小さな恋のうた




ドリーム小説
綿竹の森から成都へと攻めている劉備軍。
は無理を言ってこの戦についてきた。
成都へ近づくにつれ、不安が湧きあがる。
気がつけば、趙雲、孔明の元を離れ一人で森を進んでいた。
何処に敵兵士がいるのかもわからないのに…。

ホウ統軍は数にしてみれば数百程度。
劉備軍、趙雲軍に比べれば兵力は少ない。
しかし、孔明に次ぐ知略の持ち主、ホウ統はあまり深く考えていなかった。
兵力が足りないなら、その限られた力で何とかするべく動く。


劉備軍が綿竹の森で交戦中の頃、ホウ統軍は森を抜けていた。
成都のラク城の城門が見えてきた。
順調にことが進み、兵たちは勢いついていく。
だが、ホウ統は違った。
部下にこの地の名前を聞いてから不吉な思いがよぎっていた。

「これが、落鳳坡…?縁起悪いったらないねぇ…」



はひたすら前を進む。
途中、敵味方の兵士の傷ついている姿に吐き気がこみ上げてきたが我慢した。
と、同時に段々と不安が大きくなっていく。

(歩いてなんかいられない、走らなきゃ!)

馬もなく、この広く深い森を歩いている足は棒のようになってきている。
精神的にもキツイ。
けど、は必死で走り始めた。

(私が行ってどうなるわけでもない、けれど…行かなくてはならない気がする!)

その思いだけで、今のは動いていた。
城を出て、綿竹へ着く前に孔明にも言われた。

『貴方の思うとおりに行動してみなさい』

周りには心配掛けてばかりだが、は思ったとおりに動く。

「はぁ…森を抜けた…あ!あれは!」

やっとのことで森を抜けたの目には張任隊と交戦中のホウ統の姿があった。

「これだ…私の不安は…」



落鳳坡と言う地名
ホウ統の別名『鳳雛』。

進軍を開始した時、ホウ統の乗っていた馬が暴れだし、劉備は自分の白馬をホウ統に与えた。

すでに、そこから悪い方へと進んでいたに違いない。

『あの白馬に乗っているのが、劉備だ!狙え――!』

張任の声で一斉に矢が放たれた。
ホウ統はなんとか回避することができた。
しかし、次はわからない。
ホウ統は死を覚悟したのか、その場に胡坐をかき座り込んだ。

「劉備殿…諸葛亮…あっしはここらで降りるよ……」

まさにホウ統目掛けて、矢が放たれようとしていた。

「ダメーーーーー!」

は目の前で落命寸前のホウ統に向かって走り出した。
行ったところで自身も殺されるだけである。

「嬢ちゃん!」

ホウ統もが向かってくるのがわかった。
を巻き込むわけには行かないと、ホウ統は立ち上がった。
しかし、張任の合図が再びかかる。

「放てーー!」

雨のような大量の矢がホウ統目掛けて放たれた。

「嬢ちゃん、来ちゃいけねぇ!」

「ホウ統さんが死んじゃう!」

互いの声が重なった時、ホウ統が落命寸前の時、にも危険が迫った時、
の体が金色に輝いた。

「な、なんだ!」

敵兵士たちはまばゆい光に顔を背ける。
長坂の時と同じく2つの閃光が現れた。
だが、閃光は人の形へとなっていく。

「ええええいっ!」

「うおおおおおっ!」

そして2つの人影は張任隊を討ち取りたちの危機をあっという間に救ったのだ。

「な、なんだい、こりゃあ・・・」

気がつけば敵兵士は皆倒れている。
ホウ統は呆然としてしまう。

「ホウ統さん!無事なんですね!」

がホウ統の元へ駆け寄ってきた。

「あぁ、嬢ちゃん。あっしは無事だが…こりゃあどうしたもんかね?」

「さぁ?私にも…ただ急に体が光ったと思ったらなんか出てきた」

は自分の手をまじまじと見つめる。

「ご無事ですか?」

「敵将は討ち取りました、もう大丈夫です」

若い男女がの前に跪く。

「え?え?え?な、なんで?」

「玉璽が貴女を選んだのです。私たちは貴女を守るために今、ここにいるのです」

男の方が答える。

「ギョクジ?」

「玉璽は帝位の印。貴女が玉璽を値する、相応しい英雄を選んで欲しい」

「英雄…」

側にいるホウ統には目の前で話されている内容が信じられなかった。

「詳しい話は後ほどいたしましょう?いつまでもこんなところにいても仕方ないです」

女の方が話し出す。

「ちょ、ちょっと待って下さい。えっと、私たちを助けてくれたのは貴方たちなんですよね?」

「それが?」

「ありがとう!…お礼が言いたくて。それとお二人の名前教えてください」

男女は立ち上がり答えた。

「俺の名は伏犧」

「私は女禍。これからよろしくお願いしますね」

「伏犧さんに、女禍さんかぁ…本当にありがとう…ござい…ました」

は二人に礼を言いながら倒れてしまった。

「嬢ちゃん!」

「大丈夫です。眠っておられるだけです」

「そうかい、それは良かった…すまねぇが嬢ちゃんを劉備殿の本陣まで連れて行ってくれねぇかい?」

「わかりました。貴公はどうなされる?」

「あっしは軍を進めねぇとな。せっかくあんたらに助けてもらった命だ。この戦、勝たねぇとな」

ホウ統は残った兵たちを指揮して軍を進めたのだった。

伏犧がを抱き上げる。
女禍はその隣を並んで歩き、二人は劉備の元へ行くのだった。

そして劉璋は降伏し、成都は劉備が治めることになった。



***



玉璽とは帝位の印。
始皇帝より代々伝わるハンコである。
孫堅が洛陽再建中に井戸から見つけたと言われ、孫堅死後、息子の孫策が兵を借りるため袁術へ渡した。
それ以降は、曹操が3つも持っているだの色々謂れがある。

は成都制圧戦後、『玉璽の姫』と呼ばれるようになった。

「じゃあ、私が選んだ英雄に玉璽っていうのを渡すの?」

は成都の城の一室を与えられていた。
樊城にいた時とは違う豪華な造りだった。
そこで、伏犧と女禍から例の『玉璽』について話を聞いているところだった。

「渡すと言うより、貴女が側にいれば、必然的に国が繁栄していくでしょう」

「じゃあ、モノはないんだ」

「ないと言えばないですいし、あると言えばありますよ」

「意味わかんない」

「そうですよねぇ、ふふふ」

あれからずっとのそばを離れない伏犧と女禍。
は自然と二人と仲良くなっていくのだった。

「ねぇ、長坂の時とこの間みたいに、私の体、またパーって光ったりするの?」

「大丈夫だと思いますよ?あの時の光は私たちなのですから」

「じゃあ、二人は私の体内にいたってこと?」

「うーん、何て答えていいのかな?ねえ伏犧?」

「さぁな。俺にもなんと答えて良いのかわからん」

「ですって」

「なんか、わからないことだらけだね」

「そうですね、ふふふ」

と女禍は楽しそうに笑っている。
ふと伏犧が話し出した。

「玉璽にあまりこだわらない方が良いでしょう。貴女は見ていればいいのだから」

「はあ?やっぱりわからないよ」

「別に無理に考えなくてもいいですよ」

「伏犧さん、冷たーい。ね?女禍さん」

「そうよー伏犧冷たーい。雪だるま男」

「あのなぁ…」

ケラケラ笑うと女禍。
二人のやり取りにため息を吐きつつも伏犧の表情は穏やかだった。



対照的なのが趙雲だった。
戦が終わった後、事後処理を副官に任せ、を探しに出た趙雲は見たくもない光景を目にした。

知らない男にが抱かれているではないか。

殿!」

趙雲はすぐさま駆け寄る。

「貴様、殿に何をした!」

「人聞きの悪いことを言うな…俺は様を劉備殿の下に連れて行くだけさ」

ふっと趙雲を挑発でもするかの様な男の態度に、趙雲は腹が立った。
しかし、連れの女に制止された。

「伏犧!駄目じゃないの、そんな喧嘩腰で!」

「…あぁ」

「申し訳ありません、事情はちゃんとお話します。できれば様を休ませて上げたいのですが」

「わかりました、こちらへ」

趙雲は二人を劉備のいる本陣へと連れて行った。

そこで、ホウ統も加わり劉備にに起きた出来事をすべて話した。
劉備も趙雲も張飛も信じられないと様子だったが、孔明だけは何か感じていたようで
これと言った感想は述べなかった。
何よりもホウ統と言う目撃者がいるわけだし。

「私たちは様をお守りするためにここにいるのです」

「それ以上でもそれ以下もない」

「守る…」

「そう言うわけだ」

それからと言うもの、の側には常に伏犧と女禍がいた。
女禍は社交的らしく、他の武将たちとの交流をも持つが、伏犧は他人を寄せ付けないようにしていた。



成都が当座の本拠地となりそうだったので趙雲も毎日が忙しかった。
だから余計にと会う機会がなかった。
自身に玉璽の力が備わったことで、魏や呉に知れ命を狙われるかもしれない。
そのため、は城内から出ることがなくなった。
それでもの笑い声が聞こえると言うのは伏犧と女禍が側にいるためだろう。
自分は何もできないと言うことに、趙雲は少し苛ついていた。

「どうした?そんな顔して」

趙雲が振り返ると、馬超がいた。

「変な顔をしていたのですか?私は」

「おー、すっげー変な顔していたぞ。のいる部屋の方じーっと見上げてよ」

「そ、そうなんですか?」

趙雲は急に恥ずかしくなった。

「いや、別に酷かないさ。けど、どうしたんだ、本当に」

「なんでもないですよ、別に」

「嘘だな。気になるなら会ってこいよ、にさ」

「ば、馬超殿!私は別に」

「反応しまくりなくせに、何言ってんだ。あの二人って言うか、伏犧にを盗られて悔しいんだろ?」

「べ、別に」

「ずーっとアンタが守ってきたのにな、お役をとられちゃってなぁ」

馬超に思いっきりからかわれるも、事実なので反論できない趙雲。

「………」

「おいおい、黙るなよ」

「本当に、私には何もできることがないのだなって…」

馬超は自分の予想以上に凹んでいる趙雲に困ってしまう。

「ベタ惚れだな、本当に」

「え?」

「自覚なしかよ…参ったね。とりあえず会いに行ってやれよ。きっとも待っているぜ」

馬超はもう構っていられないと言った様子で、趙雲に軽く手を振って行ってしまった。

(待っている…か。いや、それは別に私でなくても…)

趙雲はもう一度、のいる部屋を見上げた。

(貴女が無事なら私はそれで良いですよ、殿)



「なんか、つまんなーい…成都の町並み見てみたいのに外出禁止だなんて…」

は寝台の上に寝転んだ。
部屋には一人。
今は伏犧も女禍もいない。
過保護すぎる二人には困っていた。
何処へ行くにもついて来る。
それでなくても行く場所が限定されている。

「遊びたいなぁ…また趙雲さんと外に出て遊びたいなぁ」

樊城にいた時のことをは思い出す。
あの頃は慣れない、こっちの生活やどうすれば元の場所に帰る方法を一人で考えていた。
考えても答えが出ないことに苛々していた。
そんな時、趙雲が城下町に連れ出してくれたのだった。

「ふぅ…無理だよね。なんか皆忙しそうだし」

外に出られないの元へたまに姜維が訪れ話し相手になってくれていた。
けれど、孔明の下で勉強中の若い軍師はこの所忙しいのか中々来てくれなかった。

「姜ちゃんとのお話も無理かぁ〜伏犧さんも女禍さんもいないし…ん?いない?」

はニヤッと笑みを浮かべる。
そおっと扉を開け周囲を確認する。

「誰もいないじゃん…ラッキー」

は一気に部屋を飛び出しだ。

「目的の場所は城下町!」

は簡単に城を抜け出してしまった。
しかしそれを見ていたものがいた。

(おいおい…一人でどこ行くんだ?…ま、いっか…)

馬超である。

(趙雲にでも教えてやるか…貸しだな)

騒ぎにならないうちにと、馬超は趙雲の元へ行くのだった。



「おぉ〜久しぶりの自由って感じ〜」

は楽しそうに町並みを歩く。

「やっぱ、いいなぁ。ずっと部屋の中じゃ退屈だもんね」

「おう、姉ちゃん、これどうだい?」

飲食店の軒先で蒸かした肉まんだろうか?肉饅頭のようなものが売られている。
店主がに話しかけてきたのだ。
はいい匂いをさせている肉マンを食べたいと思うが手持ちのものがない。

「美味しそう〜あ…ごめんなさい…私お金持ってないから」

申し訳なさそうには店から離れようとした。
すると店主は

「じゃあ、今日だけおっちゃんの奢りや。一個あげるよ」

「えーいいの?ありがとう〜」

店主はふかふかの肉マンをに渡す。
それをきっかけには店主と仲良くなった。
いろいろ話して時間を過ごす。
すると、店内は忙しくなってきた。人手が足りないようで店主は店の中を動き回っている。
は接客ぐらいならと思い店主に声を掛ける。

「おじさん、忙しいみたいだから手伝ってあげようか」

「えー悪いよ」

「いいよ、肉マン奢ってくれたしね」

「そうかい?じゃあ、少しだけ頼むよ」

店主から前掛を受け取りは店に入る。



馬超からが城を抜け出した事を聞いた趙雲は急いで城下へ探しに出た。
しかし広い成都。
何処をどう探して良いかわからない。
そんな遠くにはいけないだろうと、とりあえず大通りの店から一軒一軒覗いてみる。
中々見つからないに趙雲は焦ってしまう。
劉備や孔明には馬超が伝えるからと言われた。
あの二人ならさほど気にはしそうにはないが、伏犧と女禍は違うだろう。
きっと大騒ぎになるかもしれない。
趙雲は彼らより早くを見つけようと急ぐ。

「いったいどこに行かれたのやら……ん?」

趙雲はある店先にたまる人垣を見つけた。
中から聞こえる声に耳を傾ける。

「いらっしゃいませー、こちらへどうぞ」

「あ、あれは」

趙雲は店に入る。すると…。

「いらっしゃいませ…あー趙雲さん!」

殿!何をして」

「手伝いですよ、私暇だし。趙雲さん何か食べていきます?ここの肉マン美味しいですよ?」

「え…」

は有無を言わさず趙雲を椅子に座らせた。

「おじさーん。一名様ご案内でーす」

「おぅ」

「まぁ…いいか」

趙雲は元気に働くを見て笑みを浮かべたのだった。
それから2時間くらいで店は静かになった。

「ありがとうな、姉ちゃん。ほんの少しだけのはずが閉店時間まで働かせてよ」

「ううん、楽しかったです、私。また手伝いに着たいです」

「嬉しいこと言ってくれるねぇ。姉ちゃんなら大歓迎だよ。はい、これな」

店主はに小袋を渡した。

「なに?これ…」

「働いてくれた分のお金さ」

「いいです、そんなの肉マン貰ったお礼に手伝ったんで」

「いいって、それ以上の働きしてくれたからね。またいつでも来てよ」

は店主にそう言われ金を受け取る事にした。

「ありがとう、おじさん。また来ますね」

趙雲とは店を後にする。

「行きましょうか、殿」

「はい」

「あー!」

突然声を上げる

「どうしました?」

趙雲は驚くがのはすごく嬉しそうに笑っている。

「私…こっちに来て始めて自分でお金稼いだんだ…」

ぎゅっと店主から貰った小袋を握り締める

「劉備様のおかげでずっと不自由なく暮らしていたけど、自分で稼ぐってやっぱり嬉しいです」

「そうですか…今日は楽しかったですか?」

「はい!」

「城を抜け出した甲斐がありましたね、殿?」

趙雲はすこし悪戯っぽく言う。

「はい!って〜酷い、趙雲さん」

「あはは、すみません。ですが心配しましたよ。馬超殿が教えてくれたので良かったですよ」

「馬超さんが?…あの人自分で探そうとは思わなかったんですね」

「あ、殿は馬超殿が捜しに着てくれたほうが良かったですか?」

「え!違いますよ!趙雲さんが…」

「はい?」

は上目で趙雲を見る。

「趙雲さんが見つけてくれて嬉しかったです」

顔を真っ赤にして言うに趙雲も

「私もですよ」

「え?」

「私も、殿を見つける事ができて嬉しかったですよ」

笑った趙雲がにはとても嬉しくてぎゅっとその左腕に抱きついた。

殿?」

「久しぶりに趙雲さんに会えたから嬉しくて…今日は嬉しい事だらけです」

趙雲はそんなが愛しくてそのまま歩き出す。

「本当、私も嬉しい事ばかりでしたよ」

ポツリ呟く趙雲だった。



趙雲とを見ている二つの影。
伏犧と女禍である。

「あ〜らら〜様ったら趙将軍にべったりね」

「まったく、困ったものだ」

「いいじゃない、だって様は元の世界じゃ普通の女の子なんだよ?好きな人と一緒にいたいって思うよ」

女禍は楽しそうだが伏犧の顔は明らかに不機嫌なものである。

「このままが一番いいんじゃないの?」

「…かもな。俺たちは様を陰から守るだけだ」

その日からの外出禁止令は解かれた。
伏犧と女禍はの護衛が目的だったが、蜀の一武将として劉備に仕えることとなった。
蜀はますます栄える事となる。








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