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小さな恋のうた
現在は樊城にいる。 官渡の戦いは袁紹軍の敗北であった。 その後劉備たちと共に樊城にいる。 現在、劉備軍は樊城の守備に当たっていた。 は袁紹軍敗北の知らせを聞いた時の甄姫のことを思い出す。 「曹操軍がこの城に向かって来ているそうです」 「そうですか…」 「甄姫様お逃げ下さい!」 甄姫はゆっくり首を振った。 「義父も夫も戦死したならば、わたくしもここで…」 甄姫の言葉に一同息が止まる。 「だ、ダメですよ、甄姫さま!そんなこと言わないで下さいよ」 必死で泣くのを堪えているを優しく宥める甄姫。 「泣かないで、殿」 「で、でも…」 「さぁ、貴女は早くこの城からお逃げなさい。上手く行けば劉備軍へ合流できますわ」 「わ、私は…」 そう言われても、は自分が置いてかれたと感じているため行けと言われてもその気にならない。 ましてや、こんな状況では…。 甄姫は護衛兵の一人に命じた。 「急いで、殿を城からできるだけ遠くへ逃がすのです」 「甄姫さまっ!」 「貴女は此度の戦には関係ありませんもの。巻き込む必要がありまして?」 笑って、の背を押す甄姫。 「甄姫さま…また会えますよね?」 「…それに答えることはできませんわ。ですが」 甄姫の言葉は入ってきた兵士の声で消されてしまった。 「そ、曹操軍です!早くお逃げ下さい!」 「さ、早くお行なさい」 「甄姫さま!」 護衛兵に手を引かれは城から脱出した。 少し離れた森から、かなりの大軍が攻め入っているのが見えた。 「甄姫さま…くっ」 とたんに泣き崩れてしまう。 「様、ここにいては危険です。早く行きましょう」 「い、行きましょうって…言ったって…」 すると、森の向こうから人の気配を感じた。 護衛兵はとっさにの前に立ち剣に手をかける。 「そこにいるのは殿ですか?」 聞き覚えのある声には顔を上げた。 「趙雲…さん…?」 現れたのは趙雲だった。 二人とも安堵する。 「無事で良かったです。迎えに着ました」 「………」 「では、私は城へと戻ります」 「え!城へ?私たちと一緒に来ないんですか?」 「私は甄姫さまの護衛兵です。それでは」 護衛兵はたちに礼をして城へと向かっていく。 「さ、殿。私たちも行きましょう。追っ手が来ては大変です」 は動かず、城をじっと見つめている。 「殿?」 「甄姫さまぁ…」 声を上げて泣き出すを趙雲はゆっくり、優しく立ち上がらせる。 「…申し訳ありません…貴女を巻き込んでしまって」 は首を振る。 趙雲はを優しく抱きしめる。 は趙雲の腕の中でしばらく泣き続けたのだった。 の耳には甄姫の安否は伝わってこなかった。 知っていて劉備たちがに伝えようとしないのか、本当に知らないのか。 それはわからない。 あえても聞こうとはしなかったのだ。 「なんで、私この時代に来たのかなぁ…」 任がある劉備たちとは違い、は毎日暇であった。 新しく来た軍師があの有名な諸葛亮孔明だと知って内心喜んだだったが それぐらいしかの中で弾む出来事がない。 「アレで、22って言うのは詐欺よね…」 ポツリ呟く。アレとは孔明の見た目と落ち着きの良さだろう。 「はぁぁぁ…結局どうすればいいのかなぁ」 さっきからため息しか出ない。 どことなく自分が知っている三国志の世界でないのはなんとなくわかってきた。 一日が24時間、普通に朝が来て夜が来ているのにどこか不自然に感じる。 考えれば考えるだけわからなくなる。 「もういいや、帰る方法だけ考えよう」 でもそれもわからない。 なにせ、何の意味があってここに来たのかわからないからだ。 「ぐぅ〜」 は段々苛つき始める。 暇なことが多くなり、その間色々考えるのだが結局答えは見つからない。 そんなことの繰り返しになっている。 「殿、どうかなされましたか?」 声を掛けられ、ぱっと表情が明るくなる。 振り向くと趙雲が立っている。 「趙雲さん」 「何が考え事ですか?難しい顔をなさっていましたが」 「え、あぁ〜少しだけ」 見られていたのかと思うと少し恥ずかしくなる。 「で、答えは見つかりましたか?」 「いいえ、なんか頭の中こんがらがって、考えると余計にわからなくなって」 「そうですか…では、私と一緒にこれから出かけませんか?」 「は?」 「行きましょう、殿」 趙雲はが答える前にさっさとの手を引いて歩き出す。 「ちょ、趙雲さん?」 「殿はまだ城下に行ったことはないでしょう?結構楽しいですよ」 趙雲は笑顔で言う。 はその笑顔が好きで自分に向けられたのが少し嬉しかった。 「気分転換も必要ですよ、思いっきり楽しみましょう」 「はい!」 きっと趙雲はのことを心配して城下町へと連れ出したのであろう。 効果あってか、は久しぶりに楽しい時間を過ごすことが出来た。 (なんかデートだよねぇ、これって…趙雲さんはそう思ってないかも知れないけど) は終始笑顔でいることができた。 そんなを見て趙雲も安堵したのだった。 その晩、趙雲が張飛たちと酒を交わしている時に…。 「趙雲、おめぇもやるなぁ」 「何がです?」 「今日はと楽しく約会だったろ?」 「え…ゆ、約会。そ、そんな、あ、いや」 趙雲は顔を真っ赤にして慌てている。 「わ、私はただ殿に気分転換でもと思って」 そんな様子を張飛は面白がって見ている。 「趙雲殿にもようやく春が訪れたと言う感じでしょうかね?」 「は可愛いからなぁ…兄者もかなり気にいっているみてぇだしよ」 「あんまりもたもたしていると別の誰かに捕られてしまいますよ?」 「そう言えば、諸葛亮殿が連れてまいったあの青年らも中々の容姿の持ち主ですな」 「ま、決めるのはだしな…あいつはどんな野郎が好みなんだか」 好き勝手言う張飛たちに、趙雲は多勢に無勢で反論できない。 さて、趙雲の本当のところはどうなのだろうか、それはまだわからないのである。 張飛たちがそんな話をしているなんては知らないのだが…。 *** 樊城での生活も長くは続かなかった。 袁紹軍を破った曹操は華北の地に一大勢力を築き、大軍を率いて南下し、荊州への進行を開始する。 樊城の警備をしていた劉備軍は彼を慕う兵や民を連れて逃亡する。 殺到する劉備軍に対し、抗することも敵わず退却戦を余儀なくされていた…。 は初めて戦場に足を踏み入れた。 張飛や趙雲、孔明は敵を本陣へ近づけさせないため後方にて敵を抑えている。 は本陣である劉備のもとにいた。 の服装は目立つため大きめの布を羽織っている。 樊城からずっと歩いている。 「殿、疲れて居るだろう。馬車の方へ移ってもよいのだぞ」 劉備は馬上から声を掛けてくれるがは首を振る。 「私なら平気です、お気遣いありがとうございます」 は笑顔で劉備にそう言ったのだった。 (趙雲さんたち大丈夫かな…けど私じゃ何も出来ないし) 立ち止まって後方を見る。 見たからといって彼らが見えるわけではないがやはり心配なのである。 甄姫との別れのように彼らと別れるのは嫌だし、ここにいる人たちが倒れる姿を見るのも嫌だ。 戦場なんて怖いのは当たり前だ。 早く曹操軍から逃げ切りたい。 誰一人傷つくことなく…。 (そんなの甘い考えなのかな…) すると、多大な喊声が聞こえる。 地響きが伝わってもくる。 伝令の兵士が劉備の元へやってくる。 「報告します!曹操軍、本隊です!」 「曹操め、この長坂ですべてを決するつもりか…」 は劉備たちの話を聞いて足が震えてきた。 本能的に危険を感じ始めていたのだ。 「全軍に伝えよ!我が隊に合流し敵の追撃を振り切れ!」 一斉に劉備軍は足を速める。 も置いていかれないよう走り出す。 後方にて敵を抑えていた趙雲たちにも劉備の伝令が届く。 「曹操の野郎、しつけぇんだよ!趙雲、ここは俺に任せて兄者の元へ行け!」 「いえ、私も」 「馬鹿野郎が、兄者の側にはもいるんだぞ。いーから行け」 迫り来る曹操の大群を前に張飛は長坂橋の上に仁王立ちした。 この場には孔明たちもいるので、趙雲は白馬に乗って劉備の元へ急ぐことにした。 趙雲が駆け出していくのを見て張飛は槍を構え敵軍に向かって大喝した。 「俺様ぁは燕人張飛。命の惜しくねぇ奴はかかってきやがれ!」 勇ましく槍を振るい、気迫のこもった張飛を見て兵士たちは近づくことが出来なかった。 後方は張飛によって足止めが出来ていたが前方はそうは行かなかった。 前方に夏侯淵の部隊が、長坂橋を迂回して徐晃・張コウの部隊が迫っていた。 万が一張飛が討ち取られてしまえば完全に後方は絶たれてしまう。 本陣にも敵が襲い始めてきた。 慌てて逃げ惑う民たち、土埃が舞い、血生臭い匂いが辺りに充満してくる。 (怖い!どうしよう!) 何処に逃げて良いかわからずは身動きできない。 あちこちから聞こえる悲鳴に耳を押さえる。 次は自分の番かもしれない…はそう思う。 劉備ともはぐれてしまった。何の武器も持たないただの女子高生に何が出来よう。 その時!敵兵士がめがけて刀を振り落としてきた。 「や…やだ!!!」 「があ!」 悲鳴と共に崩れ落ちたのは敵兵士だった。 敵兵士の背中には数本の矢が刺さっている。 「殿!」 遠くから矢を放ったのは趙雲だった。 「趙雲さん!」 趙雲の姿を見つけは急に涙が出てきた。 しかし再び前方からは曹操群が迫ってきた。 趙雲は槍を構え白馬での方へ駆け出す。 「殿には指一本触れさせん!趙雲、参る!」 たった一騎で敵を倒していく趙雲の姿を見て敵兵士は後退りしてしまう。 「殿」 趙雲はの元へたどり着き手を差し伸べる。 そのまま馬上へと引っ張った。 「ご無事で良かった…少し我慢してください」 は趙雲の懐に抱かれる形となっている。 趙雲はに笑顔を見せる。 その笑みには安心するが、再び趙雲は真剣な表情になった。 再び白馬を走らせる趙雲。 「殿の元へ参らなくては!はっ!」 この時、二人は敵に囲まれていた。 趙雲が囲みを切り抜けるたびに敵将が現れる。 辛うじて逃れるものの敵将が躍り出る。 趙雲は力の限り槍を振るい片端から敵を斬っていく。 その度に返り血で二人の全身は染まっていく。 「情けないですね、貴方たちは…退きなさい、私がお相手しましょう」 戦場に似つかない格好をした武将が現れた。 「戦場の華として、散りなさい」 それは袁紹の元配下であった張コウである。 両手に装備した鍵爪で襲い掛かってくる。 張コウのトリッキーな動き、を乗せているために防戦一方の趙雲。 「くっ!」 そんな様子にたまらずは声を出す。 「趙雲さん!私を降ろしてください!」 「な、何を言っているのですか!そんなこと出来ませんよ」 敵に囲まれた状況でそんな事出来るはずがない。 「でも!」 「絶対、貴女を傷つけるわけにはいかない!」 しかし状況は悪くなる一方で、張コウだけでなく徐晃部隊までがこの場に現れた。 ただ、運が良かったのは、徐晃が趙雲と張コウの勝負に手を出そうとはしなかったことと。 景山の上から趙雲の戦いぶりを見た曹操が趙雲を自軍に加えたいと生け捕りを命じていた。 生け捕りの命がなかったら弓兵によって二人は射落とされていたかもしれない。 そんなことは知らないは焦ってしまう。 自分が足手まといになっていること…。 本来、趙雲はでなく劉備を守らなくてはならない。 側にいて趙雲の疲労の濃さが目に見えてわかるようになった。 (どうしよう…このままじゃ…このままじゃ…) 「いきますよ」 張コウから繰り出された攻撃により、二人は落馬してしまった。 その時趙雲はを庇って自分が下になった。 「うっ…、殿…大丈夫です?」 「趙雲さん!」 趙雲はどこか打ち付けてしまったらしく動きが鈍い。 「さぁ、これでお終いですね」 張コウが二人を見下ろしている。 鍵爪をちらつかせる。 「張コウ殿!彼を生け捕りにせよと、殿から命令が出ておりますぞ」 「そうですか…ですがこちらのお嬢さんは関係ないでしょう。 このお嬢さんを庇っていたおかげで純粋な勝負が出来なかったのですから…」 張コウは鍵爪をめがけて振り落とす。 「!!」 は咄嗟に目をつぶった。 趙雲は助かる見込みがある、ならば良いと、死を覚悟した。 「ぐあぁ!」 しかし、それを趙雲が自分の背中で受けてしまった。 「趙雲さん!趙雲さん!」 はまたも趙雲が自分を庇ったことで泣き出してしまう。 趙雲の頬にはの涙が落ちてくる。 「私は…いつも貴女を泣かせてしまいますね…」 そう言って趙雲は気を失ってしまった。 「趙雲さん…やだよ…、なんで…」 二人の様子を見ていた張コウは戦意を失ったのかその場から離れていた。 逆に徐晃は曹操の命令を遂行する機会だと思い、部下に命じて趙雲を捕らえるよう言った。 「あの少女はどうなさいますか?」 「…一緒に連れて行こう。その方が彼女も良いだろう…」 「はっ!」 たちの周りを敵兵士が囲む。 敵兵士は趙雲を掴もうと手を伸ばす。 「駄目!」 は咄嗟に趙雲の身体をぎゅっと抱きしめる。 しかし敵兵士は無理やりを引き離す。 運び込まれようとする趙雲。 「趙雲さん!」 「お前も来るのだ!」 「やだ!やだ!やだ!誰か助けてよ!張飛!関羽さん、孔明先生!劉備様!」 必死で声を上げるもそれは届かない。 (やだよ、私のせいで、趙雲さんが連れて行かれちゃう!あの人は劉備様の下にいなきゃ駄目なのだから!) 「趙雲さんを連れて行かないでー!」 が声をあげた時、の体が金色に光った。 突然のまばゆい光に目を覆う敵兵士たち。 するとの体から2つの閃光が現れ辺りを駆け巡った。 バタバタと倒れる敵兵士たち。 辛うじて難を逃れた徐晃は突然の出来事に驚き撤退する。 この場に何とか駆けつけた張飛たちが見たのは倒れている敵兵士たちにと趙雲の姿だった。 劉備軍は漢津の渡し場にて関羽ら援軍と合流した。 「船へと乗り込め!みな生き延びるのだ!」 こうして劉備軍は曹操軍から逃げ延びることが出来た。 江夏へと行き、曹操軍を迎え撃つ準備を整えることにしたのだった。 02/11/16UP
02/11/24UP
11/10/30加筆修正再UP
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