呆れつつも。



ドリーム小説
意気揚々と、さらには嬉しそうにどこかへ行こうとしている甲斐の姿をは見かけた。

「なに?機嫌いいな、甲斐」

珍しかったので、自分から声をかけて見た。
彼女一人ではなく、かぐやと阿国も一緒だった。

「まぁね。ようやくあたしの時代が来たって所よ」

「……狩りにでも行くような感じだな。その腕っぷし」

ぐっと拳を突きだす甲斐には呆れながらも言った。

「相変わらず失礼な奴よね。ま、いいわ。あんたの驚く顔が見れそうだから」

何かをしに行くのはわかったが、それを一応話すつもりはないらしい甲斐。
一緒にいるのは阿国とかぐや。
阿国はまぁ、よく考えている事と言ったら、甲斐と同じで男の事だ。
彼女もよくいい男探しをしている巫女だ。
巫女がそんな事をしていていいものかと思うが、は無関係だと思っているので追及はしない。
そう思うと、そんな男探しをしている甲斐と阿国と一緒にいるかぐやが不思議だ。
でも。

「まぁ、かぐやさんが一緒ならば安心かな?」

「何よ、それ」

「かぐやさんが着いていれば、甲斐もアホな真似しないだろうからさ。かぐやさん、大変だろうけど、面倒見てやってください」

はかぐやに深々と頭を下げる。

「そんな。私こそ、いつも甲斐ちんにはお世話になっているのですよ?」

「いやいや」

「けど、甲斐ちんの事ならば、の方が面倒を見ていると思うのですが」

「俺は何もしていないですよ。そんな暇ないですから、じゃ」

呼び止めたのは自分だったが、飯店で宴会の予約が入っているのを思い出した。
の最近の仕事はもっぱらそこでの食事の支度だ。
今日は確か、氏康と孫堅が二人で酒を酌み交わそうなどと言っていたはずだ。



***



「本当に、相変わらずよね、あいつは…」

の自分に対する関心のなさに甲斐は少々ご立腹だった。

「見てなさいよ。あたしがいい男を連れ帰ったら、どんな顔をするのか楽しみだわ」

「あらあら、好きな子に振り向いてほしいなら、もっと素直になったらええよ?」

「な、何言ってんのよ!あたしは別にの事なんか」

「うちは別にはんとは言うてまへんよ?」

ニコニコと笑う阿国が恨めしい。

「ほら、さっさと行くわよ!早くしないと他の子に盗られちゃうかもしれないでしょ!」

「せやね。こうしているうちに目ぼしい殿方を盗られたら損やわ」

「あ、あの…お二人とも。話が出来過ぎていると思うのですか?」

「そんな事ないわよ、かぐちん!いい、これはようやく巡って来たいい機会なの!
こんなの見過ごすのはよくないわ!やらずに後悔するくらいなら、あたしは当たって砕けるの方がいいのよ!」

「すごいわぁ。ほんまやる気満々や」

阿国は手を叩き、甲斐を褒めている。

「ですけど…」

かぐやは心配だった。
秀吉からの話で、とある地方の男性達が自分たちに戦って勝てば祝言を挙げると言うらしいのだ。
戦って、勝てば。と言う所に甲斐は自分の時代がようやく来た!と核心し、花婿を得るために阿国とかぐやを誘ってそこへ行く所だったのだ。
そんな上手い話があるだろうか?とかぐやは思ったが、今の甲斐と阿国は聞く耳を持たなかった。
ちょうどが呼び止めてくれたので、事情を話せば止めてくれるかと思ったが。
話をする前に、忙しいと去ってしまった。
何事もなければいいのだが…。



***



。いつも尚香が世話になっているようだな。すまんな、相手をしてもらって」

氏康と孫堅に食事を出すに、孫堅がそう話を切り出して来た。

「いえ、俺は別に何もしちゃいないですよ。姫さんの方が気さくに話しかけてくださって」

「お前。何、孫堅の前で畏まってやがる。いつもはもっとふてぶてしい態度の癖に」

に対し氏康が茶化す。

「………お館様から見て、俺はふてぶてしい態度なんですか?」

「おう。違うか?」

「そう見えるならば、それはお館様の影響でしょうね。俺の周りで手本になる大人はお館様なので」

「ははははっ。お前がしっかりせねばダメらしいな、氏康」

「俺は面倒みなくちゃならねぇガキが多くてかなわねぇな」

氏康は面倒くさそうに髪を掻いた。

「そういう事だ。うちの策の事も頼むぞ、氏康」

「そういや、うちの小僧はどうした?いつもはお前と一緒だろうが」

「甲斐ですか?なんか狩りに行ったみたいで。自分の時代が来たとかなんとか言ってましたね」

「本気で熊でも倒しにいくのか、小僧は…」

「そうじゃないんですかね?知らないっすけど…あ、戻って来たみたいですよ」

かぐやと一緒に甲斐が飯店にやって来た。

「やっぱり男より友情よね!かぐちん!!」

飲んでもいないのに、何やら荒れている様子の甲斐。

「こっちは静かに飲みたいってのに、あの小僧はどうしたんだ一体」

「さぁ?でも、そうっすね。邪魔になるなら排除してきます」

氏康の邪魔はよくないだろうとは甲斐たちの方へ向かう。

「最初から、そんな話があるはずがないってわかっていたけど…なんで、あたしばっかりいつもこうなのよ〜」

「喧しい」

食台を叩く甲斐には容赦なく盆で頭を殴った。

「つ〜…何よ!」

「酔っぱらいか?お館様たちの邪魔になるから騒ぐなら他に行け」

「え?お館様いるの?お館様に慰めてもらおうかしら、あの逞しい胸で…」

「かぐやさん。頭どうかしたんですか?こいつ…」

「いえ、その…ちょっと甲斐ちんにとって良くない事がありまして…」

「落ち込むことがあったのはわかったけど、お館様は今はダメだ。孫堅様とお話し中だ。邪魔すんな」

「ちぇー」

はふて腐れ気味の甲斐を見て、一度奥に引っ込むが、二人の前に飲み物と菓子を出した。

「何があった?」

とりあえず、話ぐらいは聞いてやろうと言う姿勢は取る。

「………」

甲斐は話す気がないのか、目を逸らす。
でもちゃっかり飲み物と菓子には手を出す。

「お前。俺によく秘密主義だとかなんとか言うくせに、自分の事はいいのかよ」

「乙女の秘密をそう簡単に話すわけないでしょ」

「乙女…誰が」

「あたしに決まっているでしょうが!」

「乙女って…ジャンヌさんみたいな人の事を言うんじゃねぇの?」

あれこそ真正の乙女だろう。
ま、彼女の場合聖女とも言う。

「煩い」

「何があったんですか?かぐやさん。大方男が絡んでいると思うんですけどね」

甲斐に聞くよりかぐやに聞いた方が早いとは踏んだ。

「それが…」

かぐやは甲斐が止める間もなく、すらすらっと話をしてしまう。
話を聞き終えたを見て、甲斐は頭を抱えた。

「わかってるわよ〜そんな超展開あるはずないって!実際なかったわけだし〜」

「わかってんなら、最初からするなよ、ンな阿呆な真似」

「わーーん。だからに知られたくなかったのにぃ〜」

「か、甲斐ちん」

食台に額をつけて、喚く甲斐。

「お前さ、話聞いたの、俺でよかったと思わないか?お館様になんか聞かせられないだろうに…」

「え?」

は嘆息する。

「お館様が聞いたら、ど阿呆!って怒鳴られて、ぐだらねぇ真似しやがって、みたいな説教が待ってるぞ…拳骨ぐらい覚悟すべきだな」

何せ、近所の怖いオジサンらしいので。
自分ちの子も、余所の子も叱ってやらねばと言う人だ氏康は。
まして、甲斐はどちらかと言えば自分ちの子扱いだから容赦はないだろう。
それなりに甲斐の事は心配しているようではあるが。

「でもでも、あたしはこれに賭けていたのよ!」

「男が欲しいなら…ほら、なんだっけ?孫市さんとか…郭嘉さんとか、声かけてくれそうな人いるじゃん。あと、董卓さん?」

「ナンパ野郎はお断りよ!酒池肉林とか言ってる輩も論外!」

「お前。ナンパされるだけマシじゃね?」

「煩い〜人の気も知らないで〜」

「そりゃ知らないだろうに。俺、別に甲斐みたいに欲望丸出しじゃないから」

「欲望言うな!」

「まぁまぁ、少しは彼女の気持ちを察してあげなぁ。ほんまははんに構ってほしいだけなんよ?」

どこからともなく、阿国が現れた。
うふふと笑って、甲斐の両肩に手を置いて。

「俺?」

「な、何言ってんの!?あたしは別に」

はんが構ってくれへんから、悪い遊びに引っかかってもうたんよ?最後まで面倒みなあかんよ」

「そ、そうです。があの時、引き留めてくれたならばこんなことにはならずに済んだのです」

かぐやまで可笑しなことを言い始めた。

「なんで、俺の所為なわけ…」

自業自得だろ。と言いたいが、女に口で勝てるはずもない。
余計なことを言えば、3倍、いや5倍で返ってくるかもしれない。
司馬昭ではないが、「めんどうくせぇ」と言いたくなる。

「ち、違うわよ、別にの所為じゃないわよ!もう、余計な事を言わないの、二人とも!」

甲斐は否定をする。

「せやろうか?実際、はんは最近忙しいやろ?」

飯店を手伝うようになって、甲斐と話す時間は確かに減った。
心配していた行方不明だった氏康も合流することができた。
妲己を仲間にしたおかげで、彼女の過去に飛び、氏康を失う前の過去にやり直せたのだが。
そのおかげで、余裕が自分の中でできたのは確かだ。
だが、甲斐だって甲斐なりに付き合いも増えただろうに…。

「たまにでええんよ?少しぐらい話相手になってあげなぁ」

「い、いいのよ。別に。あたしは、べつ、に…あ、あれ?あれ?」

突然甲斐の目から涙が零れた。

「か、甲斐!?」

「甲斐ちん!?」

流石にもかぐやもこれには驚いた。
誰よりも漢らしいと言われる甲斐が泣くだと?

「や、別にが悪いとかじゃなくて、なんか、急に、色々悔しいなって思えて…」

阿国の言う悪い遊びに引っかかった事か。

「わかっていたのにね、自分がバカなだけだって…かぐちんだって諌めてくれたのに。
でも、どこかで寂しいって気持ちあるのかも。お館様も、あんたも、みんなと居る時間減ったし…小太郎はどっかふらふらしているし…」

北条家って言う一つの家が、バラバラなのが甲斐には寂しいらしい。

「そう言うと…まぁ、俺の所為にもなるのか…俺は別に前と変わってもいないけどな」

「そんな事ないわよ。は前より人と接するようになったわよ。あんた結構壁作るから」

「………そっか…」

変わったつもりは自分ではなかった。
けど、甲斐にはそう見えていたのか。

「それに、何気に色んな女がうろうろしているしね…」

「何?」

甲斐の呟きがよく聞こえなかった。

「あらあら。それが本音やね?確かに、まぁ…可愛らしいお顔してはるもんね」

阿国が甲斐から離れたと思ったら、の顔を覗き込むようにしている。
数歩退く

はんも、ここには色んな殿方がおるんやから、見習った方がええよ?己を磨いてもっとええ男にならはんと。そしたらうちが出雲に往んで差し上げます」

「なんか、怖いから遠慮します」

特に最後の部分が。

「と、とにかく。腹空いてんだろ?だから情緒不安定なんだよ。腹いっぱい食えば多少紛れるだろ。何食いたい?」

「食べるー!あのね、玉子焼き食べたい、うんと甘いの〜」

「はいはい。適当に持ってくるから待ってろ」

あっさり機嫌が良くなった。
色気より食い気の方が勝っているようだ、甲斐は。
だけど、そのうち。そうも言っていられなくなるだろう。
今だけかもしれない。

そのうち、本当に甲斐に好きな男でもできたら変わるだろう。
その好きな男に振り向いてもらいたくて頑張るに違いない。
今だけだ、こんな風なのは。

そう思ったら、少しだけ、つまらんと感じたのは、内緒だ。








19/12/31