春花咲かぬは、恋実らず。




ドリーム小説





【6】





「さっき。檜佐木先輩がいたのに気がつかなかったんすか?」

昼食を取るために入った蕎麦屋の座敷。
そこで向かいに座る恋次からそう話を切り出される。
恋次が頼んだのは天ぷらそばの定食。
炊き込みご飯もついてきて、蕎麦だけでは物足りないであろう恋次にはちょうどいいのかもしれない。
は普通に天ぷらそばを単品で頼み、啜っている。

「阿散井君。麺がのびるわよ?」

「先輩…なんすか、ピリピリして。檜佐木先輩と何かあったんですか?」

「…………」

本当、この人は自分のことになると途端に秘密主義になる。
恋次は溜め息をつきたくなる。
同期や後輩に何かあれば、一番に乗り込んでくる人なのに。
ルキアを巡る尸魂界を揺るがしたあの事件で、恋次、イヅル、桃はそれぞれ一時牢にいた。

『もう!なにをしているんですか!あなた方は!!』

同じ牢に入れられたわけではないが、恋次に向かってはそう怒鳴ったのだ。

『藍染隊長が亡くなったとか、やること山積み状態なのに、市丸隊長はふらふらどっかに行ってしまうし』

恋次は旅禍であった黒崎一護との戦いで負傷し、四番隊の救護牢で寝かされていた。

『先輩…』

『早く傷を癒して、復帰なさってくださいね。副隊長一人いないだけでも大変なんですよ』

はしょうがない。そう言う目で寝かされている恋次を見る。

『私でできることがあるならおっしゃってください。お力をお貸ししますから』

できることは限られるだろうが、そう苦笑するであったが、いい先輩を持ったな。
恋次はその時改めてそう感じたのだ。

先輩。檜佐木先輩と喧嘩でもしたんすか?いつもならお互い手ぐらい振るじゃないっすか」

「阿散井君…」

「そんなわけないのに。最近、学院時代に戻れたような…そんな気になるんすよね」

が後輩の一人として、堅苦しくない口調で話しかけてくれることに。
どこかで浮かれていたのかもしれない。
でも、肝心のもう一人の先輩と何かあったようでは…。

「吉良君も阿散井君もお節介が過ぎると思うけど?」

吉良も?
だがイヅルの方がといる時間が多いのだ。容易に気づくだろう。

「お節介じゃないっすよ。心配なんすよ、普通に」

「普通に?」

「そ。普通にっすよ」

は箸を置く。
お茶に手を伸ばし、ゆっくりと飲む。

「喧嘩なのかな?あれって…でも、なんか…どっかの誰かの所為で、余計なことに気付いて」

腹立たしい。
が毒を吐く。
どっかの誰かって誰だよ…。
恋次は思うも、珍しく話してくれるのだ、黙って聞いていよう。

「こういうの。初めてだから…正直どうしていいのかわからないのが本音」

はここ最近あったことを恋次に話した。
チョコレートを用意しようとしたのを知った修兵が、いつもみたいに皮肉を言ったこと。
当日、それでもチョコレートでも用意したのだが、修兵は乱菊からもらえたことに喜び。
自分に対しては小馬鹿にした物言いをしたのだ。
にも拘らず、その後修兵は「俺には?」と聞いてきた。
今までのやり取りで、どこにそんな態度を示したのだ?
は腹が立ち、「ない」と怒鳴ったそうだ。
だが修兵はそのの態度に腹を立てたのか、その後それっきりだ。

(あ、あの人…人によくガキだとか言う割に、自分が一番ガキみてぇなことしてんじゃねぇか)

恋次は呆れてしまう。

「あ。吉良は?吉良はこのこと」

「話していないけど、なんとなく悟られているでしょうね」

は苦笑する。
少し前の自分は酷く荒れていたから。

「じゃあ、気付いた余計なことってなんすか?」

「え…そ、それが…まぁ、ね…」

口にしたくない。
けど、恋次はなんとなくわかる。
それはきっと恋次が今まで感じていた疑問に繋がるから。

「俺。ずっと不思議に思っていたんすよね」

「?」

「なんで、先輩たちって付き合ってねぇのかって」

「あ、阿散井君まで何を言うのかな…」

珍しい。薄っすらとの頬に赤みが増す。

「俺までってことは吉良の奴にも言われたんすね」

やっぱり。そんな事だろうと思った。

「先輩。素直になりましょうや」

「阿散井君に言われたくないわね」

でも、そろそろ。いや、初めて素直にならねばならない時なのかもしれない。
急激すぎるも、否定していたもの、気付かない振りをしていたこと、認めたくないことを。
改めて蘇らせてしまったのだから。

「でも。なんかあれね…君たちから見て、私は檜佐木の隣で特別な面でもしていたのかしらね」

「はぁ?何言ってるんすか?先輩…」

全ての食べ終えた恋次が、満腹だと身体を楽な体勢にさせる。

「そんなの先輩一人じゃなくて、檜佐木先輩もっすよ」

が驚いたように目を丸くする。

「さっきも言ったじゃないですか。なんで付き合ってねぇんだって」

修兵が隣に居るに向ける顔を見れば、が修兵に向ける顔を見れば。
二人をずっと見てきた後輩たちには不思議にうつる光景だったのだ。

「ひ、檜佐木は違うんじゃ、ない、かな…」

「あの人の場合。無意識、無自覚っぽいっすけどね。じゃなきゃチョコ欲しいなんていわないんじゃないすか?」

は俯き息を吐いた。

「そ、そんな事言われたらさ……」

正座をしたまま、縮こまる
俯いて、微かに震えている。なにか怒らせた?恋次は少々焦る。

「う……自惚れちゃうじゃない…」

目線は反らしつつ顔をあげる
顔中真っ赤で、恋次は思わず後ろへ倒れこみそうになった。



***



副隊長同士で行う定例会議。
いや、今日は定例会議という名の親睦を深めるための飲み会だった。
隊長不在である三・五・九番隊の副隊長は忙しくもあるが、この所ようやく落ち着いてきたため。
今回の飲み会も遠慮なく出席してきてくださいと、部下たちに押し出された。
だけど、修兵一人は、ずっと気分は下降気味で、この飲み会に出るのが億劫だった。

「ほーらー。飲みなさいよ、修兵」

「あ。どうも」

「なんじゃ。お前、全然飲んどらんのぅ…ほれ」

乱菊と射場に酒を注がれる。
微苦笑交じりで、修兵は返杯する。
最初はそれぞれの席で飲むものん、酒が飲める者、飲めない者と自然と席は変わっていく。
酒豪である乱菊に捕まれば、そんな境は関係ないのだが。
修兵の席の両側に、イヅルと恋次がやってくる。

「檜佐木先輩。今日は大人しいッすねー」

「うるせー」

ニタニタと笑う恋次に、今物凄く苛つく。

「そうだ!俺、今日すげーもん見ましたよー」

「すごいもの?なんだい、それ」

恋次が、一生に一度ものと言えるくらいのすごいものだと言いはる。

先輩が顔を赤くして、すげぇ照れてる姿」

「へぇ。先輩が?それはすごいかもね」

イヅルは柔らかく笑うも聞かされた修兵は、胸に小さな痛みを覚えた。

「それがすげぇ可愛くてさ。俺もびっくりしたな。いつもはどちらかと言えばカッコイイお姉さんだろ?」

「そうだね。後輩たちに慕われる。頼りになる人だから」

「小動物並みの可愛さを見せてくれたんで。いやーどうしようかと思ったー」

盛り上がる二人とは対照的に、へぇ、ふーん。そうか…。
どうでもいいような返事をする修兵。
ちびちびと酒を飲む。

「何、拗ねているんですか、檜佐木先輩」

「別に拗ねてねぇよ」

「早く仲直りすればいいじゃないっすか…先輩もどうしていいのか困ってるんすよ?」

「な、なんだよ」

イヅルと恋次は顔を見合わせる。

「そろそろいつもの先輩たちに戻って欲しいんですよ、僕たちは」

「………」

「長引けば長引くほど、疎遠になりますよ?」

「どちらかが歩み寄らねばならないなら、それは檜佐木先輩からの方がいいです」

だけども、はずっと怒っているのだろう?こんな自分を。
歩み寄っても、拒絶されたらと思うと怖い。

「知らないっすよー?先輩に、新しい男ができても」

「!!?」

「俺がさっき話した照れる先輩ってのは、どうも先輩のことを好きらしい男の話をしたからなんすよね」

前からに憧れている男たちは居たらしいのだが。
そう前振りをつけ、恋次は修兵に言う。
もどうやら満更ではないということだ。

「べ、別に。それこそ、関係ねぇだろうが」

「「関係ないんですか?」」

両側から言われて、関係ない!と修兵は言い切る。

「ふーん。関係ないんすかー」

恋次から向けられる視線が何故だか痛い。

「関係ないならいいですけどね、別に」

恋次だけでなくイヅルからもだ。

「だったら。これからは、うちの隊士にちょっかい出すのはやめて下さいね。檜佐木副隊長」

「な、なんだよ、吉良…」

それは後輩の吉良イヅルからではなく、三番隊副隊長吉良イヅルからだった。
修兵がイヅルに目を向け、二の句を告げようとしたが、そこに邪魔が入る。

「こーらー!アンタ達!辛気臭いわねー。こそこそなにやってんのー」

半分出来上がっている乱菊が乱入してくる。

「こそこそなんてしてないっすよー!」

修兵は立ち上がり、盛り上がっている乱菊たちのほうへ移動する。

「あーあ……檜佐木先輩にとって、先輩ってなんなんだよ…」

恋次が吐き捨てるように呟く。
二人は乱菊たちの輪には混ざらずにいる。
修兵は射場たちと盛り上がって楽しそうだ。
それを見ると余計に癇に障る。

「大丈夫じゃないかな、多分」

「あ?」

牽制したかのような物言いを修兵にしたイヅルだったが、恋次とは対照的に笑っている。

「なんでだよ、吉良」

「今は皆といるから、楽しくしているだろうけど。一人になったら悩むと思うよ、檜佐木先輩は」

そうすれば自ずと答えが見つかるのではないだろうか?

「そうかぁ?」

「そうだよ。というか、ここまでしてやるつもりはないんだけど」

後輩たちは何を必死で、先輩たちの間を取り持とうとしているのだろうか。
だけど、いつも見ていた光景がないと言うだけで。
少し寂しい。
何より、きっと望んでいた姿なのだ、それが。
余計なお世話だとはわかっているし、本人たちが違うと言い切ればそれまで。
ただのエゴなのだろう。

「それでも、僕は。二人が一緒に居る方がいいんだ」

「あははっ。それは俺もそうだ」

いまだ本調子でない雛森が、ここに居たら恐らく同じ事を言うだろうし。
そうなってしまった現状を見れば、彼女は忙しなく先輩たちの為に尽くすだろう。

「でさ、阿散井君。さっきの話だけど」

「さっき?」

先輩を好きらしい男って……やっぱり」

「あの人しかいないだろ?昼間一緒に飯食った時に、聴いたもんだからさ」

二人して笑ってしまった。
ちゃんと元通りになったときに、いや、自分達の予想通りになったときに。
修兵とはどんな顔をするのだろうかと思って。






飲み会終了後、一人隊舎に戻った修兵。
飲み潰れるほど飲まず、と言うより酔える気分ではなかった。
イヅルたちが話していたとおり、修兵は一人になってからずっとのことを考えていたからだ。

『あーあ……檜佐木先輩にとって、先輩ってなんなんだよ…』

恋次のボヤキは修兵の耳にしっかり届いていた。
わかっている。
二人が自分にどうして欲しいのか。どう動けばいいと思っているのか。

「俺だって気付いているさ、とっくに…」

ずっと気付かない振りをしていた。
彼女の隣にいる居心地のよさを。
「友達」だと思い、それ以上を望まないようにしていた。

「今までだって、あいつに…に男ができたことあったから、別にいいじゃねぇか」

自分だって彼女がいたときもある。
今更なんだと言うのだ。

だけど、胸が苦しいんだ。
気付いたから、もう振りなどできないから。

「俺、のこと…好きでいて、いいのか?…」








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11/11/20再UP