小さな恋のうた




ドリーム小説
最近のはすこぶる機嫌が良かった。
外出も許され、好きなように城下を行き来していた。
そして、先日手伝いをした食堂『王華飯店』で週に2日アルバイトをする事になった。
玉璽の姫という立場より、普通に働いていた方が性に合うらしい。
以前の自分なら素直に働くと言うことができなかっただろう。
大きな進歩だと言える。

「さぁて、今日もお仕事、お仕事〜」

は部屋を出て真っ直ぐ外に出ようとした。
が、姜維に捕まってしまう。

、どこ行くの?」

「おはよう、姜ちゃん。今日は王華飯店にお手伝いを…」

「今日は駄目だよ。丞相の元で勉強するって約束でしょ?」

「あ…」

しまったと言うような顔をする

「外で働くのもいいけど、勉強もちゃんとしないとね」

姜維はにっこり笑っての手を取って歩き出す。

「姜ちゃん、今日じゃないと駄目?」

「駄目だよ、王華飯店は週に2日だけだよね?もう3日も通っているじゃないか」

「あーだって働くのって楽しいんだもん。店の人皆良い人だしさ」

店主も来てくれる客も。

「それはわかるけど、丞相とも約束したでしょ?」

「そうだね・・・約束は約束だもんね」

仕方なくは姜維に従って孔明の元へ行くのだった。



「よぉ、お二人さん。仲が良いねぇ」

兵士たちへの修練が終わったのか、馬超と趙雲がやってきた。

「趙雲殿、馬超殿」

「こんにちは、趙雲さん、馬超さん」

二人は馬超たちに挨拶するが、二人の視線は下のほうへ向く。
姜維と
しっかりと手をつないでいるわけで、趙雲は苦笑してしまう。

「手をつないでどこ行くんだ?」

「「あ」」

馬超に言われるまで気がつかなかったようだ。
あまりに自然な二人、ようやくつないだ手を離す。

「丞相の元へ行くんですよ」

「なんだ、勉強会か?ご苦労なこった」

殿はその勉強会から逃げ出そうとしていたので」

殿…また王華飯店ですか?」

「だって、働くの好きだし」

むぅ〜っと口を尖らす

殿、丞相を待たすといけませんから、もう行かないと」

「そうだね」

は趙雲たちに軽く頭を下げる。

「申し訳ありません、お二方」

姜維も頭を下げた。
姜維たちは孔明の執務室へ向かった。

残された趙雲たちもその場を離れ歩き出す。

「本当、仲良いな。あの二人はさ…姜維が羨ましいだろ?」

「え、別に私は」

ニヤニヤした顔で馬超は趙雲を見る。

「二人きりの時は『姜ちゃん、』って呼び合っていんだろ?」

「そのようですね」

「アンタも殿なんて言わないで『』って言ってみればどうだ」

「…馬超殿。人をからかうのは止してくださいよ」

「からかってなんかいないぜ?あんたら見いてる、こっちの方がもどかしくってよ」

(嘘だ…絶対楽しんでいる)

趙雲はそう思った。
じゃなければ、いちいち余計な事は言わないだろう。
馬超ならどうでもいい事は放って置くはずだ。

「ま、姜維やら伏犧やらいろいろ厄介なのがいるけどよ。がんばれよ」

「そう言う馬超殿はどうなのですか?」

「俺か?確かには気に入っているけど、好みとしては、俺はもっと気の強い女の方がいいね」

「そうですか、馬超殿が相手でなくて良かったですよ」

「そうだろうとも」



孔明の執務室では姜維は兵法を、はこの国の読み書きを習っている。
日本人のが何故か中国人である彼らと会話はできるが、この時代の文字を読むことはできなかった。
なので、孔明に教わっているのだ。

殿、集中力が落ちていますね…どうかしたのですか?」

「い、いえ。そんなことないです。すみません」

孔明に言われ、は慌てて姿勢を正す。

「大方、王華飯店にでも行こうとしていたのでしょう?店が気になりますか?」

「え…まぁ」

「けど、今日は駄目ですよ」

「はーい」

孔明は目を細めて笑う。
姜維も勉強中というのにどこか楽しげにしている。
しかし、ここで孔明は席を外す事になった。
劉備に呼ばれたのだ。

「私が戻ってくるまでにちゃんと進めておくのですよ。二人とも」

「はい」

孔明が出て行ってから黙々と書簡を読む姜維。
はそんな姜維をじっと見ている。
その視線に気づき姜維は咳払いする。

?なにかな?」

「えーとね…」

「丞相が戻ってくるまでに終わらせとかないと駄目だよ」

「わかってるけどさ」

は足をぶらぶらさせる。
本当に集中力が切れているようだ。

「あのさ、姜ちゃん。男の人って何もらったら喜ぶかな?」

〜」

「ごめんって、お願い!私よくわからないの〜私のいた所と文化が違うんだもん」

は姜維に手を合わせて頼み込む。
姜維は仕方なく書簡を置いての方に向く。

「少しだけだよ」

「ありがとう!あのね、あのね」

結局、姜維もには甘いのだった。

「趙雲殿なら、がくれるものなら何でも喜ぶと思うけど?」

「なんで、趙雲さんって思うわけ?」

「違うの?」

「ち、違わないけど…」

は顔を赤くさせる。
姜維はわかりやすい反応に笑ってしまう。

「姜ちゃん?」

「ごめん。でも本当趙雲殿は喜んでくれると思うけど」

「うーん…なんでもって言われてもなぁ。ようやく国として落ちついて着たし
今までのお礼って言うか、なにかプレゼントしたいなぁって」

「ぷれぜんと?」

「あ、贈り物ってことだよ…せっかく王華飯店でお給料もらったし」

「趙雲殿に直接聞いてみれば?何か欲しいものありますかって」

「やだよ、そんなの〜」

(いや、本当にからの物なら、喜ぶと思うけど…)

机に突っ伏して考え込んでいるを見て姜維はしみじみそう思ったのだった。
終始はこんな感じで孔明が戻ってきた時、長々とお小言を頂いたのだった。





それから数日後…。

「趙雲さん」

趙雲は一日の仕事を終え、成都で与えられた自分の屋敷へと戻る途中にに呼び止められた。
ちなみには劉備とともに城で生活をしている。
趙雲が振り返るとは嬉しそうに駆け寄ってくる。

殿」

趙雲も自然と笑みを浮かべていた。

「あのね、趙雲さん…えっとね…」

「どうかしましたか?」

「〜〜はい、これ!貰ってください!」

はバッと趙雲の前に小さな包みを差し出す。

「これは?」

「あの…お礼です。お礼。今までいっぱいお世話になったから」

は恥ずかしいのかずっと下を向いている。
趙雲と背丈の差があるだから、趙雲から見ると余計に小さく感じられた。

「開けても良いですか?」

「どうぞ」

趙雲が包みを開けると中には小さな細い絹糸の織物が入っていた。

「あのね、わかんないかもしれないけどね、それ『ミサンガ』って言うの。
私のいた所で、以前流行っていたのだけど…お守りみたいなものかな?手首につけておくんです」

そう言ってはミサンガを趙雲の手首につける。

「願いが叶うと切れるんだって…あれ?なんかよく考えるとそれって不吉ですね?」

「ありがとうございます。殿」

にっこり笑う趙雲にも笑う。

「願いですか…」

趙雲はじっとがつけてくれたミサンガを見る。

「男の人に何を贈ったらいいかわからなくて、姜ちゃんにも聞いてみたりして考えたんですけど…お守り見たいのがいいかなぁって。趙雲さんが戦に出た時無事に戻ってきますようにって」

えへへと照れるを趙雲はどうしようもないくらい愛しく感じた。





そして…。





を優しく抱きしめた。





殿…貴女が好きです」





優しく囁く趙雲には恥ずかしさよりも嬉しさがこみ上げてきた。
はキュッと趙雲の服を掴んだ。





「私も…」





も答えようとした時、趙雲の言葉の方が早かった。
しかし、それはにとって現実を思い出させるものだった。





『ずっと側にいて欲しい』





(ずっと?ずっとって…私は…)





は思わず、趙雲を突き放した。





殿?」





「ごめんなさい…」





は一言呟きその場から走り去って行った。
振り返らずに…。

殿、何故ですか?)

趙雲はしばらく立ち尽くしていたのだった。








02/12/21UP
11/10/30加筆修正再UP