春花咲かぬは、恋実らず。




ドリーム小説
「やっぱさ。女はこう・・・ボンキュッボーン!ってな体つきがよくね?」

嬉々として話してくる修兵を見て、はいつも呆れるばかりだった。
霊術院での成績を見れば、尊敬に値するものなのに。
中身はこんなだ。
しかも同性の友達にそれを話すのならばわかる。
興味はあるだろう。
けど、自分に言うか?普通…。
普通の女の子なら、そんな話を聞かされればどん引くはずだ。
そこまで言うと、自分が普通ではないみたいではないか。
違う。そうではない。
自分は寛大なのだ。心が広いのだ。
阿呆な友人のそんな話を聞いてあげるできた人なのだ。

そうだ、そうに違いない。

そうでも思っていないと、とてもじゃないがやっていけないだろう。





【5】





「檜佐木!」

霊術院六回生の時だった。
この頃修兵は卒業前なのに護廷十三隊への入隊が決まっていた。
将来有望、席官入りも間違いなし。
誰もが尊敬と羨望の眼差しを送っていた。

だけど、事件は起きた。
修兵が一回生の生徒を率いて魂葬実習で現世に赴いた時。
突如現れた無数の虚たちによって、怪我を負った。
霊圧を消すという特殊タイプの虚だった。
だから修兵でも気付くのが遅く、実習のアシストをしていた友人二人を虚に殺されてしまった。
なんとか一回生の生徒たちは逃がしたものの、傷ついた修兵一人ではどうにもならず。
だが命令違反を犯してまで修兵の手助けの回った一回生の生徒たちがいた。
それが恋次、イヅル、桃だった。
手助けに回ったとしても、力の差は歴然で。
もう駄目かと諦め掛けたとき、当時五番隊隊長藍染と副隊長の市丸の救援により事なきを得た。

は帰還した修兵の元へ駆けつけた。
顔の右半分が包帯で巻かれていた。

「おー………」

「怪我したって、それに」

「あぁ…何もできなかった。情けねぇな、俺。あいつらを見殺しに「そんなことないでしょ!」

バチンと左頬を叩かれた。

「聞いたよ。ちゃんと。一回生の子たちは全員無事だったって。あの子たちまでやられていた可能性だってあるんだよ」

…」

「それだけでも、私は。あんたがちゃんと責務を果たしていると思う」

亡くなってしまった友のことは、も残念に思うし、悔しいし、悲しくも思う。
だけど、霊圧を消す虚がいたのだしょうがないだろ?
どうにもできないんだ。今の自分たちでは。

「私は。檜佐木が無事だったことが嬉しい。あんたまで死んじゃったら嫌だよ」

「----っ…」

修兵はしゃがみこんだ。顔を覆って。

「え?な、なに!?檜佐木!傷が痛むの!!?」

「痛い。すげー痛い。一応怪我人だぜ?手加減しろよな」

「いーやー!どうしよう!ちょ、ちょっと待って。今、先生呼んで」

叩いたのは包帯を巻いていない方ではあったが、傷に響いたのかもしれない。
は慌てる。

「いてぇ…すげーいてぇ」

「ひ、檜佐木〜」

痛いけど。すごく嬉しかった。
ほんのり感じた温かさ。
思いきって手を伸ばして、彼女を抱いてしまいたい。
カッコ悪いけど、泣いてしまいたい。
他の誰の前ではできないけど、の前でならできるから。

「檜佐木。保健室行こう。それとも先生呼んだ方が早い?」

は蹲る修兵の様子を窺う。
近い。
こんなに近くにいる。
手を伸ばせば…。

でも、できない。

その時、彼女の隣には別の奴が居たからだ。




「………うわっ…夢かよ…」

懐かしいと思えるのだろうか?
過去の出来事。
思い出深くしみじみ感じるような出来事ではなかった。

「仕度しねぇと…」

修兵は布団から這い出る。
今日も仕事だ、やる事は沢山ある。

「…………」

顔を洗いさっぱりした所で、鏡に映る自分と目が合う。
顔の右半分。額から顎にかけて線のような傷痕が3本残っている。
夢で見た、あの頃にできた、残ったもの。
目つきが悪いと言われていたから、この傷痕の所為でしばらくいいネタにされた。
けど、だけは違った。

「男前度が上がった感じじゃん」

って笑った。

「だろ?いい男が、もっといい男になったよな」

って修兵も笑った。
なぜだろうな。
「友達」でいるのが当たり前になってしまったのは。
お互いに彼氏彼女がいる期間がかぶらなくて。
どちらかが誰かと付き合っている。
おかげでずっと「友達」だった。
死神になってからは、自分を鍛えるのと、一人前になるので必死であまりそういった関係はなかったのだが。
最近では修兵に彼女がいることが多かったが、はフリーであったのが多い。

『その先輩にちょっかい出せないのって、檜佐木先輩がいるからなんすよ?知ってました?』

知るか、そんなこと。関係ないだろ?
声をかけたければかければいいだろうに。

『檜佐木先輩がさんといるから。怖がって話かけられないみたいですよ』

だらしねぇ奴らだ。
けど…。

きっと、無意識だったのかもしれない。
彼女の隣を誰かに盗られるのが嫌で。
仲のいい「友達」という特権を利用して。
気付かないだけで…。

「でも、壊しちまったな、自分で……」

あの居心地のいい場所を・・・。

『ないわよ!そんなの。馬鹿!』

謝ったら許してもらえるのだろうか?
謝ったら、またいつもみたいに馬鹿だなって笑ってくれるだろうか?



***



は一人、頬杖をついていた。

先輩。今度はどうしたんですか?ぼーっとして」

机に湯呑みがコトンと置かれた。
イヅルが淹れてくれたようだ。

「あ、吉良君…あっ!ご、ごめん」

副隊長にそんな真似をさせてしまった!は慌てるがイヅルは大丈夫だと笑う。

「誰もいませんから」

イヅルも近くの椅子に腰掛ける。
はイヅルの淹れてくれたお茶を飲む。

「ん…なんていうか、ちょっと市丸隊長のこと思い出しちゃってね」

「え」

普段自分たちは市丸の名を出すと、あまりいい顔をしなかった
そこに「元」をつけなさい。なんて言うくらいで。
そんなから市丸の名前がでてイヅルは瞠目してしまう。

「以前ね。隊長に言われたの…後悔したら駄目だって、自分みたいになったら駄目だって」

「………」

「思い出したらすごく腹たって、気持ち悪くなった。けど…変なもの認めちゃって…なんか」

すごく悔しかった。
まさか市丸の言葉で思い知らされるとは思わなかったと。

「あーあー……なんだかなー…」

「先輩。それが、認めたものが何かを聞いてもいいですか?」

「い・や」

「やっぱり」

イヅルは苦笑する。
でも、ここ最近のことを思えば、なんとなく何がということに気付かされる。

「でも、どうしようかな…なんか今更って気もするし」

独り言のように呟く

「そうですか?そんなことはないと思いますよ、僕は」

の驚いた視線がイヅルに向けられる。

「遅くないとは思いますよ。チョコレートでも贈ったらどうですか?」

「え」

「先輩の手作りで」

「ちょ、ちょっと吉良君」

イヅルはすっと席を立つ。

「僕たち。先輩たちを見ていていいなって、いっつも思っていましたよ。
でも、何故かお互い違う人がそばにいて。なのに、互いが隣にいると本当いい顔するんですよね」

そのままイヅルは室から出て行く。
去り際に。

「だから、今更なんて思いませんよ」

これが最後のチャンスなのかもしれない。
そう言った。

一人になった室で、は湯呑みを弄ぶ。

「お見通しです。って顔してたなぁ、吉良君」

でも……。
今更修兵に何を伝えるのだ。
都合が良すぎないか?
自分から癇癪起こして怒らせたようなものだぞ?

「確かに…檜佐木の隣は居心地良かったよ…」

でも友達として。修兵が信頼してくれていたからだろう。
そこにはない、感情を。
決して抱かないでいたことで。

『でも。間違いないで。は副隊長さんが好きなんや。ただ認めたくないだけなんや』

全く持ってその通りだ。

「隊長のおっしゃる通りですよ…認めたくなかったんですよ、私は」

認めてしまえば、もうあの隣には居られないと思ったから。
居心地のいい、彼の隣に…。


***



はイヅルから頼まれて書類を届けに走っていた。
イヅルは気を使ってくれているのか、九番隊には別の者へ頼んでくれている。

「どうも。先輩」

六番隊へ行った際、朽木隊長は不在であったが、恋次がいたので彼に渡した。

「はぁ。これで終わり〜さっき行った一番隊が一番緊張したなぁ」

「あそこは誰だって緊張しますよ」

そうだよね。と笑いあう。
恐らく隊長にでもならないと緊張は解けないだろう。

「あ。終わったって事は時間空いたんすか?」

「え?うん。この後はそのままお昼休憩に入るけど」

恋次はしめたと言わんばかりに喜んだ。

「じゃあ、俺奢りますんで、飯食いに行きましょうよ」

「お。気前いいなぁ〜遠慮なく奢られちゃうよ?」

じゃあ行こうかと六番隊の隊舎を出る。
恋次が奢るというのが、恐らく気兼ねする必要のない店だろう。
二人がやってきたのは飲食店が連なる通り。
自分たちと同じ様に昼食を食べに来ている者たちの姿で賑わっている。

「君は他に誘う子はいないのかしらね〜」

「な、なんすか。先輩」

以前と同じ様にとお願いされてから、自分でも驚くくらいに昔のように恋次やイヅルと接していた。
だから自然とあの頃のような会話になってしまう。

「あぁ、でも気になる幼馴染さんがいるんだっけ?」

「な、何言っているんすか。ルキアは別に」

「名前。別に私は出しちゃいないわよ。阿散井君はその辺うっかりさんよね」

「うっ……」

粗野なイメージがついてしまうものの、ずっと抱える秘めているものが恋次にはある。
案外純粋な部分もあるのを知っている。

「いやいや。可愛くていいんじゃない?」

「か、可愛いって。んな事言われたことないっすよ。つーか気色悪いっすよ」

からかっているのだろうな、この人は。
恋次はそう思わずにいられなかったが、少しばかり距離を置かれていた頃を思えば。
大して気にならない。

「で?何奢ってくれるのかな?阿散井君」

「そうっすね〜先輩、何食いたいッすか?先輩の食いたいものでいいっすよ」

「んーそうねぇ……」

歩きながら、どの店が良いか探す。
蕎麦がいいかな?そう時間もかからないだろうし。それとも丼モノ、定食がいいか。
探していると、ある一団が目に入る。

(あ、檜佐木…)

自分の部下と食べに来たのだろう。
修兵の周りは特に女性たちで囲まれている。

「あ。檜佐木先輩だ。檜佐「阿散井君、あそこのお蕎麦屋さんにしようか」

行くわよ。と恋次の袖を引く

「え?先輩?」

修兵にも声をかけようかと思ったのに。は気付かなかったのか?
仕方なく蕎麦屋に入っていく。




「…………」

「どうかしたんですか?副隊長」

「い、いや」

「あそこの定食が美味しいんですって。あそこにしましょう」

「あぁ」

あの真っ赤な髪はどこに居ても目立つ。恋次だ。
けど、恋次はと一緒に居て。
は自分の姿を見ると、背を向けてしまった。

(やっぱ……駄目か)

そう簡単に許してはもらえないのか。
じわじわと胸に痛みが広がる。

(すっげぇ…苦い)

痛みと共に広がるそれが、酷く…。








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11/11/20再UP