千波万波



ドリーム小説
これから、どうしようか…。





【6】





氏政、氏照は切腹し。北条家の5代目として跡を継いだ氏直は徳川家康からの助命もあって、高野山へ追放されるに留まった。
これで事実上北条家は滅亡したという事になるのだが。
北条家に仕えていた多くの武家らは秀吉や今後関東一帯を治めるという徳川家に仕える事になった。
小田原城で料理番をしていた者たちも、食事を出す相手が変わるだけと言うだけで、職場が変わることはなかった。

なのだが。

だけは、そのまま料理番を続けようと言う気にはならなかった。

「なんだよ、おちおち成仏もできねぇな。安心しろ。ずっと見ていてやるさ」

今のこの状況。
氏康はどう思っているのだろうか?
ずっと見ていてやる。などと言ったが、そんなのわかるわけがない。

「わしが心配か。参った。だが、嬉しいぞ、

氏康と変わらない大きな手でわしわしと頭を撫でられた。
あまり関わらないと決めていたのに。

「他人に興味ないとか、関わるのが面倒くさいとか言いながらも、結局放っておけないって言う性格が。我らより、お前の方が父上そっくりだ」

「可愛い弟だ。本当に」

氏政と氏照は血のつながりなど関係なく、自分を本当に家族のような、弟の様に可愛がってくれた。
だからではないが、自分も北条家の人達を家族と呼べるようになり、放っておけないからと戦になろうが、そばにいた。

だが、その家族のような。と言う事が返ってが後悔することになった。

秀吉は、今回の戦は北条側に責があるからと、北条家の男子には切腹を命じた。
唯一氏直だけはそれを免れたが。
遅かれ早かれ氏政にはそうなる事がわかっていたのだろうか。
を戦から遠ざけた。
真田昌幸にその身を預けるようにしたのは、北条家と関わりある者だと悟られない為になのか?
それはにしてみれば、考えすぎだと思う。
家族の、弟の様に。と言っても、実際は北条家の者ではない。
氏康に拾われた身なだけ。
職業的にも料理番というだけだ。
秀吉に違います。と言えば、それはそれで通ずる話だ。
だけど。

それは表面上の話であって、自身の気持ち的には。
やっぱり、彼は家族であり、兄と慕う人達なのだ。

…秀吉様がお呼びだ」

幸村がいつの間にかのそばにいた。

「幸村…なんで、俺を」

「さぁ。私にはわからない。けど、秀吉様はお前を探していた」

「ただのクソガキを探す天下人ってなんだよ」

正直そんな事など無視したいのだが。
天下人相手にはそれも無理な話なのだろう。
呼び出しの理由はなんとなくわかる。
だから、もう潮時なのかもしれない。

「なんで、お前が泣きそうな面してんだよ、幸村」

「な!別に私は…ただ…」

幸村には幸村で思う所があるらしい。

「まぁいいや。秀吉に会ってくるかぁ」

は大きく伸びをする。

「でさ。俺になんかあったら、豪勢な墓でも建ててくれよ」

は笑う。
それが幸村の癇に障ったらしく、幸村にしては珍しく激高しの胸倉をつかんだ。

「ふざけるな!私に、そのような事をさせるな!お前に、何かあったなど…大事な友に…」

「………でも、結局のところ。俺は北条の人間だぞ。秀吉が大っ嫌いだ」



「でも……このままだと、クソ親父に兄者達に叱られちまうからな」

ゆっくりと胸倉をつかむ幸村の手を放す
そして、秀吉が待つ城へと向かった。






秀吉の家臣の誰某に連れられ、秀吉の前に出された
あの小さい中心人物が秀吉か。などと割と冷静に周囲を様子見る事ができた。
いや、冷静なふりをしているだけもしれない。
秀吉以外にも数人有名な武将だろうという御仁が控えている。

「お前さんが、か」

「はい」

「お前さんは北条家の料理番だと聞く。亡き氏康殿専属だと」

「一応、そうでしたが…」

「そうか!ならば頼みがある。今後は儂の料理番にならんか?」

「………は?」

思っていた理由ではなかったので、は唖然とした。
秀吉が自分を探していた理由が、料理番だから?北条家の男子としてではないのか?

「秀吉様。そうではないと思いますが」

武将と呼ぶには細身で、端正な顔立ちが戦場には似合わないような男が口を挟んだ。
真田の陣で遠目から見た石田三成だとしばらく経ってから思い出すのだが。

「この者が北条家の男子ならば、生かすわけにはいきません」

「まぁ、ええじゃろ、それは」

秀吉はそこは気にしないと言っている。

「よくありません。おい、あの姫を呼べ」

命じられた男は、一旦室から消える。
それはすぐに男は甲斐を連れて来た。
甲斐はの姿を見てすぐさま目をそらした。

「この者は北条家の男子なのだろう?氏政の弟だと名乗っていたと聞く」

「し、知りません」

「嘘は吐くな。お前が嘘を吐いても他からの証拠はいくらでも取れる」

「俺は」

「三成。ええんじゃ。そんな事は」

はそうだと答えようとしたが、秀吉が先に三成を制してしまう。

「秀吉様」

「事実、そうかもしれん。だが、家康殿から氏政殿の託を聞いた。氏政殿が違うと言っておるのだ。死に際にな。だったら、その誇りを潰してやるな。だからもうええんじゃ」

家康から。正式には、家康は家臣の榊原康政から聞いたことなのだろう。
直接が氏政に言われた言葉。

「彼奴は北条家の一族を名乗る不届き者。我とは一切関係のないものだ」

「そのような者と同じ時に死ぬのは不本意。さらに、彼奴に誇り高き切腹など、無用。
できれば、野に放ち。野垂れ死にさせていただきたい」

と。
言われた直後はショックを受けたが、よくよく考えれば、あれは氏政が助けてくれたのだろう。
家康も、秀吉もそれをわかっていたから、それ以上は追及しなかった。
は料理番だと。

「で、だ。どうだ?今度は儂専属の料理番にならんか?お前は面白い品を作り出すと聞いた!」

ああ、そっちか。
珍しいものを秀吉は好むようだ。
だけど、はいそうですか。などと返事をする気にはならない。

「お断りします」

のそれは周囲の空気を固まらせた。

「ほう。儂の頼みを断ると?」

北条家の男子でもない、ただの料理番ならば簡単にその首を刎ねることはできる。
そう言わんばかりの秀吉の視線。

「私なんぞの腕前の料理人などいくらでもいますので」

は顔色を変えずに答える。

「私は世間を知りません。小さな世界しか知りません。井の中の蛙のようなもの。殿下がお気に召すようなものを出せるわけがありません」

人受けするような笑みを秀吉に向けるはさらに続け。

「それに殿下のすぐそばには、私なんぞが足元にも及ばない美味しい料理を出してくださる方がおられると聞きました」

「ん?そのような者おったか?」

「ご正室様の手料理はとても美味しいと噂です。どんな料理人よりも、奥方様の愛情が籠った料理が一番だと思います」

そう答えると、秀吉ではなく。秀吉のそばにいた子飼いと呼ばれる者達からそうだ!などと同意する声が上がった。
周囲がそう囃し立てると、秀吉も妻の事を悪く言えるはずもなく。

「まぁ、ねねの作る飯は最高じゃ!」

と機嫌よく答えていた。





!!」

うまい事言って秀吉から逃げて来た
そのまま城を出ると、あとから甲斐が追いかけて来た。

「甲斐。っげ!」

振り返ったと同時に強い力がかかった。

「もう!あんたが斬られるんじゃないかと心配したんだから〜!!」

「か、甲斐。わ、悪い」

甲斐が泣きながらに抱き付いたのだ。

「天下人の前で機嫌を損ねるようなこと言わないでよ!!」

「あ、あぁ。それは」

似たような事が以前もあったなとぼんやり思い出す。
あれは氏康が亡くなった直後だ。
けど、あの時はここまで号泣していなかったし、力強く抱き付かれもしなかった。

「わかったから、甲斐…俺を絞め殺す気か?」

「な、なによぉ…あたしは」

面白くなさそうに甲斐は離れる。

「はいはい。沢山心配かけたよ」

は笑って甲斐の頭をくしゃくしゃに撫でた。
とりあえず、二人は秀吉が滞在しているこの城から離れようと歩き出す。
そしては甲斐と小田原城で会ったあの日から今日までの事を話した。

「そっか。氏政様がねえ」

「俺は政兄達にそんな風に守られるのが申し訳ない気がしたよ。だから、秀吉の前で北条家の男子だと言い切って同じように処罰されてもいいと思った」

自分の事を守る理由などないと思って。

「俺を弟だと。家族だと言うなら同じように扱ってくれって」

「そんな寂しい事言わないでよ…お館様が亡くなられて…氏政様達もいなくなって…あんたまでいなくなったら寂しいじゃない」

「………」

俯く甲斐に少しだけ顔を向けた、その顔を見て困惑気味に頭をかいた。

「とりあえずさ。秀吉専属の料理番にならずに済んで良かったよ」

「天下人専属ってものすごくすごいことなのに、あんたは…」

「いいじゃん。結果的に丸く収まったんだからさ」

、あんたは〜」

先程の事などもうどうでも良いと言う態度のに、甲斐は呆れるより怒りが湧いてくる。
こっちは色々不安で仕方なかったのに。

「お。幸村!」

歩いていた先で幸村が待っていた。

。甲斐殿も…」

二人の姿を見て安堵する幸村。

「そうだ。あたしの方なんだけどね。忍城で小田原城開城の話を聞いて…暴れに暴れまくった後だったけど、幸村様達があたしの事助命嘆願してくれてね」

「あぁ、くのちゃんから聞いた。甲斐が暴れまくって手が出せなかったって」

「否定できないのよねえ」

くのいちが話を盛っている可能性が高いのに、甲斐はそれを否定できないと。
どれだけ暴れたのだろうか?
だが、かえってその武勇と甲斐の美貌を気に入ったとかで、その助命は通ったらしい。

「あたしのこの美貌で天下人を虜にできるわね!」

「はいはい」

「ちょっと!」

甲斐は唇を尖らせ、は悪かったと笑っている。
そんな二人のやり取りを見て、幸村は顔を背ける。

「幸村。悪かった。さっきの事気にしてんだろ?」

「………何事もなく済んだのならばいい…」

「結果的にな」

は幸村の肩に手を置く。

「さて。腹減ったろ?久しぶりになんか作るかな」

「本当!?」

甲斐は両手を上げて大袈裟に喜ぶ。

「もちろん幸村も食うだろ?」

「あぁ。いただこうか」

改めて生き延びたことを兄者達に感謝せねばとは思った。
こんな自分でも心配に思ってくれる友がそばにいるのだから。






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19/12/31再UP