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あなたに。
敵国の少女なのに、守ってあげたいと思うのは…いけないことだろうか? 本当は辛いはずなのに、貴女はいつも笑っておられる。 私に何かできることはないでしょうか? 【再会】 「文遠さま、私なんかの相手をしていて良いのですか?」 「あぁ、申し訳ない。毎日貴女の都合など考えずに押しかけてしまって」 自分に頭を下げる張遼には慌ててしまう。 「違いますよ!私が言っているのはそうじゃなくて…」 「私の事は気にしなくてよいのですよ。殿と話をしていると、とても楽しいです」 「はぁ…私も文遠さまが居てくれて嬉しいですけど…」 仕事はちゃんとしないと駄目ですよ? にそう言われ、張遼は苦笑してしまう。 張遼は政治的なことに口を出すつもりもないし、自分の仕事は戦場なのだから。 「殿、今日は何をしましょうか?」 「そうですねぇ…どうしましょうか?」 張遼は毎日と言っていいほど、の傍に居る。 がここで笑っていられるように、張遼なりに考えているのだ。 張遼が一緒ならばと、司馬懿は、口は出さず見ているだけだ。 「散歩でもいいですか?このお城大きいから、見て回るのが楽しくて」 「構いませんよ。殿がそれで良いなら」 世話係りに要件を告げて部屋を出る。 目的もなくふらふら歩くだけだが、はそれが楽しいらしい。 他愛もない話をするだけでも、張遼自身も楽しかった。 できれば、ずっと続いて欲しいような…そんな感情を表に出さずに。 *** 城の中でも一際静かな場所に出てしまった。 張遼は慌ててに引き返そうと言う。 「どうしてですか?」 「申し訳ない。ここから先は殿の私邸に繋がっていますから」 「あ!そっか。人様の家には勝手に入ってはいけませんもんね」 も納得して二人は引き返そうとした。 だが、の耳にある音色が聞こえた。 「………」 急に立ち止まったを張遼は不思議に思い声をかける。 「殿?どうかされましたか?」 「………さま…」 は何かを呟くと、入ってはいけないと言われた場所へ向かっていく。 「殿!」 慌てて張遼は追いかける。 の足は音色に近づくにつれて速くなっていく。 (もしかしたら…あの、笛の音は!) 綺麗な花が咲いている庭らしき所に着いた時、音色は止まった。 「はぁ…はぁ…あ、あの…」 はその奥に居るだろうと思われる人に声をかける。 「なんだ?お前は?」 現れたのは身形の良い青年であり、は見た瞬間に落胆してしまった。 (違った…そんなわけないし…) 突然現れた見知らぬ少女に、青年は眉を顰める。 場所が場所なだけに。 「何用だ、ここがどこかわかっておるのだろな」 「す、すみません」 は慌てて頭を下げるが、青年は明らかに不快感を表している。 「殿!」 やっと張遼が追いつき、の置かれている現状を見て慌てての前に出る。 「曹丕様、申し訳ございません」 「張遼将軍…」 「この者は決して怪しいものではございません。司馬懿殿の客人でございます」 「仲達の?…あぁ、すると、その娘が『玉璽の姫』か…」 青年は曹丕。 曹操の息子であり、彼は司馬懿を気に入り重用していた。 「その姫がここで何をしているのだ」 は曹丕に問われるが、上手く言葉が出ない。 「…どうした?」 「曹丕様、殿はここに来て日が浅いゆえ、城内で迷ってしまったのです。私が一緒に居ながら申し訳ありませんでした」 「文遠さま…」 自分勝手なことをしたのに、張遼は庇ってくれている。 は後悔の念でいっぱいになる。 「ならば、早く戻るが良い、とやら」 曹丕は咎める気がなくなったらしいが、捨てるように言う。 は再び頭を下げ、張遼と戻ろうとした。 だが、曹丕が居た奥の部屋から声がした。 「………殿?」 自分の名を呼ばれ、振り向く。 曹丕の陰から、の見知った女性が現れた。 「甄姫さま!」 「まぁ、殿!殿ではありませんか!」 がずっと気にしていた女性。 袁紹の城で唯一に優しく接してくれた甄姫だった。 甄姫とは共に駆け寄り、お互いの再会に涙した。 「甄姫さま、甄姫さまにまた会えるなんて……」 「私も殿に会えるとは思ってもみませんでしたわ」 は甄姫の胸で泣きじゃくってしまった。 甄姫もの頭を優しく撫でる。 「甄…娘と知り合いか?」 「はい、私の大切な友でございます」 「そうか…久しぶりの再会ならばゆっくり過ごすが良い」 「ありがとうございます」 曹丕は、それ以上は何も言わずに行ってしまった。 張遼も邪魔をしては悪いと思い、離れようとする。 だが、が引きとめた。 「文遠さま、居てもらえませんか?私一人じゃ、部屋に戻れないかもしれないから」 「ですが…」 「私も構いませんよ」 張遼は二人から少し離れた場所で待つことにした。 は甄姫とのあの別れの日からのことを聞いた。 曹操軍に城を攻められた際に曹丕に捕らわれて、曹丕の正室になったのだと言う。 も自分の身に起こった出来事を話した。 長坂でのこと。 成都を制圧した時のこと。 その後の蜀での生活。 ここに連れて来られた事。 そして… 趙雲の事…。 「あの時の青年ですね、貴女を必死に探していた」 甄姫も数回だけ趙雲の事を見かけたことがあった。 が甄姫と出会った日にを心配して、必死でを探していた趙雲の姿を見て覚えていた。 「私、まだごめんなさいって言ってなくて…」 「そう…それは…」 「…子龍に会いたいです。会ってちゃんと謝りたい…」 「…殿」 「やっぱり、子龍の傍に居たいんです!」 は声を上げて泣き出した。 甄姫はを子どものようにあやす。 少し離れた場所とは言え、張遼にも二人の話は聞こえていた。 そして、趙雲のことを知った。 にはすでに思う相手がいたこと。 (自分では何も出来ないのだろうな) 泣き続けるを見て、張遼は改めてそう思うのだった。 *** は甄姫と再会できた。 それは嬉しかったが、同時に本心をぶちまけた。 『子龍に会いたい』 甄姫に言ったところで、叶うわけもなく。 困らせるだけだとわかっていても、ずっと泣いていた。 その日から、甄姫と過ごすようになった。 相変わらず、曹丕からは不快感露な視線を向けられていたが。 それでも甄姫と過ごす事を望んだ。 張遼は少し離れた場所でを待っている。 朝早くから、司馬懿から身なりを整えて置くようにと言われた。 答えは一つ。 曹操に会うと言う事。 この日ばかりは、張遼もの元へくる事はなく、その時間が来るのをは一人で待っていた。 「殿、行きますぞ」 司馬懿の後ろを着いていく。 緊張の色を隠せない。 震えてくる。 曹操に気に入られなかったら、自分は殺されてしまうのだろうか? もう2度と趙雲と会うことは叶わないのだろうか。 「失礼いたします。先日お話した娘を連れてまいりました」 「入れ」 入った室、上座に曹操が座っており、その隣で隻眼の男が立っている。 「殿、この娘が劉備の元で『玉璽の姫』と騒がれている者にございます」 司馬懿がそう言って、を曹操の前に引き出す。 「あ…あの…」 はどうして良いかわからない。 『殿』と呼ばれるこの男は劉備とは違って気さくな感じがしてこない。 自分を見下しているのがよくわかる。 「長坂で見せた力はお主の力か?」 「ち、違います。私の力ではありません」 「ほぉ、違うと申すか」 「あれは…」 本来なら黙っているべきなのだが、何故だか口が動く。 正直に玉璽の事を話してしまう。 「…それが真なら、お主を手元においておけば天下が転がり込んでくるのか」 「そう言われました」 曹操は自分のあごに手をやり、を見て笑った。 「だが、わしにはそのような力はいらん」 「殿!」 司馬懿自身、これには驚いたらしく声を出してしまう。 曹操の隣に居る男、夏侯惇は曹操と同意権らしくフッと笑みを浮かべている。 「以前のわしなら、なんとしても玉璽を手に入れただろうな。だが今は違う。 そのような物に頼らずとも、わしには天下を取る自信がある」 「曹操さま…」 不思議と曹操に好感を持った。 虐殺を繰り返す恐ろしい男だと思っていた。 「わしには素晴らしい部下が大勢いる。運などと言うものが必要ならば、それはわし自身の問題だ」 「殿、それでは」 「わしには『玉璽の姫』など必要ない。劉備の元へ返してやれ。 これで蜀が繁栄したのなら、いずれ戦う日が来るであろうな。その時は、容赦はせん」 帰れる。 曹操から出た言葉には涙が出てきた。 「本当に、私は蜀へ戻ってもいいのですが?」 「あぁ、帰るが良い」 「ありがとうございます!」 は泣きながら何度も曹操に頭を下げる。 勝手に連れてこられたのに、その相手にお礼を言うとは自分でも不思議でしょうがない。 でも、曹操には素直にお礼を言いたかった。 「、蜀へ帰る前に一度くらいは食事でもどうだ?お主の話は中々面白い」 曹操からの申し出には素直に受ける。 食事ぐらいはいいだろうと。 ほんの少しの時間しか曹操とは話していないが、下手な小細工をするような人ではないと思ったから。 「はい、喜んで」 が退室した後、曹操は夏侯惇に言った。 「面白い娘だな、あれは」 「俺もお前と同意権だが、本当に返しても良いのか?」 「構わん、元々そのような力などに興味もない」 「そうか…」 「どうせなら、関羽や趙雲の武力の方が欲しいな」 曹操はのどの奥で笑ったのだった。 *** 「帰れる!子龍の元に!」 満面の笑みを浮かべ、は歩いていた。 あの場所へは2度と戻れないと思っていたから喜びは大きい。 「甄姫さまや文遠さまにも教えないと…でも…」 自分が蜀へ戻るという事は、この二人には2度と会えないと言う事。 更に、いずれは趙雲と張遼は刃を交える事になるかもしれない。 「なんか複雑…」 ずっと自分のことを気にかけてくれた張遼だから。 「殿」 「文遠さま!あの、私」 「聞きましたよ。国へ戻れるそうですね」 「はい…」 「寂しくなりますね。貴女がいなくなると思うと…あ、すみません」 思わず出てしまった言葉に張遼は後悔する。 そんな事をに言っても困るだけなのに。 「いえ、私も同じです。帰れるのは嬉しいけど、文遠さまや甄姫さまとお別れするのは寂しいです」 「そう思ってくれるだけで嬉しいですよ、私は」 「文遠さま…」 「お食事でもどうですか?お腹空いたでしょう」 曹操に会うまで緊張して何ものどを通らなかった。 それが急に安心してお腹が空いてきた。 張遼に言われ改めて空腹感が出てきた。 「はい、もちろん文遠さまと一緒に」 と一緒にいれる残りわずかな時間を無駄にしないようにと 張遼は笑ってと過ごす事を望むのだった。 03/01/24
03/01/27
11/10/30加筆修正再UP
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