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あなたに。
現代から来た少女、が劉備の元へやってきてから早、1年が経つ。 馴染めなかった文化や生活も今では苦もなく暮らしている。 最初からハードなことが多かった。 袁紹と曹操の官渡の戦いに曹操軍から逃げる長坂の戦い、蜀を平定するための成都制圧戦。 直接戦に関わったのは2度だけだか、これがの人生を大きく変えた。 には玉璽の力が宿っていた。 玉璽とは帝位の印となる判子のことだが、ここでは違った。 玉璽を得た者は国を得、失った者は国を失うと言われ、はその玉璽に相応しい者を 見定めるために選ばれたのだ。 そのためか、民たちからは『玉璽の姫』などと噂されている。 簡単に言えば、がいれば国が栄えると言ったところであろうか。 がこの異世界で暮らしていられるのは周りの人間のお蔭だろう。 劉備がを快く迎えてくれたたし、孔明や関羽らにも可愛がられている。 歳の近い姜維とは兄妹みたく仲良くやっている。 それと、一番の理由はこの地で大切な人が出来た。 蜀にとっても大事な武将、趙子龍である。 趙雲とは互いに惹かれあい、自然と想う様になっていた。 趙雲が気持ちを伝えた時に一度は拒絶しただったが、自分の気持ちに嘘はつけず も正直に気持ちを伝えた。 そう、はこの地で生きる事を選んだのである。 【始まり】 「、そんなに急がなくても良いだろう?」 「だって、久しぶりだもん、子龍と出かけるのって」 城から少し離れた丘にと趙雲はいた。 劉備に仕える者として趙雲は忙しい身なのだ。 暇な時はできるだけ、の傍にいたいと願う趙雲だが実際はそう簡単には行かない。 そんな中で今日は久しぶりに二人で遠乗りにでた。 「子龍!こっちだよ!」 馬の手綱を木へとつなぎ、趙雲はの様子を眺めていた。 楽しそうに笑う愛しい人に趙雲の顔も自然と綻ぶ。 「子龍、早くってば」 「わかったから、余所見ばっかりしていると転ぶぞ」 趙雲もの元へ歩き出す。 別に今日は何をするという予定はない。 ただ、二人でゆっくり過ごそうと言った感じだ。 *** 城内のある一室で馬超と姜維がお茶をしていた。 「一人がいないってだけで、こんなにも静かだとはな」 「そうですね、は何処にいてもわかりますから」 姜維はその様子が目に浮かぶらしく笑みを浮かべている。 「趙雲も昨日からそわそわしていたからな」 「の事となると、趙雲殿も普通じゃないらしいですね」 「まったく、付き合いだして1年にもなるってのに、いつまでも初々しい奴らだよな」 「羨ましいですか?馬超殿」 「いや、全然。あんまりベタベタしたのは好きじゃないのでね」 ここに趙雲がいたら顔を真っ赤にして反論するだろうな などと姜維は思った。 本人たちに自覚がないので怖い。 「今日はどこまで行ったのでしょうね」 「さぁな、何処行っても変わらねぇよ」 「そうですね、あはは」 話している二人の前に孔明が現れる。 「丞相!どうなされました?」 姜維が席を立ち、孔明に勧める。 「今日、趙雲殿たちは遠乗りに出ていると聞きましたが」 「えぇ、それがなにか?」 「………」 孔明は黙って考え込んでいる。 「「?」」 馬超と姜維は孔明の態度に首を傾げる。 「お二人とも申し訳ありませんが、急いでお二人を連れ戻してもらえませんか?」 「はぁ?なんで急に」 「そうですよ、折角二人で楽しんでいるのに」 馬超と姜維が反論するが、孔明の表情は険しくなるだけだった。 「私もできればそうしたいのですが、もしかすると殿は……」 「「?」」 孔明は言葉にしていいものか悩みはっきりと言おうとしない。 「何もないことに越した事はないのですよ…ただ何か起きてからだと」 孔明の言いたいことが分かったのが馬超は立ち上がった。 「仕方ねぇな、二人に恨まれないように後で説明してくれよ」 足早に馬超が部屋を出て行く。 「あ、僕も行きます!」 姜維も孔明に一礼して馬超を追いかけた。 「頼みましたよ、二人とも…」 残された孔明の顔は曇ったままだった。 *** 馬超たちは馬を用意しようと厩舎へ赴く。 だが、馬を出す手間が省けた。 趙雲が自分の愛馬を厩舎へと戻している所だった。 「趙雲!」 「なんでいるのですか?」 これから何処へ探しに行こうか二人で話し合っていた所だったので拍子抜けしてしまう。 「え?なんでって帰ってきたからですよ」 趙雲は笑って答えた。…つもりだった…。 「なんだ?その様子じゃあ喧嘩でもしたか?」 「うっ」 馬超に言われ肩を落とす趙雲。 「あ…馬超殿!」 「悪ぃ、悪ぃ」 「で、はどうした?」 「部屋に戻りましたよ」 「「………」」 馬超と姜維は趙雲に聞かれないように話す。 「とりあえず、無事ってことだよな?」 「えぇ、丞相の考えすぎって所でしょうかね」 「何もなけりゃいいさ」 こそこそしている二人の間に趙雲は入る。 「何をこそこそしているのですか?」 「な、なんでもないです」 「ない、ない」 連れ戻しに行く途中でしたなんて言えないから笑って誤魔化した。 何事もなかったように一日が終わった。 趙雲とは喧嘩したままなのだが、たまにはこんな日もあるだろうと 周りは気にもしなかった。 ただ…。 冷たい視線がを捕らえていたのであった。 *** 趙雲は仕事や兵士たちの訓練で忙しいのか中々の元へ訪れる事がない。 それが余計ににとって悲しくもあり腹も立つ。 自分から謝りに行けばよいものを、勇気が出ない。 「…僕を盾にするのは止めてくれない?」 は趙雲がいると思われる訓練所を前に足が動かず、姜維の背に隠れてしまっている。 「だって〜」 「だってじゃないよ?早く仲直りすればいいのに…変な意地を張るからこうなるんだよ」 巻き込まれるこっちの身にもなって欲しいと姜維はさらに続ける。 「ほら、訓練ももうじき終わるみたいだよ?」 「え!」 姜維が指を指す方から兵士たちがぞろぞろ出てくる。 「、行っておいで」 姜維が優しく諭すもは動こうとはしない。 「ふぅ…あ、、趙雲殿が来たよ」 趙雲の方も姜維の姿に気づいたようでゆっくりと歩いてくる。 どうやら彼の場所からはの姿は見えないらしい。 「どうしたのだ、姜維。そんな所に立って」 「えぇ、実は」 「ん?」 姜維は困った顔をしてしまう。 「ちょ、ちょっと、」 姜維の背後にいたは姜維の服をぎゅっと掴んだまま下を向いている。 ただ掴むのならともかく、引っ張っているような形で姜維も後ろに倒れないように踏みとどまる。 「?」 「………」 「あの、さっきからこの調子で」 趙雲はの姿を見て笑みを浮かべる。 がここへ何しに来たのかわかったのだろう。 「、姜維の後ろに隠れて何しているのかな?」 「〜〜やっぱヤダ!」 「うわっ!」 は思わず姜維を突き飛ばしてしまい、そのまま走って逃げた。 「?」 素早く姜維をかわす趙雲はただ苦笑するしかなかった。 「しょうがないなぁ」 「………本当にそうですね…」 盾に使われるわ、突き飛ばされるわ、姜維はいい迷惑である。 しかも姜維の鼻は赤く擦り剥けている。 どうやら顔面着地だったようである。 結局、この日もは趙雲に誤ることが出来なかったのである。 *** 「何がヤダだったのか、教えて欲しいね。僕は」 昨日、擦り剥いてしまった鼻をさすりながら姜維はに尋ねる。 「ごめんね、姜ちゃん」 「悪いけど、僕はもう協力しないからね」 「えー」 「えーじゃないよ。自分の事は自分でする」 隣で膨れている。 「ここまで付き合ってあげているだけでも感謝して欲しいね」 「わかってるよ」 姜維とは城下へと来ている。 昨日の分も含めて趙雲になにか贈り物をしようとは考えた。 姜維に頼んで品定めに来たのである。 「趙雲殿はがくれる物だったら何でも喜ぶと思うって、前にも言ったよね?」 「言ったけど…だってわかんないもん」 「はぁ…正直こう言う事は僕より馬超殿の方が適役だと思うよ」 「馬超さんは女の買い物に付き合う気はねぇ!って言ってた」 の頬が小さく膨れた。 「はい、はい。今日は付き合いますよ」 膨れたを見て、姜維は小さく息を吐く。 結局に対し、甘いのは姜維も同じなのだ。 「やったー!だから姜ちゃんって好き〜」 「はい、はい、僕も好きだよ」 色々店を回るも中々これといったものが見つからない。 「どうする?」 「ん〜どうしようかな」 気がつけば、町の外れまで来てしまっている。 城門を越えてしまうと綿竹の深い森である。 「物じゃなくて、素直に謝ればいいんじゃないの?」 「そうしようかなぁ…」 「その方が良いって」 「うん、そうする。ありがと姜ちゃん」 「別に良いよ。二人が仲直りしてくれないとこっちも困るんだよね」 間に挟まれて大変なのだよ、と心で思う姜維だった。 「じゃあ、帰ろうか?」 「うん」 二人は城に向かおうとするが、数人の男に囲まれてしまう。 姜維がを庇うようにして前に出る。 「何か用ですか?」 姜維が訊ねるも男たちは答えない。 「玉璽の姫さまですね?」 「!?」 見た目はただの町人っぽい。 (なんで、こいつらはその事を知っているのだ?) 民の間で『玉璽の姫』の事は噂されているが、劉備たちと違って表舞台に出るわけではないので玉璽の姫の顔を知るものは一般人ではいないはずだ。 「申し訳ありませんが、私たちと来て頂けませんか」 「え?」 「、僕から離れないで!」 姜維は男たちをに近づけないようにするが、分が悪い。 (丞相が心配していたのはこの事か…こんな時に限って、僕は!) 姜維は周囲を見渡す、に害を与えずにどうやってこの場を逃げようかと。 この外れから街へ行けば、この男たちも何もしては来ないだろう。 (なんとか、を守らないと) だが、今の姜維はを守る武器がない。背中に嫌な汗が流れる。 「仕方ない、少し強引に行かせて頂きます」 一人の男が言うと一斉に他の者たちが姜維に斬りかかる。 「くそっ!」 「姜ちゃん」 体術だけでなんとか応戦する姜維。 に近づかせないだけで精一杯なのである。 「っ!、街の方へ走るんだ!」 「で、でも!」 「僕はいいから、早く!」 は姜維の強い視線に頷く。 「すぐに誰か呼んでくるから!」 「行かせるか!」 男たちはに手を伸ばすが、姜維がなんとか阻止をする。 「早く!(街へ行けば大丈夫だ)…」 走って行くを見てほんの少し姜維は気が楽になった。 しかし、簡単に上手くはいかなかった。 「あなた方は何をしているのですか、しょうがないですね」 「!?」 「姜ちゃん、ごめん」 突然現れた男には腕を捕まれていた。 「もう少し、成都の町並みを見ておきたかったのですがね」 残念そうに言う男。 は男の顔に見覚えがあった。 それは男の方もそう思うらしく、に視線を向ける。 「貴女とは以前、お会いしていますね。まさかあの時のお嬢さんが『玉璽の姫』だったとは…」 冷たく笑う男にはぞっとする。 そう、男は長坂で趙雲と戦った男、張コウだった。 「な、なんで?」 「さぁ、何故でしょうね?それは後ほどご自分で確認なさい」 張コウは部下であると思われる男にを引き渡す。 「さぁ、そろそろ私たちも帰りますよ」 「待て、彼女を放せ!」 「いつまでも貴方の相手をしているほど、私たちは暇ではないのですよ」 張コウに飛び掛る姜維。 だが、相手のほうが数段も上のようで、袖口から現れる長い鍵爪が姜維を襲った。 「うわぁ!」 「姜ちゃん!」 「くっ……」 「できるなら趙雲殿と決着をつけたかったのですがね…」 つまらなそうに、姜維を見下げる張コウ。 「さ、行きますよ」 を連れて行く男たち。 張コウも後ろの事など気にせずに歩き出す。 「姜ちゃん!姜ちゃん!」 「っ……くそっ…」 連れて行かれるの姿を姜維は意識が薄れていく中で見たのだった。 その倒れている姜維が発見されたのはすぐ後だった。 些細な事で口論になった。 折角の休日を駄目にしてしまったあの日。 すぐに謝ればよかったのに、意地を張って出来なかった。 今日こそは謝ろう。大好きなあの人に。 そう思っていたのに…。 03/01/08
03/01/10
11/10/30加筆修正再UP
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