雲は笑っていた。 それは初めて見る笑みだった。 楽しい時の笑みでもなく、人を馬鹿にするような笑みでもない。 とても穏やかで涼しげで。 でも、胸が痛くなるような切なさを感じる。 「。来年はもっと早くに帰るからな」 「…はい…」 貴方のそばにいてもいいのですか? 私の願い事、夜空に輝く星たちが叶えてくれたのですか? *** ― 妹でもいい。 ― 今はとにかく、貴方のそばにいる。 ― ただ、それだけでいい… *** 星祭りの晩。 趙雲は確かに言った。 『。来年はもっと早くに帰るからな』 と… それだけで、は嬉しくて。 今だろうと、この先だろうと、妹のように思われていようが、趙雲の側にいれるのが嬉しかった。 なぜ、趙雲がそんな風に言ったのはわからない。 あの時、思わず呟いてしまった自分の言葉が聞こえなくとも趙雲はそう言っただろうか? とりあえず、今は現状を願うだけ。 「姜ちゃんは上手く行ったの?」 「え、僕?…どうかな?ちょっと肩透かし食らったよ」 時雨亭で働いている。 昼食をとりに来た姜維。 店の方も一段楽したので、店主に休憩して言いと言われた。 なので、二人でお昼を食べていたのだが。 「なんで?」 星祭りの晩、姜維は好きな女性を誘ったのだが 「その他大勢もいたのさ。二人きりじゃなくてね…はぁ…」 「あ、それはご愁傷様でした」 中々上手く行かないものだと、姜維は溜息を吐く。 「で、は?その様子だといい感じだけど?」 「べ、別に何もないもん」 「?嘘はいけないよ。それぐらい僕にだってわかるからね」 「特にこれと言っては…ただ、来年は早く帰るって、趙雲様が」 「良かったじゃないか」 姜維は自分のことのように笑ってくれた。 「来年はってことはさ、来年も一緒に星祭りができるってことだね」 「そうだよね」 「なんか効果出てるみたいだね、いいなぁ」 「姜ちゃんもそのうちいい事あるよ、ね?」 「だといいけど。じゃ、僕、そろそろ行くね」 姜維は席を立ち、硬貨を卓に置く。 「ごちそうさまでした。また来ますね」 「はい、ありがとうございました」 姜維は店を出て行く。 は慌てて姜維を追って 「姜ちゃん!」 「ん?なに?」 「姜ちゃん、焦りは駄目だって、私に言ったでしょ?ね、姜ちゃんも焦らず行こうよ」 はわざわざそれを言う為に追いかけてくれたのか。 姜維は笑って頷く。 「そうだね。焦らず行くよ。ありがとう」 に手を振って姜維は城へと戻って行った。 *** あれから順調すぎる生活。 以前は姜維と雲緑と遊びに行くことが多かったが、最近では趙雲が休みの時に色々な場所へと連れて行ってくれる。 休みを家で過ごす事の多くなった趙雲。 一緒にすごせては幸せに感じた。 この世界へ来て、すでに半年は経つだろうか? そんなある日の出来事だった。 「見合い?誰が?」 「趙雲」 「嘘!?」 いつものように雲緑が遊びに来ていた。 そこで聞いた城内に広まっていたある噂。 「なんかね、言いだしっぺは殿みたいよ〜」 「お見合い、趙雲様が」 「どこぞの国の姫だとか、この国の重鎮の娘だとか、上がる名前は名家の息女ばっかり」 「……本当に?」 「兄上の耳に入ってるくらいだから、本当じゃないの?私、兄上から聞いたんだもん」 雲緑はどうでもいい様である。 それもそのはず、雲緑は半年の間に別の彼氏ができていた。 それは、単に趙雲を厭きたとかではなく、しっかり彼に告白し振られてしまったのだ。 しばらくは落ち込んでいた雲緑だったが、元々行動力のある雲緑。 彼女らしく、前向きに歩いたのだ。 「どうするの、」 「どうするって…お見合いじゃ、私何もできないよ」 劉備がまとめ様としているなら尚更だ。 「でも、このままじゃ趙雲は他の人のものだよ?嫌でしょ?」 「い…嫌だけど…」 俯く。 「思い切って告白してみれば?趙雲だって案外待ってるかもしれないし」 「そ、そんな事…」 雲緑はの態度に少し冷めた目で見てしまう。 趙雲に振られて以来、改めて二人を見てると少なくとも趙雲もを嫌ってはいないとわかる。 自分には向けられなかった視線がには向けられていたから。 趙雲に振られても、その相手が、趙雲の想う相手がならば仕方ないと思えていたし。 何より、以前感じた。 ならばいいな。と言うのが雲緑にはあったから。 「そろそろかな…」 ポツリとが呟いた。 その言葉に反応する雲緑。 雲緑がを見ると、は空を見上げていた。 「?」 何がそろそろなのかは、雲緑には意味がわからず、に聞き返そうとしたが の表情はとても寂しそうで、今にも泣きそうな顔をしていた。 それを見ての考えてる事は雲緑にも伝わった。 「、あんた…私はそんなの許さないからね」 キッとを睨みつける。 けど、は首を振り。 「思っただけ。だから、今は大丈夫だから」 「…」 の考えている事はなんだろうか。 雲緑が思ったとおりの事なのだろうが?それはが語らない限りわからない。 *** 「最近、の様子が変なのですよ?趙雲殿」 姜維が趙雲にそう、話を切り出した。 「が?」 趙雲には思い当たる節がないらしい。 今は馬超も加えて3人でお茶を飲んでいた。 「大方、お前の見合い話の事でも気にしてるんだろ?」 「あれは」 「殿が勝手に言ってるだけか?だったらちゃんと断っておけよ。後でどうなっても知らないぜ」 「はぁ…」 数日前から、劉備が趙雲に見合いを勧めていた。 趙雲自身は見合いをする気はまったくない。 だから、断った。 つもりだ。 だが、この君主は聞いているのか、いないのか? 顔を会わせる度にしつこく勧めてくる。 「今のままでは話が勝手に進んでしまいますよ、趙雲殿」 姜維が心配そうに言う。 姜維はの気持ちを知ってるからこそ、そう言う風に言うのだろう。 「そうだな。ちゃんと言わないとな」 「で、のどこが変だって?」 馬超は何か起こりそうな予感に笑みを浮かべる。 半年と言う時間の中、趙雲との仲は恋人らしい進展はない。 それは当然なのだが、雲緑らから聞くと、それはもう恋人同士じゃないのが不思議なくらいな雰囲気だそうだ。 寧ろ、姜維との方が親密そうに見えてしまう。 (これをきっかけに動きがあるといいんだけどな) 「変って言うか、なんて言えばいいのですかね…なにを考えているのかわからないのですよ」 「なんだそりゃ?」 「僕も上手く言えないのですよ。笑ってるけど笑ってないような…あ〜すみません。上手く言えないです」 姜維は頭をガシガシ髪乱す。 「だってよ、趙雲。そう見えるのか?」 「いえ、私は特にそう感じた事はないですよ」 (こいつが鈍すぎなのか?) やはり、まだ何も変わらずなのだろうか? しかし、趙雲はの様子が変だと言う事を心配し始めたらしくじっと湯飲みを持つ手を見つめていた。 「ま、頑張れよ。趙雲」 「え?あ、はい」 少し照れながら笑う趙雲に馬超は満足そうだった。 とすごし始めてから柔らかく笑うようになっていたから。 いつまでも趙雲のこの笑みがあり続ける事を願う馬超だった。 *** 「そうですねぇ。私どもは聞いてませぬし。ただの噂だと思いますけど」 「噂かな?だって劉備様が言ってるらしいよ?」 が庭掃除をしていた白玲と話していた。 内容からして雲緑が言っていた趙雲の見合い話についてだろう。 「でもさ、趙雲様が結婚したら私ここにいられないなぁ」 「さん、それは」 白玲は箒を動かす手を止めてしまう。 「そんな、趙雲様がご結婚なさったからと言って、さんがここをお出になる理由にはなりませんよ」 「うー、皆はよくても私は嫌だし…」 趙雲が帰宅すると、庭先から聞こえたの声に足が止まる。 噂の見合いのことをにちゃんと説明しようと思い近づこうとしたが、思わず隠れてしまった。 (なんだ?) 二人は趙雲が帰宅したことに気づいてなかった。 話は進んでいく。 「だって、奥さんになる人だって、良い気はしないでしょ?知らない子が住んでるし」 「さんは、趙雲様のご家族でしょう?別にお気になりませんよ」 「そうかな?血の繋がりがある妹ならともかく、私はそうじゃないでしょ?」 自分は見合いなどする気もないし、を追い出す気もない。 なのに、の中では別離を考えているらしい。 趙雲の心に波がうねり始める。 (は何を言ってるのだ…私は別に) グッと拳を握り締めてしまう。 「だからね、早めにここ出ようかな…って思ってる」 「え?」 「いつかここを出なくちゃいけない気がして、だから時雨亭で働いてお金貯めて。 私一人で暮らす分にはそんなにお金もかからないし…最近ね、物件も探したりしてたの」 「さん、それは」 もう聞きたくなかった。 いてもたってもいられなくなった。 趙雲はの前に飛び出していた。 「!」 ぐっとの腕を掴む趙雲。 突然では驚くが、すぐに趙雲から視線を外してしまう。 「あ、失礼します」 白玲は一礼して小走りに去っていく。 残された二人。 「今の話は何だ?」 「私が今、思っていることです」 「私は見合いなどしないし、殿にも断った。をここから出す気もない」 「………」 趙雲の言葉から彼の怒気を感じる。 は何も答えない。 「何故だ!?何故そう思う。私は以前にも言った、気にすることなくここにいればいいと」 「………」 「!」 「それは…」 は言葉を捜していた。 ここで趙雲に自分の気持ちを伝えればわかってもらえるのか? 好きだから、そばにいられない。 と言う事を。 趙雲が自分以外の女性を娶れば、必然的にそばにいる事はできない。 趙雲の家族として残る事になったとして、誰が好きな人が他の女性と仲睦まじい姿を見て平然とできようか? そんなのは嫌だ。 それを馬超に話したことがある。 その時、馬超は笑って、側室にでもしてもらえば?などと言った。 彼は深く考えずに答えたのだろう。 実際、この世界では一夫多妻は認められていて当たり前の事だった。 けれど、それはこの世界での話。 のいた世界ではそんなのは昔の話。 そんな考えは受ける気もない。 頭の中をぐるぐる糸が絡まり始める。 だが、先に口を開いたのは趙雲で、あまり聞きたくない言葉だった。 「私はを守っていく義務があると思っている」 (義務?) なんか、その言葉での中の何かが割れた。 「最初に私がここへ連れてきた。だから最後まで責任は取るつもりだ」 (だから、そばに置いてくれるの?そんな義務とかなんて言わないでよ…) 「城で嫌な思いをさせたのは私がを連れ帰ったからだ。賊に襲われ傷を負わせたのは私があの屋敷を用意したからだ。だから、全て悪いのは私だ。私はにすまないと思って」 胸に痛みが出始める。 涙が浮かび、ぼろぼろ零れ落ちる。 もう、どうして良いかわからず、自分の腕を掴んでいた趙雲の手を振りほどいた。 「…」 「私、そんな風に思って欲しくないです!」 「あ、それは」 「義務とか言わないで下さい。責任取れなんて思いません!」 自分を気遣ってくれたあの優しさは義務だから 星祭りの晩に言ってくれた言葉も、自分が臆病になった原因を聞いてくれた時も 自分の為にしてくれた事はすべて『義務』だから。 だからなのか… は趙雲の服をぎゅっと掴んだ。 嗚咽の声でいっぱいになるが、の声は震えながらも今一番心の底から思ったことを吐き出した。 「悪いのは趙雲様じゃないです!一人暮らし始めたのも、落ち込んだ事もすべて私自身の責任です。 城から出なければ、賊に襲われる事もなかった…趙雲様に拾われなかったらそんなこともなかった」 「………」 「だったら、私がこの世界に来なければ全て起こることもなかったじゃないですか!…帰りたい…」 「」 「帰りたい、帰りたい、帰りたい、元の世界に帰りたいです。もう嫌です!」 思い切り吐き出した。 こんな想いをするなら、趙雲にそう思われていたのなら、もうここにいることを望まない。 自分の所為で、趙雲をそう思わせてしまったのなら、用はない。 邪魔な自分は消えるだけだ。 そう考えた。 思いっきり、叫ぶ。 「帰りたい」 と。 泣きじゃくるに趙雲は自分の言葉が足りなかったと反省する。 だから、ちゃんと言おうとの小さな肩に手をかけた。 いや、かけようとした。 「な!!?」 趙雲が手をかけようとしたと同時に、の身体は薄れ…消失した。 「!!」 消失する寸前掴もうとした手は空を切る。 趙雲の目の前にはもうはいない。 「!」 趙雲は拳を強く握る。 血がにじみ出てくるぐらいに。 「くそっ!」 失ってから初めて気づいた、少女への想い。 いなくなってしまった焦りと痛みが趙雲の胸を締め付けるのだった。 11/12/24再UP |