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姦し。
よく思えば、この世界…というより、あたしの周囲には夫婦だとか、恋人同士だとかという人達が多い。 年齢はあたしとそんなに変わりないのに、素敵な旦那様が隣に居て正直羨ましいと思う事もあるのだけどね。 だからって独り身だという人だっているし、しかも中々のいい男が揃っていたりするわけで。 あたしも少しは頑張らないとね!とか意気込んでしまうも、結果的に惨敗続きだったりする…。 「周瑜さまは気に入ってくれるかな?」 「玄徳様はこっちの方が好みかも」 「あたし、これにする!きっと関索は喜んでくれるし」 「べ、別に宗茂の為ではないぞ…たまたまだ」 「子上殿なら…これがいいかも…」 「うちの人に喜んでもらえるといいけど…あ、これは清正、こっちは三成、正則にも似合いだねぇ」 「ふふっ。喜んでくれた時の顔を考えるだけで楽しいですね。あ、長政様にはこれを」 「あまり期待はしていなかったのですけど…これは我が君にも似合いですわね」 女性陣がこぞって何かを手に取っている。 荒れた世界でも商人達の商い魂は強く、凄まじく。 出来上がった新商品を持って陣営に売りにやってきた。 当然の事ながら、新しい商品に興味津々でそれに群がったの女性陣だ。 「甲斐ちーん…あたし達乗り遅れちゃったけど?」 「そうね。でも、あそこに割り込む勇気はあたしにもないわよ」 「えぇ!?猪突猛進の甲斐ちんが!!?」 「あのね…」 商品に群がっている女性陣を遠巻きに見ているのは甲斐とくのいち。 二人も新商品に興味があって見に来たのだが、なんとなくあそこに近寄れないでいた。 商品を取り囲んでいるのは、旦那持ちと彼氏持ちの女性達だったから。 「というより、あたしは別に誰かに。ってのがないし…あんたはいいわけ?幸村様に渡したいんでしょ?」 「にゃ、にゃにをいうかな、甲斐ちんは。あたしは別に幸村様に…」 恥ずかしいらしく指を絡めるもじもじするくのいち。 「今更の話なんですけど」 他の者は知らなかったり、気づかないでいるが。甲斐とくのいちは比較的付き合いが長い。 なので、その辺の事情は互いに知っている。 「な、なによぉ。あたしの事より甲斐ちん自身の事を考えなさいよね」 「は?あたし?あたしは別に」 「甲斐ちんはちんに。って思わないの?」 。と言われて甲斐の頬が少しだけ赤く染まった。 「お、思わないわよ。今の今まであいつの事なんて頭になかったわよ」 「えー?」 にやつくくのいちに、甲斐は手刀をかます。 「いいのかな?そんな余裕かまして」 「何よ」 「ちん。割と人気あるんだよ?飯屋の看板娘ならぬ看板息子な感じで。ちん目当てで飯屋に行く子多いんだよ」 「へえ。そうなんだ。よかったわね。ただ、愛想のよくない看板息子のどこがいいんだか」 くのいちはニシシと笑いながら甲斐の肩を叩く。 「そこがいいんだって話だよ。本当うかうかしていると盗られちゃうぞ?」 「だから、なんであたしが!」 最近、この手の話をよくされる。 尚香や三娘など興味津々に聞いてくる。 意外に興味なさそうな元姫も話に混ざっている。 ただ、3人と違ってくのいちは甲斐がくのいちをよく知っているように、くのいちも甲斐の事をよく知っているので3人よりも深く突っ込んでくるので厄介だ。 「だって、甲斐ちんがあそこに興味を湧く理由なんてちんぐらいかな?って思うわけだし」 「べ、別に…新商品があるって言うから覗きに来たんじゃない」 「いやいや、今回の新商品は男用だよ?だから、奥様方あーやって旦那様の為に選んでいるんじゃん。甲斐ちんには無関係だよね?」 「…う…」 「あ。ごめん、気づかなかった!甲斐ちん、自分用なんだね!」 何せ、漢の中の漢だから。とくのいちが楽しげに言う姿が腹立たしい。 だけど、そうなのだ。 今回商人達が持ってきた品のほとんどが男性用の物ばかり。 男性達だって手に取って見たいだろうが、ほとんどがその手の物にそれほど執着していない。 あの女性陣の中に進んでいく気もないのも現状だ。 「にじゃないわよ。お、お館様に。とも思うわよ」 「本当かな?」 「本当よ!」 「え〜?」 くのいちは甲斐が単純に意地を張っているだけなのを知っている。 素直に「そうよ」などと言うはずがないと。 「あら?甲斐達も見に来たの?」 買い物を終えたらしい、尚香達が機嫌よくやって来た。 その様子では目当ての物が買えたらしい。 「尚香。あ、あたしは別に」 「に似合いそうなものとかあったよ。早く買わないとなくなっちゃうって」 「だから、なんであたしがあいつになんて」 三娘にまで言われてしまう。 「ほら。皆も言っているわけだし、甲斐ちん。行こうよ」 くのいちが腕を引っ張る。 「い、行かないわよ。あたしは関係ないもの。になんて最初から考えていないし」 「甲斐ちゃん。素直にならないと!さんが誰かに盗られちゃってからじゃ遅いよ?」 「あ、あんたまで何を言うかな…」 まさかの小喬からのツッコミに甲斐は口角を引きつらせた。 というより、周囲は自分がに惚れていると思っているようだ。 「そうですわね。中々の好青年ですもの。油断しているとそこらの娘に負けてしまいますわよ」 「無愛想に見えて、気遣いもできる優しい方ですよね。甲斐殿、市は応援いたしますよ!」 「いや…お二人も何をおっしゃるのですか?…あの…」 甄姫と市まで。 「本当の話だよ?にうちの娘なんてどうですか?って話。あたしの所に持って来たりするんだから。氏康の所に届いている可能性だってあるんだよ?」 ねねの言葉に全員声を上げた。 「前からお聞きしたかったのですが、甲斐殿は殿のどこに惹かれたのですか?」 「ちょ、ちょっと!」 市はすでに断言して聞いてくる。 「それはあたしも聞きたいわ!甲斐ったら自分からそういう話しないんだもの」 「そうそう。バレンタインの時だって、結局甲斐がお菓子をあげたのはでしょ?」 自分から話をしないのは、する話が特にないからで。 バレンタインは義理としてあげただけだ! 勢いの強い、しかも大勢で来られているだけに、心の中で叫んでしまう。 「それを考えると、殿だって満更ではないと思うけど。あの後しっかり甲斐にはお返しをしているんだから」 三娘と元姫の言葉にさらに周囲が盛り上がる。 「殿は無関心を装っているけど、甲斐の面倒をちゃんと見てくれるし」 「これはもう両想いって奴じゃん!」 甲斐の話なのに、甲斐の存在を無視したかのように話に花が咲いている。 好き勝手言われ続けて反論はしたいが、中に自分より目上の甄姫、市、ねねがいるのでそれができないでいる。 立ち話もなんだから、この後どこかで話の続きをしようとまで盛り上がっている。 「にゃはは。甲斐ちん大変だね〜」 くのいちが苦笑している。 「あんた…他人事だと思って…ここであたしがあんたの話を振ってもいいんですけどね」 幸村に片想い中だなんていえば、きっと違う意味でくのいちは話題の中心になるだろう。 女性なんて人の恋愛話を餌に楽しむのが好きなのだから。 「だ、ダメだよ。甲斐ちん!そんな事をして幸村様の耳に入ったら困るよ〜」 「あたしはいいのか、あたしは」 でも確かに、甲斐とくのいちとでは立場が違う。くのいちは絶対に自分の想いなど幸村に悟られたくないだろうから、甲斐が彼女たちの前でいう事はない。 ネタ的には彼女たちは喜びそうだが。 「っていうか…あたしはどうすればいいわけ?」 「…その場しのぎでいいなら、適当に言えばいいんじゃない?」 「………その場しのぎねぇ………」 甲斐は盛大にため息を吐いた。 それを合図にくのいちがわざとらしく大声を出した。 「あー!甲斐ちん。早くしないといいのがなくなっちゃうよ〜?」 「そ、そうね。あたしもそろそろ見に行こうかしら」 では、これにて!と尚香達から離れた甲斐とくのいち。 尚香達はに?と言う目を甲斐に向けているも、甲斐は後ろは見ないように商人の元へ向かった。 でも、彼女たちはお喋りをまだ続けたいのだろう、場所を変えようと去って行った。 「本当、散々だったわよ」 「しょうがないね。楽しい話題が欲しいんだよ、きっと」 世界が滅ぶなどと言われる状況の中で楽しい話題などと言われても甲斐も困る。 ただ、これが他の人の話ならば自分も楽しんでしまうかもしれない。 「で?結局どれにするの?ちんへの贈り物〜」 適当に見て買わずに去ろうと思った甲斐だったが、並んでいる商品を見ると楽しいと言う気持ちは湧いてくる。 これもいいな、あれもいいなと楽しんでいる自分が居て。 「別に…」 「いいじゃん。日頃のお礼とでも言ってみればさ。深い意味は甲斐ちんにはないんでしょ?」 「…ないわよ」 くのいちは理由を作ってくれている。 ここで突っぱねる理由もないだろう。 とりあえず気になったものを手に取って見る。 今回の商品は和風とでもいうのか、どちらかと言えば自分たちの時代に近い、なじみがあるようなものばかりだった。 (あ…これいいな…) 見た目も、色も気に入った。 でも、ちょっと目立つような気もして、万が一これをが着けていたら周りに冷やかされるだろうか? というより、今回の事で周囲がに変な事を吹き込まなければいいのだが。 (あいつ…なんだかんだで淡泊な態度だろうし) 自分ばかりが振り回されている感じがする。 でも実際尚香達の誰かが何かに告げても、彼は無関心な態度を取りそうだ。 そして、それを思うと少しばかり寂しく感じる自分がいた。 「甲斐ちん。決まった?」 「え?あ、うん」 「あたしも買ってみたよ」 くのいちが珍しく柔らかく笑った。 彼女なりに頑張って幸村に渡すのかもしれない。 忍びだからと感情を隠す彼女が年頃の女の子らしく可愛いと思えた。 少し羨ましい。 そんな風に笑えて。 「そ。いいんじゃない」 少しでも彼女の想いが報われるならばと思って。 (甲斐ちんは本当に素直じゃないなぁ…結果的にちんだけに買っているんだもん) くのいちは甲斐が手にしているものを横目で見て思った。 最初は氏康に!と言っていたのに。 に贈るのだろう、それを本人は無意識に嬉しそうに抱えている。 甲斐の性格ならば、あとから追求されるのを逃れる為に、だけでなく、氏康や他の者達の分も買って大袈裟に分けてしまいそうなのに。 でも、それすらもしないで選んだそれは、きっと甲斐にとってに似合うとでも思ったのだろう。 (ま…あたしもちょっと突っつきすぎたよね) 仲間達の話のネタにされてしまっているのは流石に悪いと思ったわけで。 下手すれば自分に話が振られる可能性だってあったのだから。 (上手く渡せるといいね、甲斐ちん) くのいちも今回頑張ってみた。 だから同じように抱えているそれを見て笑う。 けど…。 (なんとなく…包みの中身が同じに見えるんだけどなぁ…) お互い何を買ったのは知らない。 そんなに品数も多くないので、被る可能性は高い。 「甲斐ちん…ちょっと聞いていい?」 「何?」 「ちんに何を買ったの?」 「な、なんだっていいでしょ」 甲斐の顔が赤くなる。 「そうなんだけどさ…なんとなく、あたし達同じものを買ったような気がしたんだよね」 「え?そうなの?」 甲斐はくのいちが抱える包みに目を向ける。 そして互いに目を合わせ、せーので買ったものを告げた。 やはり同じものだったようで、互いに声をあげてしまう。 「ち、ちなみに…何色?」 「赤。甲斐ちんは?」 「あたしも赤色よ…」 「えー!?ちんなら青の方が似合いそうだよ!」 「そんな事ないわよ。それに赤は北条軍の色でもあるし」 「それを言うなら武田家だって、幸村様だってそうだよー」 「「………」」 しばし互いに考える。 このままこれを返品するのか?交換するのか?いやいや、これはあの人に似合うと思ったから買ったのではないか…。 「き…気に入ってくれるといいわね」 「そうだよね…それが重要だもんね。あと…買ったお店が一緒なんだからしょうがないよね」 渡さない。という考えは互いに却下のようだ。 折角だという事もあって。 「ちゃんと幸村様に渡しなさいよ、それ。あんたの性格じゃ煙に巻きそうだし」 「それは甲斐ちんもだよー。理由つけて逃げちゃいそうだよ」 「し、しないわよ」 「絶対?」 「絶対。あんたもよ?」 「うん。頑張る」 では、行こう。これから贈り物を届けに。 健闘を祈る!などと言い、お互い別々の方向へ向かった。 「………幸村とお揃いのマフラー……どうしろって言うんだ…」 甲斐が珍しく「あんたにあげる。一応世話になっているからね!」とマフラーをプレゼントしてくれた。 赤というか、緋色という表現の方が正しいような色の。 貰って悪い気はしないだったが、直後幸村もくのいちから貰ったと手にしているのを見た。 まったくの同じものだったので、どうしたものかと思った。 友達とお揃いのマフラーなど、女の子同士ならいざ知らず、男同士で着けていたらおかしくないか?とか。 これが学校という場所でならば、学校指定のマフラーとでも思えば気にならないのだが。 生憎ここはそんな教育の場ではない。 「けど……温かいよな…これ」 とりあえず、寒い日には重宝しそうだと首に巻いてみるのだった。 19/12/31再UP |