おぼえていますか?




ドリーム小説
女神アテナがそばにいるだけで、ちょっとだけ勝率が上がったような気がした。

「あぁ、人間はそう言うイベント事が好きだとは知っている」

敵だった女神は今ではすっかり人間たちに馴染んでいた。
仮面で隠されていた素顔もさらし、その素顔がかえって女神と呼ぶにふさわしく感じる。

「アテナさんもやったりするの?」

「流石に私は…」

「じゃあ、やろうよ!誰か渡したい人とかいないの?」

「え…」

「きっと楽しいよ〜もうね、色んな人に声をかけたんだ。そしたら皆やる気になってね」

アテナは目の前ではしゃぐ少女に若干戸惑いつつ。
危機迫る状況でもイベントを楽しもうとする人間のたくましさに感心もしてしまった。








「おはようございます。姫様」

朝餉の準備をし終えたところで、北条の姫春からこえをかけられた

「おはよう。それでね、はい、これ」

春はに何かを差し出した。

「なんすか?」

「うふふ。もしかして私が最初だったみたいね。いつもありがとう、

「は、はぁ…」

笑顔で春に礼を言われるとも困惑する。
何事だと思いつつ。
最初がどうとか言っていたが、自分の誕生日でもないので、物を贈られる意味がわからない。

「とにかく。早く受け取ってちょうだい」

「あ、はい。ありがとうございます」

何、これ?強制?が受け取ると春はご機嫌で去っていった。
それからしばらくして。

ちーん!はい、これ」

「…くのちゃんも?」

くのいちも笑顔でに物を差し出した。

「もってことは、すでに誰かから貰ったんだぁ。流石ちん」

「いや、意味わかんねぇし」

「ありゃりゃ、これは意外。ま、とにかく。これはあたしからって事で」

「ありがと…」

くのいちは次があるからと去っていく。
そして、再び別の人からも。

。これは私からだ」

「あの、わたくしも」

女カとかぐやからもは貰った。

さーん!いつも美味しいご飯ありがとうございます〜これは私からです。受け取ってください!!」

「一応…私からも」

関羽の娘銀屏に張飛の娘星彩からも。

「結構先を越されちゃったわね。はい、これは私からよ」

「稲もいつもさんには感謝しています」

尚香に稲からも。
さすがにも、ここらで意味がわかってくる。

「すごいな、は」

「…お前、自分の状況見てから言えよ」

幸村がの元へ来る女性達を見て感心した。
が、に言わせれば、幸村の方が量は多い。

「バレンタインかぁ…流石に忘れていたな…」

「そうなのか?私はそう言うものがあることを初めて知ったのだが」

「そうだな、お前らには無縁なイベントだよ」

だとすれば、それを広めた人物はただ一人。

「羽山さんも本当、いつもいつも…」

「って、ひーどーいー。君ひどいよ〜」

同郷と呼べる相手、羽山頼子がちょうどやってきて、の顔を見ながら唇を尖らせた。

「初めてバレンタインを教えてあげたんだけど?」

「そうか?………ぁ」

そう言うことか。とは納得する。
以前の戦いの記憶が忘れずに残っているのはただ一人。
かぐやなど仙界の住人達もそれを不思議に思っていたくらいだ。
頼子は残念ながら、記憶を封じられていたのだろう。

「まぁいいけど。皆が楽しくやれればいいじゃん」

「楽しいのはイケメンだけだ」

君も十分イケメンだと思うよ?その戦利品を見れば」

「義理の山だ。日頃の礼だとして皆さんくださるんだ」

銀屏なんかもはっきり口にしていた。「いつも美味しいご飯をありがとうございます」などと。
別にどうしても貰いたい相手がいるわけではないので、別に良いのだが。

「じゃあ、幸村さんは本命の山だね」

「だろ?」

「い、いえ…わ私は」

幸村はかぶりを振る。
このモテっぷりにくのいちは寂しい思いをしているのだろうなと思えてしまう。
他に趙雲や姜維、陸遜や周瑜も沢山貰っていそうだ。
英傑達は本当にイケメンぞろいですねとは言いたくなる。

「さてさてここで、君にビックプレゼント!」

「は?」

「女神アテナさんからのバレンタインプレゼント〜」

チョコレートはないから、それに代わる菓子だと言って、頼子はアテナをの前に押し出した。

「わ、私からなどそんな…」

「す、すげぇ。女神さまからって…」

流石にこれにはも驚いてしまう。

「アテナさんからのバレンタインなんてすごくない?もうご利益いっぱいだよ!!」

「…それは違わないか?アテナさんは戦いの女神じゃん」

それこそ、銀屏が力を借りているフレイアの方がバレンタインにふさわしい気もする。

「あ、ある意味戦いだよ!女子にとっては」

「もらった俺には戦いではないし」

「女神さまから頂けるだけ、ありがたいと思いなさいよ!!」

「あ、あぁうん」

確かに女神さまからのバレンタインなど普通に考えればありえないだろう。

「ていうか、アテナさんも羽山さんに毒されて行くんだねぇ」

「おいおい、失礼だなぁ、君は」

頼子は苦笑する。

「いや、私は自分の知らない人間の事を沢山頼子から教えてもらい助かっている」

「それは何よりですが。羽山さんの知識は随分偏っているから他の人からも教えてもらうとよいですよ」

君、一言余分だよ〜」

「悪い」

と頼子の間で笑いが漏れる。
それは悪くなく、一緒にいる幸村や、アテナさえも笑んでいる。
本当アテナも随分変わったなと思った。

「よし、じゃあ次!アテナさん、次行きますよ!!」

「あぁ。次も案内を頼む」

アテナは他にも贈り物をしたい人がいるようで、頼子に案内を頼むそうだ。
その頼子は周囲に沢山配るだろうと思っていたのだが。
聞いてみれば。

「私は本命。師兄様一択に決まっているでしょ」

と笑顔で言い切られた。
これは意外だと言葉にすると怒られそうなので黙って二人を見送る事にした。
頼子は立ち去る際。

君」

「なに?」

「今日、彼女とは会ったのかな?」

彼女。頼子はその子の名前を口にするが、今日はまだ会っていなかった。
まだ会っていないと返事をすると。

「そうかぁ、まだかぁ…大丈夫かな」

と心配そうな表情をしていた。





一日こんな感じだった。
多くの女性達からバレンタインの贈り物だと沢山菓子を貰った。
もしかして人生で一番の量ではなかっただろうか?

(ほとんどが義理だけどな)

日頃の礼だとか言ってくれた。
そんなに自分は大したことはしていないし、前線で戦っている人達に比べたらと思うと。

「こりゃホワイトデーは大変だな」

彼女達がその存在を知るかどうかはわからないが。
頼子辺りがまた広めていれば素通りはできないだろう。

君」

「なに?」

「今日、彼女とは会ったのかな?」

ふと、先ほどの頼子の言葉を思い出す。
彼女とは甲斐のことだ。
そうなのだ、今日はまだ甲斐と会っていない。
前回、頼子達は覚えていないがバレンタインだと言って頼子を含め菓子作りを手伝った。
その時、甲斐も居て彼女らと一緒に作っていた。

「義理よ、義理。本命とかって勘違いされても困るし…いつもあんたには世話になっているからね」

そう言って甲斐が作った菓子を貰った。
自分が教えたものだが。

(あれか…本命とやらができたのかな、甲斐にも)

だから、それに必死で今日は忙しいのかもしれない。
本命がいなかったとしても甲斐ならば一番は氏康だろう。
それともある意味自棄になって沢山ばらまいているかもしれない。
それぞれ想像がつくだけに笑ってしまう。

けど…。

(甲斐の本命ねぇ…いたらいたでつまんねぇなぁ…)

そこまで考えて少し落胆した。

(別に甲斐が誰とどうなろうが、俺には関係ないだろうが…)

普段から男が欲しい!とか叫んでいるような奴だ。
念願叶ったりだろうが。
とは思いつつも。
今までを思うと、寂しさのようなものが湧くのだろう。
つるんでいた友達と少し距離が出たような。

(これで最後かな…まぁ、最後なら…)

は調理場に向かった。





ーお腹空いちゃった。なんかある?」

陽気な声が聞こえた。
声の主は甲斐だ。
声音からご機嫌だとわかるから、本命とやらにプレゼントできたのだろう。
それは良かった。
下手に泣かれるよりはよっぽどいい。

「なんかってなんだよ。まったく」

呼ばれたは用意していたものを彼女の前に出した。

「お菓子?」

「がっつり飯食うにはまだ時間あるだろうし」

一日本命の為に奔走して腹が空いているのだろうかと思うが。
甲斐は出された菓子を見て感嘆の声を上げた。

「可愛い〜なに、これ」

「桜の形をした練り切り。色もいいだろ?」

「うん。なんか食べるの勿体ないわ」

「食べて貰わないと困るけどな、俺としては」

何せ、これで最後になるだろうと思って作った甲斐への逆バレンタインだ。

「ちゃんと味わって食べるわよ。いっただきまーす」

お茶も出し、嬉しそうに食べはじめる甲斐を向かいに座って見る。
ちまちま食べるより、豪快に食べてくれる姿はいつ見ても気持ちいいものだし。
甲斐もいい顔をしているとは思う。
だから、本命の彼氏と上手くいけば、そんな姿はもう見られないだろう。
しかも本命の前では猫でもかぶりそうだ。

「うん、美味しい〜」

甲斐は喜んでくれている。
それだけでも満足だ。

「ねぇ、姫様やお館様はもう食べたの?」

「…は?」

「だから、これ。今日のおやつでしょ?あたしだけ先に食べちゃうのもどうかと思って」

「………(まじか、こいつ…)あ、いや…」

元々ない風習のイベントだから、男から贈られるという逆パターンがないわけではないことを甲斐は知らないのだろう。

(くっそ、羽山さんもそう言う所は説明しないのかよ)

ここにはいない頼子を少々恨んでしまう。
だけど、仕方ない。知らないものはしょうがないのだ。

「あ、まぁ…それは」

さん。良かった、まだ間に合って」

「直虎さん?」

井伊直虎が安堵の息を吐いた。

「間に合うって」

「はい。私も日頃の感謝を込めてバレンタインの贈り物をと思いまして」

直虎は笑顔いっぱいでに差し出した。

「いつも本当にありがとうございます。さんはうちの直政とも仲良くしてくださいますし」

「礼を言われるほどじゃないですよ」

あれか、息子の友達に配るお母さんって所か。
それで、方々に同じように配っていたので、間に合ったというわけか。

「でもまぁ、ありがたく頂戴します」

は素直に礼を言うと直虎は満足したのか戻っていった。

「また増えたなぁ。今年はすごいな、マジで」

貰ったものをひとまとめにしておいたが。

「え、なに、それ」

甲斐はが今日貰った戦利品を見て呆然としている。

「意外とか思うんだろ?甲斐に言わせればあんたみたいな奴に〜とか。まぁ俺も驚いたけど、ほとんど義理だよ」

「………」

「甲斐?」

「嘘ぉ!!?」

「嘘って、失礼だな。俺は別に「バレンタインって今日だったっけ!?」

「は?」

「明日だと思って勘違いしてた!!?」

甲斐は頭を抱える。

「あたしってば信じられない!!こんな大事な日を間違えるなんて〜」

「………」

通りで皆忙しそうだった!と甲斐は騒いでいる。
何も知らないで一人のほほんと過ごしていたようだ、甲斐は。
そんな姿を想像するだけで、本人に申し訳ないがは吹き出し笑ってしまう。

(甲斐らしいな)

「ちょ、ちょっと!?笑うなんてひどいわよ!!」

「いや、だって、普通日にち間違えないだろうなって…ははっ」

「しょうがないでしょ…今年はって色々考えていたんだから」

甲斐は頬を膨らます。
若干涙目になっているようにも見えるが。
本命の為に頑張って用意したが、渡せていないと言うことか。

「いや……まだ間に合うんだし、勇気出して渡して来れば」

「ま、間に合うかな?」

「間に合うさ。まだ夕餉の前だし。余裕余裕」

下手に落ち込むより、前向きに頑張る甲斐の方がいい。
誰に渡すかわからないが、は甲斐の背中を押した。

「うん!」

甲斐はプレゼントを取りに行くのだろう走り出す。
その後姿を見送る

「上手くいくといいな、甲斐…」

いつもは何かしら失敗してしまう甲斐だが、今日ぐらいは頑張ってほしいものだ。





それから数分もしないうちの甲斐は戻って来た。
肩で息をしている。
緊張しまくった結果なのだろうか?
わざわざ報告に来なくてもいいのに、どうせ聞かせるつもりなら明日でもと。

「は、はい!に!!受け取ってちょうだい!!」

「…………は、い?」

「だっ、だから!バ、バレンタイン!あたしから、あんたに!!」

菓子には見えない包みをに突き出した甲斐。

「俺に?…あ、ありがとう」

は受け取る。
これは先程の直虎と似たようなものか?甲斐の性格ならば、誰か特定の一人と言うより。
北条の家族それぞれにと言うような気もする。
氏康や春、氏政や小太郎たちに。
けど、貰えるとは思っていなかったので正直嬉しさはある。

「ああ、あんたが覚えているかわからないけど…」

「ん?」

「ら、来年はきっと…違うからって…去年と、違うから」

「………」

「だから…違うのよ、今年は!!」

そこまで言い切って甲斐は逃げる様に去っていった。

「え?」

は意味も解らずただた立ち尽くしていた。





「あ、甲斐ちゃーん。君に渡せた〜?…てあれ?甲斐ちゃん?」

「何かあったのだろうか?物凄い勢いで走っていくが…」

今日一日楽しかったね。と頼子はアテナと話をしていた。
その横を甲斐が逃げる様に走っていくので、心配するも。

「あの様子だと、勇気出して渡せたのかな?甲斐ちゃんは」

「あぁ、殿にか。頼子は相談されたのだろう?」

「うん。去年は義理だったけど、今年は違うって甲斐ちゃん言ってたから」

「だが、あの様子では」

「どうだろうね。君なら悪い返事はしないと思うけど。明日あたり聞いてみようかな」

この場合どちらに話を聞けば素直に答えてくれるだろうか?

「んふふ。来月も楽しみだね〜」

「本当…楽しそうだな、頼子は」

アテナ自身も自分が人間達のイベントを楽しむとは思っていなかったので。
頼子と同じように楽しんでしまいそうだと苦笑した。








19/12/31再UP