惹きつけるものは。



ドリーム小説
君!」

「何?羽山さん」

に一人の少女が話しかけてきた。
今時間、飯店には客はおらず、のんびり椅子に腰かけ書物を読んでいた

君にお願いがあります!」

「………」

自分と同じ境遇だった少女羽山頼子のその言葉に、は無言になる。
頼子のその「お願い」に関して、以前にもあった事を思い出したからだ。

君?ねぇ?」

は書物に目を向ける。

「何でも無視するの!?」

「………そのお願いを聞きたくないからだ」

「えー!?まだ何も言っていないのに〜」

大方の予想は着いているのだ。
だから面倒なことに巻き込まれたくないとは無視をする。

「もうすぐ何の日かわかる?」

「わかりたくもないから、知りたくない」

「もう意地悪だなぁ、君は。もうすぐハロウィーンです!」

「聞きたくないって言っただろうが…」

頼子のマイペースさは今に始まったことではないが。
仕方なくは書物を閉じ、頼子と向き合った。

「バレンタインの時にも言ったけど、その手のイベントはここではあまり関係ないから」

「バレンタインの時に私も言ったけど、がっつり広めておいたから大丈夫!」

ドヤ顔を見せられ、はイラッとしたので、そのまま頼子の額に向けて数回手刀をかました。

「痛いよ、君」

頼子は恨めしそうにを見る。
は先手を打つ。

「言っておくが、菓子は作れるが、コスプレ衣装なんぞ作れないからな、俺は」

どうせ、そう言うお願いだろう?とは思った。

「意外。君は裁縫も得意かと思っていたけど。女子力高いと」

「意外だと思われる意味がわからないが、少なくとも羽山さんよりは女子力は高いかもしれないな」

「そんなことないもん」

頬を膨らませる頼子。
だが、それも一瞬で、話を戻してきた。

「まぁ、仮装に関してじゃないんだ。君の専門分野の方だよ」

「………」

「お菓子。沢山作ってほしいの」

「俺に拒否権は?」

「あると思う?」

その話ぶりでは、どうやら頼子企画のハロウィーン。お偉いさん達を巻き込んだと容易にわかった。





「くっそ…羽山さんの奴。面倒くさい仕事を押し付けやがって…この分じゃクリスマスもやるとか絶対言いだすな…」

三國にも戦国にもないイベントを頼子は簡単に持ち出してくる。
知らない英傑たちは面白そうだと拒否することなく、こぞって参加をする。
そんな英傑たちを見て、「何?暇なんですね」と嫌味の一つでも言いたくなるのだが。

「ねぇねぇ、。頼子の言っていた、ハロウィーンって何をするものなの?」

甲斐は頼子の説明ではわからなかったらしく、に聞いてきた。

「甲斐も参加するわけ?」

「面白そうだと思ったし。で、何をするの?」

「それがさ…」

は頭を悩ませた。

「?」

「俺が知っているハロウィーンと羽山さんが考えているハロウィーンが同じなのかがわからなくてさ」

「そうなの?あたしが頼子から聞いたのは、皆で色んな仮装をして宴会を楽しむとか…」

やっぱり、そっちか。
本来のハロウィーンとは違う方向に進んだのだとわかる。

「元々ハロウィーンってのはさ、他所の国のイベントで。秋の収穫祭を祝って、悪霊を追い出すのが目的とか、
また別の国ではかぼちゃの提灯を飾って、子供たちが仮装して近所の家から菓子を貰うって奴なんだよな」

「なんか違うみたいね」

「羽山さんの場合は仮装して騒ぐのが目的なんだろうな」

に菓子を頼んだという事は、宴会で菓子を出せと言う意味なのだろうか。

「別にいいけどさ、やりたい奴がやればいいんだし」

はやらないの?」

「俺が率先してやるように見えるか?」

「見えないわね」

甲斐は苦笑する。
出会ったころに比べればも周囲との壁は壊しているようだが、相変わらず積極的に行動を起こそうという事はないようだ。

「じゃあ、えと。その仮装ってどんな格好でもいいの?」

「基本的にお化けや魔女とか西洋の妖怪の類の仮装をするんだけど、ここじゃあ関係ないよな。好きな仮装をすれば良いんじゃないの?」

そもそも、本拠地を出れば顔色の悪い遠呂智の兵士たちがいっぱいて、そっちの方がハロウィーンに近いじゃないかと思える。

「絶対、変な方向に仮装するから、渾沌とするのが目に見えているな」

他人事のようには苦笑するのだった。





「「とりっくおわとりーと!」」

「え?…あ、あぁ。はい」

ハロウィーン当日。思いっきり渾沌とするだろうと思っていたハロウィーンは、意外にもそれっぽさがあり、まさか「Trick or treat」などと呼ばれるとは思わなかった。
飯店にやってくる子供たちが可愛らしいお化けの恰好をしてくるので、は用意しておいた菓子を子供たちに渡していく。

「ありがとーお兄ちゃん」

バイバイとに手を振っていく子供たち。

「羽山さんにしてはまともだな…」

「「トリックオアトリート!」」

「可愛い仮装だね、お嬢と姫さん」

卑弥呼とガラシャがの元に来た。

「ほむ!中々楽しいのだ!」

「尚香ちゃんが教えてくれたんやで。キョンシーっていうお化けなんやて」

「ぴょんぴょん跳ねるのが楽しいのだ!」

二人はお揃いの仮装での前で跳ねている。
まぁ、本来のキョンシーはもっと怖い存在であるようだが、二人なりに可愛らしく衣装をアレンジしているので、怖さは薄い。

「お兄ちゃん、いたずらとお菓子どっちがええの?」

「いたずらは勘弁して欲しいから、お菓子をやるよ。はい」

「ありがとうなのだ!」

「ありがとな、お兄ちゃん。ほな、次行こか!」

卑弥呼とガラシャは次の獲物?を捜し飯店から出て行った。
卑弥呼達以外にも英傑たちがそれぞれそれらしい仮装で飯店に来るので、思っている以上に忙しくなっていく。

ちーん」

「くのちゃん…幸村?お前…」

「わ、笑うな。

参加しそうにない、幸村が狼のような耳を付けてやってきたので、は驚いた。

「ね?幸村様可愛いでしょ?」

くのいちは悪魔の羽根のようなものをつけている。

「くのちゃんはともかく、幸村が参加している事に驚いたんだけど」

「お、お館様命令でな…」

お茶目な御仁武田信玄公の性格を思えば、率先して楽しむのがすぐにわかる。

「だけどね〜お館様の仮装で子供たちが大泣きしちゃってさ」

「そんな本格的な仮装してんの?すげぇな」

「仮装といえば、仮装なのだが……なまはげなんだ…」

は笑ってしまう。

「それはまた違うイベントだろう。趣旨が変わって来るぞ」

「まぁ、そうなんだけど。ちんは仮装しないの?」

「しないよ。俺の役目は菓子をあげる役だよ。くのちゃんも欲しいの?」

けど、例の言葉を言わないと出す気はない。
答えたのは幸村だった。

「私達はいい。それは子どもたちにあげてくれ」

「そうなの?まぁいいけどさ」

「元々頼子ちんが子供たちの為に何か楽しい事をやろうって言いだしたことなんだよ」

「へぇ」

だからか、思っていた以上にまともであり、子供たちの楽しむ声が多く聞こえてくるのは。

「ま。幸村達もまだ忙しいのだろ?終わったらまた来いよ、飯でも出すからさ」

「あぁ。また後で伺おう」

「あとでね〜」

幸村とくのいちは飯店を出て行く。

〜トリックオアトリート!」

酒でも飲んでいるのかと言うぐらい陽気な甲斐が飯店に顔を出した。

「対象年齢外だ。出直せ」

は一蹴する。

「えーなんでよ〜」

頬を含ませる甲斐だが、彼女は魔女のような仮装をしている。

「菓子をあげるのは子ども限定…って言うと姫さんも若干対象外のように見えるが…」

まぁ、彼女の場合卑弥呼とも一緒にいたし、なんとなく同レベルにも見えたので良しとしよう。

「ねぇ。結局宴会ってここでやるの?」

「いや、広場の方でやるみたいだ。あっちで準備しているよ」

は行かないのか?と甲斐に聞かれたが、宴会の方は他の人達が準備し、頼子の方から菓子をに用意してくれと頼まれたので、飯店で残っていたのだ。
一応子供たちにハロウィーンのコースとして、飯店が入っているようで、その都度菓子を渡していたから。

「宴会も俺は不参加でいいよ。結構疲れた」

「そうなの?」

甲斐は不満そうだ。

「お兄ちゃん!」

再びお化けの仮装をした子どもたちがやってきた。
は菓子を一人一人に手渡し見送って行く。

「にしても…羽山さんも急にどうしたんだか…いつもは自分が率先して楽しんでいそうなのに」

「それは…アンタが影響しているみたいよ?」

「は?俺?」

「前に、子供たちに飴をあげていたでしょ?自分にできるのはこれくらいって。それを頼子が知ってね、あの子も自分ができる事に限りがあるから、結構悩んだみたいよ」

それでイベントを開催して、楽しんでもらおうと思ったらしい。
頼子の周りにはそれに手を貸してくれる頼れる大人たちがいるから。

「人を惹きつけるのもその人にしかできない事だと思うけどね、俺は。羽山さんはすごいと思うけど。俺には真似できないね」

「そう?結構、も人を惹きつけると思うけど」

「俺の場合は、俺が作った菓子に。だよ」

「否定できないか」

甲斐は笑ってしまう。
にしてみれば、大勢を惹きつけ楽しませることのできる頼子がすごいと思うのだが。
こういうのは互いに互いを羨ましいと思ってしまうようだ。
自分のしている事に関してはそれほど意味があるわけではないと感じ。

「さてと。あたしは宴会の方に行こうかしら。お菓子貰えないわけだし」

「拗ねるなよ」

「子供じゃないから拗ねないわよ」

でもちょとだけ、子供たちが羨ましいと甲斐は思った。

(子供たちは無条件だもんね…やっぱり拗ねているのかな)

飯店を出ようとする甲斐をは呼び止めた。

「なに?」

「大人限定の菓子。作ったけど、食べるか?」

「…食べる!」

宴会よりはこっちの方が良いとばかりに、甲斐は飯店の扉を閉めた。

「かぼちゃのプリン。感想聞かせてくれるとありがたいんだけどな」

は椅子を引き、甲斐を座らせた。
出したかぼちゃのプリンを食べている甲斐を見ながら、はぽつりと呟いた。

「俺はやっぱり羽山さんとは違うなぁ…大勢より、一人を相手にしている方が十分だ」

「ん?なぁに?」

「なんでもねぇって。どうだ、味は」

「うん。美味しい」

そう言って笑顔を向ける甲斐を見て満足するだった。










19/12/31再UP