生一本な人。



ドリーム小説
「もう〜幸村様が聞いたら傷つくよ?幸村様、割と小田原に行くのを楽しみにしてんだよ。ちんと話ができるの楽しいみたいだし」

くのいちにそんな事を言われて、正直意外だと思った。
武田信玄に仕える真田幸村。
彼との交遊はそんなにない。
氏康の料理番として着いて行った戦場で会ったのが初めて。
誰に対しても物腰柔らかで、丁寧な態度の青年。
だから自分に対しても行儀よく接していただけだろうと思っていた。
その割に自分の幸村に対する態度は度を越しているかもしれないと思ったが。

自分と話ができるのが楽しみみたいだ。

そう言われても、言うほど自分の前に姿を見せないだろうに。
まぁいいか。深く考えずにいたのだが。





「とても美味しいです。殿」

の隣でおはぎをご機嫌で頬張る幸村がいた。

「それはよかった…」

最近と言うか、菓子を作ることが多くなっていた。
その都度味見というか、できたての匂いに釣られてくるのか、が作るものを一番食べるのは甲斐だ。
だが、今日姿を見せたのは甲斐ではなく、幸村。
数日前に小田原に信玄公の使いとしてやって来た幸村。
くのいちと会って話はしていたが、幸村は氏康との謁見でちゃんと顔を会わせたのは今頃になってだ。
しかも、くのいちから言われたこともあって少々、いや勝手だが変に余計な事を考えてしまう。

「流石氏康様の専属料理番。お作りになられるものは全て美味しいです」

「褒めすぎだろ、それ」

「いえ。少しでありましたが、以前花見で出された弁当も美味しかったですし」

「あれは俺一人じゃないよ…つーか、幸村は別の人が作った弁当を食ったはずだが?」

春先に信玄公がやって来た時の話か。
あの時はあの時で大変だった。
得体の知れない弁当を食べたから。

「あぁ。くのいちが作ったものですね。殿が手ほどきしてくださったとか」

「簡単にだけどね。どうだった?味は」

「美味しかったですよ。特に昆布巻きが。あれはいくつでも食べられます」

「あぁ、そう…(昆布巻きはくのちゃんが作ったものじゃねぇし…)」

本当くのいちは報われないなと変に同情してしまった。
だが、実際あの弁当。くのいちが作ったのは握り飯と玉子焼きだけだ。
他は料理番達が作ったものを、くのいちのセンスで詰めただけだ。
急な話だったから仕方ないと言えば仕方ないだろう。

(だが、会話が続かん…何を話せばいいんだ…)

もともとも幸村もおしゃべりではない。
にいたっては普段甲斐やくのいちらの聞き手に回ることが多いから。
とりあえず、会話ネタ定番でもあろうことに触れてみた。

「幸村って歳いくつ?」

「十八になります」

「十八!??」

「はい」

「ふけ…歳の割に落ち着いているな…俺とそう変わらないのに、俺の方がガキに感じる」

「そうでしょうか?」

危うく老けて見えるな。と言いそうになった。正直もっと上かと思った。
けど、それは失言に当たるのはわかるので、無難な言葉で返す。
さて、またも会話が途切れた。
確か、どこかで天気と血液型をネタにすればある程度会話が弾むと聞いたことがあったが。
天気はともかく、血液型など、ここでは意味がないだろう。

(あ…でも、ひとつだけあったな。言いたいことが…)

それを聞いてこの男がどんな反応をするだろうか?
いや、ある程度予想がつく。少しだけ困惑した表情を見せる。そんな所だろう。

「なぁ、幸村」

「はい。なんでしょう?」

「前から気になっていたんだが…なんで俺に対してそんな畏まった態度、口調をとるんだ?」

「え?」

幸村が食べる手を止めてしまう。
やはりと言うか、何を言うのだろうか?と言う顔をに見せている幸村。
態度と口調に関しては、少し前にくのいちと話したことだ。
くのいちは幸村に仕えているから態度を変えることなどできないだろう。
だが、その逆。幸村からくのいちに対しては割と砕けた態度で口調だとには思える。

「俺、偉そうな立場でもないし。寧ろ幸村の方が上だろ?そう考えれば俺の態度は罰せられても可笑しくないんだけどな」

くのいちは言った。に畏まった態度をとられたら幸村は悲しむだろうと。
だけど、本来ならば自分は幸村と対等の存在ではない。
甲斐にしてもそうなのだが。甲斐というより、北条家自体が大きな家族のような感じで。
氏康という大きな親父が手のかかるガキの面倒を見ている。そんな風に見られるのだ。
だからかもしれない。氏康専属とはいえ、ただのガキが他の者たちと対等に接していても咎められないのは。
ただ、誤解しないで欲しいのは、は全ての人に無礼を働いているわけではない。
料理番として先に仕えている者達にはちゃんと礼儀を持って接するし、氏康に仕える重鎮たちの前でも畏まった態度をとっている。

「た、立場とか…上とか…考えているわけではないのですが…」

「堅苦しいなぁと思うけど…」

「い、嫌ですか?」

「嫌というか…なんか逆じゃないのか?と最近思う事があったからさ…それにさっき、同年代ともわかったわけだしさ」

「そ、そうですか…」

気落ちしたような幸村には瞠目してしまう。
くのいちに言われていたものの、そんな反応をするのか?と。

「む、昔から…同年代の…友と呼べるような方はおりませんでしたので…誰に対しても私の態度はこのような感じで…」

普段から目上の者達に囲まれているからだそうだ。

「あ、あー…えーと…」

予想外の落ち込みっぷりには困る。
軽く「じゃあ、これからはこうしよう」みたいに返してくれればいいのに。
根が真面目なのか、すぐには切り替えができないようだ。

「ならば。もうひとつ聞く。幸村は俺をなんだと思っているんだ?」

「え?」

「その…たまに会う、親戚の兄ちゃんとか…くのちゃん通じて知り合った知人とか」

自分で「俺って何?」と聞くとは思わなかった。
これってよくある「あなたにとって私ってなんなの?」と女性が詰め寄る時に使うようなものじゃないのか?
ここに来てから、進んで人と接することをしなかった。
何に対しても距離をとって、関わり合いを持つような真似をしたくなかった。
だけど、ここが慣れ親しんだ場所に自然となっていたようで、気付けばその壁が薄まっていたようだ。
が、今の聞き方はないだろう。

「えと「やっぱなし!今のない、ないな、そんな言い方」

殿?」

なんだか超絶恥ずかしくなってきた。
こういうのは曖昧にしていた方が楽だとは思った。
それが人に対し壁を作っている原因だろうと思ったが。

(逆に…俺はどうしたいんだよ…こいつに何を期待しているんだ?)

今までの自分の友好関係を思い返せば、そんなに濃いものではない、割とさっぱりしたようなものだ。
男同士ってそんなものじゃないのか?
薄情などとは違う。言葉なんて必要ないだろ?言葉が必要なのは、不安がるのは女の方だ。
そう思う。
だから、今のの発言はにしてみれば女々しく感じたのだ。

「さぁて、そろそろ休憩終了とするかな。夕餉の仕込みしにいかないとさ」

は立ち上がる。
残りのおはぎは幸村に食べていいと言って。

「んじゃまあ、またそのうちな」

「あ、あの!殿!!」

無性に居た堪れない。
だから幸村に呼ばれてもは振り返らずに歩き出した。

「と、友と呼ばせてもらってもいいでしょうか!」

はたと足を止める

「は?」

振り返れば顔を真っ赤にした幸村が立っている。

「そ、その…私の友になってくださいますか、殿」

同年代の友がいないと幸村は言っていた。
感覚的にもわざわざ口に出す事もなかったのだろうと思う。
もしかしたら、今までのことを友だと思っていたかもしれない。
だとすると、それをはっきりさせようとした自分は薄情なのかもしれない。

「そうだな…俺に対して敬語をやめるなら友達になってやるよ」

殿…」

「殿もいらない。でいい。友達ならそれくらい気軽にしてくれって話…まぁ、俺の居たところではそんな感じだよ。ここじゃ事情が違うだろうが」

上からの物言いだと我ながら思った。
思ったけど、そんなに堅苦しい関係でなくなればこの先もっと楽しいのかもしれない。

「ほら。くのちゃんに話しかけるみたいにさ」

「………」

くのいちとではまた立場が違うのかもしれない。
だけど、これ以上はないだろうと思うは再び歩き出した。
あとは幸村次第だ。
自分に今後も変わりない態度、口調ならばそんなものだろうと。





「あら?どうしたの?難しい顔をしちゃって」

「……あ、甲斐」

幸村と話をした翌日のことだ。
一人廊下の柱に背を預け胡坐を掻いていたに甲斐が話かけた。

「ちょっと色々思う事があってな」

「珍しい。あんたが悩み事なんて」

「悩みのない甲斐が羨ましいってつくづく思うよ」

「一言多いのよ、あんたは」

そばにしゃがみこんだ甲斐はの額を軽く叩く。
悩みというほどではないが、幸村との話が今頃になって後悔してきたのだ。
なんて偉そうな事を言ったのだろうか、自分はと。
普段の自分ならば売られた喧嘩は買うぞ。ぐらいの性格なのだが。
今回は少々違う。
大体、友達になってください。なんて面と向かって言われたのが初めてだから。
友達になるのに、言葉って必要なのか?と。
自然と友達になっているのが当たり前だった気がする。
逆にも同年代の友達など、ここではいないと思うのだが…。
ふと甲斐を見る

「………」

「な、なによ」

「あのさ。甲斐と俺ってどんな関係?」

「は、はぁ!?」

「傍から見たらどう見えるんだろうな…」

甲斐とも歳はそう変わらないはずだ。
顔を会わせ始めた頃はが甲斐に壁を作っていたが、それも最近ではないに等しいらしい。
割と甲斐には本音で話しているらしいし。

「ど、ど、どんな関係って…」

甲斐はの質問に口角を引きつらせている。

「………って、幸村に聞いた時はものすごく恥ずかしいとか思ったのに、甲斐には割とさらっと聞けたな…。
あれか、甲斐が漢の中の漢だからか…言葉ではなく拳で語り合う友情と言う奴が湧いていたのか……って!」

は頭を抑える。
ものすごい力で甲斐に頭を殴られたからだ。

「誰が漢の中の男だってのよ!しかもいつと拳で語ったってのよ!!」

「お前、平気で人に手上げるじゃんか」

「そんなのあんたぐらいよ……って言うか。まあ…変に気兼ねする必要はない関係じゃないの?あたし達」

「そうか?」

問い返すに甲斐はどこか不満そうであったが、小さく息を吐いた。

「出会った頃に比べたらそうじゃないの?少なくともあたしははあたし達に対して柔らかくなったなぁと思うし」

それは、くのいちが見てもそうだったらしいので。
彼女よりも時間的に共にいることが多い甲斐がそう思うのも納得が出来た。

「どんなものかと括るなら…北条家って言う中にいる家族とか仲間とか。親しい感じはするわよね。身内的な」

「そっか。そっか」

まぁそれもしっくりくるなと思った。
甲斐だけでなく、その周囲の人たちも含めてもとれるし。
自身も北条家をそう考えたことがあるから。

「海賊で言うところの一味みたいなものか」

「海賊ってあんたね…」

「甲斐は似合うと思うぞ」

「え?海の女?女海賊?女神様のような?」

甲斐はいいようにとらえたのか、うっとりした表情を見せた。
カッコいい女海賊でも想像したのだろう。姐さん的な。

「熊とか素手で倒せたり、サメも仕留められそうな感じが」

「賊そのものじゃないのよ!!どこにこんな可憐な賊がいるってのよ」

指し示そうものなら、そのままその指を折られるかもしれないと思ったのであえてその事は流す事にした。

「まったく…っていうかさ。急になんでそんな事を悩み始めたのよ。幸村様がどうとか言っていたし」

「いや、深い意味はない」

「何よ。気になるじゃない」

余計な事を話したくないので、食べ物で話をそらすことにした。

「あ。揚げ芋。食うか?久々に作ってみた」

甲斐に好評だった代物だ。
案の定、甲斐は手を叩いて喜んだ。

「いいの?食べていいの?お館様にじゃなくて?」

「好きなだけ食えばいいと思うぞ」

「わーい」

甲斐は嬉しそうに揚げ芋を食べ始めた。
美味しいと言って食べてくれるのが好きだと最近気づいた。
特に甲斐は真っ正直に反応するから作り甲斐がある。
単純と言えばそれまでだが、にしてみれば。
先程甲斐が言ったように、気兼ねしなくていい、親しい間柄なのかもしれない。自分たちは…。

「あ。そうだ。そろそろ幸村様達帰られるそうよ」

「へえ」

「あの子から聞いたの。一応お館様との用事も無事に済んだからって」

「そっか。甲斐は寂しいだろ?くのちゃんが帰って」

毎日馬鹿馬鹿しい小競り合いをしているから。
互いにそれを嫌と思うならば近づかなければいいのに、そうしないのはお互い友達だと思っているからかもしれない。

「それはだってそうでしょ?幸村様と楽しそうに話をしていたじゃない」

「………そう見えるのか?あれが…」

結局そこに戻るのかとは溜め息が出た。
甲斐との関係はあっさり自分の中で納得できたが、幸村はどうなのだろうか?
気恥ずかしい、若気の至りのような妙な感覚だ。
自分があんな事を聞かなければ済んだことだろうに。
でも。友達という存在は悪いものではないから…。





幸村達が出立する際、大勢が見送っていた。
氏康直々に出て来ていた。
会えるか正直わからないと思ったので、はひとりだけ城を出て街道の出入り口で待っていた。

「あ。見えた!来たわよ、幸村様!」

ひとりのつもりだったが、甲斐が目ざとく見つけてついてきたのだ。

「あっれ〜ちんと甲斐ちん。二人ともどうしたの?」

くのいちが幸村より先行して、二人の前に姿を見せた。

「一応ここで見送ろうかと思って」

「そうなんだ。なんか幸村様元気ないからさ。ちん見送りにも来てくれないって」

「ははっそうなんだ」

「く、くのいち!余計な事を言うな!」

幸村がちょうど追いつき、馬から降りた。

「幸村様。またいつでもいらしてくださいね」

「はい。ありがとうございます。甲斐殿…えと、も…次に会う時まで息災で」

幸村が名だけでを呼んだ。
まだどこかぎこちない感じがするが、まぁ仕方ないだろうとは笑った。

「あぁ。今度は城下でも案内するよ。いい街だよ、ここも」

それから。とは幸村の手にある包みを持たせた。

「握り飯。適当に見繕ったから、腹が減ったら食えばいい。俺が幸村にしてあげられるのはこのくらいだからな」

「あ〜いいなぁ、幸村様」

くのいちが唇を尖らせる。

「くのちゃんの分も入ってるから分けてもらえばいいよ」

「わーい。やったぁ!ちんはお握りも美味しいから」

「食い意地が張ってるわね、本当」

「甲斐ちんに言われたくないよーっだ。一番ちんに餌付けされているくせに」

「なにおぉ!?」

くのいちを追いかけまわす甲斐に相変わらずだとは呆れた。

「寂しくなるな。本当…」

「………こ、今度はが甲斐に遊びにくればいい。私も色々案内したいと思うから」

「そうだな。それもいいな。友達の家に遊びに行くって言うか、泊まりに行くのも楽しいからな」

改めて言葉にすると気恥ずかしいものがあるが、まぁそのうちそう感じなくなるだろう。
何せ、お互い、初めて友と呼べる存在ができたのだから。

「気を付けてな。幸村」

「あぁ。も」

しっかりと握手を交わし、は友を見送った。

「結局なんだったの?わざわざ外に出て見送るなんて」

去っていく友の背中を見ていたに甲斐が尋ねる。

「別に。ただ…単に幸村と友情を深めただけだろ。お互い喧しい女がそばに居て苦労するなって」

「はあ!?」

「よし。今度は俺が遊びに行こう。小金貯めておくか」

しばらく節約だとは言った。
何せ、普段貰っているお給金の大半が菓子作りなどのものに消えているのだから。
後ろで喚く甲斐など放っておき、は歩き出す。

「ちょっと待ちなさいよ!!!」

本当段々自分は変わっているようだ。







19/12/31