一喜一憂。



ドリーム小説
「やっぱ、平和がいいわねぇ」

「平和がつまらない。なんて言うのはどっかのお狐さんだけだよ」

「そうなんだけどさ。その狐の所為で豪い目にあったじゃないの…」

桜が舞い散る穏やかな日常。
遠呂智だとか、妖蛇だとか三國と戦国の世が融合したこの世界を2度の危機が起こってから、またも新たな脅威が訪れた。
平和な世に飽きた妲己が見つけた謎の岩。
その封印を解いたが為に、世は再び争いが巻き起こった。
だが、一時なのか、永遠なのかわからぬが、謎の岩に封印されていた玉藻前を三皇が再び封じ、今は比較的穏やかな時間が送れている。
と甲斐もそうだった。

「俺は特になんもなかったけどな」

土手のような場所に二人並んで座っていた。

「そうかもしれないけど…なくて正解よ。あんなのすごく気分悪いんだから」

「鏡像だっけ?」

復活した玉藻前が持っていた神鏡。
彼女の手によって、英雄たちは封じ込められ、仲間とほぼ同じ姿をした鏡像と何度も戦う羽目になったのだ。

「疑心暗鬼になっちゃう気持ちわかるわよ。本当そっくりなんだもん」

「らしいな。そっくりというか、そのまんまって。けど、やっぱりどこかで本人じゃないんだってわかるらしいじゃん」

「それは話をかぐちん達から聞いていた人達の話よ。何も知らないで攻められたらさ…」

英雄たちはある意味同士討ちをさせられていたのだ。
例え、本人が違うと言っても、何度も鏡像と戦わされた側にしてみると何を信じていいのかわからないそうだ。

「はいはい。もうそんな事も起こらないから大丈夫だろ」

「あんたねぇ…」

「それに大丈夫だって。甲斐の鏡像と遭遇したとしても、俺は間違わないからさ」

「え?」

笑みを浮かべるに甲斐は心臓が高鳴る。

(なに?なに?急に…え?それってどういう意味〜!!?)

どんな世界だろうが、どんな相手だろうが、自分だけは見失わない。
お前だけは見つけてみせるぞ。

みたいな?
ある意味告白のような?

「え、ちょ、ちょっと、それって…」

人と壁を作っていただったが、この世界に来てから変わった。
人との交流を嫌わないし、笑うようになった。
いつもそばにいた甲斐にもだ。
常に一緒に居たから、仲間達からはその仲をよく怪しまれたものだ。
甲斐の中に芽生えつつある、無自覚である、それを今意識しそうになる。

「こんな漢らしい奴、何人もいてたまるかよ」

「………はい?」

「あとさ。甲斐が鏡像に戦いを挑まれたところで、お前絶対相手を返り討ちにするだろ?負の感情をそれで吸い取るみたいな事を聞いたけど、甲斐の感情じゃ向こうもいらないだろうし」

「どういう意味よ」

さっきの高鳴りを返せ!と叫びたくなった。
いや、その前にどついてやろうかと思うも、一応我慢する。

「甲斐の負の感情って、どうせ。男が欲しい。とか、リア充爆発しろ!とかそんなんだろ?そんなの吸い込んでも困るって」

「へ、へぇ…」

「いや、鏡像の方が大いに叫んでいたかもしれないな」

楽しげに言うに口角が引きつる甲斐。
この男はいつもそうだ。
変に期待ばかりさせて。

(…期待って言うか…何勝手な事言ってんのよ、あたしは…)

数回かぶりを振る甲斐。

「なに?どうした?」

「なんでもないわよ。本当失礼しちゃうわよね、あんたは」

「いや、こんなものじゃねぇの?普段の俺らって」

からかい交じりではなく、優しげに遠くを見つめる
その先には、英雄たちの楽しそうに笑っている姿があった。

「お互い憎まれ口叩いてさ。でも、本気で怒るわけじゃねえし」

「それは…」

「世界滅亡なんて言っている時ですらそうだもんな。特に甲斐は」

「あたしぃ!?どこがよ!」

「何?自覚ないわけ?」

が喉の奥で笑った。

「ちょっと」

「花婿探すんだ。って阿国さんと暴れたじゃん。かぐやさんまで連れてさ」

「う……そ、そんな事もあったかしら?」

いつだったか、「自分達を倒した女性と祝言を揚げる!」などという話を聞いて、甲斐は自分の時代が来た!と言い阿国達とその話に出ていた男性達に戦いを挑んだのだ。
結果的に秀吉の悪戯だったのがわかったのだが。

「殺伐とした世界も割と楽しくやってたじゃん」

「……呆れているわけ?」

「いや?実際俺も、割と楽しかったし」

バレンタインデーにホワイトデーをここでやるとは思わなかったし、宴会が開かれた時も楽しかった。
色んな人と接して楽しかったと、は言う。

「元の世界に戻っても楽しいのだろうけど、今のこの世界も楽しいんだろうなって思うわけさ」

「急にどうしたわけ?」

「別に。ただ、そう思っただけさ。また平和になったからさ。割と平和って気づかない物なんだぜ?毎日なんとなく過ごしてさ」

「……そうよね…」

遠呂智によって世界が融合する前。戦ばかりの世ではあったが、それなりに楽しかった。
そして、ここで平和になって、妖蛇の出現で大事な人達が戦いの中で亡くなり別れる事になって。
予想していなくて、信じたくなくて。
でも、かぐやの力のお蔭で、過去を変えられたお蔭で、今また平和に暮らせているのだ。

「あんな思い…したくないわよね…」

いつかは誰かと別れる日は来るだろうが、今すぐになど来なくてもいい。

「じゃあ。今を満喫しないきゃダメよね」

「そういう事だ」

「じゃあ…」

「ナンパしに行くのか?可愛い女の子に声をかけるって自信ないな、俺…」

「こらこら。なんであたしが女の子相手にそんな事をしなきゃいけないわけ?」

「あぁ、つい。男同士だという感覚で」

「こんな可憐な乙女を捕まえていう事か!」

「「……」」

沈黙したのも束の間で、二人は大笑いしてしまう。
これが自分たちの日常なんだと思うと。





「どうした?くのいち」

何故そうなったかわからないが、突然信玄公と謙信公が相撲を取ると言い始め、くのいちが行司を務めていた。
その勝負も中々つかないままで、今は休憩していたところだ。
そのくのいちが、ふと向けた視線の先を一緒にいた幸村が不思議に思った。

「あそこに甲斐ちんとちんがいるんですけど」

「あぁ。本当だな」

楽しく笑いあっている二人の姿が見られる。

があそこまで笑うのは珍しいな」

「ですよね。やっぱり甲斐ちんのお蔭なんですかね」

にそんな顔をさせる事ができるのは甲斐だけ。

「かもしれないな」

「こっちに誘ってあげようかな。って思ったんですけどねぇ…」

「止めた方がいいだろう。邪魔をしては悪い」

「……え…」

「なんだ?」

「やー…幸村様の口からそんな言葉が聞かされるとは思わなくて…」

幸村自身が恋愛に鈍感すぎるのに、人の恋愛などもっと鈍かろうとくのいちは思えたのだ。

「な、なんだ?何かおかしいのか?」

「………あー…いいっす。多分幸村様は深く考えていないのでしょうから」

恐らく、普通に甲斐と楽しくやっているのを邪魔しては悪いという配慮なのだろう。
二人の仲がどうのこうの。なんて幸村が気づくはずもない。

「さてさて、幸村様。今度は…ありゃ?」

「……が転がり落ちた」

二人が見たのは、土手から転がり落ちていくの姿だった。





くのいち達が見ているのを気づかずにいた甲斐と

「あ。そうだ。食うか?これ」

さっき作ったのだという握り飯を甲斐は一つもらった。

「ありがと」

ちょうど小腹も空いてきたのでちょうどいい。

「んー。美味しい〜。天気もいいし、気分いいわね」

「………」

「なによ?どうせ食い意地が張っているとか言いたいんでしょ?」

食べている甲斐を見てが黙っているから。
大口開けて食っているんだなと呆れられているのだろうと甲斐は不満を漏らす。

「いや?」

「いいわよ。どうせ今更だし、これがいつものあたし達なんでしょうから」

だから遠慮する事はないのだ。
もう一つの握り飯も食べてしまえ。

「いや。俺、割と好きだなって思って」

「………………は?」

耳を疑った。
が、何を好きだって?
普段そんな言葉が出るような男でもないのに。

(いやいやいや、落ち着け、落ち着け。さっきもそうだった。期待させておいてこの男はそれを簡単に壊してくれるんだから)

期待するだけ損だ。
そんな風に思う。
だけど、どこかで期待をしてしまう自分がいる。
いい加減認めるべきなのだろうなって思っていて。
もし、も同じ気持ちだったらいいなと。
大勢いる女の子達の中でも、比較的自分は心を許されているだろうってちょっとした自信はあるから。

「な、何が?」

は甲斐を指さす。

「あ、あたし?そ、それって」

「甲斐がさ、俺の作ったもの本当に美味そうに食っている姿。割と見るの好きなんだ」

「……そ、そう?ま、まぁ…が作るものって美味しいし…」

ほらね。
やっぱりそうだ。
期待するだけ損だ。

「女の子が美味そうに食う姿っていいじゃん」

「…え?」

「下手に上品に食われるよりいいよな。一緒にがっつく方が」

「………えと」

「だから、割と甲斐のそういうとこ好きだな、俺は。漢らしくて」

何かが甲斐の中で切れた。

「そういう一言が余計だって言うのよ!あんたは!!」

急に立ち上がった甲斐は、そのままの背中を蹴飛ばした。

「おわっ!!?」

哀れは土手を転がり落ちて行った。

「………な、なんだよ…」

呆然としつつ、仰向けになっているの前に影が二つ。

ちん。大丈夫?」

「お前…甲斐殿に何をしたんだ?」

くのいちと幸村が顔を覗き込んでいる。

「…いや、いつもと変わらない日常会話だったつもりなんだが…」

何か変な事を言っただろうか?

「じゃあ、甲斐ちんをそれで怒らせたんだね。漢らしいとか、漢の中の漢とか言って」

…女子に対して失礼な事を言うな」

苦笑しつつ幸村が手を差し伸べてくれたので、はその手を取り体を起こした。

「鈍いお前が言うな……でも、そうだな。最後の一言は余計だったかもな」

息を吐きつつ、後頭部を掻いた。

(割と好きなんだけどな、マジで)

これは自身の中に止めておこう。








19/12/31再UP