小さな恋のうた




ドリーム小説
『ごめんなさい…』



そう言って自分の下を去った
正直、そんな結果になろうとは趙雲自身思っていなかった。
少なくとも嫌われてはいないと思うのだが…。

あの日以来、は部屋から出なくなった。
誰とも会おうともせず、一日部屋に閉じこもったままだった。
自分の所為だと責任を感じ、趙雲は何度か部屋を訪ねるが反応はない。

趙雲は行き場を失くした想いを追い払うかのように鍛錬をし続けるのだった。



は一人悩んでいた。

今更だけど、自分はこの時代の人間じゃない事に。
自分が趙雲の事を好きになったのに理由はなかったし
趙雲も同じ気持ちだったのは嬉しかった。

(こんなことなら、最初から話しておけば良かった……)

延々とこのことばかり考える。
劉備たちに初めて会ったとき、未来から来たなど言えば面倒だと思いずっと黙っていた。
いつかは元の時代に戻るだろう、だったら素直に言えば良かった。
せっかく想いが通じてもいつかは別れてしまうなら…。

(でも、それでも同じだ。きっと趙雲さんのこと好きになってる…)

人を好きになってこんなに苦しくなると思わなかった。
友だちと同じ人を好きになっても『なら、いいか』とあっさり諦めたこともあった。
きっと、本気で好きになったわけではないのだろう。

しかし、と思う事もある。
映画なんかである、危険な状況下で恋に落ちる事がある。
何かで、それは見せ掛けだけのモノだと言っていた。
自分の今の状況は慣れない過去の時代で戦場と言うものを肌で味わったから起きた想いなのでは?

考えれば考えるほど嫌な想いばかり増えていく。

「「素直に好きって言えばいいのに…」」

「!?」

は自分の声と誰かの声が重なった事に驚いた。
寝台から飛び起きると女禍が立っていた。

「女禍さん…」

様、趙将軍のことお好きなのでしょう?せっかく想いが伝わったのに何故拒絶するのですか?」

「だって、私…」

「この時代の人間ではないから?ですか…」

「…!?…な…んで」

「申し訳ありません、私と伏犧は貴女がいた世界の事を知っています。何故なら、貴女をここへ招いたのは私たちの仲間なのですから…」

「え?仲間?」

女禍は申し訳なさそうにから視線を外す。

「理由は詳しくは言えません。ですが、今、貴女の気持ちを率直にお聞きしたい」

「それって、気持ちを言ったからって何かが変わるんですか?」

たとえ、自分がここに、趙雲の側にいることを望んでいてもそれが叶うとは限らない。
だったら…。

はぎゅっと唇をかんだ。

「変わらないかもしれないけど、変わるかもしれない」

「は?」

「何もしないままでいるより良いと思いますよ?」

女禍はさっきと違って笑みを浮かべている。

「戻る事になったとしても、中途半端な気持ちのままで戻るよりは良いと思います。
私たちの都合でこの世界に呼んでしまったので偉そうな事は言えませんけどね」

「中途半端な気持ち…」

「でも、これだけは約束します。突然とか、無理やり貴女を元の世界に返すって事は絶対しませんから」

「女禍さん」

「さ、お食事にしませんか?ちゃんと食べないと駄目ですよぉ?」

「はい」

は少しだけ気が楽になった。
何日かぶりに笑った気がした。



ここ数日、趙雲は鍛錬所で遅くまで槍を振るっていた。
机に向かっているより槍を振るっていた方が何も考えずにすむからだ。

手を止め、ふと周りを見ると人の姿はない。
もう自分も屋敷へ戻ろうと鍛錬所を出ることにした。
外に出ると月が綺麗に輝いている。

「満月か…」

月を見上げる趙雲。
いつの頃だったか、と二人で月を眺めたことがあった。


『あんなに綺麗なお月様を前にしていると、なんか素直になれそうですね』


そう言ってが笑ったのを思い出す。

「素直になれるか…もう、ああやって話すことも出来ないのだろうか…」

そう思うだけで、趙雲の胸の奥が痛む。
同時に涙が流れた。

「…なんだ…こんなに好きなのだな…」

に想いを伝えた事が彼女にとって、自分以外の者までも拒絶するくらい苦しめたのなら
今、ここで想いを封じてしまおうか


もう一度、に笑って欲しいから…。


「私の願いは…もう一度、貴女に笑って欲しい。それだけですよ」

趙雲は、あの日がくれたミサンガを、手首につけたソレをそっと撫でた。





「趙雲さん…」





「…殿…」





趙雲が顔を上げるとが立っていた。
久しぶりに見るの姿に趙雲の心臓は締め付けられそうだった。



***



初めて趙雲さんに会った時に好きになっていたのかもしれない。
この時代に飛ばされてしまった私を見つけてくれたのが趙雲さんだった。
私がどこにいても趙雲さんがいつも見つけてくれて、助けてくれて、守ってくれた。

それは劉備様の命令だからかもしれない。
でも、嬉しかった。

いつまでも、一緒にいたい…。
それが私の正直な想い。



私の隣で楽しそうに笑う殿が愛しく感じていた。
姜維や伏犧に嫉妬してしまうほど、私の中で貴女の存在は大きくなっていった。
殿の命で貴女の世話をしていたけど、きっと違う。

出会った頃から、貴女を見つけたあの時から。
私は、貴女に惹かれていたのかもしれない。

だから…笑ってください、殿。



「趙雲さん…」

今、趙雲の目の前にがいる。
それだけで趙雲には嬉しいのだが、自分の想いを伝えた事で彼女を苦しめたのだと思うと
思わず目を逸らしてしまう。

は趙雲に視線を逸らされた事でトクンと胸の奥が痛む。
自分が拒絶したのだから仕方ないと分かっていても涙が出そうになる。
でもはソレを堪え、趙雲に向かって言った。

「趙雲さんに聞いて欲しい事があるんです。
あの日…趙雲さんが私のことを好きだって言ってくれて嬉しかった。だって、私も趙雲さんのこと…好きだから」

殿、それは」

「でも、駄目なんです」

の言葉に喜ぶも一瞬で暗くなる趙雲。

「何故です?」

趙雲は強く、の両肩を掴む。

「それは…私が…この世界の人間ではないから…」

「え!?」

「私は今から千年以上も先の未来から来た人間なんです。だから、きっと…皆と別れる日が来るから…」

本当は別れたくない。
好きな人、趙雲はもちろん。
劉備、関羽、張飛、孔明、姜維、馬超たちとも…。

「だから、私を拒んだのですね」

はこくりと頷く。
趙雲は手を離し、から数歩下がる。

「一瞬でも私のことを好きと言ってくれて嬉しかったですよ、殿」

趙雲は笑う。
いや、ちゃんと笑えているだろうか?趙雲は思う。
でもこれ以上を苦しめたくないから。

趙雲はもう何も言わずに去ろうと考えを背にする。















「でも…やっぱり趙雲さんが好きだから…」















は趙雲の大きな背中に抱きつく。
小さなの身体が震えているのが分かった。

「傍に居たいんです。貴方の、趙雲さんの傍に……」

「…殿…」

「きっと私の家族が私のことを探しているかもしれない、いっぱい心配をかけている。それでも、離れたくないんです!」

が震えているのは泣いている所為だと気づく。
趙雲は振り向きを抱きしめた。
は趙雲の胸に顔を沈める。

「私も、貴女と離れたくないです」

「だったら、私が帰るその日まで、傍に置いてください」

「嫌です」

「え!?」

は驚き顔を上げた。
趙雲はさっきとは違って晴れ晴れとした顔をしている。

「貴女が帰る日なんて考えたくない。もし貴女が戻ってしまったならば、私は追いかけて貴女を取り戻す。相手が神であろうとも」

「千年以上も時が離れているのに?」

「なんとかしますよ」

「じゃあ、何とかしてくださいね。私も趙雲さんの傍から離れませんから」





二人の様子をいつかのように眺めている伏犧と女禍がいた。

「神様相手でも負ける気ないみたいよ?趙将軍」

「らしいな…ま、アイツしだいだな」

「そうね、様は帰る気ないみたいだし、無理やり戻すって事はしないって約束したしね」

伏犧も女禍も幸せそうに笑うを見て安堵しているようだ。

「さてと、邪魔しちゃ悪いし」

「だな、行くか」

二人は素早くその場から消えたのだった。





「愛しています、殿。この先ずっと貴女を守っていきます」





趙雲はに唇に優しく触れる。
何度も、何度も、ようやく繋がった想いを確かめるかのように。





蜀は繁栄する。
異世界から来た玉璽の姫が幸せに笑っているのだから。
姫が笑っていられるのは、いつも凛々しき武将が姫を守っているから。

きっと、この先もずっと…。






END?

本館で公開していた「小さな恋のうた」を加筆修正したことで、話数が減りました。
全11話だったんですよね。
でもって、ベースは無双2。まだ三国志はゲーム内でしかわかっていない頃なので色々可笑しな部分あり。
まぁ、昔の話なんで笑って見逃してくださいな。
02/12/29UP
02/12/31UP
11/10/30加筆修正再UP