春花咲かぬは、恋実らず。




ドリーム小説

寂しい-----。



という感情が湧いたのはいつ以来だ?
そう言うと自分に感情が欠けているように見えるが、別にそんなことはない。
笑うし、怒るし、泣くし、嬉しさも怒りも悲しみもなんだってある。

尊敬していた隊長が、実は裏切り者で去ってしまった時。
あの時は、寂しさなどなかった。
悲しみはあったが、副隊長として九番隊を纏めなければならない使命感の方が勝った。

希望があったから。
その時は。
少なくとも。

でも、今……。
別に何かあったわけでもない。
いつもの日常の一コマ。
なのに、寂しいと感じた。





【2】





「えーと。檜佐木君。これ」

三回生の頃だったと思う。
同じ特進クラスの女子生徒からプレゼントを差し出された修兵。
普通ならばそこは嬉しそうな顔をしたり、恥かしがったり、ちょっと格好をつけて興味がないように見せたり。
そんな顔を修兵はするだろう。
だけど、渡されたものを受け取ろうと手を伸ばした時、渡してきた女子生徒の顔が可愛くなかった為に躊躇した。
いや、見た目が可愛くないとかそういうのではない。
あからさまに嫌そうな顔をしていたからだ。

「……なに?早く受け取ってよ」

席について次の時間の予習を真面目にしていた修兵。
修兵にプレゼントを突き出す同じクラスの女子生徒。

「い、いや…そんな顔をされても」

「あ。ごめん」

と作ったような笑顔を向けられて修兵はなんだか釈然としなかった。
しないままも修兵はプレゼントを受け取る。

「なあ。このプレゼントってお前から?…じゃないよな」

修兵は苦笑した。
言った瞬間の彼女の顔が盛大に歪んだのがわかったから。

「私の友だちが、檜佐木君に渡すのが恥かしいからだって」

自分で渡せないならやめればいいのに…。
彼女は小さくぼやく。

「そっか。悪かったな」

「なんで、檜佐木君が謝るんだか」

「だって、なんか悪いなぁと思ったから」

嫌だったんだろ?と思うから。

「あーうん。正直嫌だったかな。私の友だちが汚されるって思ったから」

「はぁ?」

「だって檜佐木君。女泣かせの噂すごいもん。友だちがそれで傷つくの嫌だし」

はっきりと言ってくれる。
彼女が嫌がったのは、修兵との橋渡しではなく。友だちを単純に思ってからだったのか。

「だけど、酷くね?なんだよ、その女泣かせの噂って」

「あれ。無自覚?無意識?…」

「って、俺女の子を泣かせるようなことしてないって」

懸命に何、彼女に弁解しているのだろうかと思う。
くだらない噂話などいつもならば気にせず放っておくものなのに。

「ふーん。そうなの?」

「いったい、人のことどういう目で見てんだよ…」

「そういう目?」

あ。笑った。
嘲笑冷笑ではなく、柔らかく笑った。
少しだけその笑みに照れ修兵はプレゼントを置いて、教本へと目を向ける。

「女泣かせの噂なんて、どうせ俺のことが気に入らない連中の仕業だろ」

「……そうなの?」

「だと思う。好き勝手に言われているし」

立ったままだった女子生徒は、前の席へと腰掛ける。

「それって、どういう」

「流魂街出身の奴が筆頭なのが面白くねぇんだろ。一々突っ掛かってきやがる」

「あー……ごめん!」

彼女はパンと音が鳴るくらい力いっぱい両手を合わせて頭を下げる。

「?」

「そんなくだらない噂を信じた私が馬鹿でした。ごめん、本当ごめん!!」

彼女もわかったのだ、噂の出所がどこなのかを。

「べ、別にいいって」

「でもさ」

「奴らより顔も頭もいいから僻まれるんだ。仕方ねぇよな」

顔をあげた彼女はその修兵の言葉に、今度は盛大に笑った。
清々しいくらいに笑い飛ばす。
笑いまくった後に、清々しい笑顔を見せた。

「うん。友だちが檜佐木君に憧れる意味わかった気がする」

「え?」

「いい奴だもんね。檜佐木君。あんな噂が流れても友達は気にしなかった。
きっと檜佐木君の良いところを沢山気づいたんだよ。うん、きっとそうだ」

面と向かって言われて、なんだか照れ臭かった。
そんなつもりはなかったから、余計に。
けど、自然と彼女に釣られて笑ってしまった。



それが修兵とが友人となったきっかけ。



話しやすい。
さっぱりした性格。
一緒にいて楽しい。

そうに対して思えていたから、気兼ねない関係を気づけていたと思う。
も修兵に対し余所余所しさをなくしていたから。

なのに、寂しいと感じたのはいつだった?

「まぁ。立派な死神になる為の所なんだけどね、なんか照れる〜」

五回生先輩から声をかけられたとかが教えてくれた時だ。

「恋愛に現を抜かしてヘマをするなよ」

「檜佐木に言われたくないよー」

授業のこと、実技のこと、友だちのこと、趣味の話、そして恋話。
なんでもとは平気で話した。
不思議と友情というのが成り立っていて、恐らく性別など考えることもなくて。
コイツの隣は心地良い。
そう自然に考えるもので。いや無意識だったのかもしれない。
だから、その先輩との距離が縮まった時に。

あ。隣が寂しいな。

って思った。
けど、それ以降だってとは楽しくやっていたし、一瞬のことだと思った。
修兵も付き合う女性ができたこともあったし。
不思議と、その寂しさをそれ以降感じることはなかった。





「へぇ。手作りするんだ。すごいねぇ」

休憩室で、は後輩が開いていた本を見て言った。

「私、お菓子作りが趣味なんです。だから今度のバレンタインに手作りにしようかなって」

「いいね。貰えた人は喜んじゃうね」

がにっこり笑えば、後輩も破顔する。

「本当ですか?じゃあ先輩。もらってくれます?」

「え?私が貰っていいの?だって本命さんにやるものじゃないの?」

後輩は照れ臭さそうに笑う。

「実は言うほど本命ってのがいないんですよ、私も」

先日の昼食時に決めた、14日当日にお菓子を持ち寄ろう。の時に出そうと考えていたそうだ。

「あれ。ずるいなぁ。私には追求してきたくせに」

「えへへ〜すみません〜」

「でも。そうなら楽しみにしておくね」

「はい。頑張っちゃいます、私」

可愛いなぁ。女の子って感じで。
は素直にそう思った。
自身、料理の腕前は普通だと思う。
隊舎生活では、正直洗濯と自室の掃除ぐらいしかすることはない。
食事は食堂に行けば食べられるから。
だから彼女みたいに菓子作りが趣味です。ッて言える子を純粋に尊敬してしまう。

「あ。先輩もやってみません?」

「へ?私が?無理無理。チョコ用意するって話が出ただけで似合わないなんていわれちゃうんだよ〜」

菓子まで作ってみました。
などといえば、ドン引きされるのは間違いないだろう。

「そんな事ないと思いますよー。あ、副隊長」

イヅルが通りかかった。
後輩はイヅルに報告の延長なのか、の菓子作りのことを話してしまう。

「可笑しくないですよね?誰ですかーそんな失礼なことを言う人って」

「あは、あはは……えーと、同期?」

イヅルは先日の出来事もあったから、すぐにその同期が修兵だとわかる。

「いっその事。作ってその同期さんを驚かしてあげたら?」

「あ。いいですね、副隊長。その人にぎゃふんと言わせましょうよ!」

「ぎゃふんって…趣旨変わっているよ」

後輩はその同期の人物が、自分の大好きな先輩への扱いが悪いことが面白くないらしい。
先輩はこんなに素敵な人なのに!と自分以上に力説している。

「ぎゃふんはともかく。きっとさんのことを見直すかもよ?」

「えー…なんか見直されなくてもいい気がしますー」

ほとんどやったことのない菓子作りなど。
ただ、なんでそこまで気にするのか。それが自分でも気になった。
修兵には今までだって散々そんな扱いをされたというのに。

「話がどんどん膨らむなぁ。チョコぐらいは用意してみようかと思ったんですけどね」

「へぇ。そうなのかい?」

「ちょっと楽しんでみようかなと自分でも思ったので」

何をどうこうしよう。というわけではない。
単純に皆で食べて楽しむかー程度だ。

「あ。勿論、副隊長にはお世話になっていますので、チョコ持参しますよ」

「あはは。ありがとう。無理はしなくていいからね」

「あーいいっすねー。吉良が羨ましい。先輩、俺に分けてくださいよ」

イヅルの肩にポンと手を置き、姿を見せたのは六番隊副隊長阿散井恋次だった。

「阿散井副隊長。その呼び方は止めてくださいよ」

「って言われても。先輩は俺らの学院時代の先輩じゃないっすか」

「今はあなたの方が上なんですよ?」

俺らと言うのは、イヅルと五番隊副隊長雛森を含めてだ。
知り合ったのは、彼らが一回生の時。修兵が現世に魂葬実習へ連れて行った後だ。
あの時の出来事は修兵に大きな傷をもたらした。
だが同時に頼れる後輩を得た。
が修兵に彼らを紹介されて以降の付き合いだ。

「でも、檜佐木先輩にはタメ口じゃないっすか」

「えー……」

困惑してしまう
同期だからと言っても、向こうは副隊長。少し馴れ合いすぎただろうか?
けど、公式の場以外では修兵は畏まった態度を嫌がった。
それはだけに限らず、付き合いのある他の同期にも関してだ。

「ま。それはいいんすけど。さっきの話」

恋次はさほど追求もせずに話を戻す。
バレンタインの話だろう。

「吉良にもやるなら。俺にもくださいよ」

「勇気ありますね、阿散井副隊長…」

菓子作りは得意ではないのだ。

「そうっすか?先輩の手作りってところがレアモノっぽいじゃないっすか」

「阿散井君。失礼だよ、それは」

「自慢できるってことだ」

「まぁ。別にいいですけど…味の保証はしませんよ?本当にやったことないんですから」

「へへっ。やりっ!」

恋次は思わず拳を握り締める。

「あ。やべっ忘れてた。吉良、副隊長定例会議の時間だぜ。俺、呼びに来たんだよ」

「そうだったね。じゃあ行こうか」

後のことを頼むねとイヅルに言われる。
は二人を見送り、息を吐いた。
恋次の登場に固まっていた後輩も、緊張から解放されて苦笑いする。

「なんか大変な事になっちゃいましたね、先輩」

「本当。面倒臭いなぁ」

「でも頑張りましょうね、折角欲しいって言ってくださる方がいるんですから」

個人的にあげるのは、イヅルと恋次ぐらいだろうか?
買った物をと思ったのに、いつの間にやら手作りを渡す羽目になろうとは。

(うーん…檜佐木にもあげた方がいいのかな…)

イヅルだけならともかく、恋次にも渡すことが耳に入れば何か言われてしまうかもしれない。

(考えすぎかな…)

とりあえず、バレンタインまで時間が少ないので、何を作るのかを考えなくては。





副隊長定例会議が終了し、それぞれが室を出ようとしていた。
イヅルと恋次は会議前に中断していた話を再開させていた。

「あまりさんに負担をかけないで欲しいよ。仕事で忙しいのだから」

「あ?そんな本気で怒ることねぇだろ?いいじゃん、別に。嫌だったら嫌だって先輩なら言うんだからさ」

「だから、だよ。僕ら後輩に頼まれたら嫌って断れないだろ?優しいんだから、先輩は…あっ…」

うっかり昔のように言ってしまった。
自分が直の上官でなければ、きっとイヅルも恋次と同じ様にには接していただろう。
それができる恋次が少し羨ましい。

がどうかしたのか?」

後輩二人から知った名前が出ていたので、修兵が入ってくる。
恋次はご機嫌で修兵に笑みを向ける。

「へへっー。バレンタインに先輩の手作りを貰えることになりました!いいでしょ、先輩〜」

「はぁ?の!!?」

誰か貰ってくれる人はいないだろうか?
そんな事をぼやいていたが、まさかそれを恋次に?

「阿散井君が無理矢理頼んでいたんですよ」

「あ。自分は無条件で貰えるからってなんだよー」

「吉良もか?」

イヅルは頬を軽く指で掻く。

「僕の場合は、義理ですよ。一応上官って立場なので」

「でも先輩は吉良には自主的にやるって言ったんだろ?いいよなーそれだけでも」

「また、阿散井君はそんなことを言って。朽木さんのことはいいのかい?」

大事な幼馴染がいるだろうに。
隠しきれていない想いがあるというのに。

「る、ルキアはここでは関係ないだろ。つーか、普通に先輩には憧れている奴多いじゃん」

「まぁそうだよね」

男女問わず。

「無粋な視線を送っているわけじゃねぇし、憧れもあるが尊敬もしている。俺にとってはそんな先輩だ」

官位が自分の方が上になってしまっても。その気持ちは変わらないのだ。
イヅルと恋次は二人して修兵に視線を向ける。

「な、なんだよ」

「その先輩にちょっかい出せないのって、檜佐木先輩がいるからなんすよ?知ってました?」

「は?なんで、俺の所為なんだよ」

自分は何もしていないぞと。修兵は顔をむっとさせる。

「檜佐木先輩がさんといるから。怖がって話かけられないみたいですよ」

イヅルが小さく笑う。

「別に、俺とは」

「知っていますけど、簡単にはいかないものなんすよ」

ただの平隊士が隣にいるのと、副隊長がいるのとでは違うそうだ。

「とりあえず。当日が楽しみってもんですよ」

上機嫌の恋次。苦笑交じりのイヅル。

(あ。まただ…)

風が体を突き抜けたかのような寂しさを修兵は感じてしまうのだった。








09/02/17UP
11/11/20再UP