これから願う事。




ドリーム小説
がようやく甲斐の前に姿を見せた。
何も言わないが、くのいちが彼を探し連れて帰って来てくれたらしい。
自分はそんなに落ち込んでいたのかと少し恥ずかしかったが、の姿に喜びは隠せなかった。

「で?結局のところ。食べた感想は?」

「美味しいに決まっているじゃない!」

一度も不味いなど言ったことはないのだから。
そう言えば、珍しくにしては照れ臭そうに笑うのだった。

「え?ここでいいじゃない。遠慮する事ないのに…」

夜も更けているのだから。
は甲斐の屋敷から出ようとするので引き止めた。

「……ま、お前の感覚じゃそうだろうけどな」

家族って言いたいのだろう?とは嘆息する。

「そ、そうよ」

「けど、ダメ。もう幸村に話してあるし」

「そうなんだ…」

「明日また顔見せにくる。じゃ、おやすみ」

「甲斐ちん、ごめんね〜また明日!」

「えぇ。また」

甲斐はくのいちと屋敷を出て行くを見送った。
二人はそのまま幸村の屋敷へ向かうのだろう。






「ま、しばらく厄介になるよ。幸村」

「私の方は構わないぞ」

寧ろ嬉しいと言う顔をする幸村。
くのいちを通じて先にしばらく泊めてほしいと頼んでおいた。
くのいちと真田屋敷に戻ると幸村は笑顔で迎え入れてくれた。

「甲斐殿ほどではないが、私も心配はしていたのだぞ、

「そんなに心配することはないのだけどな…」

過保護じゃないか?と幸村に対し呆れる。

「子供じゃないんだしさ」

「大人も子供も関係ない、友として誰だって心配はするだろう」

「あーはいはい」

一先ず湯あみを済ませ、与えてくれた室で休むことにした
自分と再会した事で、甲斐があんな風に喜ぶとは思わなかった。
いや、旅に出る直前の態度などを思い返せば、わからないでもないが。
面と向かって旅に出ると言えなかったので。
くのいちにも散々小言を言われた。

「甲斐ちん、ずっとちんのこと心配しているんだから。元気な姿を見せているけど、内心寂しいんだよ。ちんがいないから!!」

ちんの気持ちもわかるよ。殿下の所為でって思うんでしょ?けど、それは甲斐ちんも一緒だよ?甲斐ちんはちんと違って自由になれなかったから」

豊臣家に仕える身としては、自由に動けないのだろう。
自分はもう誰にも仕えていない。
好き勝手に生きているから。

(お館様が亡くなった時も、弱音吐いていたもんな…)

がどこかに行ってしまうのでは?と不安がっていた。
あの時は行かずにいたが、結局北条家がなくなったことで、自分は理由を作って外に出た。
確かに甲斐と一緒に都に行けば楽しいことは続いただろう。
幸村にくのいちもいる。
だけど、自分には大事なものを奪った男の下で暮らす気にはなれなかったのだ。

(また少ししたら、ここを出るんだけど)

次は心配かけずに文ぐらいは出すことにしよう。





「甲斐姫様。今日はご機嫌ですわね」

侍女達が見るからに話を聞きたそうにしている。

「そ、そう?いつもと変わらないけど」

「そうですか?」

「最近甲斐姫様のお屋敷に出入りしている方がいるって話ですけど?」

「あ、あいつは」

侍女達はニマニマと笑みを浮かべ。

「故郷にいる想い人さんですか?それとも新しいお方ですか?」

新しいお方と言われ、節操なしじゃない!と甲斐が否定すると。
やっぱり想い人さんの方ね。などと侍女たちは盛り上がっている。
想い人さんが会いに来たのですか?と盛り上がり始める彼女達に甲斐は頭を痛める。

(想い人って言われても…)

家族みたいなものだとずっと思っていたから。

「こちらに来てよろしいのですか?折角の時間なのですから、お二人でお過ごしになられれば良いのでは?」

「折角とか、なによ、それ…」

余計なお世話だと顔を赤くしてしまう甲斐。
そんな時、運悪くと言うか。

「甲斐」

「っ!?…」

聚楽第にまさかが姿を見せると思わなかった。

「ほい、差し入れ。侍女さん達とどうぞ」

幸村かくのいちから聞いたのだろう、甲斐が彼女達とよく一緒にいると言うのを。
侍女達は甲斐に声をかけたを見て、一斉に悲鳴を上げた。

「え?な、なんで?」

自分は何か失礼な事でもしたのかとは慌てる。
侍女達もの慌てぶりを見て、なんでもないと平静になる。

「失礼いたしました。あなた様は?」

「あぁ、松浦と申します。甲斐のまぁ…兄みたいなものです」

「だ、誰が兄よ!あたしの方が姉でしょうが!?」

「はぁ?世話してやってんの誰だと思ってんだ?」

「されていないし」

いがみ合うと言うか、以前の変わらないやり取りに甲斐は内心安堵してしまう。
いつもこんなんだったなと。
別に仲が悪いわけではないし。

「とにかく。甲斐が皆さんに面倒をかけていなければいいんですが。どうぞ、食べてください」

にしては珍しく笑顔で彼女達に菓子を差し出した。
朝作った饅頭だとそうで。
彼女達は喜んでそれを受け取る。

(旅に出ている間に、外面が良くなっているわね、は)

以前のならば表情ひとつ変えずに菓子を出していた気がする。
初対面の人にならば。

「甲斐の事、よろしくお願いします」

そう言ってはその場を離れた。
その先に幸村がいたので、幸村に案内されてきたのだろう。

「甲斐姫様。お茶のご用意いたしますね」

「美味しそうですわ、早速頂きましょう」

彼女達はの饅頭に興味が移っている。

「甲斐姫様の想い人は松浦様と言うのですね」

「ちょ、ちょっと待ってよ!?」

「隠さずとも」

私達はわかっています。と言う彼女達に甲斐は困惑する。
確かに寂しさから会いたいと願っていたが、相手が想い人だからとかではない。

(ないはず…なんだけど…)

自分との関係も不思議なものだと改めて考えてしまう。
友達と言うより、家族に近い存在。
そばに居ないとつまらなさを、寂しさを感じてしまうのは家族だから?

家族だからよ!と言い切りたいが、そうじゃない部分があるのを知っている。

いつもどこかでを気にかけ、気にしている自分がいるのを知っている。

出会ったころは、こちらに対し壁を作って背を向けていた男なのに。
気付いたら、ちゃんと自分達を家族と認めてくれていた。

「甲斐姫様?」

ボーっとしていたように見えたらしい。
侍女達が心配そうに見ている。
なんでもないと答えつつ、の差し入れた饅頭を手に取り食べた。

「おいしい…あいつらしい味よね。本当」

不思議と落ち着く。
甲斐の知らない遠い時代の料理だろうが、の作ったものだと思うとまた食べたいと思えて。

「甲斐様、嬉しそうですね」

「へ?」

侍女の一人にそんな事を言われた。
饅頭を食べて、この場合は美味しいですよね?と同意を求められるのだろうが。
それを食べていて、嬉しそうと言われるとは。

(そりゃあ…久しぶりだもん…の料理を味わうのは…)

だから、嬉しそうと言われて否定をする気はない。

と…普通に会えるのが嬉しいのよ…)

それが本音なのだろうな。





真田屋敷で寝泊まりしているの様子を見に来た甲斐。
主である幸村だけでなく、石田三成や直江兼次の姿もあった。
そこに混じっても彼らと楽し気に話をしていた。

(殿下の事は嫌いでも、その配下には普通なのね)

豊臣すべてに関わる者を嫌いそうだと思ったが、それだと自分も、幸村さえもは拒絶する事になるだろう。
だから、今まで都に来ることはなかったのか。

(…事情が事情だけど、あたしのこと…豊臣に仕えるあたしは許せないとか思っているのかな…)

今更なのかもしれないが、それを考えるととても苦しかった。
に嫌われたくないのかもしれない。

「甲斐ちん、どうかした?」

くのいちが顔を覗き込ませた。

「なんでもないわ」

「そうは見えないけどねぇ」

「なんでよ」

なんでもお見通しですって顔をしているのが少し癪だ。

「あ。そうだったにゃ。ちんと一緒に連れてきた子がいるんだけど」

その言葉に甲斐はハッとする。
政宗が言っていた、旅をしていたは一人ではなかったと。
どんな人だ?
女性なのか?
まさか、噂の巫女ではないだろうな?
もし巫女ならば、よりも幸村の方が危ない気はするが。

「ちょ、ちょっと。そ、その子って…」

「甲斐ちんも知っている子だよ」

「だ、誰!?」

知っている女性って?
心当たりはない。
会いに行こうかと言うので、着いて行けば。

「…え?」

庭先で、尻尾を振っている黒い大きな犬がいた。
確かに知っている。

「この子…小太郎の…」

ちんはこの子とずっと旅をしていたんだって」

甲斐は確かに知っている子だと、犬の頭を撫でた。
変な風に心配してしまった自分に笑う。

「あんたがずっと一緒に居てくれたんだ」

豊臣との戦いで、氏政に命じられ真田の陣にまで行った
その時、小太郎がに1匹つけたらしく、それからもずっとのそばを離れないでいたようだ。

「考え過ぎちゃって、バカね、あたしも」

でも安心したこの犬がのそばに居てくれただけでも、きっとの旅はつまらなくはなかったはずだ。

「お。ハナ。甲斐たちと遊んでいたのか?」

が姿を見せた。
ハナ。と犬に名付けたようだ。
それだけでもすごい進歩だなと甲斐は改めて感心してしまう。
何せ、当初はこの犬相手でも壁を作っていた男なのだ、は。

(そう言えば…あの頃お館様に言われたのよね…に根を張らせろって)

ハナに対し、笑顔で頭を撫でているを見て微笑ましく思ってしまう甲斐。
本当には随分変わった。
しっかり北条に根付いてくれた。
氏康だけでなく、氏政や氏照に対しても家族と慕うほどに。
自分だけの力ではないが、根付いてくれたことが嬉しかった。
ずっと、それが長く続けば良かったが、運命は皮肉なものだ。
が大事に思ってくれた家族はいなくなってしまった。

「今度は…ここに根を張らせればいいのかな…」

「甲斐ちん?」

「ね。あんたも協力してよ。しっかり水をやるのよ」

くのいちに顔を向け甲斐はそう言い切った。
に根を張らせる。
それは別に豊臣にではない、多分それはどう言おうが無理な話だろう。
ただ単純に、今、甲斐がいるこの場所にと言う事だ。
ここには甲斐だけではない、の親友幸村にくのいちもいるのだ。
恐らく、ここで出会うだろう人たちともは上手くやれるはずだ。

。今日は何を食べさせてくれるの?」

「は?」

「何を作ってくれるのか、楽しみなんだけど、あたしは」

幸村の屋敷と言わずに、自分のところで寝泊まりしてくれればいいのに。

「一応、幸村ンとこにも料理する人いるんだけどな…」

は呆れている。

「いいじゃない。なんだっていいの。の料理が食べたいの。ただそれだけなのよ」

新しい場所にの根を張らせたいだけなのだ。









19/12/31再UP