あの人のために。



ドリーム小説
実は自分以外にも、自分と同じ境遇の奴がいたことに驚いた。
時代的にも自分より、彼女の方が辛いんじゃないかと思ったが、案外楽しそうだったので。割と拗ねたような態度だった当初の自分を思い出すと恥ずかしいものが込み上げていた。

君」

「何?羽山さん」

に一人の少女が話しかけてきた。
彼女とは同郷の仲と言っても可笑しくない感じ。

君にお願いがあります」

「俺に?金銭的なものは無理だよ。わかって言ってんの?」

は小さく笑う。
端から彼女がそんな事を目的で来ているのではないのがわかるから。

「もう〜わざと意地悪言う〜」

「意地悪じゃねえし。多分羽山さんの反応を楽しんでいるのかもな」

「性格悪いぞ、君は」

腰に手を当て苦笑する彼女。

「もうすぐ何の日かわかる?」

「もうすぐ?…さぁ?誰かの誕生日だと言われても、一々全員分覚えているわけないし」

それこそ、氏康や甲斐など近しい者の誕生日などもは知らない。

「私だって全員は知らないよー」

「じゃあ何?」

何某との記念日的なものだったらもっと知るわけがない。
そもそも、記念日がどうこう言いそうな輩はここにはいないだろう。

(一人該当する子がいるな…鮑ちゃんなんか煩く関索さんに言っていそうだ…)

そんな事ないよ!と鮑三娘から苦情が来そうだ。

「もうすぐバレンタインデーです」

自信たっぷりに言い切る彼女。
は?と呆けてしまう

「だから。もうすぐ2月14日だよ!バレンタインだよ!!これはもう乙女には重要なイベントだよ!!」

ビシッと指を突き付けられては数歩下がった。

「…バレンタインって…」

「知らないわけじゃないでしょ?」

「知っているさ…けどさ…」

は周囲を見る。

「ここじゃ関係なくね?この状況で…」

青空が消えて薄暗さの毎日。綺麗な川などなく、溶岩が流れているような川しかない。
時折、岩が飛んでくるような場所。
少し先に、妖蛇の住処があるような場所だ。

「妖蛇退治に忙しいから?」

「そもそも、バレンタインを知っているのは俺と羽山さんくらいだろう?」

「まぁ…普通はそうだね。でも大丈夫!私ががっつり広げておいたから!」

「は?」

「元姫や尚香ちゃん、三娘ちゃんに話したら喜んでくれてさ」

「………」

「みんなバレンタインをやりたいって」

「………」

「いたっ!」

思わずは彼女の額に手とうをかました。
何度も、何度も。

「歴史改造してんじゃねえよ」

「いいじゃん、別に〜それに元々ここならばそんなの関係ないじゃん」

確かに…。
ここは元々魔王遠呂智が作った、三国志の英雄がいた時代と、がいる戦国時代を融合させてできた世界だ。
元々相容れないものを魔王の力で作ったものの、今再び妖蛇がこの世界に襲いかかって来たのだ。
は北条氏康のもとで元々料理番をしていた者。
彼女、羽山頼子は三国時代の後期晋ができるかできないかくらいの時代に居た少女。
元々はこの二つの時代より遥か未来に居たのだが、何の因果か、飛ばされてしまった。
自分と同じような存在が居たと知ったのは、この世界が融合し出会ってからだ。
おかげで、彼女には他の者達と違って遠慮もしないし、会話も奥まで突っ込んで話せるくらいだった。
何より互いを苗字で呼び合うのがなんとなく楽しかったりする。
普通ならばよそよそしい気もするが、割とこのくらいが楽しい。

「ってかさ、不謹慎だとか言われないか?」

「かな?でも少しは明るい話題を提供してもいいじゃん」

「明るい話題なのは、チョコを貰えそうなイケメンぐらいで、それ以外には何の利益もない、リア充爆発しろな日だ」

君はイケメン側でしょ?」

「馬鹿言うな。羽山さんは自分の周りを見てよくそんな事が言えるな…」

「そうかな?」

「それに、うちで一番モテるのは多分お館様だ」

家臣からも民からも人気がある北条氏康。

「あ〜わかる、わかる。なんかちょい悪親父、ダンディって言葉が似合うよね」

「それにさ、趙雲さんとか、幸村とか…いかにもモテそうなのが沢山いるだろうに」

誰だと名前を出すのも面倒くさいくらいに、英雄たちはイケメン揃いだった。

「まぁ…私は本命がいるので、関係ないよ」

「自分で広めてそれかよ」

彼女がどう広めたのか気になるが…。

「あ。でも女の子にしか話てないから。それも興味ありそうな子だけ」

「へえ…それで俺に話して何なの?」

「もう〜鈍いなぁ、君は。君はお料理上手でしょ?お菓子作りもするって甲斐ちゃんから聞いたよ」

頼子に数回背中を叩かれた。

「一応それが俺の職業なんですが…」

「だからね!教えて欲しいの!お菓子の作り方!!」

「なんでだよ。そんなの頼れるような人いっぱいいるだろうに」

ねねや月英など主婦の鏡のような存在がいるではないか。

「かもしれないけど、あの二人はレベルが高すぎるから」

「低いレベルで悪かったな」

「じゃなくて、お二人とも忙しいし」

「俺も忙しいんですけど」

君〜」

乗り気でないに頼子が涙目になっている。

「わ、わかった。泣くなよ」

「やった!ありがとう〜!!」

すぐさま笑顔になった頼子に、卑怯だとは呟いた。





「あ〜頼子ってばずるいわ〜殿に師事してもらうなんて」

尚香が頬を膨らませた。

「私だって玄徳様に何を贈ろうか悩んでいるから、殿に頼もうと思ったのに」

「料理なんてやった事ないもの…」

元姫も同じようにため息を吐いた。

「いいじゃん、みんなで教わりに行けばよくない?」

三娘だけは便乗しようと提案する。

「寧ろに作ってもらえばいいじゃん」

ニシシと笑って。

「三娘ちゃん。それはダメだよ。途中まではよかったのに」

「やっぱり?」

頼子は苦笑する。

君ならばみんなにも教えてくれると思うよ?一緒にやろうよ」

「本当!?よかった〜」

尚香は安堵する。

「甲斐はどうする?甲斐も一緒に習う?」

楽しそうねぇと彼女らの会話を聞いていた甲斐。

「え?なんであたしが…」

「だって、バレンタインだよ!甲斐ちゃんも一緒にやろうよ!!本命いるなら尚更だよ!!」

乗り気でない甲斐の手を頼子がとった。

「ほ、本命って…別にいないわよ」

「彼氏が欲しいといつも言っているならば、いい機会だと思う」

珍しく元姫も誘ってくる。

「いいわよ、あたしは。大体料理は苦手だし。柄じゃないし」

「大丈夫!その辺は君が指導してくれるから」

「や…その…」

甲斐は困惑する。
そのに「お前は料理をするな」とばかりに目を逸らされるのだ。
からして、甲斐の事を「漢の中の漢」と呼ぶくらいだ。
女らしく料理をすることに笑うかもしれない。

「あ。なぁんだ。に教われるの困るよね、甲斐は」

三娘が言う。

「え?なんで?」

尚香が苦笑しながら言う。

「だって、甲斐の本命は殿ですもの。渡したい相手に作り方を教わる嫌よね?」

「ちょ、ちょっと!」

「え?甲斐ちゃん。君の事好きだったの?あ…ごめんね、私ってば。なんか余計な事を…」

「いやいやいや、待ちなさいよ、変な事想像しないの!」

甲斐は慌てる。

「本命じゃないの?」

「違うわよ!」

「じゃあ、一緒に作ろう。甲斐ちゃんの本命さんの為に」

「え…」

本命がでないならば困る事はないだろう?と頼子に言われてしまい、断るに断れなくなる甲斐だった。





「…羽山さんよ…なんか人が増えているんですが?」

が憮然とした顔で頼子を見た。

「みんなでやった方が楽しいし、みんなも君に教わりたいって!」

「………」

笑顔でよろしくお願いしますと言われてしまい、は引くに引けなかった。

「それになんか破壊神も交じっているんですがね」

「誰が破壊神よ!」

甲斐がすかさず突っ込んだ。

「で?何が作りたいって?俺にも教えられるかわからないから一応聞いてみるけど」

頼子が元気よく手を挙げた。

「はい!私は肉まんが作りたいです!」

「…バレンタインに肉まんあげるの?羽山さんは…」

色気がない…とは思った。

「だって、師兄様は肉まんが好物だもん。やっぱりその人が好きなものが一番いいと思うの!」

「理由はもっともだが、肉まんならば別にバレンタインじゃなくても、いつでも作ってあげられるだろうに…」

「いつでも?」

「あぁ。いつでも…月英さんにならえば、その兄さんが喜ぶ肉まんができると思う」

「それはそうだろうけど…でも、肉まんが作りたい!」

「…まぁ、自分がそれでいいならいいよ…」

肉まんならば作り方は知っているからいいだろうとは思った。

「でも君が言うなら、今回は肉まんじゃなくて、あんまんにすればいいかな?」

「……あれは…多分、こっちには馴染みないから止めた方がいいと思うな」

確か、頼子の言う師兄様とやらは肉まんに対し性格が変わるほど好きらしいから。
あんまんは中国ではなく、日本で最初に作られたらしいから。
恐らく、邪道と取られる可能性が高い。
だから無難に肉まんでいいだろうと。

「で?他のみなさんも肉まんでいいの?」

それの方が楽だとは思った。

「あたし達は肉まん以外でお願いしたいんですけど」

肉まんがいいのは頼子だけだと三娘は言う。

「そうだなぁ…」

チョコレートなんてものはここにはない。
あるのは一応自分で用意した餡子だ。

「餡子でクッキーでも作るか…」

それならば誰だって作れるだろうからと。





それぞれが指導のもと菓子作りに励んだ。
頼子は司馬師に、元姫はその弟司馬昭。尚香は劉備、三娘は関索に贈るそうだ。
一応それぞれ満足できるものができたのだろう、上機嫌でに礼を言って帰って行った。

「女の子は好きだよなぁ、あーゆーのが」

「あんた、あたしに男同士の反応求めているでしょ?あたしも女の子なんですけど」

「え?」

「なに、その知らなかった!みたいな顔!」

「悪い。冗談だ」

はくつくつと笑う。

「変な話だけど…あんた、この世界で笑うようになったわよね」

「なんだ、そりゃあ。俺が世界の滅亡を楽しんでいるような奴に見えるのか?」

心外だとは甲斐に非難の視線を送る。
甲斐は違うと慌てる。

「そうじゃなくて…ほら、あたし達のもとでも、はどこかで壁を作っているみたいで。お館様にしか、本音で話さないみたいだし…でも、割と今はみんなと仲良くやっているじゃない」

「……まぁ、俺もそれは思ったけど…こういう状況だから、一人背を向けるわけにはいかんだろうに…」

とりあえず、これで彼女らの気分が晴れるならばいいと、バレンタインの菓子作りに手を貸してあげたのだ。

「ふーん」

「甲斐もわざわざ彼女らに付き合うんだからさ、似たようなものだろう」

「ま、まぁね…」

甲斐は自分で作った餡子のクッキーを見た。
本命はいない。
好きな人はなのだろう?と言われて違うと答えた。
答えたけど、どこかでそれに寂しく感じた。
じゃあ、この作ったクッキーの行先はどこになる?
理由を作って氏康に差し上げるか?
自分で食べてしまうか?
自分で食べるのが一番無難だ。

「お、お、おい。!聞きたいことがあるんだが」

清正が顔を真っ赤にしてやってきた。

「何?」

「お、お、おねね様が、今日が伴天連でーなるものだからと、菓子をくださった」

「バレンタインデーな」

「そ、それだ。あいつらから話を聞いたのだが。そのばれんなんとかは、す、好きな人から物を贈られる日だと…本当なのか?だ、だが、おねね様には…」

どうやら女の子達で盛り上がっているのをねねは知ったのだろう、彼女らから話を聞いて自分もと思って菓子を作り渡しているようだ。
が甲斐を見れば、甲斐は苦笑していた。
女性の基準がねねだと言うぐらいの清正。母親以上な目で見ているのは明白だったので、バレンタインの存在にかなり衝撃を与えたようだ。
ならば、夢を見させておくぐらいならば、後で現実を知った時の衝撃よりはいいだろうと、はあっさりばらした。

「義理だろ、それ」

「…ぎ、り?」

「あぁ。バレンタインには本命と義理があるんだ。おねね様はお前らに義理で与えたんだろう?本命は当然秀吉様だろうし」

清正の口角が引きつる。
それに「お前ら」とは言い切った。

「当然、三成と正則にだってあげるだろうし…おねね様の事だから、色んな奴に配っているんじゃないのか?」

「そ、」

「「?」」

「そんなことぐらいわかっていたさーーーー!!」

清正は来た時と同じくらい、いやそれよりも早くに立ち去って行った。

「……でも期待したんだろうな…おねね様も割と酷な事するよな…」

「あんたね…でも…」

甲斐は「はい」と自分が作ったクッキーをに差し出した。

「ん?」

「義理よ、義理。本命とかって勘違いされても困るし…いつもあんたには世話になっているからね」

本命と義理と使い分けるのか。と甲斐は知った。
知ったから、ずるいと思いながらもそれを利用した。
頼子や尚香とは違って、自分はちゃんと恋愛などしていない。
彼氏が欲しいとか、モテたいとか言っても、いざ、そう言う事を周囲から言われると、特に相手を限定されてしまうと、困惑の方が勝る。
まだわからない。
わかりたくない。
でも、目の前にいる青年に嫌われたくない。
それだけは確かなのだ。

「義理ね…随分はっきり言うなぁ。しかも自分が作り方を教えたものだし」

「いいじゃないの、別に。がしっかり教えてくれたから、割と上手にできたんじゃない」

「割と…ね…」

「うるさいわよ」

「じゃあ貰っておくよ。お館様が食って腹を壊されても困るしな」

「だから、あんたは一言多いのよ」

甲斐はの背中を叩きつつも、渡せてよかったと内心安堵したのだった。








19/12/31再UP