待ち人たち。



ドリーム小説
「ね!あれは?あれは何?」

「あれはねぇ」

京の町にたどり着き、甲斐は暇さえあればくのいちを連れて都見物を楽しんでいた。
見るもの全てが珍しいわけではないが、自分が住んでいた場所に比べれば段違いに華やかだ。

「けど…流石に飽きてきたわね」

「熱するのも早いけど、冷めるのも早いねぇ、甲斐ちんは」

くのいちは呆れる。

「否定はできないわね。最初は物珍しいとか思ったけど、何日もすれば馴染になっちゃうわけで」

「甲斐ちん、別に芸者遊びとかしていないのに…甲斐ちんじゃ若いお嬢ちゃん達にモテそうだね。その漢っぷりに」

「最後の一言は余計なのよ」

軽くくのいちの頭を小突く甲斐。
意外だなとくのいちは言う。

「何が?」

「お嬢ちゃん達にモテそうってところ。否定しないんだ」

「それは、まぁ。私のことお姉さまと慕う子がいても可笑しいことはないのよ」

ふふんと鼻を鳴らす甲斐。

「そうだね。都の娘さん達にすれば、甲斐ちんの暴れっぷりは珍しいもんね」

「だから、あんたは〜」

「にゃはは〜甲斐ちんが怒った〜」

くのいちは大袈裟に逃げようとする。
毎日がこんな感じ。
くのいちとワイワイやっている。
そこに幸村がいたり、幸村がこちらでできた友人たちとも会うようになった。
だけど、どこかで物足りなさを感じる。

「外の世界を見る」

そう言ってどこかに行ってしまったあの男の存在がそうさせる。
都には都の美味しいものが沢山あるけど、味付けが少々薄味で甲斐には物足りない。
それが上品なものなのだと言われても。
いつだったか食べた「まよねえず」をもう一度味わいたいと思うし。
「素揚げした芋」も食べたい。
一緒に食べた「あんぱん」なんかまた作ってほしい。
他にも沢山あったけど。

(食べ物って言うより、結局…あんたがいないとつまならないのよね…)

彼が隣に居れば、きっと今よりもっと楽しいだろうに…。





「只今戻りました〜」

真田屋敷に戻って来たくのいち。
忍びなのだから、真正面から戻らずとも良いのだが。
なんとなく、幸村と話がしたくて、素直に姿を見せたのだ。

「あぁ。今日も甲斐殿と出かけていたのか?」

「はいにゃ。甲斐ちんに付き合うと本当疲れますよ〜体力が化け物みたいですから」

「そんなことばかり言って。甲斐殿が聞けば怒るぞ」

「気を付けまーす」

と言っても、その辺は変わらないのだろうなと幸村は苦笑する。

「それで…甲斐殿の様子は?」

「元気ではありますけど…空元気な部分はあると思いますよ?」

「そうか」

幸村は嘆息する。
甲斐が空元気な理由はわかっている。
わかっているけど、幸村にはどうにもできない。
落ち込むような表情を見せる幸村。

ちんも悪い人ですよね〜甲斐ちんだけでなく、幸村様にも寂しい思いさせちゃって」

「あ、いや。私は…」

「今度会ったら、叱ってあげなくちゃ」

そう。甲斐が空元気なのは幸村にとっても友であるがいないからだ。
甲斐が京住まいになったが、北条家の料理番だったは共には来ず、一人どこかに旅へ出た。
亡き氏康や、氏政達がに言った「世の中を見ろ」と言う言葉を受けて。

「今頃どうしているんですかね?ちんは」

「そうだな。どこで何をいるいるのか…」

幸村にしてみると、今回の出来事はちょっとだけ後味が悪いと感じた。
まだ小田原に滞在していたころ。
秀吉が都へ引き上げようとし、幸村も京へ帰る事が決まっていた。
甲斐が京住まいに決まったこともあり、にもどうか?と尋ねた。
だが、彼は。



「殿下の誘いを断って、わざわざ京に行くつもりはないよ、俺は」

「ならばやっぱり、わしの所に!」

「嫌だ」

秀吉同様、を自分のところに引き込もうとしていた政宗の前で言ったのだ。

「俺は、色んな所に行ってみたいんだ」

「え?それは」

「元々根なし草なわけだし。一人自由に色んな所に行って、勉強したいんだ。その地方の料理とかさ」

「ほう。では、近いうちに奥州にも来るというわけか」

聞いた政宗は小さく笑んだ。

「まぁ。そうですね。行ってみたいとは思いますよ」

「ならば、儂と共に出立しようではないか」

「それは、もう行先決定って話ですよね?ご勘弁を」

「ぬ…」

断られて面白くないと政宗は言うが、それでもこの先が楽しみだとも言っていた。
そして、それからすぐだ。
甲斐にも黙って小田原を出ると幸村に文を託したのは。

「悪いな。お前にこんな役目頼んで。俺が直接甲斐に言えばいいんだけど」

「まったくだ。と言いたいが、私も恐らくそれを頼む側だろうからな…」

「あぁ、くのちゃん。めっちゃ怒りそうだな」

けど、頼める相手が幸村達しかいないからと。

「なぁ、。何故自分の口から言わないのだ?誰にも臆することのないお前にしては珍しく消極的な方法だと思える」

「………」

は頭をかいた。

「甲斐はさ…いつも強気で元気なんだけど、誰かが居なくなることで急に脆くなるんだよな。
お館様が病で亡くなった時も、俺が出ていくかもって不安だったみたいで。今回も政兄達もいなくなって、俺が殿下に盾突くからさ…」

出会ったころは北条家に関わらないようにしていた
氏康が居なくなれば、ここの居残る理由もない。出て行こうと決めていたけど。
一緒に過ごす合間に、甲斐を含め、北条家の人達が放っておけなく。
自分も、彼らの事を家族と認めていたから。

「今回も、俺が出ていく。って言って…あいつに責められるのが怖いのかもしれない」

だから、幸村の言う通り消極的になってしまったのだろうと。

「まぁ、結局見送る側みたいな形をとったら泣かれたけどな」

「甲斐殿が、泣いたのか?」

「あぁ。甲斐も、俺も一緒に京へ行ってほしいってさ。けど断って…最後にはわかってくれたけどさ。その時にな」

「後悔するなら、辞めて今からでも遅くはない。甲斐殿のそばに居てやれば良いだろうに」

「あ、いや…それは…たださ、そうなると、俺、自分に嘘を吐くことになるから。正直に言おうか?」

それまで寂し気だったの顔が幸村が初めて見る冷めたものに代わる。

「俺。秀吉は嫌いだ。秀吉の天下なんてどうでもいいし。表面上笑顔は見せるけど、政兄達の事。絶対許さねぇから」

「っ……」

「幸村。お前も、いつまでも豊臣にしがみついてんじゃねえぞ」

切れるものなら、その縁切ってしまえ。そう言い切られた。

「ま。それもできないのだろうな、幸村は」

さっきの冷たさなどないくらい笑顔に戻っただった。



「家族が奪われた。とでも思うのだろうな」

「幸村様?」

「なんでもない」

思わず出た呟きが、彼女に聞かれていなければ良いが。
秀吉が嫌いだから、定住はしない。旅に出る。
それと、これは別問題な気はするが、家族を奪われたと思うとその原因のそばで暮らす気にはならないだろう。

(だとすると、豊臣傘下の私のことも許せないのだろうな…)

だったらそうだとはっきり口にして、面と向かって罵って欲しい。

(それはズルいか。それで許されようとしては…)

ただ、今思うのは。
旅するに何事も起きなければいいなと。
それを願う幸村だった。





京住まいになってから、最初は物珍しさが勝ったが、最近では物足りない。
友達もいるし、新しい友達もできた。
楽しくないわけではないが、関東に、小田原での暮らしに比べたら…。

「甲斐姫様〜私達とお話いたしませんか?」

誰付きの侍女かはわからないが、女性達に呼ばれた。
やる事もないし、誘ってくれた事には感謝なので女性達の元へ行く。

「もうこちらでの生活は慣れましたか?私も最初は慣れない事ばかりで戸惑いましたけど」

「へぇ。そうなんだ。そうね、生活自体には慣れたけど、ちょっと物足りかしら」

くのいちが聞けば「暴れたりないの間違いじゃないの?」とか言いそうだ。

「季節ごとに色々祭事がありますから、甲斐姫様も楽しめると思いますよ」

「それは楽しみね」

「春になれば、太閤様が花見をお開きになるでしょうし」

派手好きな殿下のことだ、それはそれは盛り上がるだろうと女性達は言っている。
楽しかに、そう言う点では飽きないだろうが。
甲斐自身が盛り上がらない理由はただ一つ。

(あいつがいないからなぁ)

の事を考えてしまうから。
いつもと言うほど一緒にいた時間が多かったから。

「甲斐姫様?どうかなさいましたか?」

「え?あぁ、別に」

「故郷を離れてお寂しいのでは?」

確かに故郷には親族もいるわけで。
向こうの方が友達や知り合いは多くいる。
だけど、脳裏に浮かんだのはやはりと言うか、の事で。
その一瞬の間に女性達は何か悟ったようで。

「甲斐姫様!もしかして、想い人を故郷に残して!!?」

「へ?」

あっという間に女性達は甲斐との距離を縮めた。

「まぁまぁ!そうなんですか?」

「それはお寂しいですよね」

「ちょ、ちょっと!?」

場所はどこだろうが、女性は恋愛話が好きなようだ。
気を使って甲斐との距離を測っていた女性達もあっという間に距離を縮める。
甲斐から色々聞きたいようだ。

「どんな方ですの?」

「ぜひぜひ、お聞かせくださいな」

逃げ出したくても、自分よりもか弱いだろう人たちを相手に蹴散らすわけにはいかない。

「き、聞かせるほどの話なんてないわよ」

そもそもが彼女達が想像するような想い人などではない。

(想い人…じゃないけど…)

甲斐にとっては北条家という家族の一人だ。
最初は無愛想で人と壁を作り距離を置くような奴だった。
そんな態度に何度も腹を立てたのも覚えている。
けど、彼の作るものはどれも美味しくて。
何より一緒に食べるのが楽しくて。
家族が離れ離れになった今、それが寂しい物足りないという気持ちはある。

「あのさ。甲斐と俺ってどんな関係?」

「傍から見たらどう見えるんだろうな…」

そう言えば、過去にそんな話をしたのを思い出す。
あの時は、家族。仲間。という親しさを強調したのだが。
少しだけ、それでも寂しいと甲斐は感じたのだ。
今ならばどうだ?
確かに今でも家族と仲間。を否定することはない。
変わらないと思うが…。

氏康が亡くなった時、彼は北条家を出てしまうのでは?と不安になった。
氏康によく言われた。

「あいつに根を張らせてやれ」

と。
きっといい感じで根付いていた。
だけど、北条家が亡くなったことであっさりそれが切れた。
ずっと一緒だと思っていたのに、自分に黙ってどこか旅に出てしまった。
一緒に京に行かないのかという寂しさと切なさ。


  あの時と違う。
  ちゃんと甲斐が居る場所に帰って来るからさ。

  それまで息災で。


文の最後。
自分がいる場所に帰って来ると書いてくれた。
だから、それを信じようと、次に会える日を、帰って来る日を待とうと思えたのだ。

「甲斐姫様?どうかなさいましたか?」

「なんでもない」

「あ。想い人の事を考えていたのですね?」

「なんで、そうなるのよ〜」

けど、想い人となってしまうのだろうか?
結局ずっとの事を考えていたのだから。

「でも。一人のことを考えていたのは確かよ」

「それが想い人なのではないのですか!?」

「さぁ?どうかしらね?」

甲斐は笑って彼女達の質問を受け流した。










19/12/31再UP