忍、立つ。



ドリーム小説
秀吉の天下となり、戦自体が禁じられるようになった。
私闘は厳禁。
それは統一される前から、禁じられていたようだが。

甲斐が京に住まうようになってから、半年は過ぎた。
半年も住めば友人、知人も増えた。
生活も慣れた。
戦はないので平穏のそのものだ。

平和なのは良いことだ。
そう思っていても、物足りなさは感じてしまう。
そんな中でもたまに誰某の護衛だとか、暴れている賊退治などに呼ばれて出る事はある。
油断すれば死に繋がるので油断はできない。

「……けど、アンタはいいわよね〜色んな所行けるから」

「甲斐ちん…あたしの場合、遊びじゃないんだけど?」

幸村などに命じられた場合の仕事だ。と共に居たくのいちが言う。
屋敷の縁側でのんびり茶を飲んでいたのだが。

「そうでしょうけど、いいじゃない。私よりは自由でしょ」

「でも、甲斐ちんは殿下の茶会とか面白そうなのに参加できるじゃん」

「あんな趣味の悪い茶会は二度と御免だわ」

秀吉懇意の者が聞けば問題になりそうな発言だ。

「でも、殿下は皆を楽しませたいって話らしいし」

「………皆が笑って暮らせる世…だっけ?」

「そうそう。花見も豪勢だったじゃない」

確かに見事でした。と甲斐は息を吐いた。

「甲斐ちん?」

「………」

くのいちは甲斐の顔を窺うように見るが、甲斐が何を思っているかなどわかっている。

「そうだねぇ。今頃ちんはどこで何をしているのやら」

「文の一つでもよこしなさいってのよ…」

矢張り彼の事だったか、とくのいちは小さく笑う。
しかも名前を出した事で否定しないのは、本当にそう思っているのだろう。

「なんだっけ?世の中を見て回る。だっけ」

「そう。お館様、氏政様に言われたんですって」

氏康は甲斐に根を張らせろ。などと言っていたのに、急に逆の事を言ったのだろうか?
それは、氏康が「こいつはもう大丈夫だ」とでも思ったのだろうか?
にも帰る場所がある。
だから、今度は外の世界を見て回れ。とでも。
真意はわからない。
きっと氏康との間で話されたことだろうし。
実際、秀吉に向かって、「外の世界を知らない」と言い切っていた。
もしかしたら、それもきっかけのひとつなのかもしれない。

「じゃあ、帰って来た時は美味しいものたっくさん、食べられるだろうねぇ」

「それがいつになるのやら…」

甲斐が京に来て半年。
はまだ一度もここには来ない。
甲斐に宛てた文には、「ちゃんと甲斐の居る場所に帰って来るから」と書いてあった。
甲斐はそれを信じて待っているのだ。

「そもそもここへ来る気あるのかしら?他所が楽しすぎてこれっぽっちも考えていなそうなのよね、あいつ…」

「ありゃまぁ」

「なんかね…この間政宗に自慢されたのよね…」

「これまた意外な人物の名前が」

甲斐は唇を尖らせる。

「一時、は奥州にいたみたい。次に来た時には絶対引き入れて見せる!なんて言ってた」

「へぇ。独眼竜の旦那がねぇ。そういや、幸村様もそんな話していたかな?随分気に入られちゃったみたいだよ、ちん」

政宗も趣味で料理をするようなことを言っていた。
と気が合いそうなのだが、意外にが政宗に近づく様子は見られなかった。

「ねえ。今度どこかに任務で行く際に、それらしい人いないか捜してみてよ」

「あたしが?別にいいけどぉ」

「すぐに来いとは言わないから、せめて文ぐらい出しなさいって」

くのいちに頼むなどよほどの事だろう。
くのいちが別に断ることなく、機会があればと了承した。





「って話なんですけど。何か任務ないですか?幸村様」

くのいちの方から仕事の依頼を乞われて幸村は苦笑した。

「お前からそう言われると怖いものがあるんだが」

「ひどいですねぇ、それは。あたしは友達を心配しているだけです」

彼女の口から「友達」と言われるとは思わなかった。
その友達は甲斐であり、のことでもあるだろう。
幸村から見ても、二人と出会ったことで、忍である彼女が人情味溢れてきたと思えた。

「悪い。しかし。そうだな…これと言って与えられる任務はないんだが…」

任務先で、または向かう途中でらしき人を捜すと言うのだろうが。
幸村的には任務はついで。目的は。ととってしまった。

「幸村様は真面目に考えすぎなんですよ〜別に今すぐでなくてもいいし、何かしらあればのついででいいんですよ」

「そうは言っても…私も気になるからな」

「お気持ちはわかりますけど。は〜ちんもしょうがないなぁ、文ぐらい出せばいいのに」

どこそこで元気にやってる。くらいな事を伝えてくれれば。
今、甲斐も、幸村も、ここまで心配はしないだろうにとくのいちはぼやく。

「甲斐ちゃんは、ちんがあまりに放っておくから、ここへ来る気があるのか〜みたいに言っていましたけど」

「………」

それまで穏やかな表情だった幸村だったが。
くのいちのその言葉に唇を噛みしめた。

「え?幸村様?」

「あ、いや、なんでもない…」

「なんでもないって顔じゃないですけど…もしかして、ちんわざと京を避けているわけじゃないですよね?」

「そんなことはないだろう」

「じゃあ、幸村様は今ちんがどこにいるかご存知で?」

「知らん。先月政宗殿に聞いた話ぐらいだ」

だけど、くのいちには何か引っかかるようで。

「幸村様って嘘が吐けない人ですよね」

「な、何だ急に」

父昌幸が謀略などに長け、味方すらも顔色変えずに騙すような部分があるのに。
幸村は人を疑う事を知らないような部分がある。
戦国の世ではその部分は致命的な事を引き受けそうだが、今は問題ないだろう。

ちんの居場所は知らなくても、甲斐ちんに何か隠しているだろうなって事です!」

ビシッとくのいちに言われ、幸村は返事に詰まった。
それが「隠し事」があると肯定したようなものだ。

「ささ、幸村様。素直に吐いてくださいな〜」

「………お前なぁ…」

「だって、少しでも甲斐ちんが元気になるなら」

幸村はかぶりを振る。

「これは聞いても元気になどならぬさ。寧ろ落ち込むだろう」

「えぇ!?それってちん、他所に別の女がいるとか!!?」

くのいちのその発想に幸村は呆れつつ、まだその方が良かったなと内心思った。

「違うんですか?じゃあなんですか?」

「隠している事をわざわざ知る必要はないと思わないか?」

「隠していると言われると知りたくなるものですよ?」

話は平行線をたどりそうだ。
だけど、その直後。
観念した幸村が隠していたことを口にするとくのいちは、やはりと言うか落ち込んだ。





「甲斐ちん!」

「あら、あんたどうしたの?」

「ちょっくら任務で留守にするからさ。なんかあったら幸村様にでも相談してね」

軽装ではあるが、旅へ行くような恰好だったくのいち。
幸村に命じられた任務があるようだ。

「え〜いいなぁ」

「だから、あたしの場合、任務だって言っているでしょうが。遊びじゃないんだよ」

「一緒に連れて行ってくれないかなぁ?」

「甲斐ちんと一緒だと目立って仕事にならないからダメ」

じゃあ、行くね。とくのいちは甲斐に手を振りその場を離れた。

(大丈夫!絶対ちん、連れて帰るから)

そう、甲斐の為にも。
幸村から聞いた隠し事。
確かに寂しく悲しいことだった。

は秀吉様がお嫌いだ。だから、豊臣とは関わりを持ちたくないようだ」

「え?でも、それって…」

「あぁ。私も、甲斐殿も今は豊臣傘下。私達に直接なくても、理由はどうあれ許せないのだろうな…」

「甲斐ちんはしょうがないじゃないですか。命じられてここへ来たのに…ちんにとって、甲斐ちんだって家族なのに」

「あぁ。そうだな…こればかりは自身のことで、私はそれ以上は知らぬ」

幸村ははっきりとから、豊臣との縁も切れるなら切ってしまえと言われてしまった。
それくらい、にとって秀吉は許せないのだろう。

「だが、嫌いだと言っても、ここへ戻らぬ理由は別かもしれない。外の世界がにとって楽しいものならば仕方ないだろう」

「〜〜〜っ、甘いです!幸村様!」

「え?」

ちん、一人だけすっきりして…甲斐ちんの気持ちも考えて欲しいです!」

「まぁ…そうだろうが、こればかりは私にも…」

「幸村様!今すぐあたしに命じてください!」

「な、なにを!?」

ちんを連れ戻す任務です!!」

「それを甲斐殿は望んでいるのか?」

幸村に面と向かって言われると、目をそらしたくなる。
実際は「もし行った先で会ったならば、文でも」ぐらいのことだ。

(それでも、甲斐ちんはきっと、ちんに会いたいって言うのを我慢しているだろうから)

余計なお世話と怒るかもしれない。
けど、今までずっとそばにいた人がいなくなった寂しさを思うと。
余計な事を言って、いつも甲斐を怒らせてしまうけど。
やっぱり友達だと思うから。

「元気のない、寂しいのを我慢している甲斐ちんを見るのが嫌なんです、あたし」

主よりも、今は友達を優先してしまっている。
それは普通ならばありえない話だ。

「そうか。その気持ちはわかる」

「幸村様…」

「期限付きだが、お前に人探しの任務を頼みたい」

「はい!」

「だが、本人が嫌がるような真似はやめてくれ。それだけは頼むぞ」

くのいちならばやりそうだ。と幸村に言われてくのいちは口角を引きつらせた。

「何気に失礼ですよね、幸村様…」

そういうわけで、くのいちはを捜す為に都を出たのだった。








19/12/31再UP