良い変化と悪い変化。



ドリーム小説
氏康には氏政、氏照と言う子がいる。
他にもいるのだが、現在北条家を支える中心がこの二人だ。
当初、はその二人とあまり関わりと持たずにいた。
基本、氏康がいるから北条にいるのであって、氏康がいなくなれば北条に留まる理由はないと。

だから、極端な話。
あまり人との関わりを自分からは作らず壁のような、一線を他人ととっていた。
それも時間が経てばそうでなくなり。
特に甲斐の存在が、に人との関わりを持たせるようになっていた。





休憩時間ともなり、が庭を眺めながら縁側で腰を下ろしている。

(きな臭いのは相変わらずなんだけど…どうにもこうにも。ここだけは平常通りだな…)

世間では秀吉による天下統一がなされようとしている。
その最後の標的とも言えるのが関東一帯を治める北条と東北一帯を治める伊達だ。
伊達の殿様は何を思ったのか、いまだに地元へ帰るわけでも、秀吉に頭を下げるわけでもなくいまだに滞在中だ。
あまり歴史などに詳しくはないだが、最終的に秀吉によって天下統一がなされるのは知っている。
けど、北条家がどうなるかまでは知らない。
詳しくはないが、氏康が生存している時点で多少時代の流れが違うのだと感じているから。
考えたくはないが、氏康がいなくなったらこの先自分がどうしようか?
以前の自分ならばさっさと北条を出てどこかへ行くだろうに。

(なんとなく放っておけないよな…)

自分だけ逃げてしまうような感じがして嫌だった。

。呆けてどうした?」

「疲れておるのか?毎日成田のせがれの相手をしておるしな」

二人の若武者がの前に姿を見せた。
氏康の次男氏政。三男氏照だ。

「いえ、別に。あぁ。俺、邪魔をしていましたか?気が散るならば移動しますよ」

が腰を上げようとしたが、二人は構わないと制した。
二人は木刀を手にし、打ち合いなど稽古をしていた。
武勇は氏照の方が上のようだが、互いに譲らず中々白熱した感じだ。

「邪魔などには思わぬよ」

「逆に、お主の方が見ても面白くないのではないか?」

「いえ。俺自身は戦う事をしないので、お二人の勇ましさに憧れますよ」

元々戦など無関係の所にいたのだ。

「刃は刃でもは包丁だからな。いや、それはそれで良いと思うぞ。我らにできないことをはするからな」

「いつも美味い飯をありがたく思うよ」

急に二人から褒められは恐縮しつつ、口元が緩んでしまう。

「だが、が憧れるのは我らより父上だろう?」

「え?まぁ…お館様は。まぁ…なれるものならお館様のような男にと思いますが、デカすぎる目標ですね。器が違い過ぎて」

「あぁ見えても父上は恥ずかしがり屋だぞ」

「関東の獅子、英雄だと言われても、素直に喜ぶような性格ではないからな」

には知らない氏康の顔というのがあるのか。
いつもふてぶてしいとか、不良オヤジのような顔をしているのに。
それはすべて照れ隠しからなのか?とは驚く。
だが、ついそんな氏康の姿を想像して笑ってしまう。

「次に父上と顔を合わせた時、親父とでも言ってやれ」

「え」

も父上にとっては悪ガキの一人だろうからな」

少し前に一度だけ、氏康に向かって「クソ親父」と毒を吐いたことはあったが、その際氏康には「なんだバカ息子」と言われた。
二人だけの時ならばそれもできるが大勢の前では到底できるはずもない。

「それでこれからはわしの事は政兄と呼ぶがいい」

「おぉそれは名案じゃ!兄者。わしのことは照兄だ」

「……はぁ」

突然なんだと呆気にとられた。
だが、氏政は少しだけすまなそうに言う。

「ついな。お主と…上杉に行ってしまった弟を重ねて見てしまったのだ。年も変わらないからな」

同盟というか、人質として上杉に出されてしまったと言う末の弟。
彼もいればきっとまた北条は違っただろうが。
氏康はを見て、その弟の姿と重ねてしまったらしい。

「弟様。俺のようなひねくれ者だとは思いませんけど」

「性格は似ておらんな。あれは猪のように突っ込む奴だったからな」

「真逆じゃないっすか」

は嘆息した。
その弟がいたら、仲良くしていたのだろうか?そんな事をふと考える。
あぁ、関わらないと考えていたあの頃が懐かしい。

「で。お二人は稽古はもう終了ですか?」

「ぬ…」

「それはだなぁ〜」

手が止まってしまった二人には腰を上げた。

「休憩。しますか?何か用意しますよ。政兄と照兄に」

二人は一瞬呆けてしまうも、笑顔で大きく頷いた。

「おぅ、任せようか」

「楽しみじゃな、兄者」

と。お茶を用意すると立ち上がったの背を見て何度も頷いていた。






以前の自分ならば人に構われるのを鬱陶しいと感じただろう。
幼子でもないのに、大人に構われるなど。
だけど、北条の人達は放っておけない気がして。
ただ突っぱねるのが申し訳ない気がしていた。

「あ」

が縁側に戻ると氏政、氏照だけでなく甲斐もいた。

「おかえり〜

「お前の分は用意していないぞ、甲斐」

「えーそんなぁ」

「政兄達が稽古の休憩をするからって用意したものだし」

「……そうなんだ。いいなぁ、氏政様たち〜」

一瞬甲斐が呆けた顔をするも、すぐさまいつものようにしている。

「どうぞ。茶と団子です」

「ありがたい」

「ではいただこう」

氏政と氏照が嬉しそうに団子を食べている。
甲斐は羨ましいそうにそれを見ている。

「アホヅラが一層アホになるからやめろよ」

「ひどい!!それはひーどーいーこんな麗しい乙女を捕まえて〜」

「はいはい」

でも。とすぐさま甲斐は笑顔になる。

「お二人とも仲良くしているが見られて良かった。兄と呼んでいるから」

「わしらも嬉しいのだよ」」

嬉しいと言われるとも恥ずかしいものがあるが。

「では、さしずめ私は麗しき北条の姉さんと呼んでもいいのよ?

「え?なんで、お前が姉なわけ?俺が下っておかしくないか?」

「そうでしょ?お姉さまって呼んでいいのよ?」

「絶対嫌だね。こっちが世話をしている方が多いのに」

「そうだなぁ。成田のせがれはせがれのままでいいだろ」

「ひっどーい!何度も言いますけど、人の事を坊主だのせがれだの、乙女相手に失礼ですよ!!」

などと声を上げていれば、そばの室の障子が開いた。

「うるせぇんだよ!何を騒いでいやがる!!」

氏康の怒号が飛んできた。

「聞いてくださいよ〜お館様ぁ〜」

「乙女が暴れているだけなんで気にしないでください」

甲斐が言うよりも先にが口を出す。

「乙女は暴れないんですけどね、普通は」

「あんた達があたしのことを怒らすんでしょ!!?」

「言いだしっぺは政兄と照兄だろ。お兄ちゃんがなんとかすればいいんじゃないですかー」

「お、おい。!我らを巻き込むな!!」

「こういう時ばかり兄を強調するな!」

結局のところ4人が騒ぐので氏康の雷は平等に落ちた。

「さすが、雷親父…」





「昼間は楽しそうにしていたな。

夜。一人で月見酒だと言う氏康。
酒の肴を用意してくれと頼まれたは、数品用意し持ってきた。

「楽しそうにしていた人に対して雷落としたの誰でしたっけ?」

出したら下がるつもりだったのに、話の相手をしろと言われてとどまっている。

「うるせぇから叱ってやっただけだろうが」

氏康はくつくつと笑う。

「お前もようやく根を張ったようだな。少しは安心したぜ」

「お館様…」

「俺がいなくなっても、お前なら大丈夫だろうよ」

「なんで、急にそんな事言うんですか…」

「遅かれ早かれ、秀吉と戦になりそうだからな。こうやってお前とゆっくり話せるのもあとどれくらいかと思ってな」

珍しく弱気というか、後の事を考え口にする氏康に対し、は言葉が出ない。

「まぁいいさ。俺は関東で手一杯だが。お前は外の世界を見て、お前のできることをしろ。俺はそんなお前をずっと見ていてやる。あの世からな」

「縁起でもないこと、言わないでください」

あれ、変だ。
いつもならば強く反論するのに、今の自分は氏康の言葉に動揺してしまっている。

「何情けねぇ面していやがる。ド阿呆が」

「だ、れが。そんな面させてたと思っているんですか…」

「なんだよ、おちおち成仏もできねぇな。安心しろ。ずっと見ていてやるさ」

氏康は笑うも、は笑うことはできなかった。





氏康の室から出て、自分も早く寝に入ろうと戻る途中。

「あ。。まだ起きていたんだ」

甲斐が城内をうろついていた。
甲斐も屋敷へ戻るところだったそうだ。今の今まで女中達に捕まって色々話をしていたらしい。

「乙女の会合って奴よ。女の子はお喋りが好きだもんね」

甲斐はいつもと変わらない屈託のない笑顔をに向ける。
は、

「え!?な、なに!!?ど、どどうしたの!?!!?」

唐突に甲斐の事を抱きしめた。
甲斐は驚きの事を上げるも、無理にを押し返そうとしない。

?」

「……ふざけんなよ、クソ親父…」

漏れたその言葉に、と氏康の間に何かあったのを甲斐は悟った。
そして時折鼻を啜る音が聞こえ、が泣いているのだと気づいた。

(何があったのかわからないけど…あたしに弱い部分を見せてくれるってのは気を許してくれているのかしら?)

だったらには悪いが嬉しく感じる。
今日は氏政、氏照兄弟とも距離が縮んでいたようだし。
少しずつではあるが、ちゃんと彼は北条に根を張ってくれているのだと言うのが嬉しかった。

(ごめんね。あんたが悲しんでいる時に、そんな風に喜んでしまって)

心の中でそっと甲斐は詫びた。








19/12/31再UP