|
魂葬されて流魂街ってところにあたしはいた。 西流魂街の23地区ってところらしくて。 比較的というかかなり安定した街らしい。 擬似家族とでも言うのだろうか? 生まれた場所も死んだ時間も年齢もバラバラの人たちと一緒に生活をしていた。 【短くて長い道】 「別に死神にならなくてもいいんだよ?ここで生活はできるし」 「そうそう。それに素質がなきゃ意味もなさないしね」 がこの街に着てから数ヶ月が経った。 自分を魂葬してくれたあの死神が言うにはそんなに悪くない所だと言っていた。 確かにのいる街は悪くないが、ぶっちゃけ貧富の差が激しいのに驚いた。 数字が多いほど街は荒れているらしい。 そんな場所に行かなくて、自分の運の良さに感謝してしまう。 家族と呼べる人たちは店を営んでいた。 呉服問屋とでも言うのか。 商人と言う感じの人ばかりが集まって衣服を売り買いしていた。 「素質、ないかな?あたし」 「さぁねぇ。こればっかりはね」 「なんでそこまで死神になりたがるんだい?」 「…もう一度何かやりたいから…かな?…あたしずーっと受験勉強してたからさぁ」 何かに合格して気持ちを切り替えたい。 目の前に死神を見たってのもあるのかもしれないが。 あとは。 (…もう一度あの人に会いたい…かな?…檜佐木さんだっけ) の魂葬をしてくれた死神。 目つきは悪いし、最初の態度も悪かった。 あのまま別れていたら死神になりたいとは思わなかった。 だが、短い時間の中で悪い印象は消えた。 未練と不安いっぱいだったもこっちへ来ようと思ったのは彼のお蔭だ。 「まぁなれたらいいね。頑張りな。とりあえず、今は店の手伝いね」 「はーい」 *** それでもやはり運は良かったのだろう。 こればかりはどうしようもないという素質、霊力が目覚めていたらしく。 は真央霊術院に入ることができた。 「……あぁ!また間違えた!」 「焦らない、焦らない〜」 「わかってるけどさ…」 そこまでは良かった。 学院に入ったまでは。 一から勉強を始めるわけだが、高校や大学受験の時とは違うから 器用にあれこれと進められないでいた。 「長い…なぁ……」 鬼道と呼ばれる死神が使える術。 それを覚え、使えるようにするには大変で根を上げそうになる。 「ちゃん鬼道はあんま向いてないのかな〜」 「かもしれなーい。木刀振るってる方が性に合う…」 友だちに言われて、わかっていても凹んでしまう。 『なんだ、お前。死神になりてーのか?楽じゃねーぞ?』 確かに。 すごく楽じゃないです。 まだ学院の生徒だってのに……。 学院に入ってから、檜佐木修兵の話を聞いた。 学院時代から彼は有名だったらしい。 顔についていた傷は、六回生の時に実習の引率をしていた時に遭遇した巨大虚に襲われてできたものらしい。 その後卒業して護廷十三隊に入り、着実に上につめている。 (だよなぁ、あの時すでに副隊長だもん。すごい人なんだなぁ…) 改めてそう思った。 そして、自分がそんな人に会えたらなどと思ったことを恥ずかしく思った。 (簡単に死神になりたいとか言ってさ…) 「ちゃん。ふて腐れてないで鬼道の練習しようか」 本当は自分で精一杯だろうに。 学院でできたこの友だちは何かと自分を気遣ってくれる。 「うん。頑張る」 とりあえず、やれるだけやってみよう。 *** それから一年が過ぎるごとに力はついていった。 でも相変わらず鬼道は上達しなくて。 現在、は4回生だ。 「……あーもう!やっぱり上手くいかないーーー」 駄々子のように足をばたつかせる。 それを宥める友人たち。 鬼道の自主練習をしていたところだ。 「でも、ほら!斬拳走鬼のうち、は斬と走はトップクラスじゃん!なんとかなるよ」 「と言われてもねぇ……」 「あと拳を上達させればに怖いものなしだよ」 「おいおい、それは腕っ節の強い女ってことですか?」 「万能型を目指すのもいいけど、今は長所を伸ばすこともいいと思うよ?先生たちもそう言ってたじゃん」 「斬と走を?…」 「そうそう。思い切って鬼道は諦めるとか。護廷十三隊の人でも鬼道が苦手な人っているようだし」 「…そう…だね。とりあえず…長所でも伸ばそうかな…」 は髪を掻きながらへらりと笑う。 本当は笑いたくなどない。 一人になると泣きたくなる。 鬼道だけは上手くいかなくて。 それでもには得意とされるものがあるからまだ良い。 でも自分だけできないとわかると惨めな気持ちになる。 友だちはを思って色々言ってくれるのだろうが。 「…とりあえず…とりあえず…最近こんなんばかりだ…」 廊下を歩きながらそんなことを呟いた。 『頑張れよ。見事卒業できたらウチに来いよ』 悔しさがまだある今は大丈夫なのかもしれない。 やってやろうって気持ちになる。 それと修兵の言葉が、ほんの少しだけの言葉だけど思い出して頑張れる。 「…よし!」 気持ちの切り替えが大事だ。 まだまだ先は長い。 なんとかなるはずだ。 それから数日後、学院内が急に騒がしくなった。 護廷十三隊の隊長が来るらしい。 どこの隊の隊長が来るのかはわからないが、生徒たちにしてみれば憧れの存在。 遠い存在の人だ。 「何しに来るんだろうね!」 「なんかドキドキしちゃうよ〜」 友だちにつられてもその隊長の姿を一目見ようと正門に向かった。 すでに多くの生徒たちがつめかけており、後ろの方にいるたちはその姿は見れないなと落胆する。 どうしようかと話していると騒がしかった辺りが急に静かになった。 空気が変わったような、ピンと背筋を伸ばしてしまう。 (うわっ、かなり離れてるのに…すごい…) その隊長の霊圧だろう。 別に威圧しているわけじゃないが、ピリピリと肌を刺されているように感じる。 通り過ぎてしまった後に、意味もなく安堵した。 これで姿でも見てしまったならば卒倒してしまうかもしれない。 そんな事を友だちと話した。 結局、どこの隊の隊長が来たのかはわからなかった。 は友達と別れ自主練習をすることにした。 校舎裏で木刀を振るう。 「スピードはそこそこあるけど、やっぱ力が足りないよなぁ…」 軽く構えてから何度か振り下ろす。 「虚を倒すには一撃で…うーん、腕の非力さをカバーするには筋トレでもしないとダメかな」 剣術は得意分野だ。 授業で男子生徒とあたっても負けは少ない。 それでも体格の差がある男子生徒とやると、力技で負けてしまう。 「虚だって大きいものだっているだろうし…あたしは鬼道が優れていない分こっちでカバーしないとなぁ」 ぶつぶつ言いながら一人で黙々と鍛錬する。 そんなを校舎から見ていた者がいた。 「………あいつ」 この学院に入ったんだな。 なんとなく口元が緩んだ。 名前は知らない。 あの時自分は名乗ったが、相手の名前は聞きそびれた。 でも死神になると言った彼女だったから。 その時が来れば自然と再会できると思った。 思わず窓を開けて彼女に向かって声をかけた。 「おい!」 「…え?」 「久しぶりだな、俺のこと覚えているか?」 「…あ、あ……ひ、檜佐木、副隊長…」 声をかけられたと思ったら、それは修兵で。 案外早く会えたことに嬉しく思うよりも驚愕してしまう。 学園に来た隊長は九番隊の隊長だったのか。 そして副隊長である彼はそれに同行してきたようだ。 「今、何回生なんだ?アレ覚えてっか?卒業したら…」 修兵は気さくに話しかけてくるが、は脈が波打ち上手く呼吸ができない。 「って、おい!」 何も答えることができずには逃げ出してしまう。 修兵はを追いかけようと窓枠に手をかけ飛び出す。 「なんだよ、いきなり…人違いじゃねーよな…」 はできるだけ遠くにと走る。 「はぁ…はぁっ…どうしよう…逃げてきちゃった…」 どのくらい走っただろうか? 学院の裏山へと入り込んでいた。 大木へと背をつけて息を整える。 副隊長から理由もなく逃げたなんてことしてはいけないだろうってことはわかっている。 わかっているが、気さくな修兵の態度よりも彼の霊圧にあてられた。 すごいって。 正門で感じた隊長クラスの霊圧。 多くの生徒の壁があっても圧し掛かっていたのに。 さっきはなくて。 彼との差がとてつもないものだと知った。 なんだか怖くなった。 「おい」 音もなかった。 けれど、すぐそばに修兵がいる。 「………」 「どうした?」 「………」 「お前、俺が前に魂葬した奴だよな?死神になりたいって言った」 「そ、そうです…けど」 「あ?」 別れた時とは大分違う。 修兵は眉を顰める。 「名前。あの時聞きそびれた。なんて言うんだ?」 「……あ、あたしの名前…ですか?…その…」 は腕に抱えた木刀に力を入れる。 「い、言えません!」 「…は?…なんで?…」 「まだまだ未熟だから!檜佐木副隊長に会わす顔がないですから!」 「…………」 急に壁ができたと思った。 あの時は普通に話してくれて、笑ってくれて。 死神になりたいって自分に向けた顔がすごく良かった。 ならば頑張れよって応援したくなった。 あの日、名前は聞きそびれたけど、彼女の素質など気にもしないで、ただ死神になれるといいなって。 その時が楽しみだって思った。 思ったのに。 「……そうか…」 最初に副隊長って言ったじゃないか。 身分ってのを彼女は気にするんだ。 学院に入ってしまった以上はそうかもしれないが。 今、ここには彼女と自分しかいない。 だから別に普通に話してくれればいいのに……顔も見せてくれない。 「…ま、頑張れよ…」 修兵は背を向ける。 「…でよ、いつか名前教えてくれよな…」 気配が消えた。 修兵が去ったからだ。 はずるずると座り込んでしまう。 カランと音がした。 抱えていた木刀を離したから音をたてて倒れた。 は膝を抱えて顔を埋める。 「…ごめんなさい……ごめんなさい…」 自分を覚えていてくれたのは嬉しかった。 でも振り向く勇気がなかった。 せっかく声をかけてくれたのに、追いかけてくれたのに。 「頑張る…絶対、頑張るから…」 その時が来たら素直に謝ってあなたに会いに行きます。 二年後。 は真央霊術院を卒業した。 鬼道は相変わらずダメだったが戦闘能力が高かったために護廷十三隊に入ることができた。 学院時代はあっという間に過ぎたが、それでもまだまだ道は長い…。 05/11/09UP
11/11/13再UP
|