いつかきっとの。




ドリーム小説
君!お願いが「クリスマスなんてやらないからな」

羽山頼子が言いだす前にが言い切った。
飯店は昼休憩に入り混雑時から解放されたばかりだ。

「もう〜頭から否定する〜」

頼子は頬を膨らまし、恨めしそうにを見る。
は構わず頼子を見降ろす。

「あのな。バレンタインにしても、ハロウィーンにしてもここじゃ関係ないよな?
でも、羽山さんがやりたいと思って広めたのは良しとするよ。結果的に皆が楽しめたからな」

「それじゃあ、クリスマスだって」

「駄目だ」

頼子のお願いは絶対にクリスマスパーティーをしよう!とでも言うのがわかっていたが。
実際、その通りのようだ。
だから先手を切って却下する。
自身が言う通り、頼子が広めたことにより多くの人々がそのイベントを楽しむことができた。
それは良い事だ。
渾沌としている今に気が紛れるのならば。
ならばクリスマスも良いではないかと頼子は言いたいのだが、は駄目の一点張り。

君が却下するのは、宗教的な理由?」

「違う」

「じゃあ、なんで?」

「クリスマスの後に何がある」

「クリスマスの後?…お正月!」

「そう。正月だ。クリスマスでも騒いでそれから1週間もしないうちに正月になるんだ。
滅茶苦茶大忙しじゃないか。それにこっちの人達はどちらかと言えば、正月に力を入れると思う」

世の中では、クリスマスが終わった直後、すぐさま新年を迎えるムードになるのだが。
ここではそう簡単に行くだろうか?とは思った。
それに流石にこう連続でイベントを起こされると、色々金がかかってしょうがないのだ。
準備に時間も取られるわけだし。
家族というこじんまりした中でやるにはかまわないが、多くいる軍の中でやるとなると面倒臭そうだ。
それにいつ遠呂智軍が攻めてくるかもわからないのだから。

(遠呂智はクリスマスも正月も関係ないだろうけどな…)

ひとまず頼子がそれで納得したのかわからないが、クリスマスはやらないと頷いた。

「その代り、正月はめでたい事だし、宴会でもなんでもやればいいさ。そう言う人達の集まりだろうし」

そう言えば、北条でも正月の準備は大忙しだったなと思い出す。

「うん。それじゃあ、そうするよ。遊び疲れちゃうのも問題だよね」

「わかってくれて何よりだ」

頼子は正月前にまた相談するね。とに言い飯店から出て行った。





(別にクリスマスが嫌いとかじゃねぇけどさ…)

三國時代に戦国時代の英傑たちにはクリスマスなんて似合わないだろう?
まぁ、頼子が広めてくれたお蔭で英傑たちには無縁なバレンタインやハロウィーンをやることにはなったが。

「どうしたの?。ぼーっとしちゃって。珍しいわね」

甲斐が飯店に顔をだす。

「ん…まぁ、色々考えていただけだ。早いなと思ってな」

「早い?」

「うん。ついこの間羽山さんがバレンタインがって騒いでいたのに、もう年を越そうとしているんだぜ」

「バレンタインって…2月だったわよね。そうね…そう言えば、もうそんななのね」

など甲斐は言うが、どこかほんのり顔が赤くなっている。

「甲斐?顔が赤いぞ?どうした?」

「え!?な、なんでもないわよ」

甲斐はかぶりを振る。

「風邪じゃないだろうな?甲斐が風邪なんて言ったら、他の人達がすでに寝込んでいそうだけどな」

「一言余計なのよ!」

甲斐は勢いでの背中を叩いてしまう。

「えと。で。また近いうちに何かやろうって相談でもされたの?バレンタインとかハロウィーンとかって」

「まぁな。言われたけど、却下した。正月の方が忙しそうだし」

「そうなんだ。少し残念ね」

結構頼子が提案するものは楽しいからと甲斐は言う。

「いや、クリスマスはやらないほうがいいと思うぞ、俺は…」

ただの宴会で済めば良いけどなとは呟く。

「くりすます?」

甲斐は首を傾げる。

「まぁ、元々はキリストの誕生日を祝うとかなんとかだけど。羽山さんがやろうとしているのは、飲み食いして騒ぐって奴だと思うけどな」

「それじゃあいつもと変わらないものじゃない」

「それで済めばな」

は苦笑する。

「羽山さんって司馬師さんを慕ってんだろ?バレンタインに好物を用意しようとするぐらいだから」

「そうね」

「クリスマスには誰と過ごすかってのが重要なんだよ」

「?」

「家族、友達、恋人…チキン食って、プレゼント交換してみたいな?まぁ勿論一人で過ごすってのもありだけどな。どちらかと言えば、恋人たちのイベントだよ、ありゃ」

「へ、へぇ…」

は若干呆れたような感じだ。

「羽山さんは司馬師さんと過ごしたいんじゃないかと思ってさ。まぁ、その辺は勝手に過ごせばいいんだろうけどな」

宴会を隠れ蓑にして、司馬師と二人きりで過ごすとか?
そんな器用な真似を頼子ができるとは思えないが。

のクリスマスってどんなだったの?」

「普通」

「何、普通って?」

「単純に家族とか友達と過ごすって事が多かったよ。社会人でもないから、ディナーなんぞいくわけでもないし」

「恋人…は、いなかったみたいね」

思わずは甲斐を睨んでしまう。

「ガキだったからな、まだ」

「はいはい。じゃあ今年はそのクリスマスはやらないのね」

「やらん。いいんだよ、その分正月に盛り上がれば。じゃないと甲斐も寂しい思いをするだけだぞ」

「だから、一言余計だっての!」

甲斐は頬を膨らましながら、椅子に座りテーブルを数回叩いた。

「はい。注文」

「は?今、休憩中なんだけど」

「なんでもいいから、食べたいの。の余計な一言で気分を害したからね」

「それはそれは。しょうがねぇな…まぁ、甲斐は色気より食い気だもんな」

!」

は逃げるように厨房に戻った。





(まだ少しあるけど…そっか…バレンタインがまたやってくるのね)

甲斐は料理を待ちながらそんな事を思った。
今回初めてバレンタインの存在を知った。元々知っていたのは頼子とのみ。
頼子と出会った事で知ったのだが、二人は同郷らしい。
らしい。と言うのは、自身が詳しく話をしないからだ。
頼子に聞こうにも、頼子自身はあまり過去には執着しないらしい。
今を楽しく生きる!そんなような子だったから。
結局詳しく知るのは氏康のみなのだろう。
そう考えると寂しいものがあるが、頼子が故郷の話をしてくれるお蔭であれこれ聞けるのは嬉しかった。
そして、バレンタイン。
頼子は司馬師に菓子をあげたいからと、他の子達を巻き込んでに菓子の手ほどきを受けていた。
甲斐は元々料理が得意でもないので、不参加のつもりだったが頼子や尚香達の押しに敗けて参加した。
で。行くあてのない菓子を作ったのだが、義理という存在を知り、に押し付けた。
一月後、ホワイトデーなるものの事も知り、がお返しの菓子をくれた。
それには深い意味はないようだが。
その時、甲斐はに言ったのだ。

「えと…あのね」

「?」

「来年はきっと違うと思うから」

「は?来年?」

「そう来年」

無理やり義理と位置付けたけど、きっと来年は違う。
来年は義理ではなく、本命になっているはずだ…と。

(実際の所どうしようかなぁ…周りは色々言うけど…)

何より、周りが何を言おうが違うと否定したが。
少しだけ引っかかっている事がある。

「…でも。いつ何が起こるかわからないのよ?殿が甲斐のそばに居るとは限らないんだから」

「ま。また今回の事みたいになったら困るしね」

「そうね。一緒に居られる今を大事にしないとね」

などと。
いまだに戦いが続いている中、元の世界に戻るのかわからない。
戻るとなると尚香達とは別れてしまう。
戻らなかったとして、このまま平穏に暮らせるのだろうか?
この先はわからない。
もしかしたら、根なし草のは一人でどこかに行ってしまうかもしれない。
氏康がここにいる以上、今はそれもないとは思うが。

(何が起こるかわからないか…)

もしかしたら、何も起こらないかもしれない。
それを考えてしまうと堂々巡りになってしまうが。

(そもそも、あいつはあたしのことをどう思っているのよ。相変わらず雑な扱いだし)

風邪をひいたと思うながら、もう少し優しくしてくれたっていいではないか。
寧ろ、自分よりも周りが寝込むだろうと言う方を心配した。

(けど、まぁ…そのやり取りも楽しいのよね。きっと)

そのうち、本気でに好きな子ができたらどうしようかな?
こういったやり取りなどできなくなるのだろうか。

「何呆けてるんだよ」

がいつの間にかいて、自分を見下ろしている。

「べつにー」

「まったく…ほら。とりあえず、これでいいか?」

が甲斐の前に出したのはお握り数個。

「まぁいいけど」

そう言って甲斐は一つ手に取りパクッと食べた。

「結局これでほだされるのよねえ」

「は?」

「あー美味しい」

何か食べさせて。と無茶を言ったのは甲斐なのだが。
お握りと言えども、満足できてしまうのだ。

「本当に思っているのかよ…」

は呆れつつ甲斐の向かいに腰を下ろした。

「思っていますーの作ったもの美味しいもの」

と、お握りを食べ進める。

「色気より食い気で結構ってことよ」

「あのなぁ」

は頭を掻く。

「そういう扱いをしちゃう俺も悪いんだけど。言うほど悪くないと思うけどな、甲斐は」

「はい?」

「前にも言ったけど。甲斐が俺の作ったものを美味しいって言って食ってる顔好きだし」

「え、ええっ!?な、何を急に」

甲斐は焦ってしまう。
これもいつものように何かオチでも付くのだろうか?
今の自分は顔が真っ赤なのではないだろうか?

「ははっ。なんて顔してんだよ」

は甲斐の額を軽く指で弾いた。

「か、からかってんの?」

「からかってないよ。本心だからさ」

は笑いながら席を立つ。

「さぁて、そろそろ仕込みをしないとな」

と。
甲斐はまだ残っているお握りに手が出せず。
顔を赤くしたままだが、厨房に戻って行くの後姿を見ながら口元が緩んでしまうのだった。








19/12/31再UP