|
戦国スローライフで楽しみます。
戦国時代に来てから、割と順調に過ごしていたと思う。 衣食住何も不自由なく与えられたから。 運がいい。その一言で済むのもどうかと思うが。 そんな中で、ある日に体調の異変が訪れた。 (あ、あれ?…なんか、変…) 朝、目が覚め、いつも通りに起きようとしたが視界がおかしかった。 (なんか…回ってる…) 地震か?と思うが、辺りは揺れていない。 自身がおかしいとすぐに気づく。 (目眩?…) 目を閉じても、ぐるぐる回っている感覚が付いてまわる。 こんな事は初めてだ。 (ヤバい…どうしよう…) 身体を動かさず、そのままの状態でしばし過ごすと、目眩のような感覚は収まった。 「びっくりした…」 体を起こすも、まだ何かすっきりしない。 自分の体はどうしてしまったのだろうか? 「さてと…」 早くしないと朝餉の時間に遅れてしまう。 布団から出る、まずは顔を洗って…といつも通りにしようとしたが。 「あ…ダメだ…」 廊下に出た瞬間、体が傾いた。 「!」 自分の名を呼ぶ直政の声が聞こえた気がした。 【8】 「過労です。しばらくゆっくり休ませれば大丈夫です 」 「本当に!?もっと重大な病とかではないですよね!!?」 が倒れた所に出くわした直政。 中々朝、起きてこないをどうしたものかと直政が様子を見に行った。 どうせ、寝坊したのだろう?と思っていたが、室から出てきた途端、倒れこむに酷く焦った。 すぐに医者を呼び診てもらったが、医者の答えは過労だった。 そばにいた直虎は酷くうろたえ、本当に過労なのか?と医者に問い詰めるほどだ。 「義母上」 「す、すみません!」 「過労と言って馬鹿にしてはいけませんよ。新しい場所での生活に慣れた頃だと聞きます。 肉体的にも、身体的にも負担がかかっていたのでしょう」 「…はい、すみません」 直虎が悪いわけではないのに、直虎が医者に頭を下げた。 そんな直虎に医者は苦笑しつつ、ゆっくり休ませれば良いと告げ屋敷を出て行った。 寝ているを見て、直虎は泣きそうな顔をしている。 「さん…」 「義母上まで気になさっては…」 「ですが」 「医者も言ってたではないですか。しばらく休ませればと。でしたら、そうするしかないでしょう」 「……はい。そうですね」 外は本格的に夏が訪れ、暑いくらいだ。 陽の光が眩しく感じるが、が寝ているこの室は、それらとは真逆のような感じがした。 竹がの様子を見ているというので、直虎も、直政も一旦退出した。 医者から告げられた過労に、あのが?と正直思ってしまった。 一時、塞ぎ込んでいたこともあったが、それも乗り越え毎日元気に過ごしていた。 七夕なども彼女流に楽しんでいたし、その後も短冊に書いたように「毎日楽しく過ごしたい」とその通りだったように、直政には見えたのだが。 自身が気づかないまま、体に負担がかかっていたのだろう。 直政なりに、の様子を見ていたつもりだったが、「つもり」だったのだろうか? 「俺もまだまだだな…」 の事を好きだと気づいた最近。 相手は自分の事など大して気にも留めていないだろうが。 それでも、に対し、ここでの生活を楽しんでもらえるように何かと力になりたいとは考えている。 故郷に、彼女の言う故郷はかなり遠く離れた場所で、そこに帰りたいと泣いた。 いつかはも故郷に戻る日が来ると思うと、直政には自分の想いなど邪魔なだけだと感じた。 ただただ、今を楽しんで過ごせればいいのだろうと。 「過労…って。私が?」 目を覚ました。 看病してくれていた竹から話を聞いた。 過労と言われてもピンと来なかったが、ようやく生活に慣れてきた頃に気が緩み、一気に疲れがきたのでは?と思った。 何不自由なくと言いつつも、井伊家に居候している身。 実家とは違うので、緊張がずっと続いていたのかもしれない。 (まぁ…違う意味で緊張はしていたのかな…) 絶対に漏らさぬものかと、直政への好意を隠していたのだし。 その好意を向けてしまった相手が同じ屋根の下に住んでいるとなれば…。 「なんか、朝からすみませんでした。ご迷惑をおかけして」 「何を言うんですか。きっと直虎さまもさんに謝られたくないですよ」 「けど…」 「毎日さんは頑張っていらしたので、少しお休みしないさいってことですよ」 「お竹さん…」 「さぁさ。ゆっくり寝てくださいな。あ、そう言えば朝から食べてないですよね?何かお持ちしましょうか」 「今はまだいいです」 「じゃあ、ゆっくり寝ていてくださいな」 その後で、また何か用意します。と竹は室を出て行った。 は寝返りを打つ。 竹が涼しい風が入るからと、廊下へ通ずる障子を開けてくれている。 いつも直政と座っている縁側が目に入る。 (夏バテみたいなものなのかなぁ…) 自分で考えて呆れた。 まだ本格的な夏ではないというのに。 でも、セミの鳴き声が聞こえてくるので、あぁ夏かと単純に思う。 「つまんないなぁ」 思わず出たぼやき。 過労だと言われても、前日までなんの不調も感じていなかっただけに。 それが溜まっていたストレスだとか、緊張が原因かと思えば仕方ないが。 「。起きていたのか」 直政が顔を出した。 「無理はするな。寝ていろ」 「………」 直政は縁側に腰を下ろした。 からは直政の背中が目に入る。 「何か食べられるか?竹が用意するとは言っていたが」 「かき氷」 「氷り?」 「ま…無理なのはわかっているので聞き流してください」 自分で言って自分で笑ってしまう。 「直政さん…夏ですね」 「そうだな。夏だが…なんだ?急に」 特に理由はない。 ただ、すぐそばにいるわけでもなく、かといって遠く離れているわけでもなく。 そこに直政がいるだけで、その背中を眺めているだけでこそばゆいけど、嬉しかった。 「直政さん。自分で言うのもあれなんですが、私…身体弱くないんですよね」 「?」 「滅多に風邪もひかないし。なのに、まさかこういうことになるとは思わなくて」 「疲れが溜まっているのだろう?の場合はしょうがないだろう。俺達も気づかず、悪かった」 はため息が出た。 そのため息に直政が顔を振り向かせた。 「なんだ、それは」 「直政さんが謝る理由はないのに。私の根性が足りなかっただけです」 「根性で片付けるな。そもそも、根性だけでどうにかなるわけないだろうが」 「でも、謝ってほしくないです」 「そうか」 「直政さんが謝るから、きっと直虎さまもすっごい謝ってきそうですよね」 「否定できんな」 直政が笑ったのがわかった。 「そろそろ何か食えるか?」 「そうですね。直政さんとお話していたら、元気出ました」 「気が紛れたならいい」 直政が立ち上がった。 竹に食事の用意を頼んでくれるそうだ。 (やっぱり…気が弱っているのかなぁ…) 直政への想いは隠すとか、消すとか考えていたのに。 なんだか、隠す気がないのか、溢れてきそうになる。 人肌恋しいという所だろうか? ただ同時に、都合のいい事をしている自分に呆れてしまった。 「もう〜倒れたなんて聞いたから驚いたわ」 直政か、直虎かわからぬが、話を聞いたらしい稲が見舞いにきてくれた。 としては、もう二日も経っているので、そろそろ寝飽きているのだが。 二人はそれを良しとせず、中々外へ出してくれなかった。 「大したことないんだよ、今も寝飽きちゃっているし」 「でも、過労は馬鹿にできないわよ?」 「そうなんだけどね」 それでも、流石に何もせずに寝ているだけの生活だと滅入ってしまう。 「そろそろ体を動かしたいよ。じゃないと今度は動くのが嫌になりそうで」 それでダラダラ過ごそうものなら、直政辺りに説教を食らいそうだ。 そうなった場合、誰の所為だと反論したいところだが。 「散歩ぐらいしたいよ。稲ちゃん、今から付き合ってよ」 「どうしようかしら?を連れだしたって騒がれたら嫌だわ」 「誰かにちゃんと言うし」 散歩ぐらいじゃ悪いことをしたとは思えない。 寧ろ、この二日でそこまで落ちてはいないだろうが、筋力の低下の方が気になる。 「ね、着替えるからちょっと待ってて」 はもう散歩に行く気のようで、着替えを始めてしまう。 「、行儀が悪いわよ。いくら私の前だからって」 「すぐ。すぐだから」 稲は諦めたのか、しょうがないと腰を上げの着替えを手伝った。 髪も結ってあげると、稲がの髪を櫛で梳いた。 「少しは涼しく感じる方がいいでしょ?」 稲が丁寧に結い上げてくれた。 鏡の前でそれを見て、いつもの自分ではないように感じ少し照れ臭かった。 「ありがと、稲ちゃん。よし、行こう!」 竹か、誰かに声をかければいいだろうと、二人で室を出ると。 「?」 「あ」 どこに行くのだ。とばかりに直政が眉をひそめていた。 「稲殿…を何処へ連れて行かれるのか?」 「違う!稲ちゃんは悪くないです!!私が散歩に付き合ってもらおうとしただけだから!!」 稲を悪者にする気はない。 そこははっきり言わねばと、稲と直政の間に立つ。 「。お前はまだ」 「もう寝飽きて、逆に体が悪くなります。体中痛いんです。寝すぎて!!」 「……」 絶対に引くものかと、は直政に対し強気に出る。 このままだと言い争いになるか、いや、そこまでとは思うが。 稲の方が二人の間に入った。 「直政殿。ご心配でしたら、直政殿がに付き合ってあげてくださいませんか?」 「稲ちゃん!?」 「い、いや、俺は…」 「そうすれば、の様子も見ていられますし、何かあっても直政殿がおられれば安心ですから」 ただの散歩だからと、稲は言って。 「直政殿が断っても、は勝手に出かけてしまいますよ?」 流石の直政でもを監禁する真似はしないだろう。 そこまですると過保護を通り越して異常だ。 「もそれならいいわよね?」 「え?う、うん」 客人のはずの稲に、は見送られて直政と屋敷を出た。 稲も一緒に行くのでは?と思っていたが、いってらっしゃいと手を振られた。 直政が多少なりとも困惑している様子がわかった。 (直政さん、忙しいんじゃないのかな…) わざわざ付き合う必要はないのに。 そこまで心配する必要もないが、自分はよほど幼く見られているのだろうか? (んー逆に戦国時代なら突き放して子育てしそうだけどね…) 武家の娘ならば厳しくと言った感じに。 まぁ自分は武家の娘ではないのだが。 「直政さん。私一人でも大丈夫ですよ?」 何かまだ仕事でもあるなら戻ってくれた方がこちらも気は楽だ。 好きな人を追い返す。と言う行動は可愛いとは思えないが。 自分はあくまで直政に対し、そう言う気持ちはないと態度で示しているから。 「いや、問題ない」 「…そうですか…」 「は…俺が一緒だと嫌か?」 突然、そんな風に直政に言われるとは思わず、は一瞬返答に詰まるも、慌てて答える。 「い、嫌じゃないです」 嫌などと思うはずがない。 思わないが、さっきの自分の態度が直政を嫌がっていると思われたのか。 「嫌に思う理由がないですよ?」 「そ、そうか…すまん。変な事を聞いて」 「いえ」 余計に気を遣わせてしまったような気もするし、更に理由を付け加えると嘘くさく聞こえるようにも感じた。 だから、そんな風に感じさせないように雰囲気を変えようと。 「散歩するには、朝早くか、夕方ぐらいが良かったですかね?」 「そうだな…」 「あ…もしかして、ここなら蛍見られるんじゃ!?」 「蛍、がどうかしたのか?」 何が珍しいのだ?と直政に不思議がられた。 「私は見た事ないんです。簡単に見られるようなものでもないので」 「それは意外だな。なんでも揃っていそうな話だったではないか」 直政の理解が追い付かないことをは話していただけに。 「すべてが便利になったわけじゃないですよ。良い面もあれば、悪い面もあるってことです」 「それは時代に関係なくあるだろうな」 歩けば、少しだが汗が噴いてきた。 暑いからなのか、体力が落ちたせいなのかわからないが。 「蛍。見たいのか?」 「見られるなら、見てみたいかなって」 「そうか。なら近いうちに見に行くか」 「直政さんが見せに連れて行ってくれるのですか?」 「あぁ」 「ありがとうございます。楽しみです」 素直に喜んでいる自分がいた。 ちょっとしたことなのかもしれないが、結局気持ちに嘘は吐けないのだろう。 お互い気にしているのに、考えすぎてひた隠し。そんな感じ。
21/03/14
|