春花咲かぬは、恋実らず。




ドリーム小説

きっと、出会ってすぐだったんじゃないだろうか?
のことを気にし始めたのは。
だけど、出会ったきっかけが「友達が檜佐木君にだって」なんてプレゼントを渡してきたから。
それに、当時誤解だったとはいえ、に「浮いた噂」ってのが山のようにあるような奴だと思われたから。
そういう感情を表に出しては、こいつに向けてはいけないと思ったのだろう。

それからずっと、友達でいた。

でも、もう限界のような気がした。
知らぬうちに綻びができていたのかもしれない。
気付かないように、隠していた想いは知らぬうちに溢れていたんだ。



付き合った人がそんなに多いわけじゃない。
その時その時真剣だったのに。

でも、ふとしたとき。「あ、なんか違うな」って感じて。
好きな人の隣は悪くないはずなのに。
それもそうだ。
好きな人と言うより、好きになろうとしていた人だから。

「友達」ってことにこだわって、本当に好きな人のことを見ないようにしていた。
檜佐木と私は「いい友達」気兼ねなんかする必要ない大事な「友達」
今も、これからもずっと…。
あいつが私に信頼のような目を向けるから、私も応える。
それでいいんだって。

なのに、あっさり見破る人がいて。
悔しいったらありゃしない。

もう、隠すのは気付かない振りをするのは無理かもしれない。





のこと。好きだから」
「檜佐木のこと。好きだもん」





【7】





だからといって、さて先ず何をどうしよう。
は頭を悩ませた。
成り行きというか、きっかけがチョコレートひとつだったから。
今更謝って許してもらえるのかな?と不安が過る。
今までだったらきっと許してもらえる。
でも、今回は自分も意固地になってしまい、余計な態度をとってしまった。

『遅くないとは思いますよ。チョコレートでも贈ったらどうですか?』

イヅルにはそういわれてしまったが。
あれからもう何日も過ぎている。
しかも手作りしたものを。
菓子作りがあんなに難しいとは思わなかった。
軽い気持ちで作ってみようと思ったのに、意味がわからない用語があって
「え?なに?こんなこと、どうやってやるの?」って頭がパンクしそうになった。
料理ができないわけじゃない。
でも、菓子作りに関しては知らないことが多すぎたのだ。

先輩。何か悩み事ですか?」

筆が止まっていますよ。などと後輩ちゃんに言われてしまう。

「あ!ご、ごめん」

は慌てて姿勢を正す。

「いいですよ、別に。でもどうかしたんですか?最近の先輩少し可笑しいですよ?」

「可笑しい…かな?あはは…あーまぁね」

菓子をどうしようかと思っていたところだ。
それをずっと馬鹿みたいに悩んでいる。
別に手作りにこだわらなくてもいいかな?と思いつつも、きっかけがそれだから…。
チョコレートでも添えて、改めて謝って…
それからどうする?

(告白しなきゃいけないってことはないよね?)

修兵のことを好きだと言うのは認めよう。
だが向こうはどうだ?
告白して、大笑いされでもしたらどうする?

「はぁ?何言ってんだ、…」

みたいな。
そんなことになったら、完全に終わりだろうな。
かと言って、ひた隠しにして「友達」としてそばにいる?
これは結構辛いぞ。
修兵は色んな女性たちから声をかけられるから、それを見て我慢してもやもやするんだ。

(身体に悪い……ただ遠くから見ている憧れだったらいいのに)

友達でもない。自分のことを知らない仲で。

(ま。今更そんな事を言っても無駄なんだけど)

それでは今までの付き合いを否定してしまうことになる。
あれはあれで楽しかったのは嘘ではないのだ。

(告白して、離れる方がいいのかな?…きっと辛いもん)

もう元に戻れないだろうから…。

先輩。今日も私お菓子作ってきたんですよ、また食べてくださいね」

「うん。ありがとう」

バレンタイン以来、後輩ちゃんは差し入れだと言って手作り菓子を持参してくる。
休憩時間にそれを食べるようになった。
仕事をしている後輩ちゃんを見て、彼女は上手だったよなーとぼんやりと思った。
彼女がくれた手作りチョコレート菓子は本当に美味しかった。
見た目も良くて、崩し食べてしまうのが勿体無いと思った。

「………そうだ」

「どうかしました?」

「お願いあるんだけど、聞いてくれるかな?」

いつも自分でなんでもこなすが?自分に相談?
後輩ちゃんは目を輝かせて「はい!私でよければ!!」と力強い返事をした。





「最近どうかしたのかい?檜佐木君暗いよ〜?」

八番隊の隊首室に来ていた修兵。
書類と今月の瀞霊廷通信を京楽に手渡して、はい終わり。それだけだったのに。
何故か知らぬが、お茶とお菓子を勧められて、一緒に休憩してしまっている。

「く、暗いですか?俺」

「なんていうか、辛そうだなって顔をしているよ。どっか具合でも悪いの?それとも仕事のことかい?」

ならば京楽が力になってやれるだろう。
京楽だけでなく、浮竹なども。
隊長として長いことやっているのだから。

「あ、いえ。仕事は問題なく…それはそれで、何かあったらその時ご相談します」

恋愛絡みなどと言えるものか、格好悪い。
いや、京楽の方が大人だから、返って気にする必要はないかもしれない。

「そうかい?まぁ無理しなさんな。ゆっくり気楽にね」

それが秘訣だ。などと京楽は笑う。

「最近と言えばね。ちゃんがちっとも顔を見せてくれないんだよねー」

「え?、ですか?」

「そう。ちゃん」

仕事関係の報告、書類の引渡し等、八番隊へは決まってが訪れてくれる。
その時、短い時間ではあるが一緒にお茶をするのが京楽の楽しみなのだそうだ。

「吉良君になんか警戒でもされちゃったのかな」

別にやましいことは何一つないのだが。

「いつも見ていた顔がないと寂しいものだね」

「京楽隊長にお聞きしますが…京楽隊長はのこと、その…」

好きなのですか?とは聞きづらい。
それこそ修兵には無関係な話だ。
だが、その物言いではあからさまに何を聴きたいのかわかるのだろう、京楽はにんまりと笑った。

「ボクは、女の子は好きだからね〜でも檜佐木君が心配するような仲じゃないよ、ちゃんとは」

単なるお茶の仲間というぐらいだ。

「い、いえ!お、俺は別に」

「あれ?もしかしてちゃんと何かあったのかい?それで悩んでいるとか」

「そ、そんなことないです!」

慌てて修兵はかぶりを振るが、それが肯定してしまっているようにも見えなくもない。
ただ、修兵も言うほどを見ていない。
自分の仕事が忙しいと言うのもあるし、いまいち自分から彼女に会おうとしないのだ。
情けないと自分でも思う。
けど、謝りに言ったとしても、以前のようにできるのか不安なのだ。
時間が解決するとも言うが、逆に長引けば余計に疎遠になる素にもなるだろう。
この見極めが微妙すぎてわからない。
恋次などが聞けば。

「情けないッすよ、先輩!ここは漢らしく、ビシっと謝りましょうや!」

そう言われてしまいそうだ。
だけど、ビシっと謝るというのも何が変だ。

「失礼します。京楽隊長、いらっしゃいますか?」

扉一枚向こうから聞こえた声。
だ。
京楽は待っていたと言わんばかりに入っておいでと返事をする。

「待っていたよ〜ちゃん」

「待っていたって…あ」

修兵も居たことには言葉に詰まる。
だが彼は副隊長だ。無視するわけにも行かないのだろう、は修兵に向けて一礼する。

「本日のお届け分です。どうぞ」

京楽に書類を渡す
その際死覇装の袖口から覗かせた白い包帯が修兵の目に入る。

。お前、怪我したのか?」

右手首に巻かれた包帯。

「え?…あ…」

「あれまぁ、ちゃん大丈夫かい?」

は手を後ろに隠す。心配してくれる京楽にもたいしたことはないと答えている。

「そ、それじゃあ。失礼します!」

は踵を返す。

「えー。もう帰っちゃうのかい?ようやく顔を見せてくれたのに」

「また今度ゆっくりお邪魔しますから」

「今度っていつなのかなぁ。いっその事、ウチにおいでよ。そうすればいつでもお茶ができるのに」

は瞠目するも、それはないとやんわり断る。
恐らく京楽も本気ではないだろうし。

「私は三番隊がいいので」

そそくさと逃げるように隊首室を出て行く
あれは自分が居たからだ。
修兵は軽く傷つく。

(ちっくしょう…あれがこの先も続くかと思うとへこむし、腹が立つな…)

自分が悪い。
それはわかっている。
けど、やはり嫌なものは嫌で。
「友達」であった頃から、「檜佐木副隊長」と呼ばれ畏まれるのが酷く嫌だったから。

「京楽隊長。俺も失礼します」

「え?そうかい?」

男は引き止める気はないのか、京楽はあっさりしている。
修兵は京楽に一礼してから隊首室を出る。
の向かおうとしている先、の霊圧を探る。
よし、一応霊圧を消してはいないようだ。
きっと、これがチャンスなのだ、と話す為の。
それに手首の包帯が気になる。右手首に巻かれていたのもそうだが、実は左手首にも巻かれていた。
両手首に包帯など怪しすぎる。
なんでもないわけないだろう?
きっと何かあったのだ。それだけでも心配になるから。
修兵はを追いかけた。






「あーびっくりした。っていうか、油断したわ…」

右手首を摩りながら、は三番隊隊舎へ戻ろうとしていた。
修兵が居るとは思わなかったし、手首の包帯に気付かれると思わなかった。
普通に素で聞いてきたから。

「言えるわけないっての…こんなの」

包帯を巻いている理由など。

「なんで言えないんだよ」

「え?」

いつの間に!?
修兵がすぐ背後にいた。まったく気付かなかった。
これが副隊長と席官の差だろうか?

「包帯を巻いている。怪我をした理由が言えないってなんだよ」

修兵はあの時みたいに、怒っている。
チョコレートなんかない。と怒鳴ったあの時みたいに。

「檜佐、木…」

「俺には言えないようなことなのか?お前が怪我をするなんて滅多にねぇから心配するじゃないか」

修兵は手を伸ばす。
右手、左手。両方をとって。

「なんだよ、この包帯。両手首って…」

「こ、これは……たいしたことは」

酷く心臓が早鐘を打っている。
一度開放されてしまった想いの所為で、今までしない緊張をしてしまう。

……まさかと思うけど、お前……」

「?」

酷く真面目に、真剣な眼差しをに向ける修兵。

「手首切ったわけじゃ「馬鹿じゃないの」

思わずいつもみたいな反応をしてしまった。
何がどうあれば、自分が自分を傷つけるような真似をせねばならぬのだ。

「じゃあなんだよ」

拗ね気味に修兵は問いかける。
言うまで離さないぞと言わんばかりに手を強く握られてしまう。
両手握られ、恥かしいのだが。

「言えよ。虚討伐の時とか、鍛錬中とか、それなら言えるだろう、でも言えない理由ってなんだよ」

「そ、それは」

「俺だからか?俺になんか言えないってのか?」

「檜佐木…」

修兵の柳眉が歪む。

「正直、辛い。お前と喧嘩するの…嫌われるの、嫌だ」

子どもみたいな物言いしか、言葉しかでなかった。
けど、感情を抑えながら言うには、それしか言葉は出ず。

「……あと少し」

「?」

「あと少し待って…そしたら、理由話すし…私もその…」

修兵に嫌われるのは嫌だ。
それよりも、自分は嫌ってなどいないのだから。

「あと少しってどのくらい」

「…さぁ?」

「さぁってなんだよ。言えよ、理由。隠すようなことかよっ!」

は答えない。
それが余計に修兵を苛つかせた。
あと少し待つ理由もわからない。

「檜佐木、手…離して」

「嫌だ」

「お願いだから」

「嫌だ。理由聞かせろよ…俺に言えない理由を」

ごちゃごちゃしてきた。
聞きたいのは怪我をした理由。
だけどその理由を言えない理由も話してほしい。

「そ、れは…その……」

「ずっと」

修兵の手を握る力が強くなる。

「ずっと好きだった。が」

「は?」

「一番、気兼ねしなくていい仲のいい友達って地位で甘えてた。
そんな関係が壊れるのが嫌で、気付かない振りをして…いつも馬鹿言って。
俺だけ、からチョコレートもらえなかったの、すげー悔しかった」

後輩たちが「昔と変わらぬ先輩」との関係に戻り、チョコレートを貰ったのを喜んでいるのを見て。
余計に悔しかった。
表面はなんでもない顔をしていた。

「どこかで。お前がくれると勝手に期待していたから」

「…檜佐木」

「今までみたいになれなくなっちまうもしれない。けど、もう限界だから。のこと好きだ」

「本当?それ…いつもみたいな、からかいとかじゃなくて?」

微かにの声が震える。

「本当だ。嘘でもからかいでもない。俺の本気」

の眉が八の字になっていく。
唇を噛締めて、あぁ泣きそうだって顔をして。
一歩進んで、修兵の胸にコツンと額をつける。

…」

「馬鹿みたい」

「な、なんだよ」

「だって、馬鹿だよ、私……」

なんでが?修兵はそう思わずにいられない。

「私も。檜佐木のこと好きだったよ。同じだよあんたと。友達でなくなるのが嫌で、怖いから…。
ずっとずっと、気付かないように蓋をして、なんでもない顔をしてた」

修兵は掴んでいた手を離す。
変わりにを抱きしめた。
ギュッと強く。ずっとずっと、そうしたかったのだ。

「本当。馬鹿みたいだな、俺達」

お互い同じ事を思い、同じ事をしていたという事に。
だから、いつもとちょっと違うことになっただけで、こんなに簡単に崩れて悩んだのだ。

…」

温かいな、修兵の腕の中は。
ずっと、ずっとこうしていたい。
こうされたかったのかもしれない。
強い力でも、不思議と苦しさは感じなくて。

「…………何をしているのだ、兄らは…」

「「朽木隊長!!」」

うっかりしていた。
ここは単なる廊下だ。
誰もが通る廊下だ。

「い、いや。あ、あの」

バッと離れる二人。
白哉の後ろにいた恋次が口を押さえて笑いを堪えている。

「ぐ、具合悪いんだよな?

「え?」

「い、今から四番隊に連れて行ってやるから。じゃ、じゃあ!失礼します!!」

の手を引いて修兵はその場を逃げ出す。

「………恋次」

「なんすか?」

「なんだ、あれは…」

必死で弁解、誤魔化していたが、恋次はあっさり答える。

「仲直りしてくっついただけっすよ。いい加減くっつかないかって俺らは思っていたんで」

「行くぞ、恋次」

別に白哉は二人がどうなろうとか、どんな関係だとか関係ないので歩き出す。
恋次はチラッと修兵たちが逃げた方向を見ながらニッと笑う。

(あとで、吉良と雛森に話してやるか)





「び、びっくりした……」

場の空気に、雰囲気に流されてしまった。
まだ白哉だったから良かったかもしれない。
これが山本総隊長だったらと思うとゾッとする。

「それで。結局なんだよ、その怪我」

別に隠すことはないだろうと修兵は言う。

「あーあー…もう少しだったのに…」

「何が?」

「チョコレート…。手作りを用意して、檜佐木に渡そうと思ったから」

もうホワイトデーに近いが、しっかり作って渡そうと思ったのだ。

「それと、手首の怪我が関係あるのか?」

「…中々上手くできないから、後輩に教わっているんだけど…力がいるのか、腱鞘炎になりかけて…」

毎日作ってはいるものの、中々コレと言うものができず。
そうしているうちに手首を痛めてしまったのだ。

「うわっ。馬鹿がいる」

「だから言いたくなかったのに!!」

恥かしいだろう?理由がそんなだから。
知っているのは教えてくれている後輩だけだ。
誰にも、イヅルにも隠していたくらいだ。

「じゃあ。そのチョコいつ食えるんだ?」

「あと少し」

ちゃんとしたものを作りたいから、だからあと少しなのだ。

「いいよ。今まで作った奴全部持って来いよ、食ってやるから」

「え。全部って、流石にそれは…」

が俺の為にしてくれたことだろ?だから全部、俺が食う」

「お腹壊すよ?」

「その時はに看病してもらうからいい」

は小さく笑う。

「しょうがない。私も一緒に食べるから」

「あぁ」

見た感じは以前どおりかもしれない。
「友達」であった頃みたいに。
けど、中身は違うのだ。
お互いがお互いの想いを認め、受け入れたから。






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