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油断大敵?
「へぇ…あれが独眼竜…」 世の中が豊臣秀吉の天下へと向かっている中。 北条家は変わらず関東一帯を治めている。 氏康自身、天下に興味はない。 だが、領民に手を出すようならば容赦なく反撃するつもりではある。 それでも、秀吉の下に付く気はないようだ。 そんな中、東北を治めている伊達政宗が単身で小田原にやって来た。 「家臣もつけないで来るって事は、秀吉に知られたくないって事かね…」 ただの料理番であるも天下になど興味はない。 だけど、この先それでいいのか少し悩む。 このままのんびりとした生活が続けばいいと思うも、歴史の流れはそういかない事を知っているから。 (けどな…あり得ない事が起こっているわけだし…) 歴史などに詳しくないであるが、色々思う所はあるわけで。 「!お館様がお呼びよ」 甲斐がを呼ぶ。 甲斐の隣に政宗がいる。 「………」 「?」 「わかった。今行く」 は政宗に一礼してから氏康の元へ向かった。 なんとなく、なんか違和感を感じつつ。 「………」 甲斐が呼ぶまで何か考え事をしているようだった。 最近はあまり見られなくなったが、また何かこちらと隔てようとする何かがあったのか、甲斐は心配になった。 「あの男はなんじゃ?氏康殿の息子ではないようだが」 作務衣姿、自分と歳も変わらないような青年に政宗は不思議に思ったようだ。 「え?あぁ、はお館様専属の料理番よ」 「料理番?ほぅ。それはわしも興味あるな」 政宗自身も料理を得意とするらしく、その辺に興味を持ったようだ。 「仲良くなるには時間がかかるかもね」 「気難しい奴なのか?」 「気難しいって言うか…割と人と距離を置くのよ。最近はそれも薄れたと思ったんだけど…その辺あいつの過去とかに何かあったみたいだけど、知っているのはお館様ぐらいだし」 ただ、打ち解ければ割と気安いと思える。 くのいちや、幸村など友と呼べる者がにはできたわけだし。 (あたしの事…友達って思ってくれているのかしら?それとも…) 以前くのいちにが話かけるのは、氏康か甲斐ぐらいだと言われた。 割とよく一緒にいるし、気安い仲だと思う。 友というか、家族のような親しみはあると。 だけど、一方でそれだけだと思われるとちょっと寂しい自分が居たりする。 「とりあえず、今日の夕餉は期待できるんじゃないの?」 「それは楽しみだ」 すぐに帰る素振りを見せない伊達政宗。 氏康と話があるのだろうが、は無関係だといつも通りに過ごした。 だけど、氏康との接触が他所に漏れては不味いらしく、伊達政宗が来ているという事は内密になっているようだ。 (あのでかい態度と独眼じゃ普通ばれるぞ…) 隠すつもりが本人にあるのかないのか微妙な所である。 「やはり熊であったか」 「誰が熊よ!誰が!!」 「熊の親だと言ったのはお主ではないか」 「言ったけど、純真可憐な乙女に向かってひどくない!?」 が休憩に向かおうとしたところ、そんなやり取りが耳に入った。 目を向ければ、甲斐と政宗がいる。 最近二人が一緒に居るのを目にする。 客人の世話係と言ったところなのか、詳しい事情は知らないが。 「………」 関係ないかとばかりには立ち止まらずに進む。 「あ!ー!」 甲斐に呼ばれるも止まる義理はないとばかりには立ち止まらなかった。 「聞こえなかったのかしら?」 呼んでも立ち止まることすらしなかった。 手を振ったのに、まったく気づいて貰えなかった。 「やっぱり…何か悩んでいるのかしら…」 が一人でいる姿を最近見かける事が多くなった。 あまり人を寄せ付けない。 少し前のような姿を。 何か悩みがあるなら話してほしいが、の性格では自分になど話す事はないだろうし、話すならば氏康にしか話さないだろう。 「最近は変わったと思ったんだけどな…」 ふと氏康に言われた言葉が脳裏を横切る。 「あいつは根なし草だ」 しっかり根を張らせてやれ。 そんな事を言われた。 「まさか…」 小さな不安が甲斐の中に芽生えるのだった。 浜辺に出てみれば、氏康がいつものように釣りをしていた。 彼のその後ろ姿を見ると、乱世など嘘のようだと思えてしまう。 関東を出れば、秀吉の天下取りにきな臭い話なども広まっているだろうに。 けど、関東を出た事のないにはよその国の事がわからない。 いつかはここを出る日が来るのだろうか? 氏康がいなくなれば、それもいいだろうと考えて日々はあったのだが。 「どうした、珍しいじゃねぇか」 「は?別に何も珍しい事なんかないっすけど…たまたまここに来たらお館様が居ただけなんで」 氏康のそばには小太郎の犬もいる。 氏康が釣りをしている傍に寝そべって。 はなんとなく、その犬の傍に腰を下ろした。 「…お館様、何笑ってるんですか?」 幽かに彼の背中が小刻みに震えていた。 「ふっ。何、お前が拗ねているなんて珍しいなと思ってな」 「何言っているんですかね…俺、別に拗ねてないっすよ」 意味がわからないと寝転び、空へと視線を移す。 「拗ねてんだろ。成田の倅が伊達の小僧の相手をしているからな」 「俺には関係ないっす」 別に甲斐の事など関係ない。 伊達政宗などもっと関係ない。 だけど、あまり関わりを持ちたくないとどこかで感じ、二人の事など素知らぬ顔で過ごしているのは確かだ。 それを氏康には見透かされていたようで面白くない。 「クソ親父」 「なんだバカ息子」 氏康がくつくつと笑っている。 その一言だけで少しは気が晴れた。 北条家って言う一つの家族みたいなものだ。 以前甲斐がそんな事を言っていた。 自分もそこに含まれているかのようで、普段親父など氏康に対し言わないのに、息子扱いされたのが嬉しく感じた。 「いーんですか、お館様。世の中秀吉に臣従したり、屈服したり、降伏したりしていますけど」 は体を起こす。 「いいんじゃねぇのか。天下なんざ俺には興味ねぇよ」 「でも、このままだと確実に秀吉は関東に目をつけますよ」 「その時はその時だ」 「そんなもんっすかね…」 「そんなもんだ。ただ、秀吉だろうが、俺の領民に手を出そうってんなら容赦はしねぇよ」 ボスっと大きな手がの頭に乗った。 わしわしと頭を撫でられる。 「前にも言ったが、いつかは俺も死んじまう。いいか?ちゃんと周りを見ておけ、お前の帰る場所を失くすんじゃねぇぞ?」 見つけてもいないのに、帰る場所などないだろうに。 「わかったら、いつまでも拗ねてんな」 「……拗ねてないっす」 「そうかい。図体でかくてもガキだよ、お前は」 わしわし何度も撫でられた。 (拗ねてる?俺が?なんで?) 氏康のそばで休憩を済ませ、城に戻って来た。 いい時間だったと思うも、何度も氏康に拗ねている。と言われて面白くなかった。 「!」 甲斐が走って来た。 「なに?」 「あ、あのね…その…」 息を整えつつ、を伺い見る甲斐。 「あんた…何か悩みがあるの?」 「………は?」 「だ、だって!最近なんか難しい顔ばっかしているし…ちょっと前のあんたに戻ったみたいだったから…」 「ちょっと前の俺って?」 自分が変わったような甲斐の物言い。 別に変わったとは思っていない。 「ほら。割と人と距離を置いていたし…なんか、心配で…どっか行っちゃうのかなって」 「別に行くところなんかないけど」 「そうなの!?本当!?どこにも行かない?」 「あぁ」 甲斐は胸をなでおろした。 「よかったぁ…ちょっと心配だったのよ。最近のあんた変だから。声をかけても気づいてもらえなかったし」 それは…。 「拗ねてんだろ。成田の倅が伊達の小僧の相手をしているからな」 氏康の言葉が思い出された。 「?」 「だーーー!くそ、ムカつく親父だなぁ!!」 は珍しく頭を抱えた。 「何?どうしたの?急に」 「甲斐!前から頼んでおった…お。そこに居るではないか」 政宗がやって来た。 甲斐の姿を見つけて声をかけたのかと思うと、若干はイラッとした。 「お主、氏康殿の専属料理番だと話は聞いたが、前から」 「あーーー!拗ねてなんかねぇよ!!」 「ちょ、ちょっと!!?」 は政宗の言葉など耳に入らず、しかも甲斐の頭をやや乱暴に撫でた。 お蔭で甲斐の髪はぐちゃぐちゃだ。 「休憩終わり!忙しい、忙しい!!」 そのまま台所には向かって行った。 「別に関係ねぇし、拗ねてねぇし!」 誰に言うわけでもなく、自身に言い聞かせているかのようだった。 「なに?なんなの?」 乱れた髪型のまま呆然としている甲斐。 まったく意味がわからない。 「何かあったのか?」 政宗などもっと意味がわからないだろう。 「わしは早う、彼奴を紹介してもらいたかったのだがな。気難しい奴なのか、やはり?」 「あたしの方が知りたいわよ。なんなのよ、の奴!」 空に向かって叫ぶ甲斐だった。 「やっぱり拗ねてんじゃねぇか」 海釣りを終えて戻って来た氏康が目にしたそれに、彼は楽しげに呟くのだった。 19/12/31再UP |