|
春花咲かぬは、恋実らず。
すっげぇ胸糞悪ぃ。 散々、どうでもいいような、あからさまな態度を取ったのに。 チョコレート一つ。 ただの菓子だぜ? なのに。 『京楽隊長。お約束の品です〜受け取ってくださいな』 『あげたけど?阿散井君も吉良君も物好きよね』 チョコレートなんざ、沢山貰った。 本命義理、よくわからないもの。 沢山貰った。 これでも九番隊の副隊長で。 今は隊長代行権限って肩書きも付いて。 よってくる女なんて結構いる。 なのに。 「欲しい。のチョコレート」 自分だけ、あいつから貰えなかったのが。 すごく。 酷く。 なんか。 ………切ないって。 調子いいよな。 散々馬鹿にした物言いで。 だから、欲しいって言った時、あいつ…。 怒ってた。 俺の顔を見るのも嫌なんだなって思うくらいに。 『ないわよ!そんなの。馬鹿!』 わかってるよ、虫のいい話だって。 けど、無性に腹がたった。 たかがチョコレート。 たかが菓子だろ? たかが……。 たかが…。 そう…「たかが」なんて思えない日なんだろうな。 それがわかったら、自分が情けなくて、カッコ悪くて。 なんで、こんな風に思うんだろうな。 なんで…。 お前から、チョコレート貰えなかっただけで。 俺……。 すげぇ、落ち込んでいる。 なんで? 【4】 事務机で頭を抱えている。 なにかあったのかな?と周囲は気にするも、から発せられる霊圧がピリピリしていて怖い。 新人平隊士が少しでも話しかけたら、きっとその霊圧で気絶するんじゃないだろうか? そんな風に思ってしまうくらいに。 しかし、珍しい事もあるものだ。そんな状態のが。 「あれ?どうかしたのかい?みんなして」 イヅルがのん気に声をかける。 かけられた隊士たちはイヅルに「しー」と指を唇にあてる。 「?」 イヅルは何事かと思いながらも、そんな彼らを横目にすり抜ける。 「あ。さん」 ちょうど頼もうと思っていたことがあるんだ。 イヅルは書類を数枚取り出し、に近づく。 隊士たちからは何も動じていないイヅルに「さすが副隊長だ」などと賞賛を贈る。 「あれ?どうかしたの?」 頭を抱えたままぴくりともしない。 さすがに不審に思い、イヅルは体を屈み覗き込む。 そして離れている隊士たちには聞こえないだろうと思って。 小声で「先輩?」と呼びかける。 「………わるい」 「え?なんですか?」 よく聞こえない。 「具合悪いなら四番隊に行って診てもらった方がいいですよ?」 は顔をあげない。 「参ったなぁ…」 屈んだ体を伸ばし、頭を掻くイヅル。 「九番隊に、檜佐木先輩に届けてもらおうと」 「お断りします!!」 「うっ!」 飛ばされた霊圧にイヅルは数歩退く。 珍しく「副隊長」に口答えをした。 口調こそは丁寧だが、霊圧をバシバシ飛ばしている。 これにより、とばっちりで逃げていく隊士たち。 「ちょ、ちょっと先輩〜」 お蔭で室内にはイヅルとだけになる。 「なんですか?九番隊が嫌って言うより、檜佐木先輩に会うのが嫌って感じみたいですけど?」 「吉良君…わかっているなら、その仕事は他の人に回してちょうだい。それ以外ならするから」 「はぁ」 別にそれでもいいが。 でもは顔をあげない。 あからさまに修兵のことを避けた。 何かあったのだろうなと単純に見てわかる。 イヅルはを残して退出する。 「…気持ち悪い…」 は呟く。 誰も居ない部屋の中で。 頭の中、お腹の中、モヤモヤしたものとか、ぐるぐるして。 すごく気持ち悪い。 吐き出してしまいそうになる。 「気持ち悪いっての…檜佐木の馬鹿」 意味がわからない…。 なぜ自分があんな顔を修兵に向けられなければならないのだ。 たかが、菓子だよ。 沢山色んな子に貰っただろう?ただのチョコレートだよ。 なのに。 『欲しい。のチョコレート』 って。 意味がわからない。 馬鹿にしまくったくせに。 似合わないとか、貰った奴が可哀相だとか。 なのに、なぜ欲しいなどという。 なんで、自分もここまで腹をたてるの? 『---。知らんかった?』 あぁ、いやだ。 思い出した。 いかにもなにか企んでいます。ッて顔をした上官のことを。 「へ?何をですか?」 「がボクに見せる顔より、あの副隊長さんに見せる顔の方が優しいってことや」 あらか様に嫌そうな顔をしたに、相手は楽しげに声を出して笑った。 「なんやー。そこは恥らうとこちゃうん?」 「おっしゃっている意味がわかりませんので。だいたいなんですか?「ボク」に見せる顔って」 あなたと私はただの上司と部下なのですが? 「ボクはいっつものしかめっ面しか見ぃひんからなー」 「それは隊長が仕事をサボって、その分こっちにしわ寄せがくるからです」 早く署名してくださいよ。 ドスンと音が鳴るくらい、机に大量の書類を置いた。 「しわ寄せやのうて、幸せやったらえぇなあ」 「…あなたがそれを言いますか?今の私が幸せを得るのは、隊長がこの書類を片付けてくれたらです」 まだ自分はいい。自分でやれる仕事とそうでない仕事に分けられるから。 けど、副隊長のイヅルはそうも言っていられない 自分の仕事に、サボった上司の仕事まで。 睡眠時間を削っているよなと心配になる。 「でな。さっきの話の続きやけどー」 「隊長!」 話をしながらでも仕事はできるやろ?そう言われてしまうとダメだとは言えない 自分はこの人の部下だから。 「自分でも気づかへんかった?九番隊の副隊長さんと話している時の、ホンマに優しい顔やで」 何を根拠にと反論したくなるが、上司が言うには、人間観察が趣味の自分だから。見ているわかるとのこと。 それこそ、勝手にそう思っているだけじゃないのか?と。 「あー。それはあれやな。霊圧も違うねん。ボクに向ける時、イヅルに向ける時、副隊長さんに向ける時。 副隊長さんに向ける時が一番優しくて、あたたかくて、柔らかい。そんな感じやね」 「な!なんですか!それっ!そんな違いなんかありませんよ!!」 「そうなん?ボクにはそう見えるで。は副隊長さんが好きなんだと思っとったわ」 「違いますよ!檜佐木は霊術院からの同期で。気兼ねすることもないいい友達だから…その」 言葉に詰まる。 修兵に対して、茶化されることがなかったわけではない。 だけど、その度に「何言ってるの?」って笑ってやり過ごした。 それに修兵がいつも自分に向けるのは、仲間意識、信頼している友達という目だ。 「なんや。似てるなぁ。とボク」 「はぁ!!?」 素っ頓狂な声が出た。 ど・こ・が・だ! 相手が上司とはいえ、はっきりそう口にしてしまった。 「ん?似てるで。一番大事に想う相手には本音を隠すねん」 「一番大事に想う相手…隊長にそんな方がいらしたんですね。それに驚きですよ」 「わーひどいなー。ボクかて好きな子ぐらいおるで」 それがどんな形であっても。 そんな風に言った上司の目が、初めて見るやさしいもので、酷く驚いた。 この人の好きな人っていったいと。 「ボクはきっと、その人になんもしてあげられへん。というより、余計なお世話って叱られるやろね」 でもなぁ…。 「は自分に素直になったらええよ。ボクみたいになったらあかん」 「なんですか、急に・・・大体私は、隊長よりも素直ですよ。 勝手に隊長が私の好きな人を檜佐木だと思っているだけじゃないですか。檜佐木は友達です」 「友達なんて、ほんまにそうなん?ただ今の関係が壊れたくないから、そう思うてるだけやないの?」 「隊長。仕事してください。私に恋愛のことで説教垂れないでください」 手が止まっています。そう注意する。 「ほんまに難しい子やね、この子は」 上司はわざとらしく溜め息など吐く。溜め息が出るのはこっちの方だ。 「ボクが嘘を言うわけないやろ?そうだって言うてるやん」 「滅茶苦茶嘘吐きですよね、隊長」 「あらぁ、日頃の行いのツケがここに来たわ」 ただ。向ける霊圧が穏やかなのは、普通そんなものではないのか? 長い付き合いで、一緒に馬鹿やって楽しかったから。 今でも続いている友人関係が悪いものではないから、自然と気を許して…。 それが好きとかどうとか言う上司がわからん。 いや、この人から恋愛など語られるとは思わなかった。 「でも。間違いないで。は副隊長さんが好きなんや。ただ認めたくないだけなんや」 「隊長…本気で黙ってもらえます?」 返り討ちにあうだろうが、一発殴って黙らせたい。 「あとで後悔せんときな。ボクみたいになったらあかんよ」 「隊長!!」 ボクみたいに。 そう言って笑ったこの人の顔が珍しく寂しそうだった。 あれから、しばらく経って、この人は自分たちを裏切った。 慕っていたわけではなかったが、嫌ってはいなかった。 この人が消えてしまった事実が、酷く胸を突き刺した。 ボクみたいに。って…これを示していたのか? 自分の大事な人に何もしてあげられないから。 そんな事を言って・・・。 「……気持ち悪い……」 嫌なことを思い出した。 思い出したくもない人のことまで一緒に。 今、この状況を見たら、あなたはなんていいますか? 「ほらな。ボクの言ったとおりや」 そう聞こえてきそうだ。 だって、ここまで悩むのは、気付かないようにしていた想いをこじ開けられたような気がしたからだ。 腹が立つ。 今までずっと、ただの友達だと言う目で見ていたくせに。 そうしていただけなのに。 だって、向こうは自分のことを恋愛対象には見ていないはずだ。 そんなのずっと前から知っている。 でなければ、好きな女の話なんかされるものか。 友達だから、友達で居られたから。 「だから…上手くいっていたんだよ…」 長い時間そうしていたから、好きとか嫌いとか。そんな感情に気付かずにいれたんだ。 「市丸隊長…どうしてくれるんですか…今更…」 気持ち悪い。 ぐるぐるして。 もう元に戻れないような気がして。 悔しくて。 気持ち悪い。 *** 「あー。なんていうか。大方檜佐木先輩の所為だろうなって思っていたんですけど」 九番隊の副官室をイヅルが訪ねてみれば、修兵の苛々が最高潮に達しているなと感じ取れた。 「なんだよ、吉良」 「先輩に何したんですか?先輩に檜佐木先輩の名前出したら物凄い反発されましたよ」 届け物だと書類を修兵の机に置くイヅル。 「何したって…って、の奴…その」 の名前を出すと、修兵の霊圧がふっと揺らぐ。 「何があったとかは聞いていませんよ。人付き合いのいい先輩が酷く人と距離をとっていますよ」 距離をとるというより、周りが避けてしまっている。 頭を抱えて内にこもってしまっている。 「ガキの喧嘩の延長みたいなものだと、思うんだけどな…」 「先輩のあの性格ですからね。きっと誰にも言わないと思いますよ」 仲直りするなら修兵から手を差し出した方が無難だろうとイヅルは言う。 「知ってる。あいつのそんな性格なんか……」 誰かのためには懸命になるくせに、自分のことになると黙って耐えている。 「だったら、早めにお願いしますよ。檜佐木先輩」 「………」 それには答えられなかった。 今回のこと。自分が悪いとわかっている。 わかっているけど。 なんか、素直になれなかったから…。 たかが菓子。 「俺・・・羨ましかったんだよ。お前と阿散井が」 「はぁ?」 何もしないでもチョコレートを貰えたイヅル。 頼めば仕方ないとチョコレートを貰えた恋次。 他の誰がくれるものより、がくれるチョコレートが欲しかった。 ただそれだけだ。 09/02/28UP
11/11/20再UP
|