春花咲かぬは、恋実らず。




ドリーム小説

最近、ここ数年だろう。現世から入り込んだイベント、バレンタインデー。
瀞霊廷内、特に死神たちにはそのイベントが浸透しつつある。
なんでも、女性が好きな男性にチョコレートをそえて愛の告白をする日だそうだ。
だけども、それだけではなく、基本、家族やお世話になっている上司。
仲の良い友だちにもチョコレートを贈ることもあるようだ。

(わけわからん…本命だ、義理だって言われても…)

三番隊隊士は、毎年異様な霊圧に包まれるこのイベントを遠くから傍観していた。
もっぱらこのイベントは女性死神たちが楽しみ、その結果を男性死神たちは一喜一憂するのだ。
大体、チョコレートを貰える男性というのは、上位席官が多い。
単純に自分とこの隊長、副隊長などにお世話になっているからと贈る者。
ちょっと顔のいい、憧れているあの人にこの機会にアピールしてみようと言う者。
え?貰えないの?じゃあしょうがないから情けで分けてあげるわよ。と言う者。
様々だ。

隊長、副隊長でも貰える者の差は激しいようで。
人気があるのは、本命義理含めて十三番隊の浮竹隊長。
見た目はお子様でも、その手腕、行動に憧れる者も多い十番隊日番谷隊長。
クールな物腰、財力もばっちりな六番隊朽木隊長。

今は不在になっている、元五番隊隊長に元三番隊隊長も人気があった。

隊長に気軽に渡せない分、副隊長にと言う者も多く。
中でも、九番隊の檜佐木副隊長はここ数年数多くのチョコレートを貰っている。

ただ、恐らく一番人気ではないかと思われるのは、四番隊の荻堂八席である。
見た目、気さくな性格に憧れる女性も多いようだ。

名前が出ずとも、護廷隊に所属する死神は数多くいるため、各人それなりに収穫はあるようだ。

ただ、はあくまで傍観しているに過ぎなかった。
そんなバレンタインデーが今年もやってきた。

「えー。先輩、チョコあげないんですか?」

「あげなきゃダメなものなわけ?っていうか、あげる人いないし」

昼休み、のんびり昼食を取りながら同じ三番隊隊士(主に女性たち)といた
そこで話題になるのはバレンタインのことだ。

「ダメってわけじゃないですけど、楽しいですよ、あれこれするのが」

「そうそう。あの人は喜んでくれるかしら〜とかどうやって渡そうかな〜とか考えたりするのがね」

ねー。と楽しそうに同意する面々。

「恋人同士ではもっと盛り上がるんでしょうけど、どちらかといえば、片想いの子のイベントですよ」

「はぁ。そういうものなの?」

「あ。でもでも。自分たちでもチョコを食べたいとか思うので、自分にも用意しちゃいますけど」

「あ。当日持ち寄って皆で食べない?」

「いいですねーそれ」

益々盛り上がる面々。これについていけない自分はどうなのだろうか。

先輩も当日チョコ持ってきてくださいよ?」

「へ?」

話を聞いていなかったのか?と後輩に叱られる。
当日皆でおやつを持ち寄り楽しもうという事になったらしい。
バレンタインと関係あるのかどうかはわからないが、それはそれでいいかとは承諾した。

さん!」

を呼ぶ声。

「吉良副隊長が探していましたよー」

と言われ、は席を立つ。

「ごめんね。ちょっと行ってくるよ」

「はーい!いってらっしゃい〜」

を見送る面々。その姿がなくなると体を寄せ合い、小声になる。

「あの調子じゃ、先輩狙いの男どもは今年も泣くことになりそうね」

「しょうがないよ。だもん」

「先輩に本命の彼っていないんですかー?」

恋愛に興味がないというような
女同士で気兼ねなく楽しくやる方がいい。そんな風に見られる。
それはそれでいい。自分たちも楽しいし、かまってもらえて。
隊長不在の三番隊で、最近逆に時間の余裕が出てきた。
前は残業の嵐でどうなることかと思っていたが、そんな時はいつもが励ましてくれたものだ。
その先輩に、自分たちことよりも自分自身のことをもっと大事に思ってくれないものかと考えている。
バレンタインなんて、とてもいいイベントではないかと。

「うーん…最近は聞かないなぁ」

同期である一人が考えるも思い浮かばない。

「っていうか、周りの男たちも情けないんですよ。遠くから見ているだけで動こうって奴いないんですもん」

だとしても、最初からそんな野郎どもにはを渡さないつもりだ。

「あぁ、それはあれよ。檜佐木君がいるから」

「もしかして檜佐木副隊長ですか?九番隊の…?」

「そう。副隊長になった今でも公式の場以外なら結構気さくに話しかけてくるし」

霊術学院時代の同期になるのだが、自分たちとは違い、彼はあっという間に副隊長へと昇格している。
それでも、たまに会えばあの頃と変わらない姿で接してくる。

「中でも、とは仲良かったからね。それを見れば躊躇するんじゃないの?」

その言葉に後輩たちは目を輝かせる。

「それって、もしかして!先輩の!!」

後輩たちの黄色い声に彼女は違うと手を振る。

「ないよ。あの二人にそんな感情。檜佐木君、に対して平気で好きな女性のタイプとか話すし」

寧ろ女として見ていないのではないか?と思ってしまうほどの態度らしい。

「え。それはそれでなんかショックなんですけど……」

クールな副隊長。だと思っていただけに。

「それだけ気は許しているんでしょうけどね」

「じゃ、じゃあ逆に先輩の方はどうなんですか?先輩が檜佐木副隊長をって」

それもないと首を振られてしまう。
なんだか考えるだけ無駄なのだろうか?
そう思ってしまう面々だった。





「急に呼び出してしまってすまなかったね」

「いえ。いいですよ、御用があるときは遠慮なく呼んでください」

寧ろそれが当たり前だと思うのだが。
イヅルに呼ばれた
その用事も済んだところで、イヅルに申し訳なさそうに頭を下げられた。

「副隊長。そこは謝るところではありませんよ。気にしないで下さい」

「あ、あぁごめん」

気が弱いとは違うのだろうが、優しすぎるのだろうか?
まぁでも彼らしいとも言えるし、最近では隊長代行としての顔も様になってきている。

「また謝る〜」

「あ、あぁ…えーと。ありがとう」

「うふふ。どういたしまして」

書類を抱えながら二人は長い廊下を歩いている。
イヅルは六番隊へ、は八番隊へ向かうことになっている。
そんな二人、と言うよりイヅルの目にはいつも以上に楽しげな女性隊士たちの姿映る。

「なにか良い事でもあるのかな?みんな楽しそうだよね」

「あぁ。バレンタインとやらが近いからですよ」

「バレンタインか。そうか、そんな時期なんだね」

「あれですか、副隊長も気になってしまうものですか?」

の質問にイヅルはどうかな?と意外にも淡々と答える。

「僕は市丸隊長みたいに人気があるわけじゃないし。きっといつも通りだと思うよ」

「市丸元¢熬キです」

「あ、あはは。そうだね」

市丸の名前を出したことは失敗だったろうか?イヅルは参る。
他の隊士たちとは違って、だけは市丸の離反を腹の底から怒っているようだったから。
市丸もなんだかんだを構っている様子が見られただけに。
何かしら疑われる真似でもされたのだろうか?
だが、一般隊士たちには元隊長たちの離反の理由は明かされていない。

「あー…えーと。さんは誰かにチョコをやったりするのかい?」

の機嫌を治そうと話題を変えてみるイヅル。

「え?私ですか?「うわっ。そんな奴いるのかよ。そいつも可哀相だな〜」

の返事は別の声に遮られる。

「なっ!」

「あ。檜佐木先輩」

「よぉ。吉良」

ニッと笑ってちゃっかりの肩に腕を回している修兵がいる。
先ほどの声は修兵のようだ。

「檜佐木!何気に酷いこと言ったわね、あんた!!」

腕をどけろと振り払う

「だってよー。お前がバレンタインにチョコって…似合わねぇ」

「こいつ……」

斬魄刀を帯刀していれば、今すぐにでもこの男に斬り付けてやりたいという衝動にかられる。
だけども相手は副隊長。力の差があるので結果は目に見えているのだが。

「似合わなくて悪かったですね!檜佐木には関係ないのでいいでしょ、別に」

「あ、あ〜さん」

一応二人の関係を知っているイヅルであるが少々慌ててしまう。

「吉良副隊長。失礼します。私は急ぎますので」

イヅルにはやんわり笑みを向け、修兵には目もくれずには行ってしまう。

「可愛くねー、本当」

「檜佐木先輩……さんにそんなこと言うの、先輩だけですよ」

イヅルは苦笑する。

「そうかぁ?」

「そうです。先輩知らないんですか?さんって男女問わず慕われているんですよ」

「ふーん」

学院時代からの付き合いであると修兵。
元々さばけた性格のだから、修兵は気兼ねなく接することが出来ている。
正直女性として意識したことがない。

「あいつ。昔からあんなだぜ?」

「だから。それは先輩にだけですよ。僕は無視されたり悪態つかれたことないですし」

「お〜?なんだ、それは。何気に自慢か?」

イヅルの肩に腕を回し、わざとシメ落とそうとする修兵。

「そうですね。自慢ですよ。うちの大事な隊士を苛めないでください」

三番隊にとって大事な人だと珍しくイヅルが言い切った。
修兵はあっさりイヅルを解放する。

「吉良。お前、のこと好きなのか?」

「そういう意味ではないです。市丸隊長がいなくなってから、落ち込んだりする隊士たちが多くて」

何を考えているのかわからない人だった。
暇つぶしで悪戯をされてしまうこともしばしばあった。
仕事を放り出して逃げてしまうものだから、残された隊士たちで溜まった仕事を処理するのが大変だった。
大変だったけど、楽しかった。
だから、急に消えた隊長の存在が、酷くのしかかってくる。
そんな中で、は隊士たちを励まし、イヅルの補佐を買って出てくれるほど働いてくれた。
本来ならば、その役目は自分がすべきだろうが、イヅルもに甘えてしまっていた。

「みんな感謝しているんですよ。さんに」

「吉良…」

「だから、そんなさんを苛めないで下さいって言っているんですよ」

「別に苛めてねぇよ」

軽くイヅルの後頭部を叩いた。

「もう。酷いですよ、先輩」

イヅルに軽く睨まれる。
だが、修兵はそんな睨みに怯むことなくしている。

(ふーん。は三番隊で慕われているのか…)

学院時代も仲の良い友だちは結構居たように記憶している。
修兵も別にが嫌いだとか言うわけではない。
こうして悪態つくことはあるものの、基本気軽に話せるいい友だちだと思っているのだから。
ただ、長い付き合いだけに、の恋愛話など今まで気にしたこともなかったことがでてきた。

「でも、が誰かにチョコをやるなんての聞いたことねぇぞ?」

「らしいですね。だからそういう話をしていたら先輩が割って入ってきたのでしょう?」

「あ。そうか」

余計なことを言っては怒って行ってしまった。

「他の隊でもそうですけど、三番隊では結構盛り上がっているみたいですからね」

「ふーん」

そんなことを話ながらも、イヅルも六番隊へ行くからと修兵と別れた。





八番隊へ書類を届けに行った際に、京楽からお菓子をもらってしまった。
どぶろくきんつば。ほのかに香る酒の匂いに好みが分かれそうだが。
徳利最中を好んで食べている京楽ではあるが、酒が含まれているものなら結構好んで食べるらしい。

「え。いいんですか?」

「いいよ、いいよ〜ちゃんは可愛いから」

女性には無条件で優しいらしい京楽。
最初は隊長相手に緊張していたものの、京楽の方がその緊張を解してくれるかのように接してくれる。
だからは比較的京楽と顔をあわせることを苦とは思わない。

「そんなことおっしゃるのは京楽隊長ぐらいですよ。私普段から可愛げのない奴って言われていますので」

「えー。それは見る目がないんだよ。ちゃんの周りはお子様だらけだね」

それにが自分で言うほど可愛げがないとは京楽には思えなかった。

「周りがですか?そこは普通私の態度に問題があると思うのですが」

「そういう態度も可愛いって思えるぐらいの度量がないとね」

京楽と話しているとついつい長居をしてしまう。

「そんなものですかねー」

「そんなものだよー。ちゃんももっと自分に自信を持たなきゃ」

などと京楽に言われても、は苦笑しか出ない。

「そうだ。バレンタインに誰かチョコをやるような意中の人はいないのかい?」

「あ。それ吉良副隊長にも聞かれたんですけどねー。私いないんですよね」

当日も仲間内で菓子を持ち寄ろうなどという話をしたばかりだと、京楽に話す。

「でも。誰か一人ぐらい、いるんじゃないの?あげたい人」

「お世話になっている意味でと言うなら、京楽隊長や吉良副隊長って思いますけど」

「それは嬉しいねぇ。でも、ボクが言いたいのはそういう意味じゃないから」

は拱手し首を傾げる。

「似合わないって言われちゃいましたからねぇ」

「誰だい、そんな事を言ったのは」

「あは、あははは。まぁ同期なんですけどね」

そんな事をしばらく話していたが、七緒が戻ってきたので仕事の邪魔になるだろうと。
は退出する。
京楽と話したことを思い返しながら、さてどうしたものかと考えながら歩く。



振り返れば修兵がいた。

「あ。どぶろくきんつば食べる?さっき京楽隊長に貰ったんだ」

分けてあげる。と数個修兵に渡した。
いつもと変わりない態度に修兵は安堵する。
はそういう子だ。

「なんだ。あれからずっと八番隊にいたのか?」

「うん。京楽隊長と話していると、つい時間を忘れちゃうから困るね」

「へぇ…あ、美味いな、これ」

歩きながらどぶろくきんつばを食べている修兵。

「ちょっと、行儀悪いよ。檜佐木」

「そうなんだけど、いい酒の匂いがするからさ」

我慢できなかったと笑う修兵。
そんな顔を見ると仕方ないかと思えてしまう
ついでにあとで食べるのが楽しみだなと。

「京楽隊長とどんな話をしてたんだ?」

「どんなって。なんていうか〜まぁバレンタインの話をちょっとね」

今がちょうどそんな時期だからしょうがないよねと。は笑う。

「でも……用意してみようかな。チョコレート」

「え?」

マジか、こいつと修兵はの顔を凝視してしまう。

「なによ、それ」

「い、いや。だってよ」

の柳眉が歪むも、すぐさま和らぐ。

「似合わないんでしょ?別にいいけどさ…じゃあ、檜佐木は私からのは受け取ってくれないんだ」

「そ、それは」

は苦笑交じりで溜め息が出てしまう。

「ま。そう思われても仕方ないよね。今までが今までだし」

誰か貰ってくれる人いないかなー。
なんて言いながらは軽く伸びをする。

先輩!遅いですよー調練のお時間でーす」

三番隊の後輩たちがを呼びに来た。

「あ。ごめん。じゃあね、檜佐木」

「お、おう」

後輩達の下へ駆けて行く
その後姿を見送る修兵。
なんとなく、ぽつんと取り残された。
今まで感じたことのない焦燥が急に沸き立つ。

(いや、あいつだって…そのうち、男ができても可笑しくないわけだし…)

だけど、なんとなく寂しいと思うのは何故だろうか?








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11/11/20再UP